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『【文月梅雨後夏晴〜神楽之都夏景色】 』
葛城雪那(ia0702)

●夏は、此処に。

 ――夏が、来る。

 青空に立つ白い雲、夜空に開くは大輪の花。

 耳を澄ませて、聞こえるは。
 祭囃子か、軽妙な南国の音楽か。

 いざ、眩い陽射しと茹だるような暑さの中へ。
 そして、蒼穹と紺碧の海の狭間へ。

 今年も熱い、夏が来た――。


●平穏かつ平凡なる一日に
 遠くから聞こえる蝉時雨で、夏の一日は騒がしく明ける。
 吹き込んでくる風は、熱と湿気を含んで重く。
 大きく四肢を伸ばしてからもそもそと起き上がり、蚊帳の端をめくってくぐった。
「北面の夏は、過ごし易かったんだなぁ」
 かいた寝汗に、葛城雪那は独り言つ。
 気温が低いはずの朝にもかかわらず思うような涼しい風は流れず、のっぺりと吹く風に重い汗を拭った彼は縁側へ立った。
 まだ日陰になっている広い庭は畝(うね)を作って畑とし、四つに区切った一角で夏野菜が青々と葉を茂らせている。
 顔を上げれば、空は夏色の青が広がっていて。
 足音に視線を降ろせば、縁側に前足をかけた忍犬の次郎が、くるりと凛々しく丸まった尻尾をパタパタ振って、主人を見上げていた。
 暑そうに舌を出した次郎の様子に、腰を下ろした雪那はその頭をわしゃわしゃと撫でてやる。
「さて、今日も元気にいきますか」
 自身へも気合を入れるように言葉をかければ、忍犬はひと声、元気よく吠えた。

 北面の人里離れた場所にあり、祖父や弟妹と賑やかに過ごした家を離れ。
 神楽の都で雪那が独り暮らしをするようになって、既にもう一年と二ヶ月を数える。
 ひと気のない静かな家と、人が多く騒がしい都の暮らしに最初は戸惑ったが、それも徐々に慣れてきた。
 蚊帳を外して布団を上げ、台所で昨日の残り物に火を通し、手早く朝飯の用意をする。
 質素だが十分な食事をよく噛んで腹に入れると、次に大人しくじっと庭で待っていた次郎の飯を用意した。
「よし、食べていいよ」
 行儀よく、腰を下ろして待っていた忍犬へ告げると、嬉しそうに立ち上がって食べ始める。
 次郎の様子を楽しげに眺めてから、雪那は着替えにかかった。
 汗だらけの夜着を脱ぎ、よく乾いた着物に袖を通し、それから庭へ出る。
 畝に崩れた部分があればクワでならし、間をぬって生えてくる草をむしり。
 虫が付いていないか、病気にかかっていないか、順番に確かめていく。
 最後に井戸より汲み上げた水を畝の間に流し、流れ落ちる汗を首にかけた手拭いで拭き取った。
 手入れが終わった畑を、ひとしきり雪那は満足そうに眺め。
 それから、畑仕事の間に高く南へ上がった陽の位置を確かめる。
 洗い物を片付け、身支度を整えて腰へ刀を差すと、いつも通りに青年志士は忍犬を供に都の真ん中へと繰り出した。

   ○

 神楽の都は、相も変わらず賑やかだ。
 買い物客で賑わう昼の市場を抜け、通い慣れた道を歩き、南に広がる海に面した港へと到る。
 辺りには潮の香りが満ち、大小さまざまな飛空船が空を横切り、あるいは静かに波へ身を任せていた。
 それらを眺めながら、ギルドが管理する龍舎へと雪那は向かう。
 顔なじみの職員と軽く挨拶を交わし、区切られた空間で思い思いに寛ぐ龍の前を通り過ぎ、そして一体の駿龍の前で足を止めた。
「花子、今日も元気かな?」
 柵越しに雪那が明るく声をかければ、目を細めた龍は喉の奥を鳴らす。
 そんな花子の頭を撫でてやり、それから柵の扉の掛け金を外し、次郎を中へ入れてから、自分も足を踏み入れた。
 空っぽの餌桶へ、桶一杯の餌を入れてやり。
 量の少なくなった水桶も、残った水を流してから新しい水を足す。
 餌桶の前から雪那が移動すると、待っていたように花子は首を伸ばして餌を口にした。
 龍が食事をする間に雪那は潰れた寝藁を入れ替え、敷き直してふかふかにしてやる。
 その間も次郎は餌を食べる龍を見上げ、喉が渇けば水桶の水を分けてもらっていた。
 満足するだけ龍が餌を食べ終わると、雪那は別の藁束や水の入った手桶を取り、自分よりも大きな身体を洗い始めた。
「痒いところとか、ない?」
 言葉をかけても、龍はしゃべる事は出来ないが。
 それでも雪那の手が届くように身を低くし、気持ちよさげに目を閉じたり、時おり尻尾や翼を動かす様子から、喜んでいるのが伝わってくる。
 身体の色つやに変わりはなく、怪我をしたような痕もなく。
 いたって健康そのものな龍の様子に、雪那は満足げに額の汗を拭った。

   ○

「それじゃあ、花子。また来るね」
 ひと通りの世話を終え、声をかける主人を花子は少し寂しげに見下ろす。
「今度また、時間が出来たら遊びに行こう」
 名残惜しく、首筋を軽く叩いて駿龍へ声をかけ。
 職員に花子の様子を託し、帰る旨を伝えてから、雪那は次郎と共に龍舎を後にした。
「少し遅くなったけど、俺も昼飯を食べに行くかな」
 時間的に、昼時の混雑もひと段落して、落ち着いた頃合いだろうと。
 潮の香りに背を向けて、市場の方へ一人と一匹は歩き出す。

 人々が行きかう通りを横切り、行きつけの蕎麦屋に行く道すがら。
 ふと雪那は、見覚えのある姿に気が付いた。
 いつもの結った髪ではなく、仰々しい弓術師装束でもなく。
 先の方で束ねた片側にだけ長い髪を揺らし、店先を眺めて回っている。
「弓削さん!」
 少し大きな声で呼べば、耳に届いたのか。
 そぞろ歩く風な弓削乙矢が足を止め、人ごみの中から声をかけてきた相手をきょろきょろ探した。
 ざっと周囲を探し、手を振る雪那に気が付けば、ひょこと会釈をする。
「葛城殿。こんにちは、買い物ですか?」
「その前に、次郎とお昼を食べに行くところ。ほら、暮れの前に弓削さんを案内した、行きつけの蕎麦屋。まだなら、一緒にどうかな」
 言えば覚えていたのか、「ああ」と頷いて乙矢は手を打った。
「あの店ですか。私も昼を何にするか、迷っていたところです……もし、葛城殿さえよろしければ」
「よろしいもよろしくないも、ないよ。賑やかに食べると美味しいからね、ぜひ」
「では、お言葉に甘えて。ありがとうございます」
 もう一度、頭を下げて乙矢は礼を告げに、ぱたぱたと雪那は手を振った。
「それにしても、神楽は蒸すよな」
「はい。私がいた理穴の小さな村は、森にあったせいか木陰も多く、夏でも風は涼しかったのですが」
「ああ、すっごく分かる。俺も神楽に来た最初の夏は、凄く蒸し暑くて驚いたなぁ」
「確か葛城殿のお国は、北面でしたよね」
「といっても、田舎だったから。人が多いと、こんなに暑いんだ……って」
 他愛もない話を交わしながら、二人はぎこちなく人の流れを避け、蕎麦屋へと向かった。

 店の外の日陰に次郎を待たせ、二人はさっぱりとした蕎麦を向き合って食べる。
 腹が落ち着けば、自然と話はこの後の予定になった。
「とりあえず、買い物かな。野菜は、もうちょっとで収穫だから……」
「畑をお持ちなのですか?」
「うん。庭が広いから、畑にしてる。この時期、草が伸びるのも早くて……」
「数日を置くと、あっという間に伸びますよね」
「そうそう。刈るのもいいけど、根が残るとまた伸びるのもあるから。でもそうやって手をかけると、野菜も可愛く思えてくるんだ」
 話をしながら店を出れば、大人しく伏せて待っていた次郎が尻尾を振る。
 腰を落とした雪那は、待っていたことを褒めて頭を撫でた。
「お待たせ、次郎。行こうか」
「そういえば……忍犬、連れていらしたのですね」
「うん、次郎っていうんだ。次郎、彼女は弓削さん。俺の友達だから」
 撫でながら雪那が紹介すれば、心得たという風に忍犬は短く吠える。
「よろしくお願いします、次郎殿」
 言葉をかける乙矢へも、もうひと声。
 そうして二人と一匹は、急ぐことなくぶらぶらと昼下がりの市場を回った。

   ○

「なんだか女の人に荷物を持ってもらって、申し訳ないな」
「いえ。弓を作る仕事をしていますと、力もそれなりに……ついてしまいますので」
 腕一杯の買い物を抱えた二人は、賑やかな都を背に、郊外の道を歩いていた。
 雪那の足元を前後して付いてくる次郎も、道の先を確認するように先へ走ったり、腰を下ろして待ったりと、人ごみから開放された自由を謳歌しているようだった。
 話をしながらの長くも短い道のりは、やがて終点へ辿り着く。
 簡素な門をくぐり、先に立って雪那は玄関側でなく庭へと回った。
「荷物は、縁側に置けばよろしいですか?」
「うん。適当でいいから」
 食材や日用品などを載せたザルや籠を、縁側の一角へ寄せて置く。
「今日は色々と付き合ってくれて、ありがとう」
「こちらこそ。また機会があれば、ご一緒させて下さい」
 頭を下げ、いとまを告げる乙矢だったが。
 のし、と。
 忍犬が、両方の前足を乙矢の着物へかけた。
「どうされました、次郎殿?」
 遊んでくれそうな相手の帰りが、惜しかったのか。
 しゃがんでそっと首の辺りを撫でた乙矢へ、尻尾を振りながらじゃれつく。
「えっと、あの……葛城殿……」
「うわっ、次郎!? 駄目じゃないか!」
 動けず困る乙矢に慌てて雪那が駆け寄り、遊び足りなさそうな忍犬を叱った。
「ごめん、弓削さん。着物、汚しちゃって」
「いえ、お気になさらず。汚れることなど、しょっちゅうですから……それよりも、次郎殿に気に入っていただけたようで、光栄です」
 凛々しい尾をしょんげりと垂れる次郎へ、くすりと乙矢は笑む。
「拭く物を取ってくるよ。ついでじゃないけど、また次郎が汚す前に家へ上がっておいて」
「いえ、でも……」
「お茶くらい、出すから」
 言い置いて、雪那は奥へと消える。
 しょげた次郎を乙矢は軽く撫で、それから気遣いに甘えて縁側へと上がった。

 夕方になれば、昼間よりいくらか風が入ってくる。
 軒へ吊るした風鈴が、ちりんと涼しげな音を立てた。
 茶を持ってきた雪那に、折角だからと乙矢は黄な粉まぶしの葛餅を開ける。
「でも、乙矢さんが買った物だろ?」
「一人では少し多いですし、食べ切れなければ長屋の方々がつまみに来るだけですから」
 そんなやり取りを経て、今はゆっくりと葛餅を茶請けに茶を飲みながら、目にまぶしい緑を前に縁側でのんびりと和んでいた。
「あれが、葛城殿のおっしゃっていた畑ですね。良い伸び具合です」
「ありがとう。上手く出来たら、お裾分けする?」
「いえ、そんな。もったいないので、どうかお気遣いなく」
 緩やかなひと時に、はしゃぎ回っていた次郎も日陰に伏して、まどろんでいる。
 だが静かに夕暮れが近付くと、乙矢は再度のいとまを告げた。
「名残惜しくはありますが、すっかり長居をしてしまいましたので」
「それなら、表まで送るよ」
 縁側から庭に降りる二人の後から、大人しく次郎がついてくる。
 門まできた雪那は、ふと思い出したように袂を探り。
「弓削さん」
 おもむろに乙矢を呼び止めると、振り返った相手へ手を出す。
「これ、よかったら……今日のお礼にあげる」
 それは、木を削って作った山茶花の髪留めだった。
「こちらこそ、色々とお付き合いをいただいたのに……もったいない」
「大した物じゃあないから。俺が作ったのだし」
 ぽんと手渡され、遠慮しながら乙矢は素朴な風合いのそれをじっと見つめる。
「ありがとうございます、葛城殿。では、また」
「うん、またな」
 大事そうにしまうと一礼をする乙矢へ、笑って雪那は手を振る。
 次郎と一緒に、見えなくなるまで後ろ姿を見送ってから、ふと雪那は茜色の空を見上げた。
 ――本当は、妹達に送ろうと思って作った髪飾りだったけど……また、新しいの作らないと。
「夕日が綺麗だな、次郎」
 雪那の呟きに、次郎はひと声吠えて答え。
 元気よく尻尾を振る様子に笑顔を浮かべ、雪那は次郎と家へ入った。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【ia0702/葛城雪那/男性/外見年齢19歳/志士】
【iz0026/弓削乙矢/女性/外見年齢24歳/弓術師】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 お待たせしました。「ココ夏!サマードリームノベル」が完成いたしましたので、お届けします。
 依頼の方では、いつもお世話になっています。今回はノベルという形での楽しいご縁を、ありがとうございました。
 ある夏の一日という事で、ゆるゆると情景を追いかけてみました。
 リプレイではなかなか触れる機会の少ない、のんびりとした日常風景の一角、気に入っていただければ幸いです。
 もしキャラクターのイメージを含め、思っていた感じと違うようでしたら、申し訳ありません。その際にはお手数をかけますが、遠慮なくリテイクをお願いします。
 最後となりますが、ノベルの発注ありがとうございました。
(担当ライター:風華弓弦)
ココ夏!サマードリームノベル -
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舵天照 -DTS-
2010年07月16日

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