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『さやかに誓う空の下。 』
セシリア・D・篠畑(ga0475)

 日々は忙しく、そしていつも通りに過ぎていく。その『いつも通り』が一体どういうもので、いつから始まっているものなのか、セシリア・ディールス(ga0475)には解らないのだけれども。
 一体自分は何を持って『いつも通り』と呼んでいるのか。
 夫の事を想う。忙しい日々が続いていて、なかなか帰って来れなくて、もう随分顔も見られない日々が続いている夫。そうして過ぎ続けていく日々を『いつも通り』と呼ぶ事が、正しいのか、正しくないのか。
 それをずっと、考えている。





 6月はブライダルシーズンだ。はるかな昔、6月が結婚を祝福する女神になぞらえて呼ばれた事から、この季節に祝福された花嫁は幸せになれる、という言い伝えが生まれたのだという。
 そのせいだろうか、街を歩いていても何となく、あちらこちらで幸せそうに寄り添って歩く男女を見かける機会が増えた、気がする。それはもしかしたら単に、セシリアがその話を思い出してしまったから、余計に目に付いてしまうだけなのかもしれないけれど。
 僅かずつ、肌を焼く日差しの温度が上がってきた気がして、セシリアは僅かに眼差しを空へと向けた。LHの空は、今は濃い青が降り注ぐ季節だ。その日差しを避けるように、セシリアは往来から公園へと続く道を曲がった。
 さんさんと零れ落ちる木漏れ日に、僅かに目を細める。辺りには午後の散歩を楽しむ人々が居て、ベンチで他愛のないお喋りに興じる恋人達が居て、芝生で穏やかに過ごす若い夫婦が居て。
 見るともなく眺めながら、通り過ぎたその先の広場にある、小さな教会。日頃は人の気配など感じさせないその場所に、今日は賑やかな気配が溢れ返っていた。

「おめでとう!」
「お幸せに!」

 口々に周りから叫ばれながら、ライスシャワーを浴びて眩しいばかりに幸せそうな笑みを浮かべる、それは結婚式の光景だった。今まさに夫婦の誓いの儀式を終えて、教会の外で待っていた友人達に祝福されているのだろう。
 純白のウェディングドレスに身を包んだ花嫁の肩を抱くタキシード姿の花婿。それはきっと女性の多くが憧れる光景で――彼女は経験しなかったもの。

(私、は‥‥)

 ふと、左手に視線を落として、想う。そこにさやかに輝く指輪は、愛する夫から贈られたエンゲージリング。セシリアと彼が夫婦である事を示す大切な絆。
 それを見るたびにセシリアの胸を穏やかに満たすのは、滲み出るような幸せだった。あんな風に誰も彼もに祝われたいわけじゃない、ウェディングドレスを着たい訳じゃない、誓いの言葉を交わしたい訳じゃない。あの人が一緒に居る相手として自分を選んでくれて、夫と呼ぶ事が出来る、ただそれだけの事が本当に幸せで。
 けれどもほんの時折、胸に去来する不安だって、あるのだ。

(‥‥私が、あなたを想う気持ちは‥‥ちゃんと‥‥あなたに伝わっている‥‥?)

 元々セシリアは口数が多いほうではないし、あまり感情を表に出す方でもない。そもそも、あまり感情というものを動かす性質でもなくて。
 無口、無表情、無感動。
 かつてのセシリアという人を現すなら、その3つの言葉で用が足りるくらいで。けれども友人や愛する人が出来て、その中で少しずつ、子供が大人になっていくように感情というものを学び始め、現すことが出来るようになってきて。
 けれどもまだまだ、自分自身ですら、自分の心の動きが不思議で仕方のない時もあった。胸を満たすこの感情がなんなのだろうと、真剣に首をかしげる事もある。そんな自分が精一杯に伝えた気持ちは果たして、きちんと彼の心に届いているのか――こうして夫婦になった今でも時々、不安になってしまうのだ。
 ふと、幸せそうに寄り添う2人を見た。花嫁が幸せの象徴として身に纏う、純白に輝くウェディングドレスを見た。これから幸せな日々を重ねて行く新たな夫婦を、見た。
 それは何だか――とても、不思議な気持ちだ。ドキドキと胸が高鳴るようで居て、そこに居るのが自分ではない事につきん、と胸の痛みを覚えたりする。それはまるで焦燥のようで居て、帰ってこない夫の事を思う度に感じる寂しさの様でもあって。

(‥‥1人は、やっぱり寂しい‥‥なんて‥‥)

 これからの時を一緒に歩んで行く相手として自分を選んでくれた。ただそれだけが幸いであったはずなのに、いつの間にか、彼が帰ってきてくれない事が、ずっと一緒に居られない事が寂しいと思ってしまう自分が居る。
 いつの間にこんなに強欲になってしまったのだろうと、セシリアは小さな笑みを零した。これが寂しさと言うのだと、覚えたのは最近だ。その感情を知ってしまってから何となく、左手の薬指に視線を落とす回数が増えた気がする。

(もしかして‥‥羨ましい、の‥‥‥?)

 幸せな始まりの日を迎え、歩み出していくあの、見も知らないカップルが。その象徴であるウェディングドレスが。そう、考えてセシリアはふと、小さな小さな吐息を漏らした。
 そうしてまた、左手の薬指に視線を落とす。落とし、祈るように瞳を閉じる。

(‥‥何時でも帰りを待ってる。だから‥‥)

 瞼の裏に浮かんだ夫の面影に語りかけた。だからどうかきっと、何時でも無事で『ただいま』と帰ってきて。何時でもどんな時でも当たり前の顔をして、『ただいま』と笑いかけて。
 そうしたらセシリアも、当たり前の顔をして『お帰りなさい』と告げるから。何時でもどんな時でも当たり前の顔で、心の中でほっとしながら『お帰りなさい』と迎えるから。
 だから、どうか、きっと。
 そう、夫を想う気持ちは寂しさの他に、やっぱり暖かな幸せもある。彼が居ない事は寂しいのだけれども、寂しさを感じても良い場所に立てている幸い。一緒に居られないのが寂しいのだと、想う事が出来る幸い。
 その、相反する様でそっと寄り添う2つの感情を、セシリアはしみじみと噛み締めた。そうしてまるで誓いの言葉のように、薬指のエンゲージリングに小さく小さく囁く。

「‥‥愛してる‥‥‥」

 ――それは彼女の心の全てを告げる、飾り気のない、たった一つのかけがえのない言葉。




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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 /     PC名      / 性別 / 年齢 /    クラス   】
 ga0475  /  セシリア・ディールス  / 女  / 18  / サイエンティスト

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもお世話になっております、蓮華・水無月でございます。
この度はご発注頂きましてありがとうございました。
お届けが遅くなってしまい、本当に申し訳ございません。

お嬢様の大切な方への想い、心を込めて書かせて頂きました。
大切な事を言葉にするのは本当に難しいもので、ましてやそれがたった1人の特別な方であるならばますます不安は募る一方なのだと、思います。
それでも、まっすぐにお相手を想っておられるお嬢様のお心が、お相手の方にも届いて居れば良いと、心から願います。

お嬢様のイメージ通りの、切ないけれどもどこか優しいお話になっていれば良いのですけれども。

それでは、これにて失礼致します(深々と
HappyWedding・ドリームノベル -
蓮華・水無月 クリエイターズルームへ
CATCH THE SKY 地球SOS
2010年07月26日

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