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『■Something Blue 』
アレクセイ・クヴァエフ(gb8642)
 蒼い海の広がる砂浜で、一人の少年が静かに寝息を立てていた――。

 ■

 不意に、視界に廃墟が広がった。
(――ここは)
 アレクセイ・クヴァエフは周囲を見回し、ある確信を抱く。
 今自分が居る場所は、もはや喪われた故郷であること。
 それと同時に、今自分は夢を見ているのだ、という奇妙な感覚も把握出来た。
 自分の姿を見下ろせばカンパネラの制服を着ている上に、少し離れたところに金髪の小さな影――幼き日の自分らしき姿も見えたから。
 これが夢なら、いずれは覚めることだろう――。
 そう考えながら瞬きをした次の瞬間には、景色は一変していた。
 軍人――叔父にあたる人の家だ。故郷を失ってから暫くの間は、ここで育てられていた。
 ただしアレクセイの視線はそこではなく、そこから歩いて出ていく――先程よりは大分今に近い姿になった自分の姿に向かっていた。
 トランクを片手に携えて出ていく、この日のことはよく覚えている。
 エミタの適性を持っていることが発覚し、カンパネラに入学する為に旅立った日だ。
 その自分の背を見送る叔父の視線から感じる期待の念が強かったことも、よく覚えている。
 ただ、「僕でも何か出来る」――そんな希望を抱いていたのも、確かだった。
 更にもう一度瞬きし、風景が変わる。
 否、今度は瞬きも待たずに目まぐるしく変わり始めた。
 カンパネラの学舎。
 ドラグーンの象徴たるAU−KV。
 この辺りまではまだよかった。
 学舎内でこなす授業。
 実地訓練と称した学外での行動。
 目にしてきた、関わってきた、いくつかの戦闘――。
 それらが目まぐるしく視界に移る度に、その数に比例してアレクセイの中で沸き上がるある思いは強まっていく――。

 ――「僕は役に立っているのだろうか?」――。

 ――鼓膜を撫でる穏やかな細波の音が聞こえ始める。
(‥‥寝ていたのか)
 真っ先に視界に捉えたパラソルの向こうには、太陽の丸い影が映し出されていた。
 少し視線を落とせば、蒼い海がどこまでも広がっている。白い砂浜にはそれなりに人が居て、それぞれに夏のバカンスを楽しんでいるようだった。
 アレクセイ自身もバカンスの真似事のつもりで海に来ていたのだけれど――どうやら日光浴をしている間に転寝をしてしまっていたらしい。
(まったく)
 嫌になる。
 カンパネラに入学してから初めての夏の休暇は、一人きり。人付き合いが苦手なせいでもあるから、それは仕方ないこととしても。
 寮に籠って一人きり自分と向き合っているのが嫌でこうして海に来てみたというのに、あんな夢を見たのでは来た意義が半減だった。
 どのみち、日光浴には飽きた。
 気分を入れ替える為にも、アレクセイはサイドテーブルに置いていた文庫本を手に取る。
 ――けれども、まったく集中出来なかった。文章が頭に飛び込んでこない。
 最終的にはページを捲ることすら面倒になって、溜息交じりに文庫本をサイドテーブルの上に戻した。
 特にやることがなくなった瞬間、先程の夢から生まれたいくつもの疑問が脳裏を過った。
 勉学には自信はあるけれど、『能力者』の中に混ざれば非力を実感することもしばしばある。
 果たして今の自分は、叔父の期待通りの能力者として在るだろうか?
 少なくともそこへ向けて、育っているのだろうか?
 何より、自分が「何か出来る」と考えた能力者という存在に、自分は本当になれているのだろうか――。
 頭を振る。
 こんなことを考えにこの場所に来たわけじゃない。
 見れば先程までは燦々と照りつけていた太陽も、今は雲の陰に隠れてしまっている。というか、空全体が雲に覆われてきた。
 まるで今の自分の心境を体現するかのような空。気分転換、台無しである。
 幸い、まだ雨が降りそうな程の雲の厚さではない。
 他の観光客がそうしているように楽しめば、この気分も空も晴れるのではないか、と思った。

 シュノーケリングの道具をレンタルして、海に潜る。
 ゴーグル越しのマリンブルーの視界に、海底に繁殖したサンゴ礁が見える。少し首を振れば同様に海中の光景を楽しんでいる他の観光客の姿もあった。
 少しの間は海中の光景を見ることで気分を和らげることが出来たけれど――次第に、ある種の不安が頭をもたげるようになってきた。
 たとえば、今ここでキメラが現れたとしたら?
 今やキメラは世界のどこにでもいる。人類のバカンスの地と言えど、空気も読まずに現れることがないとは言えない。
 そんなことがもし仮に起こったとしたら、自分は能力者として何か出来るのだろうか?
 自己での手応え以前に、能力者とて一人では出来ることは限られている。ましてやAU−KVのないドラグーンは一般人とそれほど大きな差があるわけではない。
 本当に救おうとするならば、一人じゃとても足りないだろう。
 そんなことは分かっているけれど――それ以前に、『能力者としての姿』で一時的にせよ人々に安堵を与えることが、自分に出来るのだろうか?
 結局、思考はそこに行き着いてしまった。
 蒼い視界を見ているのも辛くなって、海面に顔を出す。
 砂浜に目を向ければ、バカンスを楽しむ観光客という風景は、先ほどと何も変わらない。
 けれどもアレクセイにとっては、先程までとは一つ大きな違いがあった。
 同じようにして楽しもうとしている筈なのに――。
 どうして、同じように楽しめない?
 どうして、そんな自分と周囲との間に隔たりを感じてしまう?
「‥‥戻ろう」
 小声で一人呟く。
 これ以上膜を感じてしまったら、ますます色々なことを考えざるを得なくなるから。

 砂浜に戻った後、一度だけ海を振り返る。
 視界を埋め尽くしていた蒼は、今は実際の色よりも暗く――淋しげな色に思えた。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【gb8642/アレクセイ・クヴァエフ/男性/外見年齢15歳/ドラグーン】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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大変お待たせしました。ご発注されましたサマードリームノベルが完成したのでお届けいたします。

如何せん私としても初めての作業でしたので、イメージにそぐわないところもあるかもしれません。
ありましたら遠慮なくご指摘くださいませ。

此度はご発注ありがとうございました。また何かのご縁がありましたら宜しくお願い致します。
ココ夏!サマードリームノベル -
津山佑弥 クリエイターズルームへ
CATCH THE SKY 地球SOS
2010年08月16日

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