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『【水無月借衣婚礼遊戯〜神楽之都風景】 』
只木 岑(ia6834)

●六月模様
 ――六月に結婚する花嫁は幸せになる、と。
 そんな言葉が、世にはある。
 果たして、ソレが本当に幸せになのか……そんなことは、神様にも分かりっこないだろうけど。
 澄んだ空から、陽光が降り注ぐ中。
 目にした花嫁花婿の華やいだ姿と微笑みは、確かに嬉しそうで幸せそうで。

 ……こんな日は、不意にドコカへ出かけてみたくなる。
 ……例えば、ダレカに会いたくなる。

 見上げた雨の合間の青い空に、誰が飛ばしたか紙飛行機がふわりと飛んだ。


●仮の衣に想い馳せ
 梅雨の合間の晴れ間が覗く、神楽の都。
 その一角にある開拓者ギルドでは、雨で足を遠ざけていた開拓者達が賑やかに出入りしていた。
 依頼の掲示場所には、今日も今日とて様々な依頼が並ぶ。
 アヤカシ退治や山賊の討伐、大事な品物の護衛運搬や人探しに人助け、ちょっとした手伝い仕事から宴会の誘いなどなど。
 その前で開拓者たちはあれやこれやと相談し、雑談に興じ、あるいは一人黙々と依頼を物色していた。
 そんな喧騒を聞きながら、何かいい仕事はないかと只木 岑もまた依頼書の数々を端から順番に読んでいく。
 ざっと依頼の群れを流し見していけば、ふと気になる文字が彼の注意を引いた。
 興味を引かれて依頼書の内容を目で読んでいると、不意に聞き覚えのある声に名を呼ばれる。
「只木殿?」
 顔を上げた彼がそちらを見れば、右側に束ねた髪を揺らした弓削乙矢は丁寧に一礼した。
「やはり只木殿でしたか。奇遇ですね、依頼探しですか」
「そうですっ。あの、乙矢さんも?」
 急いで答えてから、遠慮がちに岑は質問を返す。
「はい、いい仕事がないかと思って……そちらは何か、見つかりましたか」
「私はこれから、ですね」
 特に予定がないらしいと知った岑は、とっさに「じゃあ」と切り出した。
「一緒に依頼、受けませんか?」
「ご一緒に、ですか。何か面白そうなお仕事でも?」
「ええ、これですけど」
 岑が指差したのは、先ほど目に留めた依頼だった。
 依頼主は神楽の都に店を構える貸服屋で、『急募!! 模擬結婚式「六月の花嫁」での衣装モデル募集』となっていた。
 募集人数は、男女の両方で若干名。
 どうやら婚礼や挙式の多いこの時期、それらに花を添えながら、貸衣装の需要を呼び込もうとする催し物らしい。
「いってみませんか? メイド服の次は、花嫁衣装です」
 岑としては、誘ってみた理由に特に深い意味はなかった。
 季節はこれから暑くなっていくというのに、財布には少々涼しいと言うか、むしろ寒い状態で。
 依頼の選り好みをする余裕があまりなかったことが、まず彼的には最大の理由だ。
 それに依頼を受けるなら、顔を知っている者の方が気安く。
 相手が『美人さん』なら岑としても幸せだし、普段と違う綺麗な姿を見ることができるなら、それもまた幸せで。
 ただ一つ、難というか、密かに心苦しいのは自分と乙矢との身長差だった。
 二人が並んで立てば、乙矢の方が彼よりも視点が少々高い。
 どう着飾ってもらっても、そこは変わらないだろう。
 それを思うと、ちょっと哀しいが。
「そうですね。メイド服……よりも、確かにこちらの方が、まだ」
 誘われた乙矢はその言葉に少し遠い目をしながら何気なく胸に手を当て、やや安堵したような表情を浮かべた。
「ですが私でお店の呼び込みになるかは、いささか疑問ですけどね」
 結える髪でもありませんしと、左手側だけに伸ばして束ねた赤毛を彼女は指で梳く。
「大丈夫です。乙矢さんなら、きっと似合います」
 その自信が何処から来るのか根拠は分からないが、真摯に保障する岑へ乙矢は目をぱちぱちと瞬かせ。
「ありがとうございます」
 少しはにかむように笑んで、礼を告げた。

   ○

 黒い長着を着、袴を付け、その上から羽織に袖を通す。
「似合っていらっしゃいますよ」
 着付けを手伝った貸衣装屋の店員へ、やや緊張した笑みで「どうも」と言葉をとりあえず返した。
 奥の着替え部屋から店へ出ると、衣桁(いこう)に掛けられた見本の着物がずらりと並び、華やかな空間を作っている。
「着物を崩さなければ、立っていても座っていても自由にですから。気を張り過ぎず、楽にしていて下さいね」
 ひとまずと角椅子へ案内された岑だが、どうにも落ち着いて座る気になれなかった。
 彼が袖を通した衣装は、いわゆる紋付羽織袴の礼装。
 普段から山野を駆ける軽装に慣れている身では、格式ばった仰々しい着物が窮屈に感じられた。
 なんだか着物を着ているのではなく、着物に着られているような。
 ……そんな感じが、少しだけ。
 訪れる客へぎこちなく笑顔を返すも、場の空気に緊張して間がもたず。
 手にした末広(扇子)を何気なく閉じて開き、それを何度か繰り返す。
 やがて、奥から人が来る気配に振り返れば。
 瞬間、その居心地の悪い空気がひと息に吹き飛んだ。
「お待たせしました」
 明るい店の者の言葉も、一拍おいてから耳へ届く。
「あの、いえ。そんなに待っていませんから」
 急いで首を横に振り、店員の差し出す手に引かれて歩み寄る相手へ視線を戻した。
 白い掛下に白い打掛を羽織り、帯も全て真っ白で。
 結い上げた髪を覆う、袷仕立ての白絹を袋状に仕立てた綿帽子の下から、やはり慣れぬ衣装に気恥ずかしそうな乙矢が会釈をした。
「あの、何分にも着慣れぬものですから……すみません」
「いえ、そんなことないですっ。似合ってますし、綺麗です。とっても!」
 とっさに力説する岑だが、哀しいかな、今の彼と較べれば乙矢の方が幾らか背が高い。
 それに気付いた岑が内心ちょっと打ちひしがれていると、その間に店の者は別の角椅子を持ってきた。
「大変でしょうから、こちらへ腰掛けていて下さいね」
 着物に気をつけながら静々と乙矢は椅子へ腰をおろし、ほっと一つ息を吐く。
「なんだか、とても緊張するのですが」
「大丈夫です、僕もですから」
 見上げる乙矢の傍らに立って、岑はとにかく言葉を口にした。
 ……何か言わなければ、そのままじっと眺めているだけで、一日が終わりそうな感じがして。
「只木殿も、よく似合あっておられますよ」
 褒める言葉に、わっと顔が火照り。
「ありがとうございますっ」
 礼を言いながらも急に向かい合っているのが気恥ずかしくなって、隣の角椅子へ腰を下ろした。
 見栄えがいいように、店員は椅子の高さを選んだのか。
 腰掛けてもなお岑の方が視線は高く、綿帽子に気をつけながら乙矢は彼を見上げる。
「今日は一日、よろしくお願いしますね」
「いえ、こちらこそ。不束者ですが」
 そんな神妙な挨拶が、何故か突然おかしく思えて。
 二人は顔を見合わせて、笑った。

   ○

 晴れた天気に誘われてか、通りは行き来する人の数も多く。
 開け放たれた貸衣装屋の装いに、立ち寄る客も絶えない。
「もし結婚……するとしたら。どんな式をして、どこで、どんな風に暮らすんでしょうね?」
 楽しげに衣装を眺める客の姿に、誰に問うでもなく、ぽつりと岑は呟いた。
 もしも、自分が開拓者ではなく。
 それどころか志体持ちですらなければ、今頃は理穴にある故郷の里の人々と共に狩をし、暮らしていたのだろうか……と、ふと思う。
 森や野へ出かけ、弓で暮らしを立て、家には……誰かがいたら幸せ…なのかな。
「只木殿……ご気分でも、悪いのですか?」
 はっと気づけば、不安げに乙矢の表情がすぐそこにあった。
 じっと考えに沈んでいた岑の様子に気付き、具合を心配したらしい。
「だ、大丈夫です。少し、考え事をしていただけで」
「そう、ですか。すみません、お節介が過ぎました」
 顔を覗き込んでいた乙矢は身を引くと、苦笑混じりに謝った。
「それとも、どなたか良い方の花嫁衣裳姿でも考えていらっしゃいました?」
「ああ、いえ。そうではなくてっ」
 慌てて岑は首を横に振ってから、衣装を見に来ている恋仲らしき男女をちらと見やる。
「最近、神楽で出来た友人の間で相手を見つけた人が多くて……その幸せな様子が、嬉しいんです」
「それは、おめでたい話ですね。『縁は異なもの』と申しますが、ご友人方が幸せになられますよう、ささやかながらお祈りしています」
「はい。ありがとうございます」
 祝う乙矢の言葉が我が事のように嬉しくて、笑顔で岑は礼を告げた。
「何かを成してから、区切りを付けてからじゃなくても、互いの思いを受け入れあえる相手がいれば、いつでもいいんでしょうね」
 志体持ちであるが故に、故郷では居心地の悪い思いをしたことも多かったが……神楽の都では、それで気を遣うことはない。
 開拓者となり、同じように志体を持つ仲間と知り合えて、遠慮なく語り合える最近になって、ようやく自分らしく過ごせるようになったと胸を張って言える気がした。
 都へ来て半年が過ぎてなお、未だに道に迷ったり、人が多い場所では流されたりすることもあるけれど。それもまた慌しくて賑やかで、日々楽しい。
 ――うん、楽しいんだ。
 不意に彼は心の内側でそれを再認識し、そして噛み締めた。
 こうして着る機会などまずなかった婚礼の装束に身を包むことも、依頼での仮の姿とはいえ傍らに『美人さん』が花嫁衣裳で微笑んでいるのも。
 衣装を見る恋人たちの様子に神楽の友人たちを重ね、その幸せを願うことも。
 全てが、楽しい。
「乙矢さん。この仕事が終わって報酬をもらったら、甘味処にでも寄りませんか? あ、もちろん、この後に乙矢さんのほうで何も用事がなければ……ですけど」
「いえ、特に予定はありません。よろこんで、お供させていただきます」
「お供だなんて、そんなっ」
 慌てて岑が首を横に振って恐縮する様子に、彼を見上げる年上の女弓術師は穏やかに笑む。
「今日はお誘い下さって、本当にありがとうございます。只木殿」
 そうして乙矢は、嬉しそうに改めて礼を告げた。

 梅雨の合間、晴れた神楽の空の下。
 ほ〜ぃやぁ〜っと掛け声がして、花嫁行列の祝い唄が聞こえてきた。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【ia6834/只木 岑/男性/外見年齢17歳/弓術師】
【iz0026/弓削乙矢/女性/外見年齢24歳/弓術師】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 お待たせしました。「HappyWeddingドリームノベル」が完成いたしましたので、お届けします。
 依頼の方では、いつもお世話になっています。今回はノベルという形での楽しいご縁を、ありがとうございました。
 ノベルのお届けが少々遅くなり、すみません。
 衣装の方はこちらで決めてしまうのとも出来たのですが、せっかくのノベルですので出来る限りご希望に沿った形にしたく思い、問い合わせをお願いした次第です。
 ご希望されたイメージと合っていれば、良いのですが……如何でしたでしょうか?
 もしキャラクターのイメージを含め、思っていた感じと違うようでしたら、申し訳ありません。
 その際にはお手数をかけますが、遠慮なくリテイクをお願いします。
 最後となりますが、ノベルの発注ありがとうございました。
(担当ライター:風華弓弦)
HappyWedding・ドリームノベル -
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舵天照 -DTS-
2010年06月24日

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