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『『黙示録の宝 ‥‥絡み付く蜘蛛糸‥‥』 』
マナウス・ドラッケン(ea0021)&ルザリア・レイバーン(ec1621)&シルヴィア・クロスロード(eb3671)&フレイア・ヴォルフ(ea6557)&クリステル・シャルダン(eb3862)&ジルベール・ダリエ(ec5609)

 その日、キャメロットに震撼が走った。
「デビルだ! デビルの襲撃だ!!」
 切り裂くような悲鳴と、逃げ惑う人々の声が、町中に木霊する。
 走り出しても、羽のあるデビルには人の逃亡など無駄な事。
 あっという間に追い詰められ、逃げ場を塞がれた。
『ギイシャシャシャシャ!』
 耳に触る音が頭に響く。腕に抱いている子供が鳴き声を上げた。
 逃げ出した母親は、もうダメだ。と頭を下げる。子供を胸にしっかり抱きしめて。
 目を閉じた瞬間。
『うぎゃあああ!!』
 悲鳴を上げたのは向こうであった。消失するデビル。眉間に突き刺さった弓矢がカランと地面に落ちた。
「大丈夫かい?」
 かけられた優しい声に母親はゆっくりと頭を上げる。
「もう、心配はいらないよ。騎士団の指示に従って逃げるんだ」
 そこには柔らかくほほ笑む冒険者の姿があった。

 それとほぼ同時刻。
「第一騎士部隊は、街道に急行! 門を閉ざすと共に王都へのこれ以上のデビルの侵入を許すな。
 第二、第三部隊は一般人の避難誘導と街内のデビルの殲滅! 冒険者と協力して一匹たりとも残してはならない!
 残りは城内で待機。王と王妃様をお守りしろ。では出動!」
「「「はい!」」」
 指示を下した円卓の騎士候補の指示に、騎士達は一片の迷いもなく命令通りに動き始める。
 大きく息を吐き出す暇もない。自身も次の目的へ動こうとしたその時。
「マナウス」
 静かな声がマナウス・ドラッケン(ea0021)を呼び止めた。
「これは!」
 自分を呼び止めた存在に気付いて彼は膝を折ろうとする。
 自らの主君と上司。最敬礼は基本だが、それを今は彼らの方が止めた。
「状況はどうだ?」
 王の言葉に円卓の騎士候補であり、今は若い騎士達を実質的に束ねる役割を持つマナウスは鋭い目で答える。
「芳しい、とは言えません。後手に回りました。敵は突然現れキャメロットのあちらこちらで襲撃を開始しています。複数個所で同時に発生した戦闘に自警団や見回りの騎士達の対応が追い付かないというところです。ですが今、王宮騎士団の三分の二を対応に差し向けましたし、冒険者ギルドにも伝令を飛ばし、協力を仰ぎましたので間もなく住民の避難および街に侵入したデビルの掃討はかなうと思います」
「なるほど。よい対応です。腕を上げたようですね」
 皮肉屋と言われる上司の素直な賛辞にマナウスは頭を下げる。
「ですが‥‥」
 一瞬の逡巡の後、顔を上げて何かを言いかけたマナウスを上司は軽く手で制して王に顔を向けた。
「王、今の話を聞いても分かる通りデビルは明らかに何かの目的を持って襲撃を仕掛けているようです。彼らの目的はおそらく‥‥」
「私の命‥‥、違うな。宝物庫の宝か」
「御意」
 マナウスは微かに唇を噛みしめた。
「デビル共が何を目的としているかは知らぬ。だが、数多くの犠牲と共にやっと手にした平和を失わせるわけにはいかぬ。マナウス! 街のデビルと王宮の警護は冒険者に任せ、お前は宝物庫の守備に当たれ。黙示録の宝をデビルに渡すな!」
「‥‥王!!」
 必死の思いでマナウスが顔を上げた次の瞬間。王宮がぐらりと揺れた。
 もちろんそれは比喩であるが、それに近い王宮を揺るがす力による衝撃が走ったのは紛れもない事実であった。
「行きなさい! マナウス。これは命令です!」
「はっ!!」
 円卓の騎士の命令に、円卓の騎士候補は走り出す。
 近くの兵士達に命令を出しながら走り出す彼は、ほんの喉まで出かかった告白を唾と共に己の中に飲み込んだのだった。

「大丈夫かい?」
 逃げ遅れたであろう親子をそっと抱き起してフレイア・ヴォルフ(ea6557)は微笑んだ。
「向こうの広場に騎士団がいる。そこまで走るんだ。できるね?」
「は、はい。ありがとうございました」
 母親はそう言って頭を下げ、走り出していく。
 彼女らを背中に庇うように立つと
「さて。まさかこんなことになっていようとはね」
 フレイアはそう言って弓に矢を番えた。無言で放った矢は屋根の上のデビルの眉間を貫いている。
「何が一体起きたのか? 誰か知っているのはいないかな?」
 敵を射抜きながら走るフレイアは目線の先に、おそらく自分よりは答えを持っている可能性の高い知人を見つけ微笑した。
「久しぶりだね?」
 人々の避難誘導と救出を手伝う冒険者の中に、ルザリア・レイバーン(ec1621)を見つけたのだ。
 世間話をしている余裕はないと解っているが、互いに微笑みあい。そして背中を合わせた。
「そっちの敵の数は?」
「約20。もうあらかた倒した。そっちは?」
「こっちもそれくらいかね? 避難誘導は進んでいるからもう大丈夫だと思うけど‥‥」
「それはよかった。だが‥‥解っている?」
「ああ。こいつらは囮っていうか、陽動だね。本気で戦おうという気配がない」
 話しながら襲い掛かってきたデビル二匹を二人は遠慮のかけらもなく袈裟懸けにし、撃ち落とす。
「おそらく、本命の為の時間稼ぎだろう。目的は‥‥おそらく王宮」
 苦い顔つきで唇を噛むルザリアは目線の向こう、ひときわ荘厳に聳え立つ王城を見つめた。
 それが解っていて動けない自分。微かに歯噛みする音が聞こえた。
「でも、何故今頃?」
「それは‥‥」
「フレイアさん! 後ろ!!」
 一瞬敵から視線が離れたフレイアにデビルが襲い掛かろうとする。だが白い光に遮られたデビルの爪は彼女の肩に微かに触れて後
『ぐぎゃああ!』
 消え失せる。
 動きが止まった喉元を逆に矢に貫かれたのだ。
「ありがとう。クリステル。あんたも出てきていたんだね?」
 フレイアが微笑を向けるその先にはクリステル・シャルダン(eb3862)が立っていた。
「私が、ご相談があってルザリアさんをお呼び出し致しました。話の途中にこんなことになってしまって‥‥」
「相談?」
 フレイアの傷の手当てをしながらクリステルが「はい」と頷く。
「砂塵の外套‥‥私がお預かりしていた黙示録の宝が無くなっていました。何者かに盗まれたようなのです‥‥」
「なんだって!? それであんた達に怪我は?」
「ありません。私にもペット達にも‥‥孤児院設立の手伝いに家に出入りして下さっている方達も‥‥」
「そうか‥‥なら、よかった」
 大きく息を吐き出しフレイアは安堵の笑みを浮かべた。
 もちろん、状況は最悪に近いものであるけれど‥‥。
「生きてさえいれば、なんとかできる。あたしも相談があるし、二人とも。ここが片付いたら詳しい話を聞かせてもらえるかい?」
「はい」
「承知」  
 そこまで話をし終えた時、待っていたかのように悲鳴が上がった。
 デビルの一団がまたやってきたようだ。
「これ以上は、許さない!!」
 先陣に切り込み、波状攻撃を続けるルザリア、それを援護するフレイア。そしてクリステル。
 彼らの視線の先には王城が、誇り高くも荘厳にまだ折れることなく立っていた。

 王城の正門を守るのは王宮騎士達。
 固く閉じられたその扉を開かんとするように、何十体ものデビル達は騎士達に襲い掛かり、また扉への体当たりを繰り返していた。
「怯むな! 絶対にデビルを門の中に入れてはならんぞ!!」
 騎士達の力は決して低いものではない。一対一、もしくは二対一であれば勝敗の天秤は騎士達に傾く。
 だが、途切れることなく襲い掛かってくるデビル達は三対一、どころか五対一、もしくはそれ以上で彼らに襲い掛かってくるのだ。
「うわああっ!!」
 若い従騎士の一人が追いつめられて剣を取り落した。そこを逃さずデビルが襲い掛かった。
 腹にデビルの爪が伸びる。従騎士は覚悟をして目を閉じた。
 だが
「えっ?」
 襲って来る筈の衝撃はいつまでもやってこず、従騎士は目を開く。
 そこには眉間を矢で射ぬかれ灰のように崩れ去るデビルの姿があった。
「目閉じたらあかん! まっすぐ敵を見るんや! ほら。早く!」
 振る声は城壁の上から。その声に従騎士は「はい!」と大きく返事をして再び剣を握った。
「まあ、受け売りやけどな」
 自嘲と苦笑の入り混じったような笑みを浮かべながら、ジルベール・ダリエ(ec5609)はまた矢を弓に番える。
 あの従騎士は共に訓練を受けた仲間だ。死なせるわけにはいかない。
 彼だけではない。ここで戦う者達全てが、今のジルベールにとっては大事な存在であった。
 冒険者の身でありながら、王宮の警備についた彼を、騎士達は仲間として、志を同じくする者として受け入れてくれた。
 近接戦闘を学びたいと言えば、共に練習をさせてくれた。
 家族や、友の話をし笑いあう彼らは冒険者とも何も変わらない。
 もし、ここで彼らが死ねば、待っている者達はきっと泣くだろう。
 そんなことはさせないと。言いながらジルベールは番えた矢を渾身の思いを込めて放った。
「惨事を繰り返したくない。誰かの泣き顔を見るんはもう沢山や。大きな物の為に戦うんはガラやないけど、俺は俺に出来る事をやる! 俺の仲間に手出しはさせへんで。まだまだ教わらなあかんことがぎょうさんあるんやからな!!」
 降る矢の雨。怯んだデビル達を騎士達が確実に捕えていく。
「やっぱ、近接戦闘より性に合うわ。頼むで。相棒」
 弓を握り、どれほどの時を経たのか。どれほどの敵を倒したのか。
 デビル達は正門を一匹たりとも潜ることなく姿を消した。
 正門を守った騎士達は己の役目を果たせたことに安堵の笑みを浮かべた。
 城下からもデビルの気配が焼失したのを確認し、ジルベールは眼下の仲間と指を立てあった。
 数か月ぶりのデビルの来襲はここに終わる。
 だが、その時、もう一つの戦いもまさに、終わろうとしていたのだった。

 ダン!!!
 マナウスの身体が空に浮かび、‥‥そして強烈な力によって壁に叩きつけられた。
「ぐあああっ!」
 口から吐き出される赤い血は、衝撃で喉か、その奥のどこかが傷ついたことを意味する。
 走る苦痛。全身にもはや傷のないところはない。
 それでも、マナウスはまた膝を折ろうとはしなかった。
 片手に王国の宝を鷲掴み、その身に友が持っていた筈の魔法の衣を纏う、己が養い親に。
「返‥せ。それは、平和を守る‥‥為に必要な、王国の‥‥宝だ」
「違うな。わが主復活の為に必要な我らの宝だ!」
 剣を支えに立ち上がるマナウスに、彼の目の前に立つ男は楽しげに笑って、手を伸ばした。
「ぐっ!!」
 懸命に踏みとどまるが、紡がれた風の魔法に抗いきれない。
 マナウスの身体は再び宙に浮き、そして地面に叩きつけられる。
「まだまだだな。魔法を使おうとする相手に対して正面から挑んでは勝ち目がないと教えた事を忘れたのか?」
 余裕以外の何も感じられない相手の態度に、動かない身体で、声でマナウスは懸命に反論する。
(忘れる訳はない。全ては貴方から教わったのだから‥‥)
 戦い方、戦闘の組み立て方その全てを彼に教えたのは目の前の男である。
 剣でまっすぐ踏み込んでも、フェイントをかけて横から仕掛けても常に、男はマナウスの先を呼んでしまう。
 そして、叩きつけられてしまうのだ。
 身も心も。
「さて、そろそろ刻限だ。王宮の黙示録の宝、頂いていく。‥‥マナウス、次に会う時まで他の宝を集めておくことだ。まだ先の提案は生きているぞ」
「逃げる‥‥気か? アムドゥ‥‥シアス。お前の‥‥目的は‥‥」
 振り返ろうとする男の、そのコートの裾を、マナウスは必死で掴んだ。逃がすまい、と。
 だが男はそれを軽く振り払う。
「いまだその時期ではない。時が来たら、いずれイヤでも知ることになるだろう‥‥」
 背を向けると男は悠々と王宮の長い廊下を歩き、消えた。
「ま‥‥て‥‥」 
 マナウスはその意識が消える瞬間まで、男の背に、その手を伸ばし続けていた。

「砂塵の外套は黙示録の宝と呼ばれるものの一つです。私がお預かりしていたのですが、うかつにも盗まれてしまいました。なんとお詫びしてよいか解りません」
 冒険者ギルドにて。
 頭を下げるクリステルをフレイアとルザリアは手で制した。
「今は、そんなことを言っている場合じゃないよ。‥‥でも、さ。そもそも黙示録の品ってのは何なんだい?」
「ただの武器防具では無いと?」
 二人の問いにクリステルは首を横に振る。
「解りません。一つ一つのアイテムとしての能力は普通のそれに比べて遥かに高いのですが、それらが何故黙示録の品、と呼ばれ、本来何に使うべきものなのかは、私達にも完全には解らないのです」
「黙示録の品はいくつあるのだろうか? その所有者は?」
「王宮にいくつか、あとは冒険者の方が個人で所有している者もあります。ただ、それが全てかどうかは‥‥」
「ならば、まずは残りの黙示録の品の確認と所有者への注意の呼びかけだな。それから、黙示録の品についてもっと情報が必要だ」
「私も、及ばずながらお手伝い致します。何か儀式に使うなら教会の非公開文書に手がかりがあるかもしれません」
 話を聞きながら、フレイアは王城を見つめていた。さっきまで尖塔の近辺を飛んでいたデビル達も、もうどこにも見えない。
「全て倒したのか、それとも‥‥」
 フレイアの手には旅の空にある友からの、王城を守って欲しいという手紙があった。
 黙示録の品を狙う存在のことも。
「そうか! 王宮にその宝があるというのなら‥‥あいつらの本当の狙いは!!!」
 突然立ち上がったフレイアに瞬きするルザリアとクリステルにフレイアは
「王宮にあるというならマナウスは何か知っているかもしれない。そっちは任せた!」
 それだけ言って走り出す。
「一人で抱えるなよ。マナウス!」
 小さく呟いた言葉は、友には届かず風に溶けて消えていった。

 キャメロットが混乱の中にある頃。
 ここはかの地より遥か遠いとある町。
「伝令は無事着いたでしょうか?」
「‥‥大丈夫だろう。‥‥奴らの目的は王都を滅ぼすこと、ではない。黙示録の宝物を集めることのようだからな」
「はい‥‥」
 夫であり、剣の主でもある円卓の騎士。その言葉にシルヴィア・クロスロード(eb3671)は静かに頷いた。
 彼ら二人は王都より遠く離れた旅の空にある。目的はデビルの調査。そして友の救出。
「黙示録の秘宝。奴らがそれらを何の為に集めようとしているのか。それを知らないうちは我々は後手に回り続ける。今は、戻る時ではない。耐えろ。シルヴィア」
 そう言う円卓の騎士の言葉は自らにも言い聞かせる言葉。それが解っているから
「はい」
 もう一度彼女は頷く。王都に残る親しき友、仲間達。
 旅に出てもうじき半年が過ぎ去った。彼らは元気で‥‥、無事でいるだろうか。
「それより、シルヴィア。あの子をどうするつもりだ?」
 半瞬、物思いに耽ったシルヴィアをやや厳しい声が引き戻した。
「あ‥‥そうでしたね」
 シルヴィアは答えながら壁一枚向こうで眠っているであろう少女の事を思い出した。
 数日前、街道を旅していた二人は甲高い悲鳴を聞き、森の中に踏み入った。
 ほどなく見つけ出したのはデビルに今まさに喉笛を狙われんとする少女。
 彼女を襲ったデビルは瞬きの間に槍の一閃で消失したのだが、震える少女は凍りついたように動かなかった。
「もう大丈夫よ。安心して‥‥」
 手を差し伸べたシルヴィアが彼女を抱きしめるまで。
「あれからもう三日。時間が経てばたつほど、手放せなくなるぞ」
「それは、解っているのですが‥‥言葉も発せず怯えているあの子を放っておくことは‥‥」
 シルヴィアに夫は苦笑に近い笑みを浮かべている。
 助けた少女はハーフエルフであった。
 助けられて以来まともに言葉も話さないのではっきりとしたことは解らないが、どうやら身寄りは無いらしい。
 どこかに帰りたいとも言わず、どこかに行こうとも言わず
 ただ、シルヴィアから片時も離れない。服を掴み時に抱きつき。シルヴィアと一緒の時だけ、彼女は年相応に笑い、シルヴィアの胸の中でだけ安らいだように眠るのだ。
「俺はどうやら嫌われているようだな」
 彼が苦笑する。彼だけではない。少女はシルヴィアに自分以外の者が近づくのを嫌っている。
 夫である彼さえ、何度追い払われたことか。
「まるで小鳥の雛が親を見つけたようだ。かわいいとは思うが‥‥」
 ハーフエルフというだけ少女がどれほどの苦悩を背負って来たかは想像が着くので暫くは、と黙認していた夫は、だが鋭い主の目でシルヴィアを見つめる。
「忘れるな。シルヴィア。我々の旅は子供連れでできる遊山ではない。あの子を連れて歩いて戦いに巻き込んだらどうする?」
「解って‥‥います」
「あの子は教会か、ケンブリッジにでも預けることだ。それが彼女の為だぞ」
「はい‥‥」
 静かに答えたシルヴィアに頷くと彼女の夫は黙って部屋を出た。
 少女の安眠の為に宿の部屋を二つ取ってくれた夫に感謝しながらも、少しさびしく笑ってシルヴィアは宿の隣部屋を覗く‥‥。
「あら? いない? どこに行ったのかしら?」
 そのベッドは空で、部屋には誰もいない。
 シルヴィアが慌てて外に探しに行こうと扉を開ける。
 と、そこには今、自分が探しに行こうとしていた少女が立っていたのだった。
「もう! どこに行ったの? 心配していたのよ?」
 少女は答える代わりにシルヴィアの腰に抱きついた。
 強く、強く。まるで、誰にも渡さないという様に‥‥。

 少女に添い寝するシルヴィアはいつの間にか目を閉じていた。
 少女はシルヴィアに毛布をかけると、そっと髪を撫でる。
 さっきまで自分がそうして貰ったように
「綺麗‥‥」
 滝のような銀の髪。さっきの闇の中聞こえてきた声が思い出される。

『あの女が、欲しいか? だが女は夫のものだ。そう‥‥夫がいなければ彼女は傍にいてくれるぞ。いいのか? 置いて行かれても』
「イヤ!」
『ならば手伝ってやろう。二人の髪を一本ずつ持っておいで‥‥』

 少女はシルヴィアを抱きしめる。
 感じる暖かいぬくもり。自分を抱きしめてくれる人。
「ダメ‥‥。誰にも、渡さない‥‥」
 少女は手を上げる。
 細い指先に銀の糸が一本、絡まり流れていた。
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2010年09月06日

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