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『ひと夏の夢〜わんこらんど〜 』
鳳・令明(eb3759)

 ここはテーマ・パーク『ドリームキツネーランド』
 時節のイベント毎に、がらりと雰囲気を変える遊園地。昨日まで春の装いだと思えば、今日はもう夏の装いを着飾る園内に、人々はその日一日の夢を見ると言う。
 そんなキツネーランドは現在、鮮やかな青と白とに染め上げられている。
 そう、今の季節はプールシーズン。
 従業員は軽装でお出迎え。パレードだってショーだって夏仕様。この場所では、他の催し物など存在しないのだろう。そう思わせる。
 

 そんな、賑やかにして楽しい色合いの、この夢の国で。
 貴方は、どんな一日を過ごしますか?


「にょにょ? こんなところにチケットが2枚?」
 キツネーランドの入退場ゲート‥‥つまり門前で、羽根のついたわんこ‥‥否、鳳 令明は首を傾げた。手には2枚の紙が握られている。それから、門に掛かっている表札を確認した。
「むむむ。ここはキツネーランドっぽいにょ。こりは、キツネーランドでわんこ道を伝道しなければならないよ〜なにょじゃ」
「ほえ〜、ここがキツネーランドですか〜」
 その隣には、女性が立っていた。とりあえず羽根もついていないし着ぐるみも着ていない。どこにでも居そうな外見の女性である。
「にょにょ〜。よ〜しあ隊員。さぁ、出かけるにょ〜」
「わっかりました〜」
 びしっと女性‥‥いや、ヨーシアは敬礼した。その前で、令明はうむ〜と頷いている。
「ところで隊長〜」
「よ〜しあ隊員、何だにょ〜」
「もこもこ、暑くないですか〜?」
 ぴたっ。一瞬だけ、令明の羽根の動きが止まった。
「○○○○には負けないにょにょ〜。キツネーランドに突撃にょ〜!」
 と、犬の着ぐるみ、即ち『まるごとわんこ』を着たシフールは、夏の暑い陽射しにもめげず、いやむしろ対抗するかのように、ぱたぱたと小さな羽根を動かして門の中へと突撃した。


「今はぷーる仕様らしいにょ〜」
「そうみたいですね〜」
 青と白に彩られた園内は、涼しさを演出している。あちこちにかき氷屋やミストシャワーがあり、さらには巨大扇風機までシ設置してあって。
「ぎゃぁ〜と〜ば〜さ〜れ〜る〜にょ〜にょ〜」
 うっかり令明は飛ばされそうになった。彼方まで行きそうになった。それもまぁ仕方がない。身長50cmのシフールなのだから。
「隊長にとっては、わくわくどっきどき☆アドベンチャー満載ですねっ」
 飛ばされる令明をキャッチしたヨーシアは嬉しそうだ。ついでに、いつものようにわんこをもふもふしてみている。
「‥‥隊長‥‥毛皮も何だか熱いです‥‥太陽光吸収率について考えてみたいです‥‥」
「わんこだから仕方ないにょ〜。わんこは夏暑いにょだにょ〜」
「はっ。だから、プールなのですねっ!? さすが隊長なのです〜。わんこに優しい水遊び!」
「いっぱいぷーるがあると聞いたにょ〜。全部廻って体験して美味しいもにょを堪能して、感想をかくにょ〜」
「それは素敵な考えなのです〜!」
 と、わんこ道を伝道する使命を帯びている2人は、颯爽とプール会場へ向かった。
 プール会場は今回、キツネーランドの半分を占めている。つまり、半分以上のアトラクションが‥‥。
「‥‥うわ〜‥‥」
 ジェットコースターでは、コースターがプールに飛び込んでいた。プール水面ぎりぎり、ではなく、飛び込んでいる。そして再び線路を駆け上がっている。
「‥‥うわ〜‥‥」
 メリーゴーランドでは、馬が半分プールに沈んでいた。水中に沈んだり上がったりしながらくるくると回転している。
「ヨーシア隊員も水着をつけるにょ〜」
 あちこちのアトラクションに釘付けなヨーシアに、令明が声を掛けた。そして水着を取り出した。白のビキニだ。小さなリボンが可愛らしい。
「‥‥たいちょ〜」
「何だにょ〜」
「それ、シフールサイズじゃないですかっ」
「おりはシフール水着しか持ち合わせがないにょにょ〜」
「はっ‥‥。そういえば隊長は、水着は‥‥?」
 ぴたっ。一瞬だけ、令明の羽根の動きが止まった。
「おりはわんこだにょ。わんこに水着は要らないにょ〜」
「あ、そうですよね〜」
 あははは〜と笑い合う2人であるが、実はまるごとわんこの下に水着を装着済の令明である。
 とりあえずヨーシアも露台で水着を買った。スクール水着型で白と紺のストライプ柄である。意外と地味好みのヨーシアだった。
「じゃ、最初は何にします〜?」
「あのぐるんぐるんが楽しそうかもしれないにょ〜」
 令明が指した先には、夏プール定番の品、ウォータースライダーがある。では早速と、2人はそちらへ向かった。


「なぬ? わんこは駄目だにょ?」
「常識的に考えて駄目だろう」
 列に並んでいると、黒髪の係員がやってきて止められた。
「そんなっ‥‥。年に一度の楽しみを、お父っつあんから奪わないでっ」
「そうだにょ〜そうだにょ〜。わんこ愛護のかんてんから〜だんこ反対するにょ〜」
「だからその皮を取れば」
「駄目なのっ! これを取ったらお父っつあんはあああ!」
「わんこのおばけになるにょ〜たたるにょ〜」
「ぎゃああああああ!」
 傍に居た金髪の係員が、2人の言葉に反応して走ってくる。
「お化けは駄目だっ。仕方ないから特例な」
「わ〜い、ありがとうございます〜」
「たたらなくて済んだにょにょ〜」
「‥‥色々と、ツッコミを入れるべきかしら?」
 わいわいと騒ぎながら列に並んでいる彼らの傍に、1人の女性が近付いてきた。滝のようにうねる黒髪と完璧な体型でもって、ごくシンプルな黒のビキニを着こなしている。
「‥‥まっ‥‥負けたっ‥‥かもっ‥‥」
 女の意地で『かも』を付けてみたヨーシアだったが、令明は首を傾げた。
「『魔女』‥‥かにょ?」
「ご明察。よくご存知ね」
「魔女‥‥?」
 ヨーシアは一歩下がり、令明は一歩、いや一飛前に出る。
「おり達は、わんこ道を伝道しているにょ〜。魔女は何派かにょ?」
「‥‥そんな事を聞かれたのは初めてね。そもそも、何派というのはどういう」
「隊長! 列進んでますよ〜、いきますよ〜」
「今はウォータースライダーを滑るにょ〜。後から聞くにょにょ」
 ヨーシアに引っ張られ、ふよふよと令明は列を進んで行った。
「ヨ〜シアどにょ、痛いにょ〜」
「隊長がっ、魔女とたのしそ〜に喋ってるからですっ」
「たのしそ〜だったかにょ〜?」
「たのしそ〜でしたっ」
 少し怒っている風の横顔に、令明はいつもより増量気味の笑みを浮かべる。
 こうやって遊びに行ったり、旅もしたりしているけれども。なんだかんだで一緒にお出かけするのは嬉しいのに。
「よ〜しっ。滑りますよ〜っ」
「すべるにょ〜っ」
 そして2人は気合を入れ、一気にスライダーを滑って行った。


 次に2人が向かったプールは、ワニプールである。所々にワニがぷかぷか浮いているプールで‥‥。
「‥‥隊長」
「なんだにょ〜」
「‥‥あれ、とっても本物のワニに見えるんですけど」
「ワニ派のぷーるだにょにょ〜。わんこ派のぷーるを探すにょ〜」
 というわけで、そのプールをスルーして2人は犬が浮いているプールを探した。ワニプールに子供が数人泳いでいたとか、そういうことは気にしてはいけない。
「あぁっ‥‥かぴぱらっ‥‥! かぴぱらプールがっ‥‥!」
「わんこぷーるを探すにょ〜」
「あぁぁぁ‥‥かぴぱらぁぁぁ‥‥」
 なんて事もあったが、2人は隅っこに置かれてあった犬プールを発見した。どう見てもビニールプールで、子犬がぱしゃぱしゃ遊んでいる。
「あぁぁっ‥‥わんこですっ‥‥!」
 そのぱしゃぱしゃぶりにぐわしと胸を掴まれたヨーシアが、子犬と遊び始めた。
「にょにょ〜! 引っ張ると伸びるにょ〜!」
 令明は毛皮を子犬に引っ張ら‥‥いや、完全に遊ばれている。でかいおもちゃと思われていた。
「それにしても〜‥‥わんこぷーるがこの位置はだめだと思うにょ〜」
「あ。ですよね〜」
「移動させるにょにょ〜」
「了解でっす」
 というわけで、2人はプールにロープを巻く。それからずるずると中央に向かって引っ張って行った。
「‥‥とりあえず、何をしているか聞くべきかしら?」
「又、貴女です? 見て分かるじゃないですか〜」
「わんこぷーるはお引越しのきせつだにょ〜」
「‥‥そう‥‥まぁ、好きにすればいいわ‥‥」
 魔女も見送る中、わんこプールのお引越しは終了した。見事にプール施設のど真ん中‥‥の、通路に。
「また一つ、野望が達成されましたねっ」
「次は、わんこぷーるをでかくする作戦を立てるにょ〜」
 というわけで、2人は新たなる野望の為に‥‥。
「ビニールプールもう1個ほしいにょ〜よ」
 魔女に欲求を突きつけた。
「‥‥そんなに、犬がいいのかしら‥‥?」
「むむむ。魔女はわんこ派じゃないにょ?」
「やっぱりにゃんこ派なんですねっ!」
「いいえ。馬がいいわ」
「馬っ」
「あの精悍な顔立ち、誰もが見惚れる脚力、風になびく鬣、どれを取っても非の打ち所が‥‥はっ。私の好みなど、貴方たちに関係ないでしょう?」
 うっかり自分のペースを乱されかけたこの遊園地の主人、魔女は、軽く咳払いをした。
「むむむ〜。悪魔にも聞いてみるにょ〜」
「あ、悪魔っ!? えぇ? 令明さん〜、ちょっと待ってくださいよ〜」
 ぱたぱたと飛んでいく令明の後を追うヨーシア。その腰は引けている。
 その2人を見送った後、魔女は静かにわんこプールを見下ろした。


「というわけで、悪魔は何派かにょ?」
「‥‥何ですか、急に‥‥」
 時計塔の天辺に飛んで行った令明は、尖塔の上に設置されたテラスでお茶を飲んでいた男と遭遇した。
「いい香りだにょ」
「飲みたければどうぞ」
 紅茶が注がれた白いマグカップの傍に降り、令明は首を傾げる。
「おりはわんこ道を極めるモノなり〜だにょ。悪魔は何派かにょ?」
「そうですねぇ‥‥敢えてどうしてもと言うならば‥‥」
「どうしても、だにょ〜」
「土偶派?」
「どぐー派、だにょ?」
「あの、千年にも万年にも及ぶ神秘。神秘的なライン。土が魅せる魅惑の色合いと形状。全てに於いて、あれに勝る創造物は他にありません!」
 と、男は力説した。
 塔の天辺のテラスの上で。
「動物から選んで欲しいにょ〜。土偶はあんまり生きてないにょにょ〜」
「土偶だってとっても生きていますよ!」
「ぐるぐるぱ〜んちにょ〜」
 どふっ。令明の不意打ちぐるぐる回転(自分が回転)ぱんちが、鮮やかに土偶愛を語る男の顎に決まった。
「わんこ派を探すにょ〜」
 そのままひらりとテラスから降り、令明はヨーシアを探す。


「た、たいちょ〜!」
 その頃、飛べないので下の広場で待機していたヨーシアは、何故か巨大な狼に追いかけられていた。
「よ〜しあどにょぉ〜!」
 急下降しながら、令明は狼に頭突きを喰らわせる。狼は横からの衝撃を喰らってプールへと落ちた。
「あわあわあわ‥‥た、助かりましたぁ‥‥」
「いべんとだにょ〜?」
「ま、魔女が‥‥ですね。そんなに犬が好きなら合体させてあげるって言ってですね‥‥子犬を全員合体させて狼にっ‥‥!」
「たいへんだにょ〜!」
 令明が振り返ると、プールでは大量の子犬が一生懸命泳いでいる。素早く飛んで行って1匹を抱きかかえたが、正直重い。何とかプールサイドまで運ぶのを呆然と見ていたヨーシアも、慌ててプールへと飛び込んだ。
「ぜんいんいるかにょ〜?」
 数分後。わうわうと返事する子犬たちを見回し、それからすっかりくたばって仰向けに転がっているヨーシアを見やり、令明は少し考えた。
「ここは、わんこに優しくないにょよ。一緒におり達と来るかにょ?」
 わうわうと返事する子犬達に、令明は頷く。
「わんこの楽園にむけて、出発にょ〜!」
「お‥‥お〜‥‥」
「ヨ〜シア隊員〜。行くにょ〜」
「は‥‥はぃぃ〜‥‥」
 そうして、西日の眩しい夕暮れ時。
 わんこ道を極めんとする2人と、101匹くらいの子犬達は、わんこに優しい楽園を目指して、新たに旅立ったのであった。


「‥‥という、夢を見たにょよ」


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
 eb3759/鳳 令明/男/22/武道家

 NPC/ヨーシア・リーリス

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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発注、ありがとうございます。呉羽でございます。
まさかのわんこ道の旅でございましたが、楽しく書かせて頂きました。始めから魔女と悪魔を知っている設定になっておりますが、コミカルであった事と‥‥ご存知、ですものね?という理由からでございました。
又、機会が御座いましたら宜しくお願い致します。
ココ夏!サマードリームノベル -
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Asura Fantasy Online
2010年08月13日

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