▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『Summer vacation in CTS 〜レインウォーカー〜 』
レインウォーカー(gc2524)
 
 耳を澄ませば聞こえてくる蝉の声。
 息を吸い込めば胸に届く潮の香り。
 瞼を開くと飛び込んでくる色鮮やかな景色。

――夏到来、思い出作り。


 ***

 ガレージの隙間から射し込む光。
 それを横目に愛車の整備を行っていたレインウォーカーは、頭に被っていたタオルで汗を拭った。
「見事なまでに、晴れたねぇ」
 パーツの1つ1つに及ぶまで丁寧に調整を行う。
 普段使用するのは勿論、傭兵の仕事でも使用するバイクは、何処まで整備しても足りないくらいだ。
 最後の確認まで気を抜かずに行うと、頬を伝う汗を拭って顔をあげた。
「……雨じゃなくて良かった」
 ガレージの窓から見える空は雲ひとつない。
 普段は雨を好む自分が晴れを望む。その事実に何となく笑ってしまう。
 それでもそれは嫌な気分で笑ったのではなく、寧ろ逆の気分でのこと。
 レインは頭に被っていたタオルを取り払うと、バイクを軽く撫でて立ち上がった。
「そろそろ時間だね。行く準備をしようかなぁ」
 ガレージに掛けられた時計は、約束の時間へと時を刻み続ける。
 それを確認して歩き出すと、彼は出掛けるための準備に入ったのだった。


   ***


 地平線が臨める景色。
 澄んだ青空が何処までも続き、地面を埋め尽くす金色の花たちが見事なこの場所に、レインは友人たちと共に訪れた。
 風を受けて重そうに揺れる金の花――ヒマワリ。
 それを目にしたレインは、感嘆の息を零す。
「噂には聞いてたけど、凄いもんだねぇ」
 眩しいくらいに輝く太陽。
 それと同じように輝くヒマワリの花に目が吸い寄せられる。
「わあ、凄いです!」
 ヒマワリに目を奪われていた彼の耳に、賑やかな声が響いた。
 目を向ければ、瞳を輝かせてヒマワリ畑を見つめるリリナの姿がある。
 その姿を見て唇が笑んでしまうのだが、拳を添えてそれを隠すと、小さく咳払いをした。
「まあ、喜ぶのは無理もないかぁ」
 口中で呟き、再びヒマワリを見る。
 なにせ、この光景は自分でも心弾むものだ。
 女性であれば尚更、この光景に心弾むはず。
「あたし、ヒマワリにお水を上げてみたいです!」
 嬉々として声をあげたリリナに、レインの首が傾げられる。
 そして口角をゆるりと上げ、彼女の事を流し見る。
「あんまりはしゃぎ過ぎて迷子になったりするなよぉ」
 ニヤリと笑って駆ける声に、リリナの目が瞬かれた。
「な、なりませんよ……たぶん」
 膨れた頬と、最後に加えられた言葉。
 それに抑えきれない笑みが零れる。そしてそれを隠すように喉奥で笑うと、「そうかそうか」と呟きを返す。
 自身を道化と称し、自分自身さえ嘲笑う彼は、どんな時でも本心は覗かせない。
 それでも今日ここを共に訪れた仲間には、気を許している。だからこそ、時折彼の本当の表情が顔を覗かせるのかもしれない。
「レイン、あまりリリナ君を虐めるものではない。リリナ君、君はヒマワリの花言葉を知っているかい?」
「花言葉、ですか……?」
 夢守 ルキアがリリナを援護するように話しかけて来た。
 その声にレインはクスリと笑んで金色の花に視線を戻す。
 空を仰ぎ、元気に咲くその姿は、見ていて心地が良い。
「やっぱりヒマワリもいいねぇ」
 呟き、ふと彼の目が1つの花に止まった。
 そして徐に歩き出す。
「……レイン、如何したの?」
 皆の輪から抜け出した彼に、幽噛 礼夢が声をかける。
 その声に足を止めるでもなく、1つの花の前までやってくると、レインはその花に手を伸ばした。
「これ、種がいっぱいだねぇ」
 頭を下げて俯いた花は、良く見れば種が詰まっている。
 レインはその花に詰まった種を落とすと、皆を振り返った。
「どう? ボクのガレージも、来年は植えてみようかなぁ?」
 掌に種を乗せて差し出してニッと笑う。
 そして自分の分の種を取りあげると、他の皆も、彼に習うように種を手にした。
「たまには、こういうのも良いよねぇ」
 呟き、手にした種をポケットにしまうと、ルキアが声をかけてきた。
「レイン、勝負をしないかい?」
「勝負?」
 首を傾げるレインに、ルキアは得意げに笑って見せる。
 彼女の紫色の瞳が、嬉々としているのは何かを企んでいるからだろう。
「そうさ、これは勝負だよ。一番キラキラしたヒマワリを見つけた方が勝ちね!」
「はぁ?」
 いつもの無茶ぶりがここでも発揮された。
 その事に笑みと驚きが混じり、苦笑が浮かぶ。
 だが疑問を口にするよりも早く、ルキアはヒマワリ畑に向かって走り出した。
「あ、面白そう……あたしも参加しますっ!」
 ぐっと拳を握って頷くリリナに、レインは驚いたように目を瞬く。
「参加って‥…おい!」
 パタパタ駆けて行くリリナに伸ばした手が虚しく宙を掻く。そうして花畑に消えたリリナは何処へやら。
「……見えなくなってる」
 確かに、ヒマワリの背に負けてリリナの姿が見えない。
 時折、花が揺れるので大体はその辺りにいるのだろう。
「リリナは、小柄だから……」
 いつの間に傍に立っていたのか。
 礼夢が笑みを零しながら、ヒマワリ畑を見つめていた。
 そこに花畑から大きな声が聞こえてくる。
「センセイ、お願いしますっ!」
 ルキアだ。
 彼女はヒマワリの合間から顔を覗かせると、大きく手を振って見せた。
 その仕草に礼夢が首を傾げる。
「……先生?」
「おまえのことじゃない?」
 レインの言葉を受けて「センセイ?」と再度呟く。
 ルキアは礼夢が刃物の扱いに長けている事を依頼で知っている。だからこそ、彼女に花を取って貰おうとしたのだ。
 それに礼夢も気付いたのだろう。
「センセイ……うん、今行く」
 言って、礼夢は花畑に駆けて行く。
 そしてその姿を見送ると、レインは空に浮かぶ太陽を見上げ、ニッと笑った。
「勝負はボクの勝ちだろうねぇ。さあて、ルキアの無茶振りに付き合おうかな」
 そう言葉を零すと、レインもまた花畑に駆けて行ったのだった。

   ***

 昼間の賑わいは何処へやら。
 日が落ちて、昼には空を向いて咲いていたヒマワリたちが、月に背を向けている。
 そんな中、4人は僅かに花畑から離れた場所で、浴衣に身を包み花火を始めていた。
 レインが着るのは黒に細縞の浴衣で、落ち着いた色合いが大人びた印象を与える。
 いつもと違う服装は、いつもと違う自分を演じているようで少し擽ったい。だが、それは自分だけではない。
 他の皆も浴衣を着て、いつもと違う自分になっている。
「ふふ、サイエンティストとしてはオリジナル花火を作っておくものなのです」
 リリナはそう言って、不敵な笑みを覗かせながら花火を取りだした。
 その種類は様々で、中には見たことのない花火まで混じっている。
 だがレインはそれらを見て疑問を感じたようだ。
「どこがオリジナルなんだ?」
 どうやら出された花火の中に、市販の物も混じっているようだ。
 その声を聞いて、リリナは目をキラキラさせて人差し指を立てて見せる。
 昼間のヒマワリ畑を見ていた時よりも、目が輝いている気がするのはこの際伏せておこう。
「えと……手持ち花火は普通ですが、こっちは違うんです」
 そう言って、見せられたのは、市販されている花火と相違ない筒型の花火だ。
「何処が違うんだ?」
「それは、秘密です。まずは、これで遊びましょう」
 リリナは楽しげに笑うと、皆に手持ち花火を配った。
「はい、レインにもです」
 ニコリと笑って差し出された花火、それを手に取ろうとして動きが止まった。
 決して故意ではない。故意ではないのだが、花火を受け取ろうとして指が触れてしまった。
「っと、ごめん……」
 何となく謝って花火を手にする。
 対するリリナも気まずそうに花火を手渡すと、「いいえ」とだけ言葉を返して、ルキアに花火を渡しに行った。
「……花火ねぇ」
 花火を見ながら、微かに触れた指を親指で擦る。そして少しだけ口角をあげると、ロウソクに灯る火へ花火を近付けた。
 そこから噴射される花火は、色鮮やかで勢いのあるものだ。
 緑から赤、赤から黄色へと変化する花火に、自然と目が釘付けになる。そして次の花火に手を伸ばそうとしたところで、レインの動きが止まった。
「火薬の量を押さえてある花火です。良ければ、これをしてみませんか?」
 言って、袂から花火を取りだしたリリナに、レインの目が見開かれる。
「ちょっと待てぇ! 今、何処から出した!」
「秘密ですよ」
 きょんと目を瞬いリリナに「オカシイだろ!」と突っ込みを入れるが、礼夢やルキアは気にした素振りすら見せない。
 寧ろ、慌てるレインがオカシイのでは。
 そんな雰囲気が漂う。だが、ここで引き下がるわけにはいかない。
 袂に花火を入れていて引火したらとんでもないことになる。
「おチビさん、そこに花火を入れるのはダメだろぅ?」
「何でですか? 他に入れる場所が無いです」
「いや、鞄があるだろぉ」
 脱力するレインを他所に、花火大会は続いた。
 そしてこうした行事と言うのは盛り上がって行くのが常で――。
「花火と言ったらやっぱ打ち上げ花火だよねぇ」
 レインの声に、サイエンティストのリリナの目が光った。
 彼女は先ほど並べた花火の中から、1つの花火を手にすると大きく掲げた。
「これ、自信作です!」
 手にしているのは筒型の花火。
 一見すると普通の置き花火なのだが、自信作ということはリリナが作ったということだろう。
「それ、華やかなの?」
「火薬は専門ではないので簡単ですが、噴水花火と打上花火を合わせた感じになっていると思います」
 レインの言葉に応えるリリナは、この花火を試していない。
 一応、試作としていくつか用意したのだが、試す時間が無かったのだ。
 その為、この花火を作った彼女にも、どのような出来になっているのかわからなかった。
「花火大会と言えば、爆竹じゃないのかい?」
 レインとリリナの会話を聞き留め、間違った知識を披露するのはルキアだ。
「花火と言えば、手持ち花火に打上花火、噴水花火などです」
「手持ち花火に、打上花火……?」
 呟いて視線を落としたルキアの手には、手持ち用の花火が握られている。確かにそれは地面に置いて使用するのは不釣り合いだろう。
「これも手持ちかな?」
 ルキアが地面に置かれた花火を手に取った。
 筒型の少し大きめの花火。
 それを目にしたレインが慌てて手を伸ばす。
「る、ルキア、それ――」
「火はレディが怪我すると危ないから、私が点けよう」
 そう言って、ルキアが花火に火を灯すのと、レインが止めに入るのはほぼ同時だった。
――シャアアアアアッ!
 勢い良く噴き上がった花火に、レインが飛び退く。
 流石は能力者だ。
 こういう時の反応は早い。だが、心臓はバクバク言っているようで、そこを抑えながらレインは叫んだ。
「ルキア! それは手に持つものじゃないっ!」
「? でも、手持ち花火って……」
 カクリと首を傾げたルキアに、レインはふるふると首を横に振った。
 そこにリリナが近付き、地面に置かれている他の筒型の花火に火を灯した。
「それは噴水花火で、地面に置いて使うんです」
 着火された直後、空に向かって噴き上がる花火にルキアの目が瞬かれる。
 金色の火花が、小さく弾けながら空に向かって行く。
 その姿は、手で持つよりも迫力があり、見る者の心を奪って行く。
「……綺麗だ。それに――熱くない」
「だろうねぇ」
 苦笑を滲ませ頷く。
 その内心は定かではないが、何処となくホッとした雰囲気が漂っているのは事実だ。
 それに気付いたルキアは、忍ばせておいた花火を取り出すと、ニッコリ笑って火を付けた。
「じゃあ、これはどうかな! ヤケクソだよっ!」
「うん? ――って、えぇぇぇ!!??」
 自らに向かって投げ込まれた花火に、レインが飛び退く。だが、時既に遅し。
 くるくる回る花火が足元で盛大に弾ける。
 それに踊るように逃げ惑うレインに、ルキアは勿論、リリナも笑った。
「……あれは、鼠花火……?」
「うん、さっきリリナ君が持っていたのを貰ったんだ」
 礼夢の声にルキアはしれっとして頷く。
 そして視線をレインに戻すと、更に鼠花火を追加してた。
「おいっ! あちちちッ、ちょ、ちょっと待てってぇ!!!」
 バチバチ弾け、くるくる追いかけてくる花火。
 それに合わせて踊るレインの姿に、礼夢はクスリと笑みを零した。

 花火が一通り終わり、始まる頃には近くにあった月も、今は距離を置いて腰を据えいる。
 そろそろ遊びの時間もお終いだ。
「では、最後に打上花火を……」
 リリナはそう言うと、持って来ていた花火の中でも一番大きい花火をセットした。
 そして――。
――ドーン……、ドドーンッ。
 激しい音を立てて打ちあがる花火。
 それを、ヘルメットを被って見上げたリリナは満足そうな笑顔を覗かせる。
 空に打ちあがる大輪の花。
 4人はそれを静かに見つめた。
 そして全ての花火が終わると、最後のとっておきが出された。
「最後はやっぱり線香花火とかでしょうか……?」
 取りだされた房状のそれ。
 リリナはそれを均等に分けると皆の手に持たせた。
 そして一本のロウソクに、それぞれが線香花火を近付ける。
「前に見たセンコウと違う――」
「センコウ……お線香、ですか?」
「そりゃぁ、花火じゃないな。線香花火ってのはこういうのだ」
 レインはそう言うと、花火に火をつけた。
 静かに小さな火花を散らすそれに、礼夢や他の2人の目も向かう。
「綺麗……あっ」
 ぽとりと落ちた火の玉に思わず礼夢が声を零した。
 その声にレインが笑って次の線香花火に火をつける。
「……ボクも、やる」
 レインの線香花火を見ていた礼夢は、自分の分の花火に火をつけると、その場にしゃがみ込んで花火を見つめた。
 それに習って視線を花火に戻すのだが、なんとも言えない感覚に襲われる。
「花火の終わりは切ない感じがしますけど、さっぱり諦めて貰いたいのですよ」
 終わりは潔く。それを花火に求めるリリナに、礼夢は改めて線香花火を見た。
 そこにレインも呟く。
「線香花火、静かに輝き静かに消える。炎は小さくてもしっかり暗闇を照らす。昔はそんなに好きじゃなかったけど、今見てみると結構いいね、こいつも」
 平和に過ごした幼い頃を思い出す。
 それはさっきの普通の花火や打上花火、どの花火を見ていても思い出した。
 だからこそ、いつもよりもはしゃいでしまったのだが、そう言うのも悪くはない。
 むしろ、こうした遊びが酷く好ましい。
「ヒトは自分の意思で咲くの、生死は決められないケド歩く道は自分で決める」
 言って、ルキアは目を細めた。
「……人の生と、線香花火は、似てる……?」
 礼夢はそう呟くと、静かに消えゆく線香花火の灯りを見つめた。

 ***

 花火を終えた一行は、帰り道を共に歩いていた。
 帰り道は然程違わない。
 4人は歩きながら、背中を見護り追いかけてくる月の存在を感じていた。
「こういうのも、悪くないね」
 昼間のヒマワリ畑、夜の花火を思い出し、ルキアが口にする。
 その声に礼夢が頷くと、彼女の唇に笑みが刻まれた。
「来年もまた……こんな風に過ごせると良いね……」
 ふわりと微笑んだ顔に、ルキアが笑みを返す。
「本当に、今日は愉しかった。こんな愉しい日を過ごせる時が来るなんて思わなかったよ。またいつか、皆で来よう。必ず、ね」
 日常に戻れば危険な任務も待っているだろう。
 それらは彼らの命を奪ってしまうかもしれない。それでもその考えを一掃させ、未来を望む記憶が出来た。
 その事にレインは願いにも近い、想いを口にする。
 そしてそれを聞き止めたリリナが、荷物を手にニコリと笑んだ。
「はい。また、来ましょうね」
 こうして、夏の日のひと時は、楽しい思い出を4人に与え、幕を閉じたのだった。


――END...



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【 gc2524 / レインウォーカー / 男 / 22 / フェインサー 】
【 gb9436 / 夢守 ルキア / 女 / 15 / ストライクフェアリー 】
【 gc2236 / リリナ / 女 / 14 / サイエンティスト 】
【 gc3884 / 幽噛 礼夢 / 女 / 16 / ダークファイター 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
はじめまして、朝臣あむと言います。
この度はココ夏!ドリームノベルのご発注ありがとうございました。
一番損な役回りになってしまったかもしれないレインPCですが、個人的には好きな設定でとても動かし易かったです。
少しでも満足いただける作品に仕上がっている事を願い、ご納品させて頂きます。
また、他のPC様のノベルを読むと、また違った視点で読めるようになっています。
よろしければ、ご一緒に参加されたPC様のお話も読んでみてください。

もし不備、気になる点等がありましたらご遠慮なくリテイクしてください。
この度はご発注頂き、本当に有難うございました。
ココ夏!サマードリームノベル -
朝臣あむ クリエイターズルームへ
CATCH THE SKY 地球SOS
2010年09月03日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.