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『『それぞれの旅路』 』
ルザリア・レイバーン(ec1621)&マナウス・ドラッケン(ea0021)&ジルベール・ダリエ(ec5609)&アイリス・リード(ec3876)

●懐かしき友
 王国を、いや世界を揺るがすと言われた黙示録の時から早半年が過ぎようとしていた。
 失われた命は戻らず、人も、建物も、大地も受けた傷は深かったが、時と日常と言う薬は人々に涙を徐々に忘れさせ、穏やかな日々を贈り届ける。
 平和を取り戻しつつあるイギリス。
 だが、その地に生きる冒険者達の旅と物語は、まだ続いていた。

 ルザリア・レイバーン(ec1621)もその一人である。
 とはいえ正確に言えば彼女は旅の空にあるわけではない。
 その真逆の場所。
 図書館で彼女はいくつもの書を抱え、そのページを繰っていた。
 静寂と過去が支配するこの場所で調べものに没頭するルザリア。
 その頭上に
「あれ〜? ルザリアさんでないの? ホンマにおったんか?」
 ふと懐かしい声が降る。
「貴方は‥‥」
「あ、今はモードレッド夫人だっけ? お久しゅう」
 ふざけたような、だが優しい祝福に、頬を赤らめながらもルザリアは
「久しぶりだな。ジルベール殿。貴方がこのようなところに来るとは思わなかった」
 静かに笑いかけた。
 ルザリアとジルベール・ダリエ(ec5609)。
 同じ月桂樹を掲げる仲間同士は、意外な場所での久しぶりの再会を心から喜んでいた。

「ところで、どうして貴方がここに?」
 久々の再開を懐かしんで後、ルザリアは素朴な疑問を問いかける。
 それに答えるようにジルベールは、黙ったまま手に持った羊皮紙をひらひらと動かしてみせる。
「さっき、ギルドで情報集めしてな。実際に動き始める前にちょいと裏づけ調査、しようと思うたんや」
 その為の情報収集の為に来た、というジルベールにルザリアは、そうか、と頷いた。
「ルザリアさんも、そうやろ?」
「えっ?」
「ギルドで調べとったら旦那に、ルザリアさんもおんなじことしとるって、言われたで。アスタロト関連の情報、探し取るんやろ?」
 自分が思ったことをそのまま返されて、ルザリアは一瞬驚き、そして、頷いた。
「そうだ。トリスタン卿の奪われた心臓の情報を見つけられないか、と思った。まだキャメロットを離れるわけにはいかないから、本当に情報収集だけだがな。情報が纏まれば彼女に送ろうと思っている」
 ルザリアの返答に今度はジルベールが頷く。
「同じや。隊長さんらが一生懸命やっとるのも耳にするしな。手伝お思ったんやけど、トリスタン卿と面識殆ど無いし。まあ、解りやすいとことで隊長さんらが見落とした情報見つけられんかなと思うて来たんや」
「ああ、同じ、だな」
 ルザリアは微笑んだ。
 彼らが彼女と呼び、隊長と呼ぶ人物は今も旅の空にある。
 彼女だけではない、多くの開拓者が今もトリスタン卿の復活の為に動いている。
「ベイリーフの連中もいろいろ動いているらしいな。そうそう、ここに来る途中彼女とも会うたんや」
「彼女?」
「ほれ、例の貴族家に嫁いだ‥‥、なんだか旅支度やったで」
「そうか‥‥。彼女も‥‥」
 微かに眼を閉じてルザリアは懐かしい仲間をもう一人、思い出す。
 きっと彼女も同じなのだろうと胸に抱きしめる。
 自分と同じように、彼女もまたキャメロットに愛する人という幸せを見つけ出した筈。
 ただ、旅を続ける仲間達を思うと、幸せを甘受できない。
 遠く離れても同じ志を持つ仲間同士、心は離れていないのだと感じていた。
 
●約束された滅び
 アイリス・リード(ec3876)は一人、その地に立っていた。
 倒れた柱の間から緑の草が生え、崩れ落ちた祭壇には緑のコケが付き始めている。
「ここが‥‥」
 かつて戦場であった場所は、まだ崩壊の跡が残るものの生い茂る夏草が茂り、戦の残滓を殆ど残してはいなかった。
 爽やかに澄み切った風が吹きぬける中、彼女は自然と膝を折り眼を閉じた。
 その穏やかな光景に、深い悲しみを感じながら‥‥。

 この地はかつてバロール復活の為にフォモールと呼ばれるカオスニアン達がその拠点の一つとしていた場所だった。
 彼らは己が神の復活の為、全力を注いでいた。
 どれほどの人を殺め、苦しめ一体どれほどの血をこの祭壇に捧げたことだろう。
 地獄ともいえるその光景は直接の戦闘に多く参加したわけではない彼女にも、心に焼き付いていた。
 冒険者達は彼らを敵として戦い、彼らの神バロールを倒した。
 彼らの行動はこの地に生きる人々にとって、受け入れられるものではなく、決して許されるものではなかった。
 だが、それでも、彼らの行動をアイリスは理解できるような気がしていたのだ。
 だから、彼女は夫や家族達に告げて、ここにやってきた。
「彼らには、他に縋る者が無かったのですね‥‥」
 祭壇に触れながらアイリスは眼を閉じる。
 人と違う姿であるが故に、迫害される者達。
 生きる世界の多くを人に奪われ、闇に隠れて生きる日々。
 だから、彼らはきっと夢見たのだろう。
 己の神の復活を。
 自分達が太陽の下で胸を貼って生きる日々を。
 だが、その夢はもはや永久に絶たれた。
 開拓者の手によってバロールは滅び、暗黒竜さえも闇へと還ったのだから。
 彼らの夢見た日々は決して訪れない。
「神を失い、縋るものさえ無くなった彼らはこれから、どうなるのでしょうか‥‥」
 ちりじりになったであろうフォモールの残兵討伐は行われていないが、彼らがもし再び太陽の下に出てくるならおそらく待っているのは滅びだけであろう。
 アイリスは眼を開き、胸の前に手を組んだ。
 何か出来る事があればと旅立ったが、もはや彼女にできることはこの地には一つしか残っていないようだと知ったからだ。
「私にできることは‥‥祈りを捧げること。それだけですね」
 もう一度膝を折り、彼女は祈りを捧げた。
 彼らの神ではなく、アイリスの神にではあるが‥‥。
 その時、ざわり、と風が動いた。
 何かが現れた気配を彼女は感じたのだ。
 アイリスは立ち上がり後ろを振り向く。そして、とっさに祭壇の陰に身を隠した。
 そこには二人のフォモールが立っていたのだ。
 フォモールと言ってもその姿は小さい。彼らが人であるなら子供であるように思えた。
 残骸で無邪気に遊ぶ子供達。
 その姿は人と大きな変わりは無い様に思える。
 やがてもう一つの影が現れた。親であろうか?
 呼びかけられた彼らは、名残惜しそうに振り返りその場を後にする。
 夢のような、幻のような一時。
 森に、闇に消えていく彼らをアイリスは追わなかった。
 神を失い、闇の中で生き、そして消えていくフォモール。
 彼らにもはや触れるべきではないと思ったからだ。
 彼らの姿が消えて後、アイリスはそっと立ち上がりその場に背を向けた。
 近くの町で情報収集をしたら、その足で帰ろうと心に決めたのだ。
「さようなら。‥‥どうか、静かに生きて下さい」
 アイリスには、帰りを待つものがいる。待ってくれている者がいる。
 愛する者の面影を胸に抱きしめながら、彼女は空を仰いだ。
 旅の空を行く敬愛する隊長。その無事と成果を願って。
 デビルの影は、彼女達の行動もあって確実に薄くなっている。
 それはフォモールたちの幸福には繋がらないと知っていても、アイリスはそれを何より己の神に願っていた。

●甦るデビルの影
 イギリスでは暗黒竜の滅びより後、デビルの活動やその痕跡の報告は確実に減少傾向にあるという。
「よい傾向というところかな」
 王宮に提出された調査報告書を見てマナウス・ドラッケン(ea0021)は小さく微笑んでサインをした。
 彼は現在王宮で儀典官として仕事に励んでいる。
 イギリスの執事と呼ばれる円卓の騎士に弟子入りした為、冒険者時代のように表で剣を振るう事は少なくなったが円卓の騎士候補として、そして王宮を支えるものとしてその地位を少しずつ、確実なものとしている。
 王家の信頼も厚く、重要な仕事も徐々に任され始め‥‥そう遠くない時に円卓の騎士となるのではないかと囁かれているが、本人はそんな風評を気にする様子も無く仕事に励む毎日が続いていた。
 そんなある日。
 日々王宮に届く沢山の書類や仕事の中に、マナウスはある一通の手紙を見つけ手を止めた。
「俺個人宛の手紙? 珍しいな」
 呟きながら彼は手紙を返す。
 差出人はシアス。その名にマナウスは当然ながら覚えがあった。
「義父上か! 久しぶりだな」
 マナウスは懐かしい思いを胸に手紙の封を切る。
『久しぶりだ。マナウス。元気にしているか?』
 そんな書き出しと懐かしい筆跡で綴られた手紙には久しぶりに会えないか、と優しい文章が書かれていた。
「この日なら、休めないことは無いな。よし‥‥」
 軽い気持ちで手紙を弾いたマナウスはそれを文書とは別に大事にしまうと、さらさら休暇の届けを書いて素早く提出する。
 本当に軽い気持ちでの行動であった。
 当然、それが彼の立場とこれからを、大きく変えてしまう事になるとはこの時のマナウスには想像することさえできなかったのである。

 彼が指定した場所は、賑やかな冒険者酒場であった。
「久しぶりだな。元気そうだ」
 そんな言葉で手を上げた義父の変わらない様子にマナウスは安堵しながら先に待っていたシアスの前に座る。
 簡単に注文を出すと、彼は懐かしい顔をもう一度ゆっくりと見つめた。
「今、王宮で働いているんだって? 円卓の騎士候補とは対したもんだ」
「昔、剣の稽古をつけて頂いたおかげですよ」
「そうだな。よく稽古をしたもんだ。筋が良かったし教えていて楽しかったよ」
 そんなたわいも無い会話と笑顔は注文した料理や飲み物が席に並ぶまで続いた。
「再会に!」「この国の平和に!」
 杯を合わせ、飲み物を干す。その瞬間まで。
「っと、酔う前に本題に入ろうか。マナウス。頼みがある」
 料理に手を伸ばしかけたマナウスは、義父の真剣な様子に手を止める。
「頼み‥‥とは?」
「私の主がお前の『明星の衣』を欲している。渡して欲しい」
「えっ?」
 突然の、思いがけない『頼み』に驚いたマナウスが言葉を捜している中、彼は微かな苦笑を浮かべ話を続けた。
「私の主の名はアスタロト。お前達が今なお追うデビルの魔王だ」
「なに!」
「そして我が名は『マルコシアス』アスタロト閣下を主とする契約を持つデビルの武人である」
 酒場の雑踏の中、彼の告白はマナウス以外には届かなかったろう。
 聞いた本人でさえ、夢だと思いたいそれは衝撃の言葉であった。
「義父上! 冗談は!」
 言いかけてマナウスは口を閉じる。
「落ち着け。こんな場所で騒ぎを起こす気か?」
 冷たく制した彼の声と眼差しが、その言葉が嘘ではないと告げていたからだった。
「俺を‥‥騙していたのか?」
 唇を噛むマナウスに彼は騙していた訳ではない、と答える。
「告げる機会がなかっただけだ。それにまさかお前が円卓の騎士候補と呼ばれるほどの武人になるとも思わなかった」
 飲み物を呷る彼にマナウスはそれ以上の言葉が見つからなかった。
 追求も、罵倒も‥‥何一つ。
「これは取引だ。お前が自分から明星の衣を渡すなら、お前の身の安全は保証する。渡さない、というならそれでもいい。ただ我々はそれを必要としている。どうしても」
 冷酷なデビルの言葉にマナウスは言外の意味を知る。
 渡さないなら力づくでも、と言っているのだ。
 彼が本気だとマナウスには解った。
 この場で戦いを挑めばおそらく、彼はデビルとしての戦いをしてくるだろう。
 その結果が待つものは、屍重なる大惨事でしかない。
 彼は立ち上がった。
「後で改めて連絡する。次に会う時までに決めてくれ。良い返事を待っている」
 そう一方的に告げ、彼は席を立つ。
「待て!」
 必死に思いを振り絞り、声をかけるがマナウスの心など気にもせず彼は人ごみを去っていく。
「あ、あの人、貴方の分も払いをしてくれていったわよ。‥‥どうしたの? 顔真っ青‥‥」
 マナウスは、その背中をただ、ただ黙って見送ることしかできなかった。

●続く旅、終らない物語
 薄暗がりの中での会談は続く。
「ん〜っとな、ギルドの係員の兄ちゃんに聞いたんやけど、やっぱりトータルではデビル関連の依頼って減っとるらしいわ。ただ、その少ない中には何かただの雑魚が暴れ取るってだけとは違うなんかがあるんやないかって思うんやて。ほら、これなんかただの魂集めにも思えるけど、冒険者も苦戦するデビルが指揮してたんやて」
 図書館でルザリアとジルベールは互いの調べた情報と資料を照らし合わせながら検討を続けていた。
「なるほど。まだ、デビルと契約している人間もいるのかもしれないな。人々の油断の隙を狙っているのかもしれない。隊長に報告しておこう」
「そうやね。さりげなく調べてもらえれば事件も未然に防げるかもしれんね。この近場のところは後で、俺が裏付け調査に行ってみるわ」
「頼む。しかし‥‥よく調べたものだな。ここまで最近の調書を調べるのは大変だったろう? 私でさえ手伝って貰わないと難しかったぞ」
 ルザリアの賛辞になんの、とジルベールは指を振る。 
「俺も、ギルドの受付係さんに聞いたんや。ほれ、ギルドの係員ってやっぱ、王国の問題を俯瞰的に捉えてる筈やろ。で、聞いてみたんや。『最近変わったことあらへん? ちょっとした事でエエから気になったこと教えて』って。そしたらルザリアさんの旦那もな‥‥」
「‥‥もういいから」
 顔を赤らめるルザリア。
 戦争の最中は滅多に見られなかったこういう表情を見られる事にジルベールは平和の喜びを感じながら、ふと真顔になる。
「でも、調べてみて解ったんけど、やっぱり本当に戦いが終ったって訳やなんやな」
「ああ、そのようだ‥‥」
 ジルベールの眼差しにルザリアは頷く。
 戦乱の後、旅立った幾人もの友を、彼も彼女も見送る側であった。
「せっかくキャメロットが静かになったんや。それでええんやないか、って思わなくもなかったけどな」
 二人には愛する者達がいる。
 彼には妻が、彼女には夫が。
 時に死さえも覚悟し、時に果てしない涙に暮れた。
 長い戦いや苦しみ。その先にやっと掴んだ二人の、それは幸せであった。
(「大切な人と共にあることができる。この幸せを守りたい」)
 それが彼らの足をキャメロットに止めた理由の一つであることを、彼らは何より、誰よりよく理解してた。
「別に後悔しとるとか、そんなんではあらへんよ。ただ‥‥」
 ジルベールは眼を閉じ、遠い月桂樹の騎士を思い出す。
「俺に『誇り』を与えてくれた隊長さんや皆の助けになりたい。そう思うたんや。今も、俺は皆の仲間でありたいと思ったから‥‥」
「私も同じだ。それに‥‥またデビルがあの人に狙いをつけてきたら‥‥彼はもう戦えないし、戦ってはいけない」
 ルザリアの脳裏に浮かぶのは、何よりも大切な人。
「あの日、誓った。生涯あの人を愛し続けると。あの人と、あの人が住むこの国を守る。皆が帰ってこれる場所を‥‥守る。それは、私の絶対の思いだ」
「そうやね。だから、今は俺らにできることをしよ。俺らの旅、っちゅうか冒険もまだまだ終っとらんのやさかい」
「ああ。そうだな」
 頷きあう彼らは、また作業に戻る。
 やがて見つけ出した情報は、旅を続ける友の下に届けられるだろう。

「‥‥闇は消えていない。おそらく隠れているだけ。影の中で復活の時を狙っているだろう」
 闇の復活を望むものもきっと、まだ存在する。
 だが、それを許す事はしないと、彼らはそれぞれに誓っていた。

 彼らの旅、冒険、物語はまだ終ってはいない。
 未来へと続く。
WTアナザーストーリーノベル -
夢村まどか クリエイターズルームへ
Asura Fantasy Online
2010年07月12日

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