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『紳士[ヘンタイ]たちのララバイ 』
天道・大河(ga9197)
●癒しとロマンの存在する場所
 温泉旅館――それは日々の生活に疲れやってきた旅人たちの、身体と心を癒してくれる場所である。心休まる接客の元、素晴らしき温泉に入り、美味しい食事に舌鼓を打ち、ふかふかな布団で眠れば何人たりとも癒されぬはずがない。
 だがしかし、温泉旅館に存在するのは癒しのみではない。そこにはロマン……紳士たちが永遠に追い続けしロマンもまた同時に存在しているのである。今より語られるのは、そんなロマンを追った紳士たちの汗と涙、喜怒哀楽を主につづった物語である!!
 ……なお、この場合における『紳士』とは『ヘンタイ』と同義語であることを予め付け加えておくことにする。

●ロマンを待つ男たち
 その温泉旅館の温泉は素晴らしき物であった。
 男女ともに存在する岩の露天風呂。広さも申し訳程度の物などではなく、ダンプカー1台を悠々と浸けることの出来る大きさだ。そんな広さの露天風呂に1人や2人などで入っていると、非常に贅沢をしているような気持ちになってくる。
 そして忘れてはならないのは露天風呂からの眺めだ。何と木々の間から眼下に海が見下ろせるのだ。そう、いわゆるオーシャンビューという奴である。これは温泉旅館の立地条件も関係していて、海沿いの高台にこの温泉旅館があることからこのような眺めが実現出来たという訳である。
 時刻は夜――日付がそろそろ変わりそうな真夜中と言うべきか。そんな露天風呂の男湯の方に、2人の若き男たちの姿があった。1人は湯の中に入ってとてもリラックスした顔を見せているが、もう1人の方は何故か褌一丁という出で立ちで、厳しい表情を浮かべながらただ1カ所を睨み付けるように見つめていた。
「……入らないんですか?」
 と褌一丁の男に尋ねたのは、湯の中に居る男――葵純であった。そりゃまあ、せっかく温泉に来ているというのに、湯の中に入ろうとしてない男を見ればそういうことも言いたくなる訳で。
「入るさ」
 褌一丁の男――天道大河は腕を組み、顔を動かすことなく純へと答えた。
「……だがそれは、この先にあるロマンに触れてからだっ!」
「ロマンですか」
 そうきっぱりと言われた純は大河の見つめる先を追い――納得したように小さく頷いた。
「なるほど。確かに……ロマンがありますね、向こうには」
「今の俺はただ……その時を待っているっ!!」
 ギン、と両目を見開く大河。その時である、大河の見つめる先の向こう側より黄色き声が聞こえてきたのは。

●タオルを奪え!
 その時、女湯の方には今まさに3人の女性たちが入ってこようとしている所であった。
「わ〜、おっきいね〜☆ これなら目一杯泳げるよっ!」
 などとはしゃぎ、手に持ったタオルをぶんぶんと振り回しながら入ってきたのは香坂光である。付け加えるならば――温泉に入るのだから当たり前の話であるのだけれども――生まれたままの姿だ。
「早く入ろ……にゃあっ!?」
 あんまりはしゃぎ過ぎたからだろうか、つるっと足を滑らせて危うく転びそうになる光。が、何とかもう片方の足が踏ん張って転ぶことは回避された。
「だ、大丈夫……?」
 心配そうな顔で、歩みを少し早めて光の方へやってきたのはミリート・ファミリスだった。ちなみにこちらは、その身体にバスタオルを巻いているのだが。
「あ、あはは〜、大丈夫っ。何とかセーフ!」
 心配してくれたミリートに対し、苦笑いを見せて大丈夫だとアピールする光であったが――。
「ん? んん〜っ?」
「……ど、どうしたの?」
 急に光が怪訝な表情になったので、ミリートが何事かと聞き返す。
「どうしてっ?」
「はい?」
「どうしてタオルを巻いてるのっ!?」
「……はい?」
 突然の光の難癖に困惑するミリート。どうしてと言われても、生まれたままの姿を晒すというのはどうも恥ずかしいからという答えしかなく……。
「ナンセーンス! お風呂だよっ? 温泉だよっ? タオルを巻いて入ろうだなんて……そんなの温泉への冒涜だよっ、エゴだよっ!」
「……ええっとぉ……」
 温泉ということでテンションが上がっているのであろうか、光の力説の前にミリートは何も言い返すことが出来なかった。
「ともかくっ、温泉でタオルは厳禁! という訳でぇ……」
 光の目がキラーンと光った!!
「実力こぉぉぉぉぉぉしっ!!!」
「きっ、きゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
 光に突然飛びかかられ、ミリートは咄嗟のことに行動が出来なかった!
「えっへっへ〜、恥ずかしがることはないよ〜っ♪ すぐ終わるからね〜っ☆」
「はっ……恥ずかしいよぉぉぉっ!! ひゃぁぁぁぁぁぁっ!?」
 ミリートのバスタオルを剥ぎ取ろうと奮闘する光。暴れられるものだから、光の手がミリートの色んな所に触れてしまい、その度にミリートが悲鳴を上げる始末。それでも1分ほど経った頃に、この戦いは決着がついた。
「獲ったどぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
 ミリートから剥ぎ取ったバスタオルをつかんだ右手を高らかと掲げ、勝利宣言を行う光。剥ぎ取られた側のミリートはといえば、両腕で胸元を隠し、ぐっとその身を丸めて、転がるように湯の中へと飛び込んでいった。まあ隠す物を奪われた以上、とっとと湯の中へ入ってしまうのがこの場合は正しい行動であろう。
「……なっ、何てことするのぉっ!!」
 そして湯の中からざばっと濡れた顔を出し、ミリートが光へ抗議の声を上げた。
「だって〜。何もつけない方が、ちゃんと全身で温泉を堪能出来るし」
 だがそんな抗議もどこ吹く風、光はしれっとそう言い放つのであった。
「ちょっと……何暴れてるのよ」
 そこへまた別の女性が入ってきた――レイル・セレインである。こちらもまた身体にバスタオルを巻き、手には風呂桶を抱えている。よくよく見ると風呂桶の中には酒の小瓶にコップや猪口などが入っており、頬の辺りもほんのりと赤くなっていて……ってレイルさん、ひょっとしてもう結構飲んでたりしますか?
「温泉は静かに味わうものでしょう……お酒片手に」
 と言ってレイルが光の方へ近付こうとしたが、どうも微妙に歩き方がぶれているようにも見え。……これはやっぱり酔ってますね、レイルさん。
「あ、またタオル巻いてる……」
 だが光は酔っていようがどうであろうが、バスタオルを巻いているレイルへとロックオンした!
「温泉でタオルは厳禁! 光いきまーーーーーすっ!!」
 光はレイルへ駆け寄ると、即座にバスタオルに手をかけた。まさにその場所にバスタオルの端があったからか、ミリートの時とは違って非常にスムーズにバスタオルの剥ぎ取りを開始することが出来た。
「よいではないか〜、よいではないか〜っ♪」
 時代劇で悪代官が女性の帯を解くがごとく、光もまたレイルのバスタオルを解いている。レイルも酒が入っているせいか、特に抵抗らしい抵抗も見せずされるがままになっていた。
「あ〜〜〜れ〜〜〜」
 そう言いながらくるくると回ってみせるレイル。酒のせいかノリがいい……って、何で頭上でしっかと風呂桶抱えてますか、レイルさん。
「タオル……成敗っ!!」
 バスタオルを全て剥ぎ取った光は、それを新体操のリボンのように動かし、その場に片膝を突いてポーズを決めてみせた。その表情は実に得意げで、背筋を伸ばし胸を突き出して威張っているようにも見えた。
「あら、取られちゃったわね。……まあ、見られても減るもんじゃないし〜」
 生まれたままの姿となったレイルは、ミリートみたく隠したり恥ずかしがるようなこともなく、風呂桶を抱えて冷静に湯の方へと歩いてゆく。
「さっすがぁ☆ 引率役のお姉さんだけのことはあるよねっ♪」
 レイルに向かってそう声をかける光。するとどうだろう、若干レイルの表情が曇ったではないか。
「お姉さんね……ふふ、お姉さん……そうよね、お姉さんだもの……」
 ……何か触れちゃいけない所に触れてしまったような気がしなくもないが、とりあえず流しておくことにする。
 ともあれ――こうして生まれたままの姿となった女性3人が湯の中へと入ったのであった。

●ロマンへと挑む男たち
 場面は再び男湯へと戻る。
「……聞こえたよな?」
 大河は声のトーンを落として純へと話しかけた。トーンを落とした理由は言わずもがな、ロマン溢れる場所に居る者たちに気付かれぬためである。
「ええ、聞こえましたよ。そうですか……邪魔な布切れは排除されましたか」
 うんうんと頷きながらつぶやく純。女湯の方では光が思いっきりはしゃいで喋ってくれていたから、向こうの様子が手に取るように分かった。見えぬ場所の情報を得ることが出来るというのは、非常にありがたいことである。
「言うまでもなく、俺たちは仲間だ……」
 少し目を伏せて純へ、というよりは自らへと言い聞かせているようにも思える大河のつぶやき。仲間というのは、大河に純、そして光とミリートとレイル、この5人のことだ。
 かつて……徳島の地において『制服聖戦』なるコスプレ大会が行われた。それは非常に長く厳しい戦いであった。だがしかし、この5人は『紫輝閃』というチームで共にその戦いを勝ち抜いた仲間なのだ。だからこそ、今回もこうして連れ立って温泉旅館へと遊びに来たのである。
「……だが……」
 再び顔を上げて、大河のつぶやきは続く。
「ロマンを前にして、黙って座することは俺には出来ない……出来るはずがないっ!」
 組んでいた腕を解き、大河は右手を強く握り締めた。
「だからこそ俺は動く……たとえ仲間を敵に回そうともっ!!」
「……その想い、よーく伝わりました」
 大河に向かってぼそりと純がつぶやいた。
「なら私も……そのロマンを見届けましょう」
「そうか……。よし……共にロマンを……ロマンをこの手につかもうぜっ!!」
 大河はきっぱりとそう言い放つと、それまで凝視していた場所――男湯と女湯の間に立ち塞がる岩の壁へと大急ぎに張り付いたのであった。
 この場におけるロマンとはすなわち――この岩の壁の向こう女湯に待っている裸の女体を目に焼き付けるということなのだ……。

●ロマンに殉じた男
(このくらいの高さなら訳もない。それに下は温泉、落下時のダメージを恐れることもない。今までくぐってきた修羅場を思えば楽なもんだ)
 岩の壁をぽんぽんと叩きながら、大河はそんなことを考える。しかし油断大敵、驕りはどんな実力者をも堕落させてしまう。何事も慎重にゆかねばなるまい。
「……行くか……」
 大河は両手で適切なポジションを探るとぐっと岩を握り締め、目の前の岩の壁を登り始めた。その表情は実に真剣で、壁の上にたくましき相棒が待っていて手を差し伸べているのであれば、どこぞの栄養ドリンクのコマーシャル映像としても使えるのではないかと思えるほどである。もっとも、大河が褌一丁でなく、かつ目的が覗きでなければ、という前提がつくのだが。
 ともあれ、大河がこうして登っている間にも女湯では3人が言葉を交わしている。それは今なお大河の耳にも届いている。
「む〜……」
「何難しい顔してるの?」
 どうやらミリートが光へと尋ねたようである。
「……あたし思ったんだけどー」
「何を?」
「この3人ってー……」
「うん」
「ここが控えめ揃いだよねっ!」
 光がそう言った直後、ザバンと何かが沈むような音が聞こえてきた。
「げほごほげほっ……い、いきなり何を言い出すのっ!?」
 ……どうやらミリートが湯の中に一瞬沈んだようである。
「だってほら、一番大きくてもたぶん平均くらいだろーしー」
「でもまあ、大きいからいいってものじゃないものね」
 そう言ったのはレイルのようだ。
「大きくするだけなら、シリコンなり生理食塩水なりの袋を埋込めばいいの。ほら、噂だけどあの話題のグラドルの――」
 噂だと前置きしながら、具体名を挙げようとするレイル。……まさか酔いが進んでたりしませんか?
「あっ、でもあたし、正統派の大きくする方法知ってるよっ!」
 と、これは光の言葉。
「正統派……?」
 ミリートの訝しがる声。
「論より証拠! やってみるねっ☆」
 光がそう言った直後、ミリートから悲鳴が上がった!
「ひゃぁぁぁぁぁっ!?」
「こうねっ……全体的にっ……刺激してあげるとっ……いいんだって……!」
「ひゃっ……いやっ……刺激なんていいよぉっ……やだぁっ……!!」
「はーい、逃げない逃げない☆」
(ロマンが……ロマンの濃度が上がってる……!)
 見えはしないが、どのような光景が繰り広げられているか、大河の脳裏にはあんな様子やこんな様子がイメージとして映像が浮かんでいた。そんな真似が出来るのも、ロマンを追い求める物の脳の中は、無限の宇宙であるからだ!!
「次はこっち〜!」
「まあ減る所か、増える訳だし……」
 どうやら光の矛先がレイルへと向かったようだが、レイルはといえばどんと構えている様子。
「だよね〜、揉めば育つって昔の人の知恵は凄いよねっ!」
 明るく言い放つ光。とりあえず、知恵かどうかはちと疑問ではあるけれども。
「上上下下左右左右……」
 言葉だけ聞いてたら何かのコマンド入力のようにも聞こえてくる光の言葉。しかしながらレイルからは悲鳴は聞こえてこない。時折何かを堪えているような呻きなら聞こえてはきていたが。
「はい、完了〜☆」
 やがて光の行動が終わった。
「あ……嵐が去ったみたい……」
 息も絶え絶え、やれやれといった様子のミリートのつぶやき。
「んー、音で例えるならこうかな? むにゅん♪ もにゅん♪」
「むにゅんで……」
「……もにゅん?」
 光の言葉に、ミリートとレイルが相次いで言った。
「うん、触った感じで」
「なら自分自身を例えてみればいいじゃない!」
 ミリートがそう光へと反撃すると、やや間があってから答えが返ってきた。
「……ぺたん……」
 自虐的、実に自虐的な光の答えであった。
 まとめてみると、大きい順にレイル、ミリート、光であって、この中で一番大きなレイルであっても世間では平均的な所に位置するということのようだ。何が、とは彼女たちのためにあえて言わないことにしておく。
(もうすぐだ……あと一息でロマンが……俺を待っているっ!!)
 女性3人が戯れている間にも、大河は慎重に岩の壁をよじ登っていた。そしてようやく岩の壁から大河の顔が出ようとしたその瞬間――ミリートが動いた!
 ミリートは近くにあった空の風呂桶をつかむと、岩の壁の上へと向かって投げ付けたのである!!
 カコーーーーーーーーーーーーン!!
 バッシャァァァァァァァァァァン!!!
「……お……俺のロマン……」
 男湯には額を真っ赤にした大河が仰向けで浮かんでいた。変態1号……かくして迎撃さる。

●密かに動いていた男
(すみません……ロマンのために、あなたには犠牲になってもらいます)
 そう思いながら純は慎重に移動を行っていた。周囲にあるものは水……いや、湯だ。そう、純は湯の中に潜っていたのである。
 それというのも、事前の調査で男湯と女湯の湯が岩の壁の下部で繋がっていることを知っていたからだ。なので大河が岩の壁をよじ登っている間に、純は密かに湯の中へと潜って女湯を目指すことにしたのだ。
 湯の中を進むというのは盲点になりがちだし、なおかつ女性陣の目が大河の方へと向かうことは容易に想像出来る。そうなると、それだけ純の成功率が上がるというものだ。大河の行動を変態戦士と呼ぶならば、こちらはさしづめ変態忍者か。
 慎重に進む純の耳に、男湯の方からドボンと何かが落ちてきた音と衝撃が感じられた。どうやら大河はロマンに触れることに失敗したらしい。となると、こちらも気取られる前に目的を果たさねばなるまい。純は移動速度を上げた。
(……おや、あれは……!)
 純の視線の先に、おぼろげながら2つの影が見えてきた。あれこそが目指すロマンであるだろうか。
 とその時――新たに影が1つ飛び込んできたかと思うと、男湯の方から物凄い衝撃が襲ってきて純は思いっきり吹き飛ばされたのである!!
(うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?)
 いったい何事が起こったというのか――。

●ロマンを追った男たち、散る
 この時、男湯では岩の壁を越えるような高さの湯柱が上がっていた。そして女湯には、ライフルを構えたミリートの姿が。
「ちょ、ちょっと……何投げた、の?」
 湯から立ち上がり、ミリートへとそう尋ねる光の顔が少し引きつっていた。一旦脱衣所へ戻ったミリートがライフルを持って戻ってきたかと思えば、何かを男湯の方へ向かって投げ付けていた。その直後にあの湯柱だから、明らかに因果関係があるはずだった。
「手榴弾を。大丈夫、火薬はうんと減らしてて……」
「そんな問題じゃないよっ!!」
 答えるミリートに光が言い返した。
「大丈夫大丈夫、旅館の人に聞いたけど、この露天風呂は象が踏んでも壊れないから、手榴弾程度じゃ平気よ平気」
 湯のためか酒のせいか、真っ赤っかな顔で言い放つレイル。……これはもう、明らかに酔いは回り切っている。
「覗き、ダメ、ゼッタイ!」
 それ、どこの標語ですか、ミリートさん。
「覗きは許しちゃダメなんですっ!」
 いやまあそれは分かりますが、やってることが過激過ぎます。
「あ〜、もう、やれやれ……」
 などと光が額の汗を拭うと、ふと足に何かが触れた。何だろうと思って見てみると、そこにはうつ伏せで湯にぷかんと浮かんでいる男――純の姿が。そう、先程の衝撃で吹っ飛ばされた結果、こうなったという訳だ。変態2号……志半ばで敗れ去る。
「やぁぁぁぁぁぁぁっ!? 水死体ぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!? 誰か誰かぁぁぁぁぁぁっ!! 誰か来てぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!?」
 突然のことにパニックに陥る光。しかしそんなことを叫べば、どういうことになるかは火を見るよりも明らかで……。
「何、水死体だって!? ちょっと待ってろっ!!」
 男湯からそう聞こえたかと思うと、瞬く間に岩の壁の上に褌一丁の男が現れた。復活した大河――いや、変態1号が。
「ロマン溢れる場所に水死体は不要だっ!! これではサスベンスの午後10時またぎになるだろっ!!」
 何だか分かるような分からないようなことをのたまう大河。しかし彼が女湯へと降り立つことは適わなかった。
「覗きっ、退散ですっ!!」
 ミリートが構えていたライフルをぶっ放したからだ!
「おっ、うわっ、何をっ! あっ……」
 そしてミリートのライフルをかわしているうちに大河は足を滑らせて――。
 ドッボォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!
「……ロ……ロマン……」
 男湯にぷかり浮かびつぶやく大河。変態1号……再び迎撃さる。
「死んじゃう死んじゃう! このままじゃ溺れ死んじゃうよぉっ!!」
 純の身体をしっかとつかみ、必死に湯の中から引き上げる光。実はこの時、純は意識が戻っていたのである。
(これが……ロマンの感触ですか)
 などと思いながらも、そのままなすがままになっている純。今の様子はといえば、光の身体が純に密着している訳で……。
「ん〜……」
 湯の中から引き上げられ、寝かされている純のそばへレイルがやってきた。
「……お湯を飲んでるのかしら……?」
 純へ顔を近付けて見ているのか、レイルからは酒の匂いが少し漂ってきていた。
「だとしたら、吐かせないと……ね」
 溺れた者に対する処置として行われるのは、普通に考えるならば水を吐かせて人工呼吸だ。
(さ、さらなるロマンが……?)
 気が付いていることを悟られぬよう、じっと身を固くして次の展開を待つ純。そして。
「えいっ!!」
 すっかり酔っ払ったレイルが、重ねた両手を思いっきり純の胸元へと落とし――。
 ……この時の純の悲鳴は、一説には海に居てても聞こえたとか聞こえなかったとか……。

●ロマンを求めし代償
「はい2人とも! しっかり腰入れて動かす!!」
 翌日早朝、酒の抜けたレイルに指示されて露天風呂の床にブラシがけを行っている変態1号2号……もとい大河と純の姿があった。あれだけ騒いで旅館に気付かれぬはずがない。かくして迷惑かけたということで、引率役のレイルが旅館側に露天風呂の掃除をさせるからという内容で手打ちをしたのであった。
「ロマンを追い求めた代償は……」
「……大きかったですねえ」
 大河と純は口々に言いながら、真面目にブラシがけを行っていた。
「だから覗きはしちゃいけないんですよ」
 そんな2人の様子を離れた場所から覗きながらつぶやくミリート。その傍らでは光が1人首を傾げていた。
「……覗きはともかく、手榴弾とライフルが何で不問になったんだろ……」
 光にはそれが心に引っかかっていた。恐らくは、レイルが上手くごまかしたのであろう。さすがは年長者である。
「年長者……ふふ、年長者……そうよね、年長者だもの……」
 ……すみません、そこやっぱり触れちゃいけなかったんですね、レイルさん。

【おしまい】
■「連休…そうだ、旅行へ行こう」ノベル■ -
高原恵 クリエイターズルームへ
CATCH THE SKY 地球SOS
2010年07月12日

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