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『たまには、君と。 〜チップ 』
チップ・エイオータ(ea0061)

 夏の緑燃え上がる山は、うだるような下界の暑さをものともしない涼やかな風情を漂わせていた。

「‥‥うん! この様子なら3日間、天気の心配はなさそうだよ」
「だね、ライル!」

 そんな山をじっと見つめた後、こっくり頷いて振り返ったライル・フォレスト(ea9027)の言葉に、チップ・エイオータ(ea0061)も大きく頷きを返した。山の天気は移ろいやすいものだけれど、チップの目から見ても多少の通り雨はあるかもしれないが、基本的には大丈夫そうだ。
 ライルとチップ、そしてもう1人の友人・来生 十四郎(ea5386)がやって来たのは、人里からは少し離れた場所にある山だった。冒険者としての仕事もようやく一段落したし、のんびり自然に埋もれに行かないか、とライルに誘われて二つ返事で頷いた。
 だって、せっかくのライルからのお誘いだ。仲良し同士で一緒にキャンプと言うのも楽しそうだし、確かに彼の言う通り、この頃は冒険者ギルドに並ぶ依頼も一頃の殺伐としたものが鳴りを潜めている。

(レンジャーの勘が鈍らないよーに、訓練にもなりそーだしね)

 弓の練習やら知識の収集やらといった事は日常の積み重ねだけれど、実際にそれを活かせるかどうかはもう、どれだけ場数を踏めるかに掛かっているものだし。勘なんてものはもう、その積み重ねでしか養われないものだから。

「じゃ、まずはテントを張る場所を探そうか」
「うん。水場の近くで、でも少し離れた平らで地盤のしっかりした場所、だね」

 小さくまとめはしたものの、やっぱり大きくなった荷物を背負いながらライルとそう話し合っていたら、少し離れた所で「その辺りは任せた」と頷いた十四郎が、自らの荷物から何か取り出したのが目の端に止まった。何だろう、と思ってそちらを見ると、出て来たのは熊よけの鈴。
 カラン、と鳴り響く音が、山の緑に吸い込まれていく。それを当たり前の顔で全員の荷物に結わえ付ける十四郎を見て、チップとライルは横目でちら、と目配せしてしみじみ頷き合った。

(十四郎、出来るな‥‥)
(うん、さすがにーちゃん‥‥)

 チップにとっては保護者と言うか、お目付け役的な存在でもある友人の卒のなさに、そこはかとない敬意を覚えた瞬間だった。





 獣道と言っても過言ではない山道を、3人はゆっくり、確実に登っていった。
 先頭に立って歩き、辺りを見回したり、じっと耳を済ませて水の音を探すライルの背中を、見ながらチップも同じ様に辺りに注意を払う。足元の下生えにも気を払い、慎重すぎるほど慎重に。
 やがて、チップの耳が遠くの水音を捉えた。同時にライルが振り返る。

「もう少し行けば川がありそうだよ」
「そっかー」

 ライルも同じ水音を捕らえていたのなら、聞き間違いと言う事はなさそうだ。キラキラと踊る木漏れ日は美しく、それ故に意識を奪われがちになるけれども、きちんと集中できていたらしい。
 ふ、と横を見たら十四郎が、のんびりと辺りを見回しながら時折、手ごろな小枝を拾っていた。持ち運びに邪魔にならない程度の薪にするのだろうか。
 そんな事を考えながら、水音に向かってさらに進んで行くライルの後から歩いていくと、やがて川辺に辿り着いた。きょろ、と辺りを見回して素早く地形を把握する。把握し、同じ様に辺りを見回している友人に声をかける。

「んー‥‥ライル、あの辺が良くないかな?」
「どこ‥‥? あ、あそこならテントを張るのにも良さそうだね」

 チップが指差した先を見たライルが、にこっと笑って頷いた。ここからは僅かに川上に当たる川原は、一見して程ほどの広さがあって、テントを張るのにも煮炊きの火を熾すのにもちょうど良さそうだ。
 3人はその川原まで移動すると、ようやく背負ってきた荷物を下ろした。まず何と言っても大事なのはテントや毛布。それから、山では確保する事が出来ないお米や味噌などの食料と、万が一の為の保存食各種。
 けれどもチップはテントではなくハンモックで眠りたいと考えていたから、ライルと十四郎がテントを張っている間にハンモックを差し渡すのに手頃そうな木を探した。そうして慣れた様子でひょいと枝にハンモックをしっかりくくりつけ、寝心地を確かめる。
 自分のテントを張り終えた十四郎がやってきて、ハンモックの隣に虫除けのハーブを吊るしていった。それから改めて各々、自宅などから持ち寄った荷物を寄せ集める。

「山なら食べられる野草やキノコがあるかな? ちょっと探してみるよ」
「えと、それじゃ、おいらも食材探し頑張るね。弓があるから、ウサギさんや鳥さんを探して獲ろーと思うの」
「じゃあそれは任せるとして、俺はかまどを作っておくかな。後は薪をもっと集めて、水も汲んでおこう‥‥」

 やはり保存食だけでは味気ないし、レンジャーとしての良い修行にもなりそうだからとそれぞれ食糧確保を申し出たチップとライルに、十四郎も頷いてそう言った。そんな十四郎に任せたと頼んで、チップはライルと手を振り合い、じっと感覚を研ぎ澄ませながら山の中へと踏み込んだ。
 大体の経験則から、ウサギや鳥が居そうな場所を探す。こちらが近付く気配で逃げられてしまっては元も子もないから、慎重に気配を押し殺しつつ、辺りの草木の僅かな動きにも気を配る。
 やがてチップは、ちょうど巣穴から顔を出したウサギを見つけた。辺りの様子を確かめるように、宙を見つめてふんふん鼻と髭を動かし、耳をせわしなくピクピクあちらこちらへ向けているウサギに気付かれないように、手にしていた弓に慎重に矢を番え、きりり、と弦を引き絞る。
 はっ、とウサギがチップに気付いて振り返ったのと、矢羽を離したのは同時だった。逃げる間もなく吸い込まれるように矢が当たり、ウサギがかくりと動かなくなる――夏のこの時期にしては良く太ったウサギだ。
 今日の夕食にはコレで十分そうだと、仕留めたウサギを持って帰るとちょうど、野草を置いたライルと十四郎が何か話している所だった。

「ほら、ライル、十四郎! こんな大きなウサギさんが獲れたよ!」
「ほんとだ、けっこう大物だね」
「じゃあそれも捌いて‥‥鍋にするか、それとも焼くか‥‥」

 むむ、と考え出した十四郎がその夜、腕によりをかけて作ってくれた夕食はもちろん、空腹というスパイスも合わせて絶品で。友人達とのキャンプ1日目は、こうして和やかに過ぎていったのだった。





 翌朝、十四郎の作ってくれた朝食を食べていたらライルが、釣りをしよう、と提案した。

「せっかくそこに川があるんだし、水遊びも兼ねて。どうかな?」
「良いんじゃない? おいら食べ盛りだから、たんぱく質も欲しーもん。罠を仕掛けても良いよね」

 ライルの言葉を反芻して、チップはこっくり頷く。昨日、十四郎を手伝って水汲みや後片付けを皆でやった時に、ちらちらと川面に映る魚の影を見た。さすがにどんな種類の魚かまでは解らなかったけれど、何だか面白そうだ。
 その十四郎は昨日は力仕事を色々やって疲れたみたいで、ちょっと休憩と木陰で涼んでいたものだ。けれども今日はまだ体力が余っているお陰か、少し考える素振りを見せた後、そうだな、と頷いた。
 そうと決まれば3人は素早く朝食をお腹に納め、あっという間に火の始末と後片付けまで完璧に終了した。元々、使った食器はほとんどない。「余計な洗いものは増やさない」というのが調理担当の十四郎の方針だ。
 釣竿はそこらの枝を加工して作るらしい。それを横で見ながらチップは川面に張り出した枝をくいくいと引っ張って、罠にするのに良さそうな枝振りのものを探して回った。よさげなものがあったら縄を結わえ付けて、即席の罠に仕立て上げる。
 やがて釣竿を人数分作り終えたライルも一緒に、幾つか罠を仕掛け終えて戻ると、先にのんびり釣り糸を垂らした十四郎が「ご苦労さん」と声をかけた。いかにも即席の頼りない釣竿だけれども、雰囲気は十分だ。
 チップも自分の分の釣竿を受け取り、川原に手頃な石を並べてのんびり、釣り糸を落としてあたりを待つ。待ちながら時々、チラリと沈めた罠の方へと視線を向ける。
 澄んだ川面には昨日と同じ様に、時々魚の姿が映っては消えた。まるでそれを追いかけるように時折場所を移して釣り糸を垂らすライルを、見るともなく見ていたら不意に、彼がぱっと立ち上がる。

「あッ! 魚が掛かってる!」
「‥‥って、ライル? そんなに慌てて走ったら‥‥」
「う‥‥わ‥‥ッ!?」
「ライル、危ない!」

 沈めた罠の一つに向かって走り出したライルに、はしゃいでるなぁと思いながらチップが声を掛けたのと、グラリ、とライルがバランスを崩して盛大にひっくり返ったのは、同時だった。さっと顔色を変えた十四郎が叫んだのも間に合わず、バッシャーンッ!! と派手な水音が山間に響き渡る。
 全身びしょ濡れになったものの、自分で立ちあがったライルの事は十四郎に任せて、チップはライルが確かめようとした罠の方へ向かった。あの調子ならたいした事はないだろうし、それよりは罠に掛かった魚の事を気にするだろうし。
 だが、罠にはすでに魚の姿はなかった。それを確かめて元通りに罠を沈め、十四郎に薬を塗ってもらってるライルの傍にひょい、と座る。

「魚はライルが倒れた音に驚いて逃げちゃったみたいー。もっかい仕掛けなおしておいたよ」
「そっか‥‥」

 苦笑しながら告げた言葉に、ライルは残念そうに呟いた。けれども瞳を見ればそれが本気でない事くらいはすぐに判る。
 ライルはこの事態を、ライルなりに楽しんでいるのだ。
 だからチップもにこっと笑って、それについては何も触れずにさらりと新しい提案をした。

「午後からはみんなでオリエンテーリングとかしない? 修行がてらやりたいなーって思ってたんだー」
「あッ、やるやる!」
「そうだな‥‥俺は、山の中だと迷いそうだからまた釣りでもして待ってるさ」
「イッショに行けばだいじょーぶだよ」
「そうだよ、十四郎」
「むぅ‥‥」

 他愛なくそんな事を話しながら、またみんなで釣り糸を垂れる。昼ごはんは幾らか獲れた魚を塩焼きにして、午後からは結局2人の熱意に押されるように十四郎も一緒に、山の中であちら、こちらと巡り歩いて。
 2日目の日が暮れるころには、どうやらライルはぐったり疲れ果ててしまったようで、オリエンテーション中に見つけたキノコをたっぷり煮込んだ味噌鍋をつつきながら、何度もあくびを噛み殺していた。やがて、ふわぁぁぁ、と大きな欠伸をし始めた友人に、後片付けも終わったから少し休んで来たら? と促したら、テントに戻ったきりこそとも音がしなくなる。
 チップは、十四郎と顔を見合わせて苦笑した。とは言えチップもそれなりに疲労しているし、さっさと身支度を整えてハンモックの上に退散する。
 きし、と時折揺れるハンモックの上から、またたく星をのんびり眺めた。チップがハンモックを選択したのは、こうして降り注ぐような星を見ながら眠りたかったと言うのも1つの理由で。

「‥‥なんだ、まだ起きてたのか」
「十四郎? うん、いちおーね。突然の雨で増水したりするかもだし」
「そうか‥‥俺はちょっと、飲もうかと思ったんだが」

 不意に静かな声が聞こえて、見れば酒瓶を手にした十四郎が月明かりの下に居た。なるほど、とにっこり笑って視線を戻し、また星空を見上げる。十四郎はどうやらその辺りに座って、本当にちびちびとやりだしたようだ。
 やがてポツリ、チップは呟いた。

「‥‥来て良かったねー」
「ああ」

 返ってくる答えは短く、情感がこもっている。それに満足してチップはそっと耳を澄ませた。聞こえるはずのないライルの寝息を確かめようとするかのように。





 2泊3日のキャンプは、あっという間に最終日を迎えた。せっせとハンモックを片付けてくるくる丸め、荷物の中に押し込んでぎゅっと力を込めて括りつける。
 他の持ってきた荷物も各自、来た時と同じ様に荷物にまとめた。滞在の間に出たごみは、持って帰ってから処分するものと、山に置いていくものに分別する。
 そうして川原から十分に離れた所に深い穴を掘って、持って帰らないごみをその中に放り込んでまた、しっかりと土をかけた。川原から距離をとったのは、大雨などで増水した時に地盤が削れて、ごみが分解されないうちに流れていかないようにだ。
 そうして後片付けを終えて、そこに人が居た痕跡をほとんど消し去った川原を、見回した。

「‥‥また、機会があったらみんなでキャンプ、来たいな」
「そうだな」
「だねー。楽しかったよね、キャンプ」

 ライルの言葉に、チップも十四郎も大きく頷く。実際、この3日間は色々あって、本当に楽しい一時だった。そう言ったら、くる、と振り返ったライルが感謝を込めてにっこり笑う。
 そうして3人は3日前に登ってきた道を、来た時と同じ様にライルの背中を見ながら、ゆっくりと下り始めた。荷物に括り付けた熊よけの鈴を、山間にカラン、カランと響かせながら。





━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 /    PC名     / 性別 / 年齢 /  クラス  】
 ea0061  /  チップ・エイオータ / 男  / 34  / レンジャー
 ea5386  /    来生 十四郎  / 男  / 34  / 浪人
 ea9027  /  ライル・フォレスト / 男  / 26  / レンジャー

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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初めまして、蓮華・水無月でございます。
この度はご発注頂きましてありがとうございました。

ご友人同士での楽しいキャンプの一時、心を込めて書かせて頂きました。
息子さんのレンジャーとしての誇りと、たゆまず修行しようとなさる努力はすごいな、と思います。
きっと何気ない日常の中でも、機会を見つけたり、自分の中でルールをお決めになって修行なさっているのだろうな、と(笑

仲良しのご友人との心浮き立つ一時と、そんな折でも常に心の中にある息子さんの誇り高さを、描けていれば良いのですけれども。

それでは、これにて失礼致します(深々と
ココ夏!サマードリームノベル -
蓮華・水無月 クリエイターズルームへ
Asura Fantasy Online
2010年09月06日

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