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『たまには、君と。 〜ライル 』
ライル・フォレスト(ea9027)

 夏の緑燃え上がる山は、うだるような下界の暑さをものともしない涼やかな風情を漂わせていた。

「‥‥うん! この様子なら3日間、天気の心配はなさそうだよ」
「だね、ライル!」

 そんな山をじっと見つめた後、こっくり頷いたライル・フォレスト(ea9027)の言葉に、チップ・エイオータ(ea0061)も大きく頷く。レンジャーとしては先輩分のチップもそう言うのなら、滞在中の天気はもう保証されたようなものだ。
 ライルとチップ、そしてもう1人の友人・来生 十四郎(ea5386)がやって来たのは、人里からは少し離れた場所にある山だった。誘ったのはライル。仲良しの友人と一緒に涼しい山で遊びたい、と思ったから。
 だって、冒険者としての仕事がようやくひと段落ついた所だし。その頃には色々、本当に色々とあったものだから、羽を伸ばしがてら避暑も兼ねて、わずかの間でも良いからのんびり自然に埋もれたいな、と考えたのだ。
 幸い、チップも十四郎もライルの誘いに、良いね、と頷き一緒に来てくれた。それだけでももう、この二泊三日のキャンプが楽しくなる事は保証されたようなものだ。

「じゃ、まずはテントを張る場所を探そうか」
「うん。水場の近くで、でも少し離れた平らで地盤のしっかりした場所、だね」
「その辺りは任せた」

 小さくまとめはしたものの、やっぱり大きくなった荷物を背負いながらのライルとチップの言葉に、頷きながら十四郎が自らの荷物から取り出したものは熊よけの鈴。カラン、と鳴り響く音が山の緑に吸い込まれていく。
 それを当たり前の顔で全員の荷物に結わえ付ける十四郎を見て、ライルとチップは横目でちら、と目配せした。そうしてしみじみ頷き合う。

(十四郎、出来るな‥‥)
(うん、さすがにーちゃん‥‥)

 準備万端過ぎる友人にそこはかとない敬意を覚えつつ、3人のキャンプは幕を開けたのだった。





 獣道と言っても過言ではない山道を、3人はゆっくり、確実に登っていった。
 先頭に立って歩くのはライルだ。辺りを見回したり、じっと耳を澄ませて水の音を探しながら、下生えを踏みしめるように進んでいく。

「もう少し行けば川がありそうだよ」

 きらきらと踊る木漏れ日に目を細めながら、ライルが友人達を振り返ったのは半刻も過ぎた頃だった。ライルの耳が遠く、流れる水音を捕らえたのだ。
 そっかー、と頷いたチップの足取りは、仕事中と何ら変わらない、むしろ仕事中よりも研ぎ澄まされたもので。そう言えばこの友人は、キャンプに行かないかと声をかけたら「レンジャーの修行には良さそうだね!」と言ったのだった。
 対する十四郎は辺りの揺れる緑や木漏れ日にちらちら視線を奪われながら、ライルの後を無言でついて歩く。手に何本か小枝を持っているのは、持ち運びに邪魔にならない薪だろうか。
 そんな事を考えながら水音に向かってさらに足を進めると、やがて川辺にたどり着いた。

「んー‥‥ライル、あの辺が良くないかな?」
「どこ‥‥? あ、あそこならテントを張るのにも良さそうだね」

 きょろ、と辺りを見回したチップが、ひょい、とわずかに川上を指さしたのを見やって、ライルもこっくり頷いた。程々の広さのある川原は、テントを張るのにも煮炊きの火を熾すのにもちょうど良さそうだ。
 3人はその川原まで移動すると、ようやく背負ってきた荷物を下ろした。まず何と言っても大事なのはテントや毛布。それから、山では確保することが出来ないお米や味噌などの食料と、万が一のための保存食各種。
 テント張りは冒険者稼業で慣れたものだから、そこは心配無用だ。手際よく辺りの小石や草を取り除き、分厚い布を下に敷きこみ、あっという間に自分のテントを組み立て終えると、十四郎とチップもそれぞれの寝床の確保を終えて、十四郎がその傍に虫除けのハーブを吊るして回るところだった。
 それから改めて各々が自宅などから持ち寄った荷物を寄せ集める。

「山なら食べられる野草やキノコがあるかな? ちょっと探してみるよ」
「えと、それじゃ、おいらも食材探し頑張るね。弓があるから、ウサギさんや鳥さんを探して獲ろーと思うの」
「じゃあそれは任せるとして、俺はかまどを作っておくかな。後は薪をもっと集めて、水も汲んでおこう‥‥」

 やはり保存食だけでは味気ないし、せっかくやってきたのだからとそれぞれ食糧確保を申し出たライルとチップに、十四郎も頷いてそう言った。そんな十四郎に任せたと頼んで、ライルはチップと手を振り合い、迷わないよう気をつけつつ山の中へと踏み込んだ。
 大体の経験則から野草やきのこが生えてそうな場所を探す。見つけたものはじっと観察して、間違って良く似た毒草や毒キノコを持ち帰ってしまわないように気をつけて。
 幾らかの野草を集め、テントに戻ると十四郎が、作り上げた簡単なかまどに火を熾している所だった。そうしてちらりとライルと、ライルが手に入れてきた野草を見て「そこに置いといてくれ」と指さす。
 キャンプの間の調理は、十四郎が買って出てくれた。ライルが頷いて言われた場所に野草を置くと、チップがちょうど同じように戦利品を手に下げて戻ってくる。

「ほら、ライル、十四郎! こんな大きなウサギさんが獲れたよ!」
「ほんとだ、けっこう大物だね」
「じゃあそれも捌いて‥‥鍋にするか、それとも焼くか‥‥」

 むむ、と考え出した十四郎がその夜、腕によりをかけて作ってくれた夕食はもちろん、空腹というスパイスも合わせて絶品で。友人達とのキャンプ1日目は、こうして和やかに過ぎていったのだった。





 翌日、ライルは十四郎の作ってくれた朝食を食べながら、釣りをしよう、と提案した。

「せっかくそこに川があるんだし、水遊びも兼ねて。どうかな?」
「良いんじゃない? おいら食べ盛りだから、たんぱく質も欲しーもん。罠を仕掛けても良いよね」

 さくっと楽しそうに頷いたのはチップだ。チラ、と十四郎を見るとこちらは少し考える素振りを見せた後、そうだな、と同じく頷く。
 昨日の十四郎は水汲みや薪拾いに精を出した後は、力仕事で疲れたのだろう、ちょっと休憩と木陰で涼んでいたものだった。けれども今日はどうやら一緒に遊んでくれるらしい。
 そうと決まれば3人は素早く朝食をお腹におさめ、あっという間に火の始末と後片付けまで完璧に終了した。元々、使った食器はほとんどない。「余計な洗いものは増やさない」というのが調理担当の十四郎の方針だ。
 釣竿はそこらの枝を加工して作った。即席の釣竿はいかにも頼りないけれども、こう言うのもまたキャンプの醍醐味といえるかもしれない。川原の手ごろな石に腰掛けて、出来た釣竿を流れる川にぽとりと落とし、のんびりあたりを待ちながら、時々思い出したように川に沈めた仕掛けを見る。
 澄んだ川面には時々、魚の姿が映っては消えた。それはまるで手を伸ばせばすぐにつかめそうな心地がして、けれどもきっと本当に手を伸ばせばするりと身を翻して逃げてしまうのだ。
 そんな事を考えながら、時折場所を移しては釣り糸を垂らしていたライルはふと、チップと一緒に仕掛けた罠の1つを見てはっと目を見開いた。

「あッ! 魚が掛かってる!」
「‥‥って、ライル? そんなに慌てて走ったら‥‥」
「う‥‥わ‥‥ッ!?」
「ライル、危ない!」

 呆れたようにチップが声をかけたのと、川底の石に足を取られてライルが盛大にひっくり返ったのは、同時だった。さっと顔色を変えた十四郎が叫んだのも間に合わず、バッシャーンッ!! と派手な水音が山間に響き渡る。
 全身びしょ濡れになって、うぅ、とライルは頭をさすりながら立ち上がった。倒れた拍子にどこかにぶつけたのかもしれない、と思っていたら十四郎が呆れたため息を吐きながらやってきて、見せてみろと促した。

「‥‥小さなこぶになっている程度だな。念のため薬を塗っておくか」
「うぅ、ありがとう、十四郎‥‥」
「魚はライルが倒れた音に驚いて逃げちゃったみたいー。もっかい仕掛けなおしておいたよ」

 大人しく薬を塗られているライルの傍にひょいと座って、チップも苦笑しながらそう教えてくれる。
 けれどもライルの不注意を、友人達は責めるでも、どうしたのかと尋ねるでもなかった。それがありがたいと、薬を塗られたこぶをまたそっとさすりながら、ライルは良く晴れた空を見上げる。

(だってわくわくするんだ)

 ハーフエルフであるが故に、日ごろはあまり目立つことのないよう、注意を払って暮らしているライルだ。日ごろの暮らしはもちろんのこと、冒険者として依頼に赴いた先でもそれは変わる事はなく。
 けれどもここに居るのはただ、気の置けない友人だけで。他のどんな相手の視線も気にする必要がなく、ただ自分が自分として振舞うことが出来る――それはとても心休まり、そして心浮き立つ感覚。
 それをこの友人たちは、言葉にせずとも何となく解ってくれているのかもしれなかった。

「午後からはみんなでオリエンテーリングとかしない? 修行がてらやりたいなーって思ってたんだー」
「あッ、やるやる!」
「そうだな‥‥俺は、山の中だと迷いそうだからまた釣りでもして待ってるさ」
「イッショに行けばだいじょーぶだよ」
「そうだよ、十四郎」
「むぅ‥‥」

 他愛なくそんな事を話しながら、また皆で釣り糸を垂れる。昼ごはんは幾らか獲れた魚を塩焼きにして、午後からは結局2人の熱意に押されるように十四郎も一緒に、山の中であちら、こちらと巡り歩いて。
 2日目の日が暮れる頃には、ライルはぐったり疲れ果てていた。オリエンテーション中に見つけたキノコをたっぷり煮込んだ味噌鍋を食べている間も幾度もあくびを噛み殺して、お腹一杯食べ終わったらその睡魔はたちまち耐え難いものになってライルに襲いかかって来る。

(ちょっと‥‥はしゃぎ過ぎたかも‥‥?)

 そんな事を考えるうちにも、ふわぁぁぁ、と大きな欠伸が口をついて出た。それでも後片付けだけはなんとか手伝って、「ちょっと休んで来たら」というチップの奨めに従ってテントに戻って横になった瞬間、すぅ、とライルは気持ち良く眠りに落ちてしまう。
 そうして翌日の朝日が山肌を照らし始めるまで、ライルはぐっすりと眠り続けていた。だから彼は知らない。その夜がまるで星が降り注ぐばかりに美しかったと言う事も、その星と月の光の下で2人の友人がどんな会話を交わしたのかも。





 2泊3日のキャンプは、あっという間に最終日を迎えた。どうして楽しい一時は過ぎるのが早いのだろうと、惜しみながらライルはつかの間の我が家だったテントを手際よく解体し、元通りに出来るだけ小さく折りたたんで荷物の中に仕舞い込む。
 他の持ってきた荷物も各自、来た時と同じ様に荷物にまとめた。滞在の間に出たごみは、持って帰ってから処分するものと、山に置いていくものに分別する。
 そうして川原から十分に離れた所に深い穴を掘って、持って帰らないごみをその中に放り込んでまた、しっかりと土をかけた。川原から距離を取ったのは、大雨などで増水した時に地盤が削れて、ごみが分解されないうちに流れていかないようにだ。
 そうして後片付けを終えて、そこに人が居た痕跡をほとんど消し去った川原を、見つめた。

「‥‥また、機会があったらみんなでキャンプ、来たいな」
「そうだな」
「だねー。楽しかったよね、キャンプ」

 呟いたライルの言葉に、返ってくるのは同意の言葉。それが嬉しくてライルは友人達を振り返り、感謝を込めてにっこりと微笑んだ。
 そうして3人は3日前に登ってきた道を、来た時と同じ様にライルを先頭にして、ゆっくりと名残を惜しみながら下り始めた。荷物にくくりつけた熊避けの鈴を、山間にカラン、カランと響かせながら。





━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 /    PC名     / 性別 / 年齢 /  クラス  】
 ea0061  /  チップ・エイオータ / 男  / 34  / レンジャー
 ea5386  /    来生 十四郎  / 男  / 34  / 浪人
 ea9027  /  ライル・フォレスト / 男  / 26  / レンジャー

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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初めまして、蓮華・水無月でございます。
この度はご発注頂きましてありがとうございました。

ご友人同士での楽しいキャンプの一時、心を込めて書かせて頂きました。
息子さんが大切に思われ、息子さんを大切に思っておられるご友人方との時間は、得難い貴重なものだと思います。
全力で楽しそうな息子さんのお姿が、書いている間中、蓮華の脳裏から離れませんでした(苦笑

いつもは目立たないよう気を払ってお過ごしであろう息子さんの、大切なご友人の方達と伸び伸びと過ごした楽しい時間を、描けていれば良いのですけれども。

それでは、これにて失礼致します(深々と
ココ夏!サマードリームノベル -
蓮華・水無月 クリエイターズルームへ
Asura Fantasy Online
2010年09月06日

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