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『【想いは夏の光と共に】 』
リュミヌ・ガラン(ha0240)

 どこまでも抜ける青空は夏の色。
 広がる草原も青々として、空との対比があまりにも眩しく見えた。
 一度その姿を隠されたとは思えないほど当たり前のように照りつける太陽が、全ての景色を鮮やかに焼きつけて。

 明日はエカリスで花火大会が催される日。
 人々は空を見上げ、ひとときだけ夏の暑さを忘れて光の花々に心を奪われる。
 リュミヌ・ガラン(ha0240)はパートナーのケックハイトを抱きしめ、今まさに眠りにつこうとしていた。

●とろり融けゆくは儚い夢
「ケイちゃん。明日の花火大会、一緒に見に行きましょうね」
 リュミヌの小さな手が、自らと同じかそれより少し大きなパートナー‥‥三毛猫のケックハイトを撫でた。
 気持ち良さそうに目を細めるケックハイトに頬を緩めると、抱き枕のようにぎゅっと抱きしめて眠る。
 暖かな体温。とくり、とくりと規則正しく響いてくる心音。
 この熱帯夜を忘れてしまうほどに、優しくも穏やかな時間が流れてゆく‥‥。
 洗いたてのエジプシャンブルーの髪から、ほのかに花の香りがして。柔らかなベッドの上、その心地よさに少しずつ意識はリュミヌの手を離れて行く。
 そのまどろみの中で、ふと、彼の事を想う。‥‥あの大戦の最中、命を落とした人型エレメント、ラア(hz0054)の事を。
(「‥‥ラアさん、花火を見た事はありましたか‥‥?」)
 彼がもし満天の夜空に輝く花火を見上げたとしたら。明日隣に居たとしたら。
 どんな顔をするだろう? どんな反応をするだろう?
 眠りの縁、リュミヌは彼の顔を思い描いていた。

 ───これは、熱帯夜の見せる、ひとときの夢───

●再会
 窓から射しこむ夏の太陽光が、やけに暑い朝を知らせる。
 昨夜は滞在している地域にしては、珍しく熱帯夜だった気がする。
 リュミヌは現在エルフの友人のもとで世話になっているのだが、周囲はエルフが好む静かな森。
 少し飛べば動物たちの集う美しい湖がある自然豊かな場所で、夏であっても夜通し気温が高い事はそうない。
「昨夜は暑かったですね‥‥」
 目を二、三度擦ると目の前にはいつものようにケックハイトの姿がある。
 普段ならごろんと伸びをして、ふあっとあくびをして、その大きな瞳でこちらを見つけてくれているはず。
 なのに、明らかにいつもと様子が違うのだ。
「ケイちゃん‥‥?」
 どこか不機嫌そうなケックハイトの視線を追う。その追いかけた先、何があるのかなんて想像すらもせずに。
「!!」
 茹だる夏の暑さを一瞬で吹き飛ばしても、なお足りない衝撃。
「え‥‥な、なぜ‥‥」
「んなもん、こっちが聞きてぇよ」
 ばつの悪そうな顔で闇より尚黒い艶やかな髪を、さも面倒くさそうな顔で掻く青年の姿。
 その髪も瞳も仕草すらも、あの時と何ら変わりが無い、彼の‥‥姿。
「ラアさん? 本当、に‥‥?」
 血のように赤く、深く。ルビーの如き瞳に思わず吸い込まれそうになる。
「‥‥おい、お前」
「は、はいっ!」
 思わずラアに向き直ってベッドの上で正座してしまうリュミヌ。
「よくわかんねぇけど‥‥いつまでその格好でいるんだ?」
 彼女の可愛らしいルームウェアを指差し、深く溜息をついて視線を落とした。

 この奇妙な状況に混乱しっぱなしのリュミヌだが、とにもかくにも身支度をすると同時に状況の整理を始めていた。
 ‥‥ラアは、あの時確かに大気に消えたはずだ。つまり、もうこの世にいない存在である。
 思考を巡らせていた時に、思い出したのは昨晩の事。寝入る前にラアの事を考えていたせいだろうか‥‥?
(「私は、まだ夢の中にいる‥‥?」)
 そうだ。そうに違いない。そのはずだ。
 そして、それなら話が早いのだ。
 夢ならば‥‥現実では出来ない事を。彼が、私の目の前にいてくれるうちに‥‥。

「ラアさん、花火を見た事はありますか?」
 ふわりと柔らかな花の香りに振り返ると、ラアの視線の先には小さなシフールが羽をはばたかせていた。
 仕方がないので片手を出してやると、その掌に身支度を終えたリュミヌがとまる。
「花火、だ?」
「そうです。私は以前に一度見た事があって、すごく綺麗ですよね」
 身振り手振りで楽しげに伝えるリュミヌ。
 こんな話を出来る日が来るだなんて、リュミヌどころかブリーダーの誰もが思わなかっただろう。
 リュミヌは、大人しく自分の話を聞く目の前の元ハヤブサに微笑みかける。‥‥が。
「なぁ、花火‥‥って一体なんなんだ?」
 ラアは眉を顰め、あいた方の手を顎にやり思案顔。
 リュミヌはその時に気がついた。
 彼は恐らく、ただのエレメントであった頃も、こうした日常の楽しみを知らず、ただひたすら戦いの中に身を置いてきたのだろうと。
 ならば尚更、夢の中でもいい。夏の風物詩を、この世界で美しいとされるモノを1つでも沢山見てもらいたい‥‥生きる事の楽しみを、分かち合いたい。
「花火というのはですね‥‥いえ、説明するよりみた方が早いです」
 ぱたぱたと舞い上がると、リュミヌはラアの右手を両手で握りしめて引っ張った。
「浴衣を着て一緒に見に行きませんか?」
 一人より、二人。二人より、三人。きっと、一緒に見たらもっともっと綺麗に見える。

●真夏の夜の夢
「わ、似合います。やっぱり似合います」
 そう言ってリュミヌはラアの周囲をぐるりと飛んで回っていた。
 彼の髪や目の色にあうようにと、リュミヌは貸衣装屋に来るなり自ら商品を選びぬいて店主に頼んでラアを着つけてもらったのだ。
 元々背が高い為か手足も長く、薄くも均等に鍛えられた筋肉を纏った形の良い容姿。
 志芯の人間でなくとも、そもそも人間ですらなくとも‥‥ラアに浴衣はよく似合った。
 闇夜の様な黒地にシンプルなごく細い白いラインが描かれたストライプの浴衣。
 白地にまだらな灰色の刺した帯を締め、紺色の鼻緒の下駄を履いていた。
 見立てに狂いは無かったと嬉しそうに目を細めるリュミヌを前に、ラア。
「くそ、動きにくいな‥‥」
 大人しく着付けされたかと思えば、やはり出てくる文句。
 そもそも普段からインナーなど着ず、気前よく胸元を出しっぱなしているものだから着心地に慣れないらしい。
 結局前の合わせを乱暴にぐりぐりと開けてしまい、格好良く着せてもらった浴衣も盛大に崩れてしまう。
 が、本人はその状態が心地よいらしく、珍しい衣装に上機嫌な様子だった。
 肌蹴た前の合わせからリュミヌに見えたそれは、いつも目に入っていたラアの身体の刻印。
 リュミヌの視線に気付いた様に「これ、気になるのか」とラアはそれを指さした。
 それは、太陽のマークをかたどったとされる象形文字にも似た文様。
 肌に大きく刻印された血文字の様に赤いそれが、印象的だった。

「ふーん‥‥まぁまぁじゃねえか」
 リュミヌの着付けを出迎えたラアが洩らす。
 ラアが素直では無い事はもはや今更。リュミヌはその言葉でも大分譲歩して言ってくれたのだろうと察し、嬉しそうに瞳を細めた。
「お気に入りの生地を見つけて、自分で仕立てたんですよ」
 背の羽根を通す穴も作らなくちゃなりませんし。
 そういって、ラアの前でくるりと一度回って見せる。
 花浅葱の美しい髪と瞳に良く合う、月白地。時折藍色の絞りが花の形に入り、控え目ながらも美しい上品な浴衣だった。
 浴衣の地と模様の色の中間色となる空色の帯に同色のレースをふわりと重ね、背で羽ばたく蝶の様に形作る。
 それは、ラアの黒地の浴衣とは対称的で、二人並ぶと良く映えた。
「にしても、なんでこんな格好しなきゃなんねんだ?」
 ラアは自分の着ている浴衣の袖を掴んで、ひらひらと振ったり、引っ張ったりしている。
 浴衣の袖の造りについて、意義が解からないらしく疑問符を並べた顔をしているが、さておきリュミヌはラアの問いに答える。
「花火の時は浴衣を着るのだと、志芯出身の方に聞いた事があって‥‥」
 ラアの肩口にリュミヌが舞い寄る。
「ニンゲンってのは、よくわかんねえイキモノだな」
 理解する気はさらさらないと言った面持ちで、大仰に溜息をつく。
 そして、リュミヌに顎で合図をすると、仕方がねぇから乗せてやる‥‥そんな風情で、肩をあけるようにラアは首を傾けた。

●同じ空の下で
 リュミヌが案内すり先には、花火大会の会場。
 遠くに見えるのは建ち並ぶ夜店、花火が始まるまでの道案内にと灯るランプ。
 人々は家族や恋人、仲間たちと思い思いの時間を過ごしていた。
 会場が近づくにつれ、ラアの表情が翳っていく。
「行くの、やめますか‥‥?」
 露天の並ぶ大通りにさしかかろうとした時、リュミヌが呟いた。
 足が止まり、黒髪が夜風にふわりとなびいた。
 青年は‥‥無言だった。
 リュミヌは静かにラアの肩を飛び立って離れようとすると、その背に言葉が重なってくる。
「俺は‥‥」
 先を明言する事はなかったが、彼の赤々とした瞳には強い色だけが宿っていた。
 その視線の先には、沢山の『ニンゲン』の姿。
 俄に憎しみにも怒りにも似た炎が渦巻く予感がするけれど、しかしそれを彼が抑えているのは夢の中だからだろうか‥‥?
 恐らく彼は『人』混みに行く事に強い戸惑いを感じているのだろうと。
 混沌とする気持ちを察するかのように、リュミヌは再びラアの肩口に舞い降りる。
 顔を背けるラアに、たった一言だけ、告げて。
「ラアさん、ごめんなさい。‥‥私、道を間違えてしまいました」
 思いもよらぬ言葉に小さなシフールへと視線を戻すと、柔らかな笑みが受け入れてくれた。
「あちらに行きましょう? ‥‥花火が一番良く見える、特等席があるんですよ」

 リュミヌが案内したのは、会場から離れた小高い丘の上。
 そこには中央に1本の大樹がそびえたっている他、何もない場所で。
 遠くに見える街や人々は熱気に揺らぎ、どこまでも続く空と草原の間に、二人と一匹は居た。
 既に花火は打ちあがり始めていて、繰り返す火薬の爆ぜる音が空を震わせ、同期するように心臓も鼓動が高まる。
 リュミヌは草原に寝転ぶラアの隣に座り、空を仰いだ。
「良く見えますね、花火」
 大きくて、美しくて、そして‥‥儚げな炎の花。
 ラアがあれを見てどんな表情を浮かべるのかと気にして視線をうつすも、話しかけてもラアは無言のままだ。
「ラアさん‥‥?」
 整った顔を覗き込む。ピジョンブラッドの瞳には花火の黄や緑が写り込んで、まるで万華鏡のようにも見える。
「‥‥これが花火、か」
 初めて見る花火に言葉も無く、ただ魅入っていた。
「はい。いかがですか?」
 ラアの様子に、小さく息をついて笑む。
「すげぇな。でかいし‥‥けど‥‥」
 言い淀んだ先、言葉は雪崩れるように打ちあがるクライマックスの連発花火の音と絡みあう。

── 光って、消えて、後には何も残らねぇ‥‥まるで、オレ達、みたいだな ──

 最後の花火の光が、消える。
 オレ達‥‥それの指すものはリュミヌを含めたこの場の存在ではなく、生命の終焉を迎えた際に魔力の光となって空へと消えゆくエレメント達の事を言っているのだろう。
「終わったみてぇだな」
 ラアはそれを見送ってから身体を起こして、立ち上がる。
 瞬間、浴衣についた草を払うその手に、小さな両手が合わさった。
「ラアさん、気がつきませんか?」
「何をだよ」
 怪訝な顔でリュミヌを見やるその顔は、どこか寂しそうな色が浮かんでいる。
「花火、綺麗じゃなかったですか?」
「‥‥さっきから何度も言ってるじゃねえか」
 不貞腐れたような表情。リュミヌの言わんとする事を測りかねているようだった。
「花火は、見上げた人々の脳裏に鮮烈に記憶を焼き付けます。光が消えた後だって、火薬の香りが残ります」
 残り香は浴衣や髪に纏わり、家へと運ばれ、大切な思い出となり。
 そして、あくる年も、その翌年も‥‥火薬の香りと共に、いつだって思い出されるものだと。
「ふぅん‥‥そう、か。そういうモンか」
「そういうものです」
 ラアの肩の上、規則正しい歩みがゆらゆらと振動を伝えてくる。
 今日一日はしゃぎ通したリュミヌは、心地よい疲労感の中、いつの間にか眠りに落ちてゆく。
 夜風が心地よく、風が通り抜ける度に隣の青年から太陽のにおいがした。
 薄らいでゆく意識の中、最後に聞こえた言葉はなんだっただろう‥‥?

「楽しかったぜ。こういうのも‥‥悪かねぇな」

●夢から覚めて
「‥‥ラアさん‥‥」
 自分の寝言にハッと我にかえり、リュミヌは目を覚ます。
 気付けば、そこはいつもの自室。
 当たり前の日常がそこにあって‥‥だからこそ、ここにない彼の存在が際立ってしまう。
 あの茹だるような暑い一日が嘘であったかのように、涼しげな鳥の鳴き声が朝を呼び込み、森の木々が日差しを和らげる心地の良い気候。
 リュミヌはベッドサイドに飾られたハヤブサのぬいぐるみにそっと手を伸ばすと、静かに抱きしめる。
(「ありがとう、ございます‥‥」)
 刹那、鳥達が一斉に羽ばたく。
 脳裏に浮かぶのは、花火の音と光。
 鳥達の羽音に、ほのかな想いを乗せて───


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【ha0240/リュミヌ・ガラン/女性/外見年齢17歳/プリースト】
【hz0054/ラア/男性/外見年齢23歳/エレメント】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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「ココ夏!サマードリームノベル」をお届けいたします。お待たせいたしました。
本編中では大変お世話になり、また、この度はご発注頂き誠にありがとうございました。
花火大会での一夜‥‥いかがでしたでしょうか。
初めての浴衣、初めての花火‥‥初めてづくしのラアでした。(ライターとして、私も初めてづくしでした…!)
空に還っても、こうして心の片隅にとどめておいて頂けるリュミヌさんの存在。ラアは本当に幸せなエレメントだと思います。
今までのシナリオでの思い出を振り返りながら、気持ちを十二分に込めて執筆させて頂きました。
何かお気付きの点や、イメージが違う箇所などございましたら、大変お手数ですがリテイクを出して頂けますと幸いです。
全国的に猛暑日が続きますね。お体にはお気をつけて、素敵な夏をお過ごしくださいませ。
(担当ライター:藤山なないろ)
ココ夏!サマードリームノベル -
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The Soul Partner 〜next asura fantasy online〜
2010年07月26日

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