▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『荒魂!脅威の武闘集団〜求めよ、筋肉の極みはここにあり! 』
ガイ3547)&(登場しない)

―筋肉は格闘技の極みである、って唱えて、修行する集団を知っているか?
治療の苦痛に呻きながら、何気なくつぶやいた男の言葉にガイは怪訝な表情を作る。
闘技大会の最中に怪我を負って担ぎ込まれ、治療を任された―鋼のように鍛え上げられた筋肉を持つガイを見て男は噂で聞いたという、その闘神集団について語ってくれた。

曰く、格闘技とは男の武器にして強き筋肉である。
格闘技を極めんと欲するなら、筋肉を強くせよ。
強き筋肉を極めんとするならば、己と相対する者の美しくも鍛え上げられし筋肉より学ぶことに勝るものはなし。
指導者たる格闘家の言葉に惹かれ、極限にまで鍛え上げた筋肉を持つ男達が険しい山頂にあるという古城に集い、日々筋肉を鍛えんと修行に明け暮れているという。
と…ここまで来たら、普通はなんだか危ない集団に思われがちだが、近隣住民からは比較的というか、ものすごく好意的に見られているらしい。
なぜならば、彼らはあくまでも筋肉―もとい、純粋に格闘を極めんとする集団で、己を鍛えるためならば苦労は厭わない者たち。
日々これ修行とばかりに出没する魔物たちを退治して回りながら、住民達からは全く見返りを求めない素敵な魔物退治屋さんと見られているのである。
「へぇ〜素晴らしいな、その闘神集団は」
「そうなんだ。入信する条件は唯一つ……尊き筋肉を極めんとする高き志を持つ者だ。俺は無理だが、ガイなら入信できるかもな」
興味深そうに瞳を光らせるガイに気付かず、男はへらりと笑い飛ばし―その闘神集団の住む城やどんな修行を積んでいるのか、などを聞いてもいないのにしゃべり倒す。
筋肉―否、格闘を極めようと志すガイに火がついたのは語るまでもなかった。

研ぎ澄まされた刃に澄んだ空気に包まれた針葉樹林の中をガイはひたすら歩き続けていた。
治療士を引き受けた闘技大会から数ヶ月。
オーナーから譲り受けた奥義書を師としながら何日か修行に励んでいたが、今ひとつ実に入らない。
どうしたものかと悩んでいた時に思い出したのが、闘神集団の噂。
あの口の軽い闘士の話によれば、彼らの住まう城はこの近くだ、と耳にした。
ここはぜひとも見つけ出し、共に修行をしたいと決意して、険しい山脈の道なき道を探し続けていたのである。

「行くのは構わないが、あの辺りは危険だよ?闘神集団の方々が随分と追い払ってくださったが、まだ魔獣やら盗賊やらがうろついてるからね」
「あの山脈へ行くのか?闘神集団の皆様が降りていらっしゃればいいんだけどな〜」
ふもとの町で食料などを買い込むガイに商店街の店主達は皆一様に危険を説きながら、闘神集団の名をありがたそうに口にする。
そして、鍛えられたガイの身体を見て納得したように深く頷いた。
「闘神集団様へ入りたいんだね。あの方々は魔獣や盗賊どもから守ってくださって感謝しきれないってのに、ちっとも偉ぶらないから、無理もないね〜」
「お前さんみたいな方なら喜んで迎えてくださるよ。気をつけていきなされ」
おまけだよ、と大量の食料を渡して送り出した雑貨屋店主の笑みを思い出し、ガイは苦笑をこぼす。
ふもとの村々は山脈から降りてくる魔獣たちや悪逆非道な盗賊に苦しめら、泣き暮らす日々が続いていたのを古城に住みだした闘神集団が
修行の名の下に成敗してくれたことがどれほど有難かったか計りきれない。
これほど慕われる彼らに会ってみたいという一念がさらに強くなった。

勢い込んでやって来た山道は予想以上の獣道であって、凄まじいほど険しい。
が、歩いているだけでも足腰への鍛錬になる。
闘神集団に集う猛者たちの桁外れな強さの秘訣はここにあるのだろう。
ふと見ると、鋭く険しいだけであったはずの獣道が無数の力強い足跡によって踏み固められているのに気付く。
―まだ時間がたっていないな。
折られたばかりの真新しい雑草をつまみ上げ、ガイは五感を研ぎ澄ませて気配を手繰る。
こそりと窺ってくる小動物の気配や鳥の鳴き声がほんの少し感を鈍らせた。
大きく息を吸い、目を閉じながら周囲に溶け込むまでに神経を高め、微細な変化をも捉えんとする。
生い茂った木々の、さらに奥深い先に何かが激しくぶつかる気配がわずかな小波になって、山脈一帯へと広がっていく。
その瞬間、ガイの脳裏に鍛え上げられた拳が猛り狂った獣の胴を捕え、鋭くえぐり込む光景がはっきりと見えた。
カッ目を見開くが早いかガイはその気配のする方向へとまっすぐに駆け出す。

広大な木々の幕が不意に途切れ、無残に折れ曲がった巨木と砕かれたむき出しの大地が目の前に広がる。
「どぉぉぉりゃぁぁぁぁぁっ!!」
「ほぉぉぁわぁぁぁぁった!!!」
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!気合じゃぁぁぁぁぁっぁぁっ!!」
奇声―いや、雄叫びを上げて見事な筋肉で盛り上がった腕を振り上げて、飛び掛る半裸の男達。
相対するは、真っ赤に染まりあがった岩山のように鋭いとがった牙。鈍色をまとう厚い毛皮は針山のように尖り、立ち向かってくるものへの威嚇と敵意をむき出しにして襲い掛かる四足の魔獣。
常人ならば恐怖のあまり逃げ出すところを一撃で狩られているはずだが、半裸の男達は一歩もひるもことなく立ち向かう。
その雄々しい姿にガイは深い感動を覚え、闘いに魅入られた。
後ろ足で立ち上がり、その巨体からは考えられぬほどの速さで刃のごとき爪のなした前足を男達に向かって振り下ろす。
一箇所にまとまっていた男達は様々な方向へ飛び去る。
それを狙いすまして鉄球がごとき破壊力を備えた魔獣の尾が着地寸前だった何人かの男達を吹っ飛ばす。
まともに受けて転がりながらも、攻撃を受け流すと男達は即座に体勢を整え、四方向から同時に拳を繰り出した。
逃げる隙などないと思われた獣は身を竦め―次の瞬間、高速に全身を回転させ、あらゆる攻撃を無効化する。
思わぬ動きに男達の動きが怯む。
回転していた獣の目がぎらりと血の色を帯びたをガイは見逃さなかった。
「加勢する!!」
叫ぶやいなや、ガイは雄叫びを上げて回転し続ける獣の頭上に飛び上がると、最高点まで高めた気を纏わせた拳をその脳天目掛けて打ち込んだ。
回転している面に対して軸となっている部分は無防備で脆い。
だが、毛皮の毛ひとつひとつが刃となって近寄るものを切り裂くことで接近を拒んでいたのだ。
男達もそれに気付いていたが、魔獣の巨体ぶりとわずかでも後退すれば、仲間に対して容赦のない攻撃を仕掛けてくるのが見えていただけに動きが制限されていた。
しかし、突如現れたガイは獣にとっても男達にも予想外のこと。
警戒していた者たちではなく全く無関係なところから繰り出された攻撃に魔獣は対処しきれず、ガイの拳をまともに喰らった。
ひどい激痛にのた打ち回り悲痛な叫びをあげた魔獣の動きが止まった瞬間を男達は見逃すはずもない。
半数は顎の真下にもぐりこみ、鍛え上げた自慢の拳を上げ、のこりの半数は勢い良く獣の鼻先まで飛び上がると、高々と上げた足を振り落とす。
上下からの同時攻撃に魔獣は潰れたカエルのようなうめき声をあげ―どうと真横へ倒れこんだ。

「見事な筋肉だな〜」
「うむ、全くだ。お陰で助かったよ、素晴らしき筋肉の持つ闘士よ」
「貴殿のような方に救われたことは実に幸運だ!さあ、もっと食べてくれ」
討ち果たされた魔獣の巨体のすぐそばで開かれた昼食は大宴会の様相を呈していた。
男達は―ガイの予想通り、この山脈の古城に開かれた闘神集団の者達であり、開祖の教えどおり修行の一環として魔獣退治をしていた。
だが、偶然見つけた魔獣はすでにいくつもの村を襲った凶悪極まりない奴で何人かの仲間が傷ついた。
お陰で討伐人数はかなり減るハメになり、どうにかこの森に追い込んだまでは良かったが猛烈な反撃を受けてうかつな攻撃ができなくなっていたのだという。
「いや、本当に助かった。貴殿があの場で力を貸して下されねば、我らはどうなっていたか……さぁ、かくも素晴らしき御仁に!」
たっぷりの水で満たされた杯を高々と上げたリーダー格に習って男達が杯を上げる。
あまりの熱の入れ方にガイは少々居心地の悪そうな思いで肩を竦めて、苦笑した。
けれども悪い感じはしない。
ここにいる誰もが己が肉体を鍛えることに余念なく、腕のある者は賞賛するという姿勢は歓迎すべきものだ。
「こちらこそ礼を言わせてくれ。俺は格闘を極めんと志し、旅をしているガイという者だ。ある大会であなた方・闘神集団の噂を聞いてここまで来た」
「おおっ!!ならば入信せんか?ガイ殿」
「そうだ。お前なら大歓迎だぞ!」
「共に筋肉の極限を極めようではないか!!」
叶うなら共に修行をと言い出す前に、男達の誰もが顔を輝かせ、身を乗り出してきた。
格闘を極めんと志すものたちにこれ以上の言葉は必要がないのだな、とガイは実感しながら彼らの誘いを受け入れたのだった。

切り立った山肌に創り上げられた堅牢な古城に男達の声が響き渡る。
爽やかな朝の空気にその声は心地よく、否応なく気持ちが高ぶってくるというものだ。
―ここへ来て良かった!
両足に掛けられた重量を満足感を感じながら、ガイは古城内のトレーニングに勤しんでいた。
周囲にいる男達も一心不乱に声を出し、ある者は天井からつるされた砂の詰め込まれた革袋を蹴り、ある者は両脇に巨大な重石を付けた棒を持ち上げる。
これぞ筋肉を鍛える術ぞ!と胸を張った開祖は入信を認めたガイが手土産だと差し出した奥義書を見て、狂喜乱舞し、闘神集団全員に閲覧をその場で許可した。
「腕を磨かんと欲するものにこれ以上のものはない!ガイ殿、存分にその筋肉をたぎらせて行くのだぁぁぁっ!」
目を限界までに見開き、咆哮する開祖に皆、絶叫を上げ同調した。
これこそが筋肉―格闘を極めるに最高の場、と喜びをかみ締めながらガイは男達と共に極致を目指さんとする修行にのめりこんでいくのだった。

FIN
PCシチュエーションノベル(シングル) -
緒方 智 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2010年06月25日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.