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『【志芯周遊夏景色】 』
御影・藍(ha4188)

 どこまでも抜ける青空は夏の色。
 広がる草原も青々として、空との対比があまりにも眩しく見える。
 一度その姿を隠されたとは思えないほど当たり前のように照りつける太陽が、全ての景色を鮮やかに焼きつけて。

 あの大戦が決着し、幾月が経過しただろう。
 事後処理に追われ、休む間もなく彼方此方へ出向いていたブリーダー達。
 そして、そんなブリーダーや、民からの依頼でばたつくブリーダーズギルドの姿は‥‥もはや、以前の記憶となりつつある。
 終わりのない物語が無い様に、終わりのない繁忙期も当然なく‥‥緩やかに、ギルドは穏やかな日常を取り戻そうとしていた。

●なつやすみ
 御影藍(ha4188)は、今し方一つの依頼を終えて、ギルドへと報告に訪れたところだった。
 ここ最近は、1つの依頼が終われば報告のついでにまた次の依頼を受け、すぐさまその目的地へと向かう。
 その繰返しが当たり前であったし、自らの選んだ道であり、同時にするべきことだと認識していた。しかし。
「‥‥ギルドも少し、落ち付いてきましたね」
 何ともなしに周囲の様子を眺める。
 受付の職員達は書類の束を抱えて走り回る事も無く、ブリーダー達が依頼受理の手続きをする為の待機列をなしているでもなく。
 憔悴しきった様子の民の姿も消え、人口密度の減少したギルド内には、貴重な壁掛け時計の秒針が刻む規則正しいリズムと、時折聞こえる人々の談笑で緩やかな空気が満ちていた。
 ギルドの職員が笑顔で依頼報告受領のサインを終えると、藍は受付に背を向ける。
 少し前ならば考えられなかったような光景の広がるギルド。
 大戦の以前のような、共に闘った当時の仲間たちが今も傍にいる様な、いつまでもここにいたくなる心地よい空間。
 藍は、報告を終えると同時に自然と口元を緩めた。
「すこし、お休み‥‥しようかな」
 もう、身を粉にして働くまでもなく、世界は平和であると‥‥実感したそこへ。
 ギルド受付の奥の方から「ごすっ!」と、酷く鈍い音が聞こえてきた。
 その場の誰もが一瞬音の方へと振り返るが、「いつものことだ」と言った風で誰も動かない。‥‥ただ一人、藍だけが其方に足を運んだ。
「ジルさん‥‥?」
 藍が声をかけた先には、一人がけ用の革張りソファから、どこをどうして落ちたのか頭を床に打ち付けて倒れ込んでいたジル・ソーヤ(hz0005)の姿があった。
「‥‥藍‥‥? 久し‥‥ぶり‥‥」
 床から起きあがるでもなく、顔だけ声の主の方へと向けて視線をあげるジル。‥‥どうやら完全に参っているらしい。
「夏バテですか?」
 宝石のように輝くオッドアイを細めてくすくす笑いながら、藍はジルの両手を掴んで「よいしょ」と引っ張り上げる。
「起きたくないー‥‥暑いのいやー‥‥」
 子供の様に文句を垂れながらも仕方なさそうに身を起こしたジルだが、結局渋々立ち上がって伸びをする。
 腕をぐるぐる回しながら血流を整えると、ふと気付いたように藍の瞳を覗く。
「そういえば、ずっと依頼に出ずっぱりだったんじゃないの?」
 大戦の後、多くのブリーダーが前向きな理由からギルドを後にした。
 見聞を広める為、或いは故郷の復興を手伝う為‥‥果ては違う道を目指す者もいた。
 しかし、ギルドに残ったブリーダーの一人として、共に何度も戦場を駆け抜けた二人は以前にまして信頼を育んでいた。 
「しばらくギルドの掲示板に張りきれない位の依頼書が束になってましたから‥‥少しでも、お手伝いできたらと」
 相変わらず真面目な藍。その、変わらない様子が嬉しいもので、ジルも暑さを忘れたように表情を和らげる。
「そかそか、いつもお疲れさまっ。今日は報告に来たの?」
 からっとした夏空の様な爽快さで藍の背中をばしっと叩く。久々に訪れた「いつも」の遣り取りが、働き詰めだった身体に心地良い。
「はい。つい先ほど済ませてきましたよ。ですが‥‥少しギルドをお休みして、志芯国へ行ってみようかと思います」
 突然、ジルは表情を曇らせた。
 というのも、「少し休んで何処かへ」と。その言葉を聞いて見送ったブリーダーの背中は数知れず‥‥そのまま、まだここへ戻らない仲間達が多い。
 藍もまた故国へ帰って、そのままここへは帰って来ないのかな、などとジルは思いを巡らせていた。
 そんな様子を汲みとったのか、藍が笑う。
「誤解してません?」
 細い指先でジルの鼻頭を押す。それはジルに対して「此処が私の居場所である」と念を押す様な仕草でもあり‥‥
「夏休み、ですよ。ジルさんも一緒に行きます?」
 彼女の返事は聞くまでも無い。
 まるで長期間不在にしていた両親が家に帰ってきたのを出迎える少女の様な‥‥得も言われぬ喜びを感じさせる表情で笑んだ。

●再会の日
「わ‥‥! お祭り、ですね」
 ギルドに常日頃尽くした藍の貢献を労い、ちょっとした夏休みの贈り物にサームの使用許可が下りた。
(※もはやお約束ではあるが、ジルが無理やり強請って上の人間を困らせたと言う経過は、ここでは敢えて触れることはしない。)
 志芯国の出張所を出た藍達の目に映ったのは都の慌ただしい光景。
「ジルさん、どうやら明日は天龍のお祭りみたいですよ」
 志芯東の将軍の御膝元、天龍の都。
 志芯国最大級の祭りが楽しめるに違いない筈だと、二人は早くも興奮気味に言う。
「ね、明日こよう! いいよね。ね?」
 ジルが藍の服の裾を引っ張ると、藍は「もちろんです」と拳を握った。

 からからと小気味良い音で志芯風の引き戸が開く。
「こんにちはー! いらっしゃいますかー?」
 玄関での呼びかけに、奥から現れたのは‥‥。
「どっかで聞いた声だと思ったら、藍じゃねぇか! ジルも、元気にしてたか?」
 藍達が訪れたのは天目武蔵(hz0047)の屋敷だった。
「あれ、武蔵さん‥‥」
 藍は目を丸くして、思案気に呟いた。
 もちろん彼の実家なのだから彼が此処にいて何の問題も無いのだが‥‥藍は武蔵と最後に会った時、聞いていた話を思い出した。
「将軍警護は、どうなさったんです?」
 そこでようやく武蔵も藍の表情の理由に気付いたのか、慌てて弁明を始める。
「ち、違‥‥別に解雇されたとかそういうんじゃねえよ! 夏季休暇だ、夏季休暇!」
 むすっと口をとがらせて、武蔵はその時の光景を思い出したかのように話し始めた。
「天下のショウグンサマがよ、『たまには両親に顔でも見せてこい』ってな」
「なるほど‥‥それは、仕方がありませんね」
 藍は武蔵の言に納得して、頬笑みを浮かべる。
 天下のショウグンサマは、幼い頃に両親と死別している。その為か、両親に心配をかけるな、大事にしろ、と常日頃武蔵に口うるさいのだそう。

 藍がここへ訪れたのは武蔵の父である現世随一の刀鍛冶師に、刀のメンテナンスを頼もうとしてのことだった。
 父を呼んでくると別室へ向った武蔵を待つ間、通された間で水出しの煎茶を頂く藍とジル。
 藍の方は慣れたものだったが、ジルの方は既に正座にギブアップ寸前の面持ちでそわそわとしていた。
「わりぃ、親父は今別の仕事しててさ。待たせんのも悪ぃし、刀預かっとくから明後日にでもとりに来てくれって親父からの伝言っ」
 武蔵があんまり申し訳なさそうに両手を顔の前で合わせているので、藍は小さく首を横に振り、腰に納めていた刀を鞘ごと武蔵に手渡した。
「ってことは、実は武蔵暇だったりするの?」
 ジルは空気も何も読まずに武蔵にぶつけると「悪ぃかよ。休暇ってのは心身共に休んでなんぼだろ」と答えがかえる。
「それじゃ、私達と一緒に道場に稽古にいきませんか? 伊庭流っていう流派の剣術なんですけど」
 藍がほくほくと嬉しそうに言う様子に負けたのか、武蔵は「藍は、相変わらず真面目だな」と降参した様子で出立の支度を始めた。

●揺れる青藍、灯る紅
「っとに、あんな真面目に稽古したの久々だ‥‥」
 おかげ様で今日は全身びりびりするような痛みを引きずっているのだと、ぶちぶち文句を言う声が聞こえてくる。
「ふふ。まぁ、そうおっしゃらないでくださいよ。それ、お似合いですから」
 紺地にシンプルな黒いストライプのじんべえを身に纏い、涼やかな出で立ちで武蔵が登場。
 それを出迎えた藍も、その艶やかな髪の色に良く合う青藍の地に淡藤色の花の咲いた浴衣を身にまとっている。
 藍の右目の梅紫色に良く似た色の帯を巻き、それにふわりとレースの飾りを指し込んでいる。志芯国の流行りをとりいれたというのは武蔵の母親の談だ。
「藍もかわいいー! 良く似合ってるよっ」
 同様に浴衣を身にまとったジルが、嬉しそうに藍の周りをぐるりと回って艶姿を見つめる。
「ジルはともかく、藍はもちっと普段から女子っぽい格好したらどうだ?」
「ともかくって何」
「‥‥まぁまぁ、二人とも」
 藍が苦笑いを浮かべながら、二人の手を引き玄関へ向う。
「着付けと浴衣、ありがとうございます」
 玄関先で振り返って律儀に礼をすると、武蔵の家の者から「楽しんでおいで」と見送りの声が聞こえた。
「いってくる!」「いってまいります」「いってきまーすっ」
 各々上機嫌に挨拶を交わすと、音と光とで賑やかな熱帯夜に飛び出して行った。

 ───天龍の都。
 頭上には濃紺の夜空に夏の星座が所狭しと輝いており、眼前には柔らかい紅緋の灯篭の光が零れ、まるで昼間の様な明るさだった。
 道の両脇には金魚すくいや射的のみならず、林檎飴、粉物屋、数えだしたらきりがない魅力的な出店が立ち並んでいる。
「志芯国のお祭りだ! 初めて来たよ‥‥!」
 ジルが周囲をきょろきょろと見まわすのを、武蔵が人にぶつからぬよう引き戻し、藍が迷子にならないように手を繋ぐ。
 文化の違いとはいえ、カルディアで暮らしてきたジルには、道行く人が皆浴衣を身に纏い、楽しげに行きかうこの紅緋の光景がどこか幻想的な世界に思える。
「藍は、志芯国の出、なんだよね」
「ええ、そうです。といっても、天龍のような都会ではなくて、片田舎で祖父母に育てられたのでこういったお祭りは心が騒ぎますね」
 騒ぐと言いながら、相変わらずおっとり微笑む藍の顔に、ぱっと鮮やかな光が写り込む。
 三人は一斉に顔を挙げると、そこには巨大な光の花が咲き乱れ、直後身体の内部まで突き抜ける様な重低音が響く。
 ドンッ‥‥という火薬の弾ける音が、何度も何度も響く。それは、鼓膜をすり抜け脳髄にまで届くほどの伝導率を含むように、身体の芯から痺れてしまいそうな音。
「なぁ、二人とも。あの花火、知ってるか?」
 アレは志芯国の有名な花火師が作ってる特別なヤツで、魔石を組み合わせることで他の誰も表現できない中間色を生みだせるのだとか。
 武蔵が垂れるうんちくに耳を傾けていた藍が、ふと気付いたようにジルに振り返る。
「ね、ジルさん。この花火って‥‥」
「一年前に見たあの花火に、そっくり、だね」
 くすくすと二人、顔中に疑問符を浮かべる武蔵をよそに笑い合う。
 気付けば祭りに来ていた人々も皆、同じ様に空を見上げては、この夜の暑さを忘れてただただ花火の美しさに魅入られている。
「皆、元気にやってるかな」
 武蔵がかき氷を買いに走っている合間、ジルと藍は丘の上から空に昇りゆく何発もの花火を見送っていた。
 その光は鮮やかで、輝かしくて、そして‥‥勤めを終えると空へ消えてゆく。儚さは、まるで‥‥
「きっと、元気にしてますよ」
 思考を遮る藍の声は務めて穏やかで、何者にも揺るがない強い熱を帯びていた。

「‥‥また、会えるかな」

「会えますよ」

 私達はいつだって、同じ空の下にいるのですから───


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【ha4188/御影 藍/女性/外見年齢20歳/武人】
【hz0005/ジル・ソーヤ/女性/外見年齢17歳/ウォーリアー】
【hz0047/天目 武蔵/男性/外見年齢24歳/武人】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お待たせしております、「ココ夏!サマードリームノベル」をお届けいたします!
本編中では大変お世話になり、ありがとうございました。
志芯での夏、ということでジルと武蔵両者を連れ立っての夏祭りを選ばせて頂きました。
ジルは完全にだれていましたが、藍さんの佇まいの涼やかさに救われています。
武蔵や周りの者にもお声掛け頂き、ありがとうございます。
志芯国の皆も、少しずつ時を経ていますが、あの時から変わらないモノがずっとそこにあります。
あの花火大会からもう1年がたったのだなぁと思いながら、様々な思い出を振り返りつつ描かせて頂きましたが、いかがでしたでしょうか?
何かお気付きの点や、イメージの違う点等ございましたら、お手数ではございますがリテイクを出して頂けますと幸いです。
湿気の多い夏ですが、お体にはお気をつけてくださいませね。ご発注ありがとうございました!
(担当ライター:藤山なないろ)
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2010年07月26日

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