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『Summer vacation in CTS 〜幽噛 礼夢〜 』
幽噛 礼夢(gc3884)
 
 耳を澄ませば聞こえてくる蝉の声。
 息を吸い込めば胸に届く潮の香り。
 瞼を開くと飛び込んでくる色鮮やかな景色。

――夏到来、思い出作り。


 ***


 蝉の音が響き渡る中、幽噛 礼夢は目を覚ました。
 時計を見ればいつもよりも少し早い時間。
 彼女は前髪に隠れた瞳を瞬かせると、小さく伸びをして起きあがった。
「……良い、天気……」
 僅かな隙間から差し込む光は、今日も暑くなる事を予想させる。
 普段なら、これが幽鬱だったりするのだが、今日はこのことが嬉しかった。
 彼女は布団から抜け出すと、手早くそれを畳んだ。
 そして髪を結いあげて窓を開ける。
 そこから入り込んでくる風は、生温いが気持ちが良い。それを胸一杯に吸い込むと、出掛けるための準備に入った。
「今日着る物はこれで……あとは、これを……」
 用意する声が、心なしか弾んでいる。
 そうして準備を終えると、気持ちを引き締める意味で帯を締め、時計に目を落とした。
「……そろそろ、時間だね……」
 知らず零れた笑顔。
 それがこれから起こることを楽しみにしていると告げる。
 礼夢は用意した荷物を手に取ると、期待を胸に部屋を出て行った。


   ***


 地平線が臨める景色。
 澄んだ青空が何処までも続き、地面を埋め尽くす金色の花たちが見事なこの場所に、礼夢は友人たちと共に訪れた。
 風を受けて重そうに揺れる金の花――ヒマワリ。
 それを目にした礼夢は、胸の前で手を組む。
「皆と一緒に過ごすのは兵舎くらいしかなかったけど……こういう場所で過ごすのは始めてだよね……」
 口にして、こみ上げる不思議な感情に、知らず頬が綻ぶ。
 共にこの場を訪れた皆は、礼夢と同じ傭兵だ。
 バグアやキメラと戦い、常に戦場に身を置く者たち。そんな彼らと共に戦場ではない場所へ来れたことが嬉しい。
 初めての場所、初めてのこと……だからこそ、楽しみにしていたのだ。
 そして、目の前の景色を見て、その想いは一層強くなっている。
「噂には聞いてたけど、凄いもんだねぇ」
 聞こえた声に目を向けると、傭兵仲間のレインウォーカーがヒマワリ畑を見つめて微笑んでいた。
 彼も礼夢と同じ気持ちなのだろうか。
 そう思いながら足を進めると、彼女の手がヒマワリに触れた。
「……ヒマワリはあまり見たこと無いかも」
 呟いて手にした花弁。
 しっとりとしていて、布に触れるのとも、動物に触れるのとも違う感覚がする。
 触れていると何故だか落ち着くような、そんな感覚に目を瞬いた。
「珍しいかい?」
 礼夢が花に触れているのが気になったのだろうか。
 夢守 ルキアが声をかけて来た。
 その声に彼女を見てから花弁に視線を戻す。
「珍しい……そう、かも?」
 緩やかに傾げた首に合わせて、長い髪が揺れる。
 こうしてヒマワリを見たことが無かった。
 それは彼女の過去のせいなのか、それとも彼女の性格のせいなのかは分からないが、今は無かった事を実現することが出来る。
「ちょっと、観察してみようかな……?」
 こんな機会は滅多にないかもしれない。
 そう思うと余計に興味が出てくる。
 そんな礼夢にルキアは少年に近い笑みを浮かべると、彼女の肩をポンッと叩いた。
「君がそうしたいのならしてみると良い」
「……うん」
 頷く礼夢に笑みを向け、ルキアは彼女の傍を離れて行った。
 きっと邪魔をしないように、などの配慮があるのだろう。
 それを受けて改めて視線を花弁に向けると、あることに気付いた。
 花が全て空を仰ぐように上を向いている。
「確か、ヒマワリって……太陽の動きを追うん、だっけ……?」
 太陽に焦がれるように上を向く花たち。
 その姿を見て思い出した知識に、「嘘じゃないんだ」と声が漏れる。
 そして再び花を見ようとした所で、彼女の動きが止まった。
「……レイン、如何したの?」
 皆の輪から抜けて歩き出したレインに問いかける。
 その声に足を止めるでもなく、彼は1つの花の前までやってくると、それに手を伸ばした。
 重いのだろうか。俯いて皆に背を向ける花に礼夢の目が瞬かれる。
「これ、種がいっぱいだねぇ」
 よく見れば、この花だけ種が詰まっている。
 だから頭を下げていたのだ。
 レインは自らの手に種を落とすと、皆に差し出した。
「どう? ボクのガレージも、来年は植えてみようかなぁ?」
 ニッと笑って種を取りあげる。
 その仕草に礼夢もいくつか種を手に取った。
「たまには、こういうのも良いよねぇ」
 聞こえるレインの声に頷きながら種を眺める。
 これが土に植え、大事に育てることで、あんなに大きな花になる。それは考えるだけでもわくわくする不思議な感覚だった。
 礼夢は種を握りしめてそっと懐にしまう。と、そこにルキアの声が聞こえてきた。
「レイン、勝負をしないかい?」
「勝負?」
 顔をあげた彼女の目に、首を傾げるレインの姿が入る。
「そうさ。一番キラキラしたヒマワリを見つけた方が勝ちね!」
「はぁ?」
 レインが疑問を口にするよりも早く、ルキアはヒマワリ畑に向かって走り出した。
 その姿にレインは呆れたように額に手を添え、そこにリリナが顔を覗かせる。
「あ、面白そう……あたしも参加しますっ!」
 ぐっと拳を握って頷くリリナに、レインは驚いたように目を瞬いた。
「参加って‥…おい!」
 パタパタ駆けて行くリリナに伸ばした手が虚しく宙を掻く。そうして花畑に消えたリリナは何処へやら。
「……見えなくなってる」
 確かに、ヒマワリの背に負けてリリナの姿が見えない。
 時折、花が揺れるので大体はその辺りにいるのだろう。
「リリナは、小柄だから……」
 楽しそうに聞こえる声に、礼夢も自然と笑顔が零れる。
 そして花畑の方から大きな声が聞こえて来た。
「センセイ、お願いしますっ!」
 ルキアだ。
 彼女はヒマワリの合間から顔を覗かせると、大きく手を振っている。
「……先生?」
「おまえのことじゃない?」
 レインの言葉を受けて「センセイ?」と再度呟く。
 ルキアは礼夢が刃物の扱いに長けている事を依頼で知っている。だからこそ、彼女に花を取って貰おうとしたのだ。
「センセイ……うん、今行く」
 言って、礼夢は花畑に駆けて行った。

   ***

 昼間の賑わいは何処へやら。
 日が落ちて、昼には空を向いて咲いていたヒマワリたちが、月に背を向けている。
 そんな中、4人は僅かに花畑から離れた場所で、浴衣に身を包み花火を始めていた。
 礼夢が着るのは彼女に良く似合う緑を基調とした浴衣だ。
 質素だが、普段着物を着なれている彼女は、すんなりと浴衣も着こなしている。
「ふふ、サイエンティストとしてはオリジナル花火を作っておくものなのです」
 リリナはそう言って、不敵な笑みを覗かせながら花火を取りだした。
 その種類は様々で、中には見たことのない花火まで混じっている。
 だがレインはそれらを見て疑問を感じたようだ。
「どこがオリジナルなんだ?」
 どうやら出された花火の中に、市販の物も混じっているようだ。
 その声を聞いて、リリナは目をキラキラさせて人差し指を立てて見せる。
 昼間のヒマワリ畑を見ていた時よりも、目が輝いている気がするのはこの際伏せておこう。
「えと……手持ち花火は普通ですが、こっちは違うんです」
 そう言って、見せられたのは、市販されている花火と相違ない筒型の花火だ。
「何処が違うんだ?」
「それは、秘密です。まずは、これで遊びましょう」
 リリナは楽しげに笑うと、皆に手持ち花火を配った。
 礼夢はリリナから受け取った花火をじっと見つめた。
 花火は嫌いじゃない。だが、強い光が得意ではなかった。
 だから躊躇っていたのだが、それに逸早くリリナが気付いた。
「えと……花火、ダメです?」
「あ、いや……違うんだ。強い光が、苦手で……」
 折角花火を用意してくれた手前、このような事を言って良いのか迷う。それでも口にすると、リリナは納得いったように頷き、袂から花火を取りだした。
「火薬の量を押さえてある花火です。良ければ、これをしてみませんか?」
「……火薬の量、を?」
 ニコリと笑って差し出された花火。
 それを手にしてじっと見つめる。
 その上で火を灯すと、リリナが言うように静かで落ち着いた火の花が咲き始めた。
 現存する花で例えるなら、カスミソウが違いだろうか。パチパチと静かに広がる花に、礼夢の目が自然に綻ぶ――と、その目が直ぐに上がった。
「ちょっと待てぇ! 今、何処から出した!」
「秘密ですよ」
 どうやら袂から花火を取りだした事に異論があるらしい。
 だが礼夢は気にせずに、花火に視線を向けると、再び笑みを零した。
「……綺麗……」
 こうして皆で花火を続けたのだが、こうした行事は徐々に盛り上がるのが常。
 4人だけの花火大会も例に漏れず……
「花火と言ったらやっぱ打ち上げ花火だよねぇ」
 レインのこの声に、サイエンティストのリリナの目が光った。
 先ほど並べた花火の中から、1つの花火を手にすると大きく掲げて見せた。
「これ、自信作です!」
 手にしているのは筒型の花火。
 一見すると普通の置き花火なのだが、自信作ということはリリナが作ったということだろう。
「それ、華やかなの?」
「火薬は専門ではないので簡単ですが、噴水花火と打上花火を合わせた感じになっていると思います」
 レインの言葉に応えるリリナは、この花火を試していない。
 一応、試作としていくつか用意したのだが、試す時間が無かったのだ。
 その為、この花火を作った彼女にも、どのような出来になっているのかわからなかった。
「花火大会と言えば、爆竹じゃないのかい?」
 レインとリリナの会話を聞き留め、間違った知識を披露するのはルキアだ。
「花火と言えば、手持ち花火に打上花火、噴水花火などです」
「手持ち花火に、打上花火……?」
 呟いて視線を落としたルキアの手には、手持ち用の花火が握られている。確かにそれは地面に置いて使用するのは不釣り合いだろう。
「これも手持ちかな?」
 ルキアが地面に置かれた花火を手に取った。
 筒型の少し大きめの花火。
 それを目にしたレインが慌てて手を伸ばす。
「る、ルキア、それ――」
「火はレディが怪我すると危ないから、私が点けよう」
 そう言って、ルキアが花火に火を灯すのと、レインが止めに入るのはほぼ同時だった。
――シャアアアアアッ!
 勢い良く噴き上がった花火に、レインが飛び退く。
 流石は能力者だ。
 こういう時の反応は早い。だが、心臓はバクバク言っているようで、そこを抑えながらレインは叫んだ。
「ルキア! それは手に持つものじゃないっ!」
「? でも、手持ち花火って……」
 カクリと首を傾げたルキアに、レインはふるふると首を横に振った。
 そこにリリナが近付き、地面に置かれている他の筒型の花火に火を灯した。
「それは噴水花火で、地面に置いて使うんです」
 着火された直後、空に向かって噴き上がる花火にルキアの目が瞬かれる。
 金色の火花が、小さく弾けながら空に向かって行く。
 その姿は、手で持つよりも迫力があり、見る者の心を奪って行く。
「……綺麗だ。それに――熱くない」
「だろうねぇ」
 苦笑を滲ませ頷く。
 その内心は定かではないが、何処となくホッとした雰囲気が漂っているのは事実だ。
 それに気付いたルキアは、忍ばせておいた花火を取り出すと、ニッコリ笑って火を付けた。
「じゃあ、これはどうかな! ヤケクソだよっ!」
「うん? ――って、えぇぇぇ!!??」
 自らに向かって投げ込まれた花火に、レインが飛び退く。だが、時既に遅し。
 くるくる回る花火が足元で盛大に弾ける。
 それに踊るように逃げ惑うレインに、ルキアは勿論、リリナも笑った。
「……あれは、鼠花火……?」
「うん、さっきリリナ君が持っていたのを貰ったんだ」
 礼夢の声にルキアはしれっとして頷く。
 そして視線をレインに戻すと、更に鼠花火を追加してた。
「おいっ! あちちちッ、ちょ、ちょっと待てってぇ!!!」
 バチバチ弾け、くるくる追いかけてくる花火。
 それに合わせて踊るレインの姿に、礼夢はクスリと笑みを零した。

 花火が一通り終わり、始まる頃には近くにあった月も、今は距離を置いて腰を据えいる。
 そろそろ遊びの時間もお終いだ。
「では、最後に打上花火を……」
 リリナはそう言うと、持って来ていた花火の中でも一番大きい花火をセットした。
 そして――。
――ドーン……、ドドーンッ。
 激しい音を立てて打ちあがる花火。
 それを、ヘルメットを被って見上げたリリナは満足そうな笑顔を覗かせる。
 空に打ちあがる大輪の花。
 4人はそれを静かに見つめた。
 そして全ての花火が終わると、最後のとっておきが出された。
「最後はやっぱり線香花火とかでしょうか……?」
 取りだされた房状のそれ。
 リリナはそれを均等に分けると皆の手に持たせた。
 そして一本のロウソクに、それぞれが線香花火を近付ける。
「前に見たセンコウと違う――」
「センコウ……お線香、ですか?」
「そりゃぁ、花火じゃないな。線香花火ってのはこういうのだ」
 レインはそう言うと、花火に火を付けた。
 静かに小さな火花を散らすそれに、礼夢や他の2人の目も向かう。
「綺麗……あっ」
 ぽとりと落ちた火の玉に思わず声を零す。
 そして、手にしている自分の線香花火を見ると、その場にしゃがんで線香花火を火に近づけた。
「……ボクも、やる」
 そっと引火した火を見ながら、上がり始める小さな花を見つめた。
 心が落ち着く、綺麗な余韻を残す花火に、切ないような、寂しいような感情がわき上がる。
「花火の終わりは切ない感じがしますけど、さっぱり諦めて貰いたいのですよ」
 終わりは潔く。それを花火に求めるリリナに、礼夢は改めて線香花火を見た。
 そこにレインの声が響く。
「線香花火、静かに輝き静かに消える。炎は小さくてもしっかり暗闇を照らす。昔はそんなに好きじゃなかったけど、今見てみると結構いいね、こいつも」
 確かに悪くない。
 切なさや寂しさは感じるが、それが嫌だとは思わない。むしろ、もっとこうした感情を味わっていたい。
 そんな奇妙な感覚に襲われる。
「ヒトは自分の意思で咲くの、生死は決められないケド歩く道は自分で決める」
 言って、ルキアは目を細めた。
「……人の生と、線香花火は、似てる……?」
 礼夢はそう呟くと、静かに消えゆく線香花火の灯りを見つめた。

 ***

 花火を終えた一行は、帰り道を共に歩いていた。
 帰り道は然程違わない。
 4人は歩きながら、背中を見護り追いかけてくる月の存在を感じていた。
「こういうのも、悪くないね」
 昼間のヒマワリ畑、夜の花火を思い出し、ルキアが口にする。
 その声に礼夢が頷くと、彼女の唇に笑みが刻まれた。
「来年もまた……こんな風に過ごせると良いね……」
 ふわりと微笑んだ顔に、ルキアが笑みを返す。
「本当に、今日は愉しかった。こんな愉しい日を過ごせる時が来るなんて思わなかったよ。またいつか、皆で来よう。必ず、ね」
 日常に戻れば危険な任務も待っているだろう。
 それらは彼らの命を奪ってしまうかもしれない。それでもその考えを一掃させ、未来を望む記憶が出来た。
 その事にレインは願いにも近い、想いを口にする。
 そしてそれを聞き止めたリリナが、荷物を手に微笑んだ。
「はい! また、来ましょうね!」
 こうして、夏の楽しいひと時は、新しい思い出を4人に与え、幕を閉じたのだった。


――END...



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 gc3884 / 幽噛 礼夢 / 女 / 16 / ダークファイター 】
【 gb9436 / 夢守 ルキア / 女 / 15 / ストライクフェアリー 】
【 gc2236 / リリナ / 女 / 14 / サイエンティスト 】
【 gc2524 / レインウォーカー / 男 / 22 / フェインサー 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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はじめまして、朝臣あむと言います。
この度はココ夏!ドリームノベルのご発注ありがとうございました。
静かな雰囲気を意識して幽噛PCを動かさせて頂きました。
少しでも満足いただける作品に仕上がっている事を願い、ご納品させて頂きます。
また、他のPC様のノベルを読むと、また違った視点で読めるようになっています。
よろしければ、ご一緒に参加されたPC様のお話も読んでみてください。

では、もし不備、気になる点等がありましたらご遠慮なくリテイクしてください。
この度はご発注頂き、本当に有難うございました。
ココ夏!サマードリームノベル -
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CATCH THE SKY 地球SOS
2010年09月03日

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