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『星河の見る夢〜逢瀬に咲く心〜 』
秋霜夜(ia0979)

●起
「わぁ‥‥」
 朝から見渡す限りの快晴であった。秋霜夜は、その空の下、キツネーランドの門に飾ってある大きな笹の木へと駆けて行く。
「せ〜んせっ。見て下さい。ランド全体が色とりどりですよ〜」
 愛弟子の言葉に、エルディン・アトワイトは目を細めて門の奥を見透かした。
「あ。色は5色の短冊になぞらえてます? えへ。あたし、勉強してきました。短冊の5色は、青、黄、赤、白、黒なんですよ? ほら‥‥」
 笹の下を通り過ぎて中に入り、霜夜はぐるりと辺りを見回す。夏を表す青と白を基調に、七夕の夜空を表す黒。そして、笹の色の緑。それらの色で彩られた園内は、どちらかと言えば涼しげに見えた。
「青と白と黒‥‥と緑? あれ? 一色足りない‥‥?」
「最後の一色は、どこかに隠してあるのかもしれませんね、霜夜君」
「はっ‥‥そうですか、分かりました! それを探すのが今回の使命なのですねっ!?」
 霜夜が張り切った様子で言うと、エルディンは微笑しながら軽く頷いてみせる。
 園内のメイン通路を真っ直ぐ歩くと、そこはいつもの如くアーケードになっていて、土産物屋がずらりと並んでいた。
「それにしても‥‥さすがにこの人だかりでは、暑いですね」
 軽く手で自分を扇ぐエルディンの格好は、全身真っ黒だ。
「せんせの神父服は格好良いのです〜」
「お褒めに預かり光栄ですが、この格好ではさすがの私もバテてしまいますね‥‥」
 そう言いながらも見回した先に、涼しげな風鈴がぶら下がっている店が目に入った。台の上に茣蓙が敷かれてあって、そこにはずらりと浴衣が並んでいる。浴衣も布面積から考えると涼しいとは言い難いが、少なくとも詰襟までついている神父服よりはマシだろうと思わせた。
「あ、浴衣借りられるんです?」
 とことことついてきた霜夜が、白から紺まで見た目も涼しい柄も含めて並ぶ浴衣を眺める。
「えぇ。そうですね‥‥霜夜君はどれがいいですか? どうせならペアも良いですね」
「せんせとお揃い‥‥。あ、この朝顔柄二つ貸してください〜」
 貸浴衣屋で霜夜が真っ先に目にしたのは、その柄であった。大きく開く朝顔の大輪。霜夜は生成りの生地に、淡い桃色の朝顔。エルディンは紺色の生地に、淡い青色の朝顔の入った浴衣を選んだ。朝顔と同じ色の紐の下駄をそれぞれ履き、水色の団扇を借りて2人は店を離れた。
「いつもの霜夜君も可愛らしいですが‥‥浴衣姿というのもいいですね。黒髪を結い上げるとまた、愛らしいというか‥‥」
「えへへ〜。せんせも格好良いのです〜」
 何時だって格好良いですけどもっ、と心の中で付け加え、霜夜は前方の広場へと目を向ける。
「あ、せ〜んせっ。あそこっ! 大きな笹があります! せんせ。短冊に願い事を書いて笹に吊るすと叶うって言われてるんですよっ」
 小走りにそちらへと走って近付くと、後ろからエルディンが追ってきた。
「ほう。短冊にそのような謂れが? 霜夜君は物知りですねぇ」
「あわわ。せ〜んせっ! 短冊が飛んで行きますっ」
 ぱたぱたとエルディンが自分を団扇で扇ぐので、箱の中の短冊が数枚宙を舞う。慌てて押さえて、その中の一枚に筆を当てた。笹には色取り取りの短冊が吊るしてある。この中に、自分も書いて吊るすのだ。
「願い事‥‥ですか」
『エルディン先生に、しっかり者のお嫁さんが来てくれますように』。そう書き込んで、霜夜は一つ頷く。『しっかり者』という所がポイントである。これが叶いますようにと軽く拍手を打ってから辺りを見回したが、自分の背が届きそうな所は短冊がぎっしり詰まっていた。
「どうしました?」
「いえ、踏み台が無いかなぁって」
 言うと、エルディンはにこやかに微笑む。
「あぁ、高い所に吊るしたいのですね。では私の肩に」
「せんせの肩車ですか‥‥? わぁい〜」
 しゃがんだエルディンの肩に、霜夜はひょいと乗った。昔はよく肩車もして貰ったものだ。但し、あの頃とは体重が違う。多少その辺りが気になったが、肩車という誘惑には勝てなかった。
「わぁ〜、高いです〜!」
「どのあたりの笹が良いですか?」
「この辺りがいいです〜」
 しっかりと止まってくれたので、短冊を笹に強く結びつける。ちょっとやそっとの風で飛んで行ってしまっては、この願いは意味が無い。
「せんせは何も書かないんです?」
「あぁ、そうですね。では私も‥‥」
 青色の短冊に、エルディンはさらさらとペンで願い事を書いた。覗き込む。
「『そろそろ素敵な女性が現れて、私も身を固める事が出来ますように』‥‥。せんせならきっと大丈夫なのですっ」
「有難う、霜夜君」
 霜夜の願いが書かれた隣に短冊を吊るし、エルディンは霜夜へと振り返った。
「さぁ。では、キツネーランドを満喫しましょうか」

●承
「あ‥‥プールです♪」
 白い飛び込み台が、真っ先に目に入った。
 ぱたぱたと近付くが。水面に沢山の丸い物が浮かんでいるのに気付く。
「せ〜んせっ! 西瓜が浮いてます〜!」
「あぁ、冷やして食べるんですね」
 成程〜と思ったものの、多少量が多い気がする霜夜だったが、とりあえず、つんつんと突いてみた。急所は突かなかったようで、それだけでは粉砕しない。
「‥‥新たな殺人事件の気配が‥‥」
「えっ!? 本当ですかっ?」
 更につんつく突いていると、後方から師の声が聞こえてきた。思わず目を輝かせながら振り返ると、エルディンは飛び込み台を指差して見せる。
「霜夜君。人があそこから飛び込む際に発生する速度は、どの程度になると思われますか?」
「え‥‥」
 言われて霜夜も見上げた。
「うーん‥‥と‥‥」
「飛び込み台の高さは10mです」
「‥‥分からないです、せんせぇ〜‥‥」
 どんな計算式になるのかも分からない問題だったので、助けを求めて霜夜はエルディンを見つめる。
「簡単に言えば、あの西瓜を頭でかち割るくらいの速度は出ますよ」
「おぉ〜。西瓜を割る棒がいらないのですねっ」
「割れるのが西瓜だけであれば良いのですが。つまり、ここに西瓜が浮かんでいるのに飛び込み台があると言う事自体に問題があります。これは立派な殺人予告でしょう」
「何かのおまじないだと思ってましたっ! 係員さんに危険性を説明しないとですね」
 休憩所を兼ねた建物へと走って行くと、中は人がまばらだった。係員を探してきょろきょろ辺りを見ると‥‥一人の人物と目が合う。
「‥‥魔女さんっ‥‥?」
「あら。お久しぶりだ事」
 如何にも女性らしいスタイルで、女性らしい魅力を存分に押し出した格好の黒髪の美女が、霜夜の姿を認めてにっこり微笑んだ。
「まぁ。プールで浴衣?」
「そ、そんな事より、飛び込み台の下の西瓜は危ないと思うのですっ」
「貴女は、例えば上から人が降ってきたらどうするかしら?」
「へ‥‥? えーと‥‥逃げるか‥‥助けます」
「西瓜が人を助けるのは難しいから、きっと逃げるわね。あの子達もプールで浮いてるだけでは飽きるでしょう。良かったら遊んであげて」
「遊ぶ‥‥ですか?」
「えぇ。‥‥あぁ、水着が必要ね。これを着替えていらっしゃい。きっと貴女の先生も喜ぶわよ」
 言われて、霜夜は水着を受け取った。この女性の言う事を真に受けて全てを信じるのは危ない気がしたが、大人の女性が言う『先生も喜ぶ』には抗い難い。素直に脱衣所に入って着替えた。
「せ〜んせ〜っ」
 ビーチサンダルまで貰って、霜夜はぺたんぺたんとエルディンの元まで走って行く。
「あぁ、どうでしたか霜‥‥君。一体それはどう」
「えへ。貰っちゃいましたっ」
『2−A 秋霜夜』のゼッケンを付けた紺色の水着姿を見た師は、確かに目を丸くした。
「知らない人から何でも貰ってはいけませんよ‥‥」
「知らない人じゃないのです!」
 えっへんと威張って見せた霜夜だったが、ふと真面目な顔になってエルディンを見上げた。
「『魔女さん』だったのです。夫婦の一夜の逢瀬である七夕くらい、魔女さん大人しくしてくれるといいんですけど‥‥」
「彼女が‥‥?」
 エルディンは建物の方角を見つめる。
「‥‥せ〜んせ〜?」
 その目が、犯人を見つけた時とは違う光を湛えたのを霜夜は見た。僅かに不安が過ぎる。
「少しだけ西瓜と遊んでいて貰えますか、霜夜君」
 言い残し、素早くエルディンは建物の方角へと身を翻した。
「先生‥‥」
 計らずしも魔女と同じ台詞を言い残した師の言葉に添い、霜夜はプールへと目を向ける。
「生きてる‥‥わけない、ですよね‥‥?」
 つんつん。プールの端で西瓜を突くと、くるんと西瓜が一回転した。
「わぁ‥‥回ったです‥‥」
 くるりん。その言葉に、隣で浮いている西瓜も回る。それに連鎖反応したのか、次々と西瓜が回り始めた。
「うわぁ‥‥目が回るですよ‥‥?」
「遊んで欲しいのですよ」
 不意に、軽く背を押される。しゃがんでいた霜夜は、抗う事も出来ずにプールの中へと飛び込んだ。
「がっ‥‥がぼがぼ‥‥ぷへ‥‥」
 如何にもつるつるしている西瓜を手で掴むと、西瓜は意外とごわごわしていた。何とかその西瓜を支えにして水面へと顔を出す。
「なっ‥‥何す‥‥」
 抗議しようとしたその目が、周囲の光景から明らかに浮いているその人の姿を捉えた。
「‥‥『悪魔』さん‥‥」
「おやおや。私はそのような名前でしたかね?」
 男は、楽しそうに笑っている。黒いタキシードに白いシルクハットと手袋。ぎらぎらと夏の日差しをまともに吸収している。
「‥‥暑く、ないです?」
 思わず尋ねた。
「まぁ、多少は」
「何のご用でしょうか〜?」
「先日お渡しした、懐中時計‥‥。あれを動かす事が出来るのは、貴女だけ。この世界を、動かしてみたいと思いませんか?」
「それを判断するのはせんせ〜です」
「しかし貴女の師は、あの魔女に目を奪われている。もしかしたら、もう心も‥‥? 貴女は、それでいいのですか?」
 両手を使って西瓜の上によいしょとよじ登る。そうして西瓜に耳を当てると、鼓動が聞こえるようだった。
「‥‥せんせは‥‥傷つかないでしょうか‥‥? 魔女さんは‥‥お嫁に来てくれるのでしょか‥‥」
 半分水の中に浸かりながら聞こえてくる鼓動は、心地良い。思わず目を閉じると眠ってしまいそうだ。
「この子達は‥‥幸せになれるでしょうか‥‥」
「まだ親の決まっていない子供達です。その子が幸せになれるかは、親次第。選んであげますか?」
「あたしは‥‥」
 水の揺らぎを見ながら、霜夜はそっと西瓜の表面を撫でた。
「遊ぶですっ! 今を楽しく生きればいいと思います」
 ぼちゃん。つるっと滑って西瓜から落ちる。水中で一回転して水面へ上がると、もうプール際に男は立っていなかった。
「もう一回! 他の子に乗るですか〜?」
 他の西瓜がくるんくるん回りながら近付いてくる。かなりでかい西瓜だ。それに何とか上って両手をいっぱいに広げて掴まる。ぐらんぐらんと西瓜が揺れた。
「きゃ〜〜っ‥‥」
 ざぶん。
 だが、すぐにつるっとプールへと落下する。
「あははははっ‥‥」
 水面に顔を出した霜夜は、先ほどまで男が立っていた場所に、師と女が立っているのを見つけた。
「もうすぐ日が暮れる‥‥」
 プールには入らずに魔女は空を仰ぎ、エルディンはそっとしゃがんだ。
「‥‥7月7日の夜は、1年の中で最も大切な、『私』の『時間』。だそうです」
「『私の時間』です‥‥?」
 半分沈んでいる西瓜によじよじしようとしていた霜夜の手が、それを聞いて止まる。
「せんせ。7月7日は、織姫と彦星が年に一度会う‥‥夫婦の逢瀬の日、なのです」
「夫婦っ‥‥?!」
「あの男との逢瀬である事は間違いないわね。お弟子さんが会った‥‥あの『男』よ」
「『悪魔』ですか‥‥」
 心なしか肩を落としたエルディンに、女性はくすりと笑う。
「私達がそんな生温い関係に見えるのかしら‥‥?」
「主導権争いをしているという話でしたね」
「えぇ。今日がその、『決着の日』。年に一度、あの男と会う事が出来る日よ。直接、ね」
「私は‥‥いつでも、女性の味方です。儀式とは聞き捨てならない響きだと思いましたが、何かを犠牲にするような時間なのでしょうか?」
「‥‥『悪魔さん』なら、さっき会ったのです‥‥」
 ぱちゃぱちゃと水面を叩くようにしてその場で泳いでいた霜夜が、プールの縁にしがみついて小さな声で呟いた。
「そう。やはりね」
「でも‥‥。せんせが魔女さんの味方をするなら、あたしも一緒です」
「霜夜君‥‥」
「じゃあ、そろそろ準備をして貰おうかしら。さぁ、プールから上がって」
「え? 私、まだプールに入っていませんが‥‥」
「水着のままで空に昇るのは寒いわ。浴衣を着て」
「えぇっ!? 空に昇るんです?」
「プールに‥‥」
「夜になれば、舟が下りてくるわ」
 タオルと浴衣を女は霜夜へと渡した。その仕草を、霜夜はじっと見つめる。
 この女性がエルディンの御嫁さんになる。そんな日は、本当に来るのだろうか?

●転
 夜空に星が瞬き出すと同時に、空から星の河が降りてきた。
 それは、闇色の空を切り取ったような河だ。その中で無数の星が煌いている。
「うわぁ〜‥‥せ〜んせっ。こっち、こっち見て下さいっ」
「まるで魚のように光が泳いでいますね」
 河は空から何時の間にか流れるように降りてきて、園内に広がった。闇と星に包まれたその世界は、最早遊園地では無い。まだ踝くらいの水嵩である河を歩きながらそっと水を掬うと、確かに液体であるようだった。だが冷たくは無いし手も濡れない。
「不思議‥‥ですねぇ‥‥」
「これに乗って」
 河の真ん中に、笹色の小舟が停まっていた。音も無くひらりと女性が先に飛び乗り、霜夜も後に続く。
 3人を乗せた舟は、一気に河を昇り始めた。どの角度を見渡しても満天の夜空である。大地は最早夜空の一部であり、大河の中に星がうねった。
「‥‥毎年、決着は付かなかったわ‥‥」
 ゆらゆら揺れながら進む小舟の中で、女性はぽつりと呟く。
「あの男は、ここに留まる事が出来なかった。けれども私も、あの男を追い出す事が出来ない。そんな関係が続いてもうどれくらいになるのかしら」
「この場所を造り上げたのは貴女ですか?」
「いいえ。でもあの男がここを支配する事になれば‥‥ただ一日の魂の安息さえも奪われる。恐怖だけが巣食う場所になるでしょう。あの男に渡すわけには行かない」
 女性の横顔を見ながら、エルディンは軽く頷いた。河に手の先を入れてぱしゃぱしゃしながら、霜夜は黙って2人の会話を聞いている。
「もし、貴女が負けたその時は‥‥貴女はどうなるのです?」
「ここを追われて生まれ変わる事になるわね。私も、貴方がたの常識から言えば、生きていないもの」
「そう、ですか‥‥」
 では、この人はあの『西瓜』にもなれないのだ。遊んで欲しそうに近付いてきた西瓜達を思い浮かべながら、霜夜は空を仰いだ。その空に、一筋の星が流れる。
「‥‥え‥‥?」
 流れ行く星の上に、誰かを見た気がした。だがその星は遥か下方へと落ちて行く。
「‥‥この場所が、悪魔の望む恐怖しか生み出さない場所になるのであれば、確かにそれを放置するわけには行きませんね。阻止はします」
 そんな霜夜には気付かず、エルディンが呟いた。霜夜も目を戻し、前方に小高い丘を見つける。


 黒と金に似た光だけが広がる世界にあって、その姿は浮いて見えた。
「悪魔さん‥‥ですね」
 真っ先に見えたのは白いシルクハット。次いで白い手袋が闇の中に浮かんでいる。近付くにつれそれが人の姿であり、闇と同化するような黒のタキシード姿である事が分かった。
「‥‥真夏に暑い格好ですね‥‥」
 エルディンの呟きと同時に、霜夜の目は不穏な物を捉える。
「せんせっ! 刀、持ってます‥‥!」
「勿論。『決闘』ですもの」
 女性は立ち上がり、刀を空間の中から抜いた。それは右手。対して、男は左手だ。小舟が近付く中、丘の上の男は笑ったようだった。その笑みは、先ほどプールで見たものとは種類が違う。酷薄で、冷たささえも感じさせる笑みだ。
「‥‥霜夜君っ」
 エルディンに背後から肩に手を掛けられた瞬間、丘から多数の黒い物体が羽ばたく音を携えて高速で飛び込んできた。
「‥‥インプですかっ!?」
「蝙蝠ですっ!」
 師の前に立ち、霜夜は次々と蝙蝠を叩き蹴り落とす。埒が明かない事は分かっていたが、守らなければならない。大切な人を。
「このっ‥‥!」
 気功を叩き付けたが、周囲から蝙蝠に囲まれ一気に飛びかかられる。噛み付かれるかと一瞬身を竦めたが、蝙蝠が体を覆うと同時に、足が宙に浮いた。
「せ‥‥」
『貴女の師は、本当に貴女の永遠の師だろうか? 貴女は何れ、きっと捨てられる‥‥』
『悪魔さんっ‥‥?』
 蝙蝠のどこからか、だろうか。声が忍び込んだ。姿を求めて周囲を見渡そうとしても、蝙蝠の大群に阻まれて外の音さえも聞こえない。
『捨てられた時‥‥貴女の心は、何処へ行くだろうか‥‥?』
『あたしは‥‥せんせを信じてます‥‥! あたしにとって、せんせは一生の師。せんせがどんな風に生きても、それは変わらないですっ』
『本当に‥‥そうだろうか。君の心は‥‥本当に、師弟である事を望んでいるだろうか‥‥?』
『悪魔さんは、何故‥‥魔女さんと戦ってるんですか? 悪魔さんは、本当は魔女さんの事‥‥』
 不意に、飛ぼうとする体が止まった。腕を誰かに掴まれている。
「‥‥せんせ‥‥?」
 何かを必死に叫ぶ師の声が聞こえる気がしたが、何を叫んでいるのか分からない。だがこれだけは分かる。
 エルディンは、自分を引きとめようと、引き戻そうとしているのだ。
 不意に、暗闇の中で巨大な光が弾けた。それは、周囲の星が集まって爆発したかのような勢いで、小舟に降り注ぐ。
「せんせーっ!」
 蝙蝠が霧散し、視界が開けた。夜空の中にエルディンの必死な顔と、もう1人の男の顔が浮かぶ。
『私は‥‥変わらないよ。変わらず、君がここにもう一度戻ってくる日を待とう』
 青い双眸が暗闇の中、自分を見つめている。その目を見ながら、霜夜は落ちて行った。

●結
「‥‥せんせ‥‥?」
 そこは、キツネーランドの門の外だった。僅かに黒い河の跡が地面に広がっている。目覚めてすぐに隣で倒れているエルディンを見て、そっと背を揺すった。その右手が自分の左手を掴んでいる。
「せんせ‥‥助けてくれたんですね‥‥」
 軽く手を握り返すと、エルディンが目を開いた。
「‥‥無事、ですか‥‥?」
 がばっと起き上がった師に、霜夜は頷く。
「はい。‥‥有難う御座いました。やっぱりせんせは‥‥頼りになるですね」
「当然ですよ。私は貴女の師なのですから」
 起き上がったエルディンに倣って立ち上がると、エルディンは空を見上げた。
「‥‥彼女、勝てたのでしょうか‥‥」
「きっと‥‥勝てたと、思うです。せんせが、味方したんですから‥‥」
 霜夜も空を見上げた。魔女が勝てば、何も変わらない日々がここで繰り返されるのだろう。だがあの悪魔が勝てば、どうなるだろうか。本当に魔女が言う通り、『恐怖の世界』になるだろうか。
 本当に、なるのだろうか。
「そうですね。霜夜君も味方しましたからね。勝てないはずがありません。‥‥それにしても、お腹が空きましたね」
「あ。帰ったら、大きいお握り作りますねっ! 短冊5色お握りとかどうですか?」
「赤と白と黒と黄はいいとして‥‥最後の青の具が何なのかが気になりますね‥‥」
 星が瞬く空の下、師弟は手を繋いでその場を後にした。
 花火一つ上がらない今夜の空は、幾つもの流れ星が空を彩っては消えていく。
 その星のひとつひとつに、命の炎を灯して。


 そうして、彼らの7月7日は終わった。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

ia0979/秋霜夜/女/13/泰拳士
ec0290/エルディン・アトワイト/男/32/神聖騎士


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつも発注を有難う御座います。少々お待たせ致しました。霜夜さんの水着は、スクール水着以外浮かびませんでした‥‥。
今回は、お師匠さん側が少々コミカルに。霜夜さん側がシリアス風になっております。こちらが裏の話となりますので、出来ましたらお師匠さん側を先に読んで頂けますと幸いです。
それではまた、機会が御座いましたら宜しくお願い致します。

ココ夏!サマードリームノベル -
呉羽 クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2010年07月28日

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