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『Summer vacation in CTS 〜リリナ〜 』
リリナ(gc2236)
 
 耳を澄ませば聞こえてくる蝉の声。
 息を吸い込めば胸に届く潮の香り。
 瞼を開くと飛び込んでくる色鮮やかな景色。

――夏到来、思い出作り。


 ***


 壁に掛けられた白衣と、机の上に置かれた安全メット――ここはリリナの部屋だ。
 机の上に広げられた何かの設計図と、紙などの残骸。
 その傍らに置かれた大きめの鞄が、彼女の作業の成果を物語っている。
 リリナはその脇で鏡を覗き込みながら、出掛ける準備をしていた。
「……うん、準備はバッチリです」
 言って、髪を整えて顔を上げる。
 その目に眩しい光が飛び込んでくると、彼女の茶色い瞳が細められた。
「……良いお天気……楽しくなりそうです」
 自然と笑みが零れれば、鏡の向こうの自分が笑い返してくる。
 それに笑顔を返すと、リリナは用意しておいた鞄を手に取った。
 外は快晴、朝を迎えたばかりだというのに、気温はぐんぐん上昇している。
「暑くなりそうですね」
 遠くからは空を駆ける戦闘機らしき音も聞こえる。
 リリナはその音を聞きながら、これから起こるであろう楽しみを想像して、胸を弾ませながら部屋を出て行った。


   ***


 地平線が臨める景色。
 澄んだ青空が何処までも続き、地面を埋め尽くす金色の花たちが見事なこの場所に、リリナは友人たちと共に訪れた。
 風を受けて重そうに揺れる金の花――ヒマワリ。
 それを見たリリナは目を輝かせてその光景を見つめた。
「わあ、凄いです!」
 自分よりも背の高い花。
 それが空目掛けて一斉に咲いているのだ。
 その姿は圧巻以外のなにものでもないだろう。
 しかも地平線が見えなくなるその場所まで埋め尽くしているヒマワリは、興奮しない訳にはいかない。
「あたし、ヒマワリにお水を上げてみたいです!」
 これだけのヒマワリに水をあげるにはどれだけ時間が掛かるだろうか。
 それを考えるだけでも、興奮してくる。
 そんな思いで提案すると、隣でヒマワリ畑を見つめていたレインと目があった。
 その瞬間、頬が少しだけ赤く染まるのだが、それは陽の光によってあまり目立たない。
 しかも当のレインは、リリナと目があった瞬間、ニヤリとその口角を歪ませてきた。
「あんまりはしゃぎ過ぎて迷子になったりするなよぉ」
――はしゃぎ過ぎて迷子。
 その言葉に目がぱちくり動く。そして言葉を理解した瞬間、リリナの頬がむうっと膨れた。
「な、なりませんよ……たぶん」
 語尾が小さくなってしまうのは、自信の無さの表れだ。
 もうそんなに子供ではない。だから迷子になるはずもない。
 しかし、自分より背の高いヒマワリに囲まれたら迷子にならない可能性はなくはなかった。
 だからこそ、最後は自信が無くなったのだが、その様子にレインは「そうかそうか」と頷きを返すのみ。
「……絶対に、信じてないです」
 ポツリと呟き、口端を下げると、そこに夢守 ルキアが入ってきた。
「レイン、あまりリリナ君を虐めるものではない。リリナ君、君はヒマワリの花言葉を知っているかい?」
「花言葉、ですか……?」
 突然の言葉にリリナの目が瞬かれた。
 ヒマワリの花言葉。
 それを思い浮かべて首を傾げる。
「えっと……憧れ、熱愛……あなただけを見つめています……?」
 ボソボソと紡がれる言葉にルキアは「なるほど」と頷く。
「その花ことばの意味で、納得かな」
「何がです?」
 ルキアの言いたい事がイマイチつかめない。
 そんな様子で問い返すリリナに、彼女は1つ頷きを向けて空を仰ぎ見た。
「アポローンに恋した乙女が、姿を変えたんだ。ずっと見てられるように」
 見上げた先には、肉眼では確認できない程に輝く太陽がある。
 それを同じように見上げたリリナは、片手を空に翳すと目を細めた。
「アポローンに恋をした乙女……太陽に恋をしたヒマワリ……素敵ですね」
 そう言葉を零したリリナに、ルキアは頷きを返す。
 そして彼女の目が花畑の一角を捉えた。
 皆の輪から抜け出したレインが下を向くヒマワリに手を添えている。
 そして、彼が手を差し伸べて皆を振り返った。
「どう? ボクのガレージも、来年は植えてみようかなぁ?」
 掌に種を乗せて提案する彼に、リリナはルキアと顔を見合わせた。
 そして彼に駆け寄ると、自分の分の種を手にする。
「たまには、こういうのも良いよねぇ」
 聞こえるレインの声に「確かに」と頷く。
 手にした種は思ったよりも小さいが、これが土に植え、水をやり、やがてここに咲くヒマワリのように大きくなる。
 それを考えると自然と笑みが零れた。
 そして種をポケットにしまった所で、ルキアの声が聞こえて来た。
「レイン、勝負をしないかい?」
「勝負?」
 首を傾げるレインに、ルキアは得意げに笑って見せる。
 彼女の紫色の瞳が、嬉々としているのは何かを企んでいるからだろう。
「そうさ、これは勝負だよ。一番キラキラしたヒマワリを見つけた方が勝ちね!」
「はぁ?」
 レインが疑問を口にするよりも早く、ルキアはヒマワリ畑に向かって走り出した。
 その姿にレインは呆れたように額に手を添えたが、そこにリリナが顔を覗かせる。
「あ、面白そう……あたしも参加しますっ!」
 ぐっと拳を握って頷くリリナに、レインは驚いたように目を瞬く。
「参加って‥…おい!」
 パタパタ駆けて行くリリナに伸ばした手が虚しく宙を掻く。そうして花畑に消えたリリナは何処へやら。
「……見えなくなってる」
 確かに、ヒマワリの背に負けてリリナの姿が見えない。
 時折、花が揺れるので大体はその辺りにいるのだろう。
「リリナは、小柄だから……」
 その声が聞こえる訳も無く、リリナはヒマワリに囲まれながら、一番輝く花を探した。
 そうしてふと、先程の言葉を思い出す。
――アポローンに恋した乙女が、姿を変えたんだ。ずっと見てられるように。
「恋した相手をずっと見ていたいからヒマワリに……そして、花言葉は『あなただけを見つめています』……ピッタリですね」
 言って、なんとなく笑みが零れる。
 内に秘めた想いがあるのはヒマワリも自分も同じ。そう思うと、どの花も輝いて見せるのは自分だけだろうか。
 リリナは1つの花を目に止めると、そこに手を伸ばした。
 そこへ大きな声が聞こえてくる。
「センセイ、お願いしますっ!」
 ルキアだ。
 彼女はヒマワリの合間から顔を覗かせ、礼夢に向かって声をかけている。
「もう見つけたんですね。これは、負けていられません!」
 そう言うと、リリナは花から手を離して花畑の中を駆けて行った。

   ***

 昼間の賑わいは何処へやら。
 日が落ちて、昼には空を向いて咲いていたヒマワリたちが、月に背を向けている。
 そんな中、4人は僅かに花畑から離れた場所で、浴衣に身を包み花火を始めていた。
 リリナが着るのは桜の花びらが舞い散る浴衣。髪を結いあげ、少しだけ大人っぽく見せている。
「ふふ、サイエンティストとしてはオリジナル花火を作っておくものなのです」
 リリナはそう言って、不敵な笑みを覗かせながら花火を取りだした。
 その種類は様々で、中には見たことのない花火まで混じっている。
 だがレインはそれらを見て疑問を感じたようだ。
「どこがオリジナルなんだ?」
 どうやら出された花火の中に、市販の物も混じっているようだ。
 その声を聞いて、リリナは目をキラキラさせて人差し指を立てて見せる。
 昼間のヒマワリ畑を見ていた時よりも、目が輝いている気がするのはこの際伏せておこう。
「えと……手持ち花火は普通ですが、こっちは違うんです」
 そう言って、見せられたのは、市販されている花火と相違ない筒型の花火だ。
「何処が違うんだ?」
「それは、秘密です。まずは、これで遊びましょう」
 リリナは楽しげに笑うと、皆に手持ち花火を配った。
「はい、レインにもです」
 ニコリと笑って差し出した花火、その瞬間、彼女の動きが止まった。
 故意ではないのだが指が触れてしまったのだ。
 その事に頬が熱くなるのだが、不自然に離す訳にも行かず、ぎこちなく固まってしまう。
「っと、ごめん……」
 小さく呟かれた声に、小さく「いいえ」とだけ言葉を返す。
 そうして手を離すと、ルキアの元に駆けて行った。
「こ、これが、私の作った花火です!」
 言って、物凄い勢いで花火を差し出したリリナに、ルキアは目を瞬く。
 何かあったのかと首を傾げてはいるが、言える訳もなく。
「この花火は、七色変化するんです。……あれ?」
 誤魔化すように早口で説明し始めた彼女の目が、礼夢を捉えて止まった。
 リリナから受け取った花火をじっと見つめるだけの彼女に、パタパタと近付いて行く。
「えと……花火、ダメです?」
「あ、いや……違う。強い光が、苦手で……」
 躊躇いがちに言葉を口にする彼女に、リリナは納得いったように頷いた。
 そして袂から花火を取り出す。
「火薬の量を押さえてある花火です。良ければ、これをしてみませんか?」
「……火薬の量、を?」
 ニコリと笑って差し出された花火。
 それを手にしてじっと見つめる。
 その上で火を灯すと、リリナが言うように静かで落ち着いた火の花が咲き始めた。
 現存する花で例えるなら、カスミソウが違いだろうか。
「ちょっと待てぇ! 今、何処から出した!」
「秘密ですよ」
 折角の落ち着いた雰囲気を崩しかねないレインの声に、リリナはきょとんと目を瞬いた。
 きょんと目を瞬くリリナに「オカシイだろ!」と突っ込みが入るが、礼夢やルキアは気にした素振りすら見せない。
「おチビさん、そこに花火を入れるのはダメだろぅ?」
「何でですか? 他に入れる場所が無いです」
「いや、鞄があるだろぉ」
 鞄よりも、ここの方が便利です。
 そう言葉を返したリリナに、レインはがっくり脱力したのだった。
 こうして花火は続き、この手の行事と言うのは徐々に盛り上がって行くのが常だ。
 そして4人だけの花火大会も例に漏れず……
「花火と言ったらやっぱ打ち上げ花火だよねぇ」
 レインの声に、サイエンティストのリリナの目が光った。
 彼女は先ほど並べた花火の中から、1つの花火を手にすると大きく掲げた。
「これ、自信作です!」
 手にしているのは筒型の花火。
 一見すると普通の置き花火なのだが、実はこれ、リリナオリジナルの手作り花火だ。
「それ、華やかなの?」
「火薬は専門ではないので簡単ですが、噴水花火と打上花火を合わせた感じになっていると思います」
 レインの言葉に応えるリリナは、この花火を試していない。
 一応、試作としていくつか用意したのだが、試す時間が無かったのだ。
 その為、この花火を作った彼女にも、どのような出来になっているのかわからなかった。
「花火大会と言えば、爆竹じゃないのかい?」
 レインとリリナの会話を聞き留め、間違った知識を披露するのはルキアだ。
「花火と言えば、手持ち花火に打上花火、噴水花火などです」
「手持ち花火に、打上花火……?」
 呟いて視線を落としたルキアの手には、手持ち用の花火が握られている。確かにそれは地面に置いて使用するのは不釣り合いだろう。
「これも手持ちかな?」
 ルキアが地面に置かれた花火を手に取った。
 筒型の少し大きめの花火。
 それを目にしたレインが慌てて手を伸ばす。
「る、ルキア、それ――」
「火はレディが怪我すると危ないから、私が点けよう」
 そう言って、ルキアが花火に火を灯すのと、レインが止めに入るのはほぼ同時だった。
――シャアアアアアッ!
 勢い良く噴き上がった花火に、レインが飛び退く。
 流石は能力者だ。
 こういう時の反応は早い。だが、心臓はバクバク言っているようで、そこを抑えながらレインは叫んだ。
「ルキア! それは手に持つものじゃないっ!」
「? でも、手持ち花火って……」
 カクリと首を傾げたルキアに、レインはふるふると首を横に振った。
 そこにリリナが近付き、地面に置かれている他の筒型の花火に火を灯した。
「それは噴水花火で、地面に置いて使うんです」
 着火された直後、空に向かって噴き上がる花火にルキアの目が瞬かれる。
 金色の火花が、小さく弾けながら空に向かって行く。
 その姿は、手で持つよりも迫力があり、見る者の心を奪って行く。
「……綺麗だ。それに――熱くない」
「だろうねぇ」
 苦笑を滲ませ頷く。
 その内心は定かではないが、何処となくホッとした雰囲気が漂っているのは事実だ。
 それに気付いたルキアは、忍ばせておいた花火を取り出すと、ニッコリ笑って火を付けた。
「じゃあ、これはどうかな! ヤケクソだよっ!」
「うん? ――って、えぇぇぇ!!??」
 自らに向かって投げ込まれた花火に、レインが飛び退く。だが、時既に遅し。
 くるくる回る花火が足元で盛大に弾ける。
 それに踊るように逃げ惑うレインに、ルキアは勿論、リリナも笑った。
「……あれは、鼠花火……?」
「うん、さっきリリナ君が持っていたのを貰ったんだ」
 礼夢の声にルキアはしれっとして頷く。
 そして視線をレインに戻すと、更に鼠花火を追加してた。
「おいっ! あちちちッ、ちょ、ちょっと待てってぇ!!!」
 バチバチ弾け、くるくる追いかけてくる花火。
 それに合わせて踊るレインの姿に、リリナは笑い声を零した。

 花火が一通り終わり、始まる頃には近くにあった月も、今では距離を置いて腰を据えいる。
 そろそろ遊びの時間もお終いだ。
「では、最後に打上花火を……」
 リリナはそう言うと、持って来ていた花火の中でも一番大きい花火をセットした。
 そして――。
――ドーン……、ドドーンッ。
 激しい音を立てて打ちあがる花火。
 それを、ヘルメットを被って見上げたリリナは満足そうな笑顔を覗かせる。
 空に打ちあがる大輪の花。
 4人はそれを静かに見つめた。
 そして全ての花火が終わると、最後のとっておきが出された。
「最後はやっぱり線香花火とかでしょうか……?」
 取りだされた房状のそれ。
 リリナはそれを均等に分けると皆の手に持たせた。
 そして一本のロウソクに、それぞれが線香花火を近付ける。
「前に見たセンコウと違う――」
「センコウ……お線香、ですか?」
「そりゃぁ、花火じゃないな。線香花火ってのはこういうのだ」
 レインはそう言うと、花火に火をつけた。
 静かに小さな火花を散らすそれに、礼夢や他の2人の目も向かう。
「綺麗……あっ」
 ぽとりと落ちた火の玉に思わず礼夢が声を零した。
 その声にレインが笑って次の線香花火に火をつける。
「……ボクも、やる」
 レインの線香花火を見ていた礼夢は、自分の分の花火に火をつけると、その場にしゃがみ込んで花火を見つめた。
 それに習ってリリナも線香花火に火を灯す。
「花火の終わりは切ない感じがしますけど、さっぱり諦めて貰いたいのですよ」
 終わりは潔く。それを花火に求めるリリナに続いてレインも呟く。
「線香花火、静かに輝き静かに消える。炎は小さくてもしっかり暗闇を照らす。昔はそんなに好きじゃなかったけど、今見てみると結構いいね、こいつも」
 リリナはその声を聞いて密かに微笑んだ。
 確かに、線香花火は綺麗だ。
 それに良いと感じる気持ちも同じ。
 それはこの場の皆が感じていることだろう。
「ヒトは自分の意思で咲くの、生死は決められないケド歩く道は自分で決める」
 言って、ルキアは目を細めた。
「……人の生と、線香花火は、似てる……?」
 礼夢はそう呟くと、静かに消えゆく線香花火の灯りを見つめた。

 ***

 花火を終えた一行は、帰り道を共に歩いていた。
 帰り道は然程違わない。
 4人は歩きながら、背中を見護り追いかけてくる月の存在を感じていた。
「こういうのも、悪くないね」
 昼間のヒマワリ畑、夜の花火を思い出し、ルキアが口にする。
 その声に礼夢が頷くと、彼女の唇に笑みが刻まれた。
「来年もまた……こんな風に過ごせると良いね……」
 ふわりと微笑んだ顔に、ルキアが笑みを返す。
「本当に、今日は愉しかった。こんな愉しい日を過ごせる時が来るなんて思わなかったよ。またいつか、皆で来よう。必ず、ね」
 日常に戻れば危険な任務も待っているだろう。
 それらは彼らの命を奪ってしまうかもしれない。それでもその考えを一掃させ、未来を望む記憶が出来た。
 その事にレインは願いにも近い、想いを口にする。
 そしてそれを聞き止めたリリナが、荷物を手にニコリと笑んだ。
「はい。また、来ましょうね」
 こうして、夏の日のひと時は、楽しい思い出を4人に与え、幕を閉じたのだった。


――END...



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 gc2236 / リリナ / 女 / 14 / サイエンティスト 】
【 gb9436 / 夢守 ルキア / 女 / 15 / ストライクフェアリー 】
【 gc2524 / レインウォーカー / 男 / 22 / フェインサー 】
【 gc3884 / 幽噛 礼夢 / 女 / 16 / ダークファイター 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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はじめまして、朝臣あむと言います。
この度はココ夏!ドリームノベルのご発注ありがとうございました。
いろいろ悩みましたが、リリナPCの想いや行動をこんな形で納めてみました。
少しでも満足いただける作品に仕上がっている事を願い、ご納品させて頂きます。
また、他のPC様のノベルを読むと、また違った視点で読めるようになっています。
よろしければ、ご一緒に参加されたPC様のお話も読んでみてください。

もし不備、気になる点等がありましたらご遠慮なくリテイクしてください。
この度はご発注頂き、本当に有難うございました。
ココ夏!サマードリームノベル -
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CATCH THE SKY 地球SOS
2010年09月03日

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