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『すがしき春の、晴れの日に 〜 蓮華 』
天宮 蓮華(ia0992)

 どんな時だって門出はめでたいものだけれども、それが良く晴れたうららかな日なら殊に、おめでたい気がする。それはなんだかまるで、空からも祝福されているようで。
 そんな良く晴れた空の下を、天宮 蓮華(ia0992)は渾身の力作である巨大な桃まんの入った風呂敷包みを大切に抱え、弟の霧葉紫蓮(ia0982)と歩いていた。今日は蓮華がいつも甘味を作りすぎてはお裾分けしている、ご近所の家の娘さんの祝言なのだ。
 母親とはとても仲が良くて甘味をお裾分けし合ったり、作り方なんかを語り合ったりするのだけれども、娘さんとはそれほど親しい訳ではない。なのに良いのかと、招かれた当初は戸惑ったものだけれども、これから幸せになる最初の日なのだからどうせならたくさんの人達に祝福して貰いたいのだと言われ、それもそうかと頷いた。
 そうして「ありがたくうかがわせて頂きますね」と承諾した後、どうせなら自分の大切な友人達も呼んで良いかと尋ねると、もちろん、とにっこり微笑んでくれた。それにまた感謝を告げて、仲良しの巳斗(ia0966)と白野威 雪(ia0736)も誘ったのである。
 今、向かっているのはその待ち合わせ場所だ。当然ながらと言うべきか、辿り着いたのは彼ら姉弟が1番だった。紫蓮もなにやら贈り物があるとかで風呂敷包みを小脇に抱え、他愛のない言葉をかわしながら待っていると、やがて巳斗がやってくる。
 いつもより綺麗な着物を着て、お早うございます! といつも通りの満面の笑みで挨拶をした巳斗に、おはようございます、と挨拶を返した。それから巳斗がきょとん、と蓮華の腕の中の風呂敷包みに首を傾げたのを見る。
 嬉しくなって、問いかけられる前に風呂敷包みの中身を説明した。

「お祝いの紅白饅頭を作ってきたんです」

 それも、ただ紅白というだけではない。赤と白、2色の饅頭は子宝の象徴と言われている巨大な桃まんで、しかもその桃まんを割ったら中には小さな桃まんがたくさん入っているのだ。どうか娘さんが子宝に恵まれて幸せになりますようにと、1つ1つ心を込めて作ったのである。
 それだけ心から娘さんをお祝いしようとしているんですね、と巳斗がほっこり微笑んだ。それにこく、と大きく頷いたら、隣に居た紫蓮が風呂敷包みを見て大きな溜息を吐く。

「‥‥随分とでかい桃まんだな」
「もぅ‥‥ッ」
「そういう紫蓮さんの抱えている包みは何なんです?」

 作っている時も何かもの言いたげだと思ったら、とほっぺたを膨らませた蓮華の代わりに、巳斗が紫蓮へと問いかけた。そう言えば蓮華も中身は聞いていなかったのだと、その言葉で思い出す。
 紫蓮は巳斗に向かって、よく聞いてくれた、とばかりに心持ち胸を張った。

「自家製のたくあんだ。祝言の祝いにな」
「えっと‥‥紫蓮さんが好きだから、ってだけではないんですよね?」
「みーすけ、たくあんは旨いんだぞ」

 ますます目を丸くしてきょとん、と首を傾げた巳斗に、ますます胸を張ってきっぱりと断言する弟だ。確かに紫蓮はたくあんが大好きだから、自分の好物を祝いの品に渡すのが弟なりの最大の祝福なのかもしれません、と蓮華は胸の中でこっくりする。
 けれども聞いた巳斗はますます戸惑いと不審の眼差しを向けた。男の子同士で気が合うのか、こういうやり取りは2人の間で珍しくはない。安心して見ていたら、くすり、と別の場所から笑みが涌いた。
 ん? と振り返ったらちょうどやって来た所らしい雪が、口元にそっと手を当てて小さく肩をふるわせている。

「紫蓮様‥‥それは、答えになっていませんよ?」

 その言葉に、気付いた巳斗がほっとしたような、縋るような眼差しになって雪を振り返り、雪さん、と名を呼んだ。そんな巳斗と紫蓮を交互に見て、雪はまた「ふふ」と小さな笑みをこぼす。
 それから雪もまた、蓮華の腕の中に大切に抱えられた風呂敷包みに視線を向けた。

「蓮華ちゃんの心のこもったお饅頭ですもの。きっと喜んで頂けますね」
「だと良いのですけれど」

 雪の言葉ににっこり笑って返したけれども、ほんのちょっぴりの不安は口調に滲んでいた。そんな蓮華をまっすぐ見て、大丈夫ですよ、と巳斗が力づけるように何度も頷いてくれる。雪もこくこく頷いて励ましてくれた。
 今日はとてもとても特別な、大切な日だから、いつもよりも大切に大切に作ったお菓子なのだ。だからこそ不安なのだと言う事を、友人達は判ってくれているようだった。





 晴れの日の衣装は特別で。純白の糸で丁寧に刺繍を施した曇りのない真っ白な花嫁衣装に身を包み、綿帽子の下でしとやかに俯く娘の表情は、けれどもこれから始まる新しい生活への期待に満ち溢れていて。
 その傍らの花婿はといえば、袴羽織でしゃちほこばって、祝福に訪れた来客にぎこちない挨拶をしたり、時折もみくちゃにされて照れたように笑ったり。あれは、新郎の友人だろうか?
 そんな2人に揃ってお祝いの言葉を告げた後、祝いの席の中程に座った辺りから蓮華は、何故だか言い様のない涙が零れ出てくるのをぐっと堪え続けていた。紫蓮と巳斗が花嫁と花婿の様子にしみじみと感じ入った様子で、ほぅ、と息を吐きながら話し合っているのがかろうじて聞こえる。

「うわー‥‥お二人とも、とっても素敵ですね!」
「あぁ。白無垢姿はやはり美しいものだな」

 2人の言葉に、蓮華も心の中だけで頷きを返した。本当に、ご近所の贔屓目を抜きにしてもこれほど美しく、潔さすら感じさせる花嫁と花婿は、神楽を探してもそうは居まい。
 何の色にも染まっていない白無垢は、これから新たな色に染まる決意を秘めた衣装でもある。それはすなわち、今までの生活をゼロに戻して新しく始める覚悟の色でもあって。
 そんな事を思ったらついに涙が零れてきて、ぐすん、とむせび泣きながら蓮華は目元にそっと手巾を押し当てた。

「晴れの日なので泣かないと決めたのですが‥‥」

 言いながらまたぐすっ、とすすり上げてぽろぽろぽろと涙が零れてきた蓮華の手を、雪がそっと寄り添ってぎゅっと握ってくれる。その手をぎゅっと握り返して、いつの間にかぐっしょりと濡れている手巾を絞るようにまた目元に当てる。
 この涙の理由の1つは、ある意味では感動だ。蓮華と中が良いのは母親のほうだけれども、娘の事だって知らない訳ではない。そんな彼女が今日、新しい幸せを得て大切な人と手を取り合って歩き出すのが、どうして嬉しくないはずがあるだろう?
 けれども、もう1つの感情はきっと――失くしてしまった恋のせい、なのかも知れない。
 傍らの紫蓮が気遣うようにこちらを見ているのを感じた。それに、泣き止まなければならないと思う。弟がどんなにか自分を大切に案じてくれているか、解らない訳ではないけれども。
 やがてお料理の膳が運ばれて来る頃には、何とか涙も収まった。縁起の良いお料理ばかりが並ぶ膳の上には、紫蓮のたくあんもそっと並んでいて、ちら、と視線を向けたらほんのり満足そうな表情をしているのが目に入る。
 ふふ、と雪が小さく微笑んだ。同時に巳斗が「やっぱりご自分が好きだからだったんじゃ」と小さな苦笑を漏らしたのに、憮然とした表情になった紫蓮を見てまた雪が小さな笑みをこぼす。
 そんな他愛のない暖かなやり取りを聞いていたら、自然と蓮華の涙もすっかり乾いていた。堪えて涙を抑えるのではなく、自然にすぅ、と気持ちがすっきり晴れやかになっていく。

「うん、美味しいです! 蓮華さんの桃まんも、食べるのが楽しみです♪」
「本当ですね‥‥このお野菜も良い煮加減で」

 お料理を口に入れた途端、満面の笑みで叫んだ巳斗と、頷きながら少しずつ箸を動かす雪の隣で、紫蓮が黙々と箸を動かしているのを見た。辺に気遣うのではない、暖かに穏やかに思いやりながら『いつも通り』で待っていてくれる、そんな友人達の姿を眺めていたら、すっかり楽しくなって来て。
 蓮華もそっと箸を取り、楽しそうにお料理を突付き始めた。そうしながら皆をきょろきょろ見回して、気付くたびに「あぁ」と心配の声を上げる。

「みーくん、ゆっくり食べなきゃ駄目ですよ?」
「ありがとうございます♪」
「雪ちゃん、お水はこっちの椀ですからね? あっちはお酒ですからね?」
「えぇ、蓮華ちゃん」
「苦手なお料理は後で紫蓮にでも‥‥」
「‥‥蓮華。お前はちょっと落ち着いて自分の料理も食べろ」

 そんな風に全員の膳を見渡しながら、巳斗が喉を詰まらせたり、雪が間違ってお酒を呑んでしまったりしないかと、あれこれ気を回していたら、紫蓮がため息交じりでそう言った。その言葉に初めて自分の箸がすっかり止まって居たことに気付き、あら、と自分の前の膳を見下ろす。
 結婚の祝いの料理は、縁起の良いものばかりが並んでいて、丁寧な仕事で細かな細工が施されていた。これから幸せになる2人の為の、精一杯の心尽くしが伝わってくる、豪華ではないけれども暖かな料理だ。
 ありがたく頂かなければいけませんねと、考えて再び箸を動かして居たら、「あ」と巳斗が歓声を上げるのが聞こえた。

「蓮華さんの桃まんですよ!」

 子宝の象徴である紅白の桃まんを「お祝いにどうぞ」と渡したら、母親はたいそう喜んでくれた。そうして「せっかくだから宴席で娘達に配らせましょうねぇ」と楽しそうに笑っていたのだ。
 その言葉の通り、初々しい花嫁と花婿が1つずつ巨大な桃まんを割って、中から出てきた小さな桃まんを「どうぞ」と人々に配り始めた。それはとても微笑ましく、幸せな光景で。そこに一役買っているのが自分の桃まんだと思うと、何だかくすぐったいような、嬉しいような、お腹の中がじんわり暖かくなる心地がする。
 けれどもそうして配り終えた桃まんは、全員に行き渡ってもまだまだ十分な量があった。もしかして作り過ぎた? とさすがにちょっぴり不安な気持ちになる。足りないのもあまり良い事ではないけれども、余り過ぎてもなんだか、だ。
 大丈夫だろうかと不安に思っていたら、ふと雪の眼差しに気づいた。にっこりといつものように微笑む妹のような年上の友人の、僅かに寂しそうに揺れる眼差し――その眼差しを気付かない風でいて、僅かに身を寄せた紫蓮。
 蓮華が悲しい想いをしたように、この友人もまた悲しい出来事があった。お互い、それを乗り越えたつもりで居るけれども――でも時たま「蓮華ちゃんは凄い」と言われる事があるのは、雪の中にはまだ消化しきれない思いがあるからなのだろう。
 巳斗がそんな雪に向かって、にっこりと笑った。

「蓮華さんの作る甘味は最高なのです‥‥♪ ねっ、雪さん?」
「えぇ、本当に美味しいですよ、蓮華ちゃん」

 そんな巳斗の満面の笑みに、にっこりと微笑んで頷き返す雪に、ほっとした心地になる。みーくんは自然と人を笑顔にしてくれる優しい子だと、思う。そう思ったら蓮華も嬉しくなってきて、自分の前に置かれた桃まんに手を伸ばしたのだけれど。
 ぱく、と齧りついて味見の時より深みの増した甘味を確かめて、ほっと安心していたら、じっと視線を固定して動かない紫蓮に気がついた。その視線の先を辿ったら、巳斗がなにやら泣きそうな顔で寂しそうにじっと花嫁と花婿を見つめている。
 けれども巳斗はその視線に気付いたら、涙の滲んだ目をパチパチさせて、泣きかけた自分を誤魔化すように、むぅ、と饅頭のようにほっぺたを大きく膨らませた。

「も、桃まんを喉に詰まらせた訳では有りませんからね!」
「みーくん、本当ですか?」
「ふふ‥‥っ、ゆっくり食べましょうね、みーくん」

 あまり触れてはいけない様な気がして、ゆっくり食べなければいけないと言ったのに、と気付いてない素振りで蓮華がぴっと指を立てたら、巳斗がこくこく頷いた。そんな巳斗に微笑んだ雪が、その頭をそっと撫でる。
 雪の傍らで、紫蓮も笑って巳斗の顔をのぞき込んだ。そうして雪がそっと撫でた頭を、わしゃわしゃっ、と強くかき混ぜる。
 いつも巳斗をからかったりする紫蓮だけれども、こういう時の笑顔は優しい。

「雪や蓮華が嫁ぐ日は僕達が送り出してやろうな、みーすけ‥‥いや、桃すけか?」
「もうッ、何ですか桃すけって!」

 そう、巳斗を見下ろして言った紫蓮の言葉に、巳斗がむぅ、と唇を尖らせた。けれどもそれは半分は照れ隠しで、半分は優しい友人達への感謝だ。
 そんな事を思っていたのか、と感じた蓮華はまたじわりと、胸の奥が熱くなるのを感じた。いつも、いつでもこうやって、彼らは自分以外の周りの事を気遣ってくれるのだ。
 あの日、なくした恋は今でもまだこの胸の中にある。正直を言えば幸せそうな花嫁と花婿の姿を見ても、かつての恋人の事が思い出されたくらいだ。
 けれども。

(私はもう大丈夫ですから)

 あの日なくした恋も、分かれてしまった恋人のことも、すべては良い思い出としてこの胸の中にある。それだけは胸を張って言える。あの思い出はもう、悲しいばかりのものじゃなくなったのだと。
 だから、彼の今の幸いを願う。そうして自分が次に出会う恋が、最後の恋になれば良いのにと心から願う。
 そう、無意識に花嫁姿を見つめながら考えていたら、いつの間にか友人達の視線が蓮華の上に注がれていた。僅かに滲む心配の気配に、もう大丈夫なのだと態度で示したくて、平気な顔で振り返る。

「どうしました?」
「いえ‥‥」
「ふふ。それよりも、やっぱり張り切って大きくし過ぎたでしょうか?」

 首を傾げて言った蓮華に、心配そうな気配を隠す素振りをする友人達に、今度は心からの笑みを返した。それからふと、本気で心配そうに花嫁と花婿の前に積み上げられた桃まんを指さし、そう尋ね。
 案の定桃まんは、なかなか減る気配を見せなかった。こうなったら皆で手分けして食べてしまうしか、と考えていたら、まるでその考えを読んだように巳斗が明るく笑って、貰ってきましょう、と提案する。

「せっかく蓮華さんが作って下さったんですし、3人なら完食出来ますよ♪」
「そうね、そう致しましょう! 雪ちゃんもいけるわよね?」
「ええ、蓮華ちゃん」

 あっという間に甘味好きの3人の話はまとまった。それじゃあと花嫁の母親の所まで行き、桃まんを皆で食べてしまおうと思うのですけれど、と申し出ると、あら気にしなくて良いのに、と言いながら快く渡してくれる。蓮華と、蓮華の口から良く出てくる友人達が、揃って甘味好きだと言う事を彼女も知っているのだ。
 そうして桃まんをもらい受けてきた桃まんは、持ってきたときより量が減ったとはいえどーんと積み上がっている。それを前に3人で顔を見合わせ、いざ、と一斉に伸ばされた手は4本。
 あれ? と3人は顔を見合わせ、それから4本目の主を振り返った。3方からの視線を受けて、紫蓮が手を伸ばしたままムスッ、と不機嫌そうに唇を尖らせる。

「縁起物みたいだし仕方ないから僕も手伝ってやる」
「まあ‥‥紫蓮も手伝ってくれるのですか? ありがとうございます♪」

 甘味の苦手な紫蓮にしては珍しいことだと、蓮華はにっこり嬉しそうに笑って礼を言った。何しろ来る時だって「大きい」と文句を言っていたくらいなのだ。正直、数に入れてなかった。
 そんな蓮華の眼差しにますます口をへの字にして、紫蓮はふいとそっぽを向きながら桃まんをはもはも頬張っている。そうして「ふん、これのどこが甘さ控えめだ」と文句を言う。
 けれども、そんな紫蓮の横顔はどこか照れくさそうで、ほんのり頬が赤くなっていて。それに気付いた3人は、また顔を見合わせてクスクス笑った。そうしてそれぞれに桃まんを楽しく、だが着実にお腹に納め始める。
 だがどうにも巳斗の様子がおかしい。いや、もしかしたらきっと蓮華を元気づけようとしてくれているのだろうけれど、2つ、3つとどんどん口の中に放り込んでいく。
 ちょっと、と流石に心配と焦りを覚えて声をかけた。

「みーくん、大丈夫なのですか? そんなに‥‥」
「大丈夫です! 蓮華さんの甘味は本当に美味しくて‥‥うぐッ!」
「あぁほらやっぱりッ、みーくんお水を‥‥むぐッ! わ、私もお水‥‥ッ」

 流石にほっぺたがパンパンになるくらいに桃まんを口に詰めた巳斗が、苦しそうに胸元を叩き始めた。そんな巳斗を心配して慌てた蓮華も、傍にあった水の椀を渡そうとした拍子に、一緒に喉を詰まらせてしま。
 ぐぅ、と息が詰まってドンドン胸元を叩きながら、蓮華は巳斗に渡そうとしていた椀の水をぐいと飲み干した。だがその瞬間、水とは明らかに違う熱を帯びた感触が、喉の奥から胃に向かって滑り落ちていく。
 一体何が、と早くも遠のきかけた意識で考えていたら、桃まんを無事に飲み込んだらしい巳斗の愕然とした叫びが答えをくれた。

「‥‥ふぅ、危うく詰まらせ‥‥‥‥て、蓮華さんそのお酒は!?」
「‥‥‥‥ッ」

 おさ、け?
 その言葉をぼんやりと繰り返す。この椀は確か、水が入っていたはずなのに――いつの間にか、お酒にすり替わってしまっていたのだろうか。
 なんてこと、とぐるぐる回り始めた意識で思ったのが最後、ぱたん、と蓮華は全身の力を失い倒れてしまった。雪が間違ってお酒を飲んでしまわないかと心配していたのに、まさか自分がやらかしてしまうなんて。
 倒れた先は誰かの膝の上のようだった。それは何だか安心できる場所だ。そう思ったらすぅ、と意識が抜けてきて、するりと眠りの中にもぐりこんでしまう。
 やれやれ、と誰かが呆れたような息を吐いたような気がした。それに誰かがクスクスと小さな笑みを零していたのも聞こえた気がする。それはもしかしたら、蓮華が見た夢だったのかもしれないけれど。
 やがて何かが動く気配がして、遠くから三味線の音が聞こえる。しゅるり、と音に合わせて衣擦れの音。ほぅ、と感心のため息。その音を聞いていたらなんだか、見えていないはずなのに、まなうらに巳斗が三味線を弾き、紫蓮が舞う姿が見えた気がした。

(起き、たら――)

 眠りの中の奥底で、蓮華は夢見心地で呟いた。起きたら今度はちゃんと見よう。そうして紫蓮と巳斗を褒めてあげて、雪と一緒に微笑み合おう。そうしていつもの様に4人で時間と言葉と気持ちを重ねて過ごそう。
 あの日なくした恋は戻らないけれども、彼女の手の中にこんなに素晴らしいものがあるのだから、一体何を悲しむことがあるだろう? それが蓮華の喜びで、幸いだ。だからもうすっかり大丈夫なのだと、眠りの底で呟いて、蓮華の意識はまた穏やかな眠りの闇の中に沈んでいったのだった。





━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 /    PC名    / 性別 / 年齢 / クラス】
 ia0736  /   白野威 雪   / 女  / 21  / 巫女
 ia0966  /     巳斗    / 男  / 14  / 志士
 ia0982  /    霧葉紫蓮   / 男  / 19  / 志士
 ia0992  /   天宮 蓮華   / 女  / 20  / 巫女

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもお世話になっております、蓮華・水無月でございます。
この度はご発注頂きましてありがとうございました。
お届けが遅くなってしまい、本当に申し訳ございません。

お友達同士でお邪魔した、ご近所の娘さんの結婚式の風景、心を込めて書かせて頂きました。
失恋から眼を背けるでもなく、ただ素直に前を向いているお嬢様は強い方だと感じます。
その強さを支えて下さっているのが、お友達の皆様の暖かな思いやりなのでしょう。

皆様方の、お互いを大切に思い合う暖かな気持ちのこもった、素敵な結婚式になっていれば良いのですが。

それでは、これにて失礼致します(深々と
HappyWedding・ドリームノベル -
蓮華・水無月 クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2010年07月26日

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