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『初夏の空、熱き血潮の誓 』
アンドレアス・ラーセン(ga6523)

 六月が、人々にとって幸福の語源の一つになっているのはあるかもしれない。
 それは、純白の花嫁たちが、未来を共に進むものとの誓いを果たすにふさわしい季節だから。
 しかし、誰しもがその幸福を味わっているとは限らないということも、また事実なのである。

 アンドレス・ラーセン。彼にとっては、まさしくそうだったようであった。


       *+*+*+*+*+*+*



 リラが咲く。
 この季節は、少しだけ気温が落ちるが、安定した気候を保つことでも知られていた。
 木々に咲いたリラの花を見て、アンドレアスは短い息をついた。
「どうかしたんですか?」
 天気がいいからと、アスの誘いで散歩に来たのは花が咲き誇る公園だ。
 レンガで出来た参道には、小さな花たちで縁取られており、その先には、柔らかな光に包まれた白磁の建物があった。
 聴こえるのは、優しい鐘の音。そして、祝辞の歓声。
 カノンは、アスの見つめる先がその歓声の上がる先なのに気付いた。
「‥‥幸せになるといいな」
 いつものアスと違い、どこか強張った顔のまま祝辞を述べる。
 カノンは、そんな彼に戸惑いながらもそっと、服の下を掴んだ。
「ん?」
 振り返ると、今にも泣き出しそうに瞳を潤んで見つめる顔が目に入る。
 後ずさりつつも、自分の態度が思い至り、小さく謝罪した。
「‥‥わりぃ。ちょっと‥‥な」
 ぼりぼりと頭をかきながら、裾を掴んだカノンの手をとり、そのまま公園の奥へと進んでいった。


 木々が深まる中、日差しが和らぐ。
 進んでいくと、小さな広場に出た。池である。
 そのほとりにあるベンチに、アスはカノンを座らせた。

「こんな季節に、俺の母親は出て行った」
 ポツリと漏れてきたのは、懺悔なのか。
 繋いだ手を、そのまま額に押し当て包み込みながら、アンドレアスは話し出す。
「ガキの頃、母親が出てった。すぐ、新しい母親が来た。だからもやっとすんだ、ちょっとだけな」
 押し当てた手を放さずに、横へと顔をずらし見る。
 苦しい思いが、今も尚甦ってくるのを隠しきれていなかった。
 結婚、リラ、母親。引き金になったのは、何なのだろうか。
 ただ、この季節になると無性に割り切れない思いが胸のうちに燻っているのを感じる。
「いい母親だったんだぜ、新しい母親はな」
 見上げた空は、雲ひとつなく。
 澄んだ初夏の空は、未来へと飛び立つのを待つかのように軽い。
「俺がガキだったからなんだろうが、何不自由なく育ったっつーのに」
 掴んでいた手を、そっと緩ませ笑う。
「でも、心が何かを求めていたんだ‥‥」


「ずっと、寂しいっていえなかったんだ‥‥誰にも、な」


 ずきりと、胸が痛んだ。
 誰にも言えない寂しさ。アスが、今まで抱えてきた心の負。
 それは、アンドレアスを頼もしく慕っているカノンにとって、衝撃的な言葉だった。
 カノンもまた、言えない寂しさは経験している。
 姉が去って、それからアンドレアス達に会うまでは。何一つ脱げなかった仮面があったから。
 それが、このアスにも合ったことが驚いただけでなく、新たな感情を沸き起こらせる。

「‥‥今は、言えるんですか?」

 ぽつりと呟くカノン。
 アンドレアスは、そこで始めてカノンを見つめ返した。
 紅い瞳は、硬い意思が刻まれていて。そして、反対に包まれたては、冷たくも暖かさを感じた。
「‥‥あぁ。言える。‥‥言いたいヤツが、いる」
 返された瞳は、とても澄んだ蒼だった。冬の海のように透き通り、何もかも包み溶かすような、神秘的な色合い。
 ふわりと笑顔が生まれる。

「カノン‥‥」
 改まった口調に思わず背筋を伸ばすと、真剣で、だが温かい笑顔を向けられた。

「カノン。傍に居る‥‥ずっと」
 ―― お前を寂しい思いには、もう捕らわせない。この先、ずっと。


       *+*+*+*+*+*+*


    いつの日か、誓った言葉をもう一度。神は信じない。
    永遠を誓う、結婚という契約が、破られたあの日から。
    だが、この煮えたぎる熱い血に誓うのなら、その契約は失せる事はないだろう。
    だから‥‥。

    お前の未来を、俺に守らせてくれ。


 言葉にならない誓いの言葉を、カノンに捧げて。
 アンドレアスは、安らぎの場を守ることを、血に再び誓っていたのだった。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ga6523 / アンドレアス・ラーセン / 男 / 28 / サイエンティスト】
【gz0095 / カノン・ダンピール /男 / 18 / NPC:一般人】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 この度は発注ありがとうございました。
 長らくお待たせいたしまして、大変申し訳ございませんでした。

 今回は『アスさんとカノンが、まさか結婚!?』と、受注した瞬間思ってしまいましたが、
 うん、大変驚きの発注内容でもあり、納得のいく発注内容でもありました。
 夢落ちではなく、なるべく日常の延長線のサイドストーリーということで。
 このように締めくくらせていただきました。


 カノンにとって、また、アスさんにとって。
 二人の関係、想いは微妙に揺れ動いてますよね。いい意味で。
 これからも、またお付き合いいただけたらなぁと思います。
 ええ、本編ではまだまだ翻弄してくかもしれませんが。


 それでは、またお会いすることを願いまして。

 雨龍 一
HappyWedding・ドリームノベル -
雨龍 一 クリエイターズルームへ
CATCH THE SKY 地球SOS
2010年08月16日

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