▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『たまには、君と。 〜十四郎 』
来生 十四郎(ea5386)

 夏の緑燃え上がる山は、うだるような下界の暑さをものともしない涼やかな風情を漂わせていた。

「‥‥うん! この様子なら3日間、天気の心配はなさそうだよ」
「だね、ライル!」

 そんな山をじっと見つめながら、この2泊3日のキャンプ中の天気を確認し合った友人のライル・フォレスト(ea9027)とチップ・エイオータ(ea0061)の言葉を聞きながら、来生 十四郎(ea5386)も山の緑を静かに見上げた。山の天気は移ろいやすいものだけれど、彼らが大丈夫というなら心配は要らないだろう。
 十四郎とライル、チップがやって来たのは、人里からは少し離れた場所にある山だった。冒険者としての仕事もようやく一段落したし、のんびり自然に埋もれに行かないか、とライルに誘われたのだ。
 正直、あまり活動的ではないと言うか、こんな風にキャンプに行こうなんて自分では思いつかない十四郎だから、ありがたく頷いた。どこかに出かけるときだとか、なにか遊びの計画を立てる時に、いつも声をかけてくれるライルは実に、ありがたい友人だと思う。
 幸い、キャンプの準備はすぐ整った。と言うか冒険者稼業などしていれば、野営の準備がすなわちキャンプの準備ともいえる。

「じゃ、まずはテントを張る場所を探そうか」
「うん。水場の近くで、でも少し離れた平らで地盤のしっかりした場所、だね」
「その辺りは任せた」

 小さくまとめはしたものの、やっぱり大きくなった荷物を背負いながら山を見上げて話し合うライルとチップの言葉に、頷いた十四郎はふと思い出し、自分の荷物を背から下ろした。確かこの辺りに入れてきたはず、と中を探って取り出したのは、熊よけの鈴が3つ。
 この山に熊が居るかどうかは知らないが、万が一ということもある。そのための万全の準備はしておくべきだろうと、全員の荷物に鈴を結わえ付けていたら、友人達から不思議な視線が注がれた。

「‥‥‥?」

 一体なんだろうと、こくり、首をかしげながら結わえ付け終える。そうして「さあ行こう」と友人達を促して、彼らのキャンプは始まったのだった。





 獣道と言っても過言ではない山道を、3人はゆっくり、確実に登っていった。
 先頭に立って歩き、辺りを見回したり、じっと耳を澄ませる仕草をしたりするライルとチップの後から、十四郎も背中の荷物を時折揺すり上げつつ、のんびりと足を運ぶ。そうしてたまに、あまり荷物にならなさそうな枯れ枝を見かけたら、ひょい、と拾って小脇に抱える。
 煮炊きに必要なのは火で、火を熾すのに必要なのは何と言っても薪だ。もちろん山の中のことだから、テントを張った場所の周辺でも探せば枯れ枝くらいは幾らでも見つかるだろう。けれども万が一と言う事を考えるなら、荷物にならない程度の備えは必要だ。

「もう少し行けば川がありそうだよ」

 きらきらと踊る木漏れ日に目を細めながら、ライルが振り返ったのは半刻も過ぎた頃だった。そうか、と十四郎は山登りで流石に少し上がった息を吐き、また背中の荷物を揺すりあげる。
 それでも辺りに広がる緑は実に美しく、眺めて楽しむには十分だった。思わぬ所から差し込んでくる日の光が時に、息を飲む景色を生み出していることもあり、先を任せた友人達への信頼も手伝って十四郎はのんびりと辺りを見回しながら歩く。
 やがて、ぱっと視界が開けたかと思うとそこはちょっとした川辺だった。

「んー‥‥ライル、あの辺が良くないかな?」
「どこ‥‥? あ、あそこならテントを張るのにも良さそうだね」

 指をさして会話する友人につられて十四郎も川上を見やると、ここよりも少し広い川原があった。それほど岩や石があるわけでもなく、比較的平らで、確かに3日間を過ごすにはちょうど良さそうな場所だ。
 3人はその川原まで移動すると、ようやく背負ってきた荷物を下ろした。まず何と言っても大事なのはテントや毛布。それから、山では確保する事が出来ないお米や味噌などの食料と、万が一の為の保存食各種。
 テント張りもまた冒険者稼業で慣れたものだから、そこは十四郎もまったく戸惑う事無くてきぱきと組み立てた。寝心地が良いように辺りの小石や草を取り除き、分厚い布を下に敷きこむのも忘れない。
 それから十四郎は自分の荷物の所まで戻り、中から幾つかのハーブの束を取り出した。虫除けの効果があるハーブは、夏山で過ごすには欠かせないアイテムだろう。
 自分のテントはもちろんのこと、ライルのテントとチップのハンモックの傍にも丁寧にハーブを吊るした。それから改めて各々、自宅などから持ち寄った荷物を寄せ集める。

「山なら食べられる野草やキノコがあるかな? ちょっと探してみるよ」
「えと、それじゃ、おいらは食材探し頑張るね。弓があるから、ウサギさんや鳥さんを探して獲ろーと思うの」
「じゃあそれは任せるとして、俺はかまどを作っておくかな。後は薪をもっと集めて、水も汲んでおこう‥‥」

 友人達の食糧確保の申し出に、十四郎はこっくり頷き居残り作業を請け負った。何と言うか、山の中で1人で歩き回るとどこかに迷い込んで、二度と戻って来れなさそうだし、かまどの準備や水汲みが必要なのも本当だ。
 ゆえに山の中に消えていく友人達を見送って、十四郎もてきぱきと動き始めた。まずはかまどを組むための手頃な大きさの石を探して集め、火を熾すのに良さそうな場所を見定めて周囲に火が移らないよう念入りに落ち葉や草を取り除く。そこに集めた石を組み上げ、煮炊きの途中で崩れないようしっかりと補強する。
 それが終わったら今度は、深く入り過ぎないように常にテントが視界に入るよう気をつけながら、辺りを歩いて薪を探した。落ち葉や枯れ草も、火打石から火をつける時や、咄嗟に火力を強くしたい時に必要だから適当量を集めておく。
 そうしてかまどの傍に戻り、組んだ薪の中に落ち葉や枯れ草を押し込んで火打石を叩いていたら、不意に人の気配がした。見るとライルが野草を集めて戻ってきた所だ。
 少し考えて十四郎は、「そこに置いといてくれ」と保存食を集めてある辺りを指差した。ライルが頷いてそこに野草を置くと、ちょうどチップも戻ってきて嬉しそうに報告する。

「ほら、ライル、十四郎! こんな大きなウサギさんが獲れたよ!」
「ほんとだ、けっこう大物だね」
「じゃあそれも捌いて‥‥鍋にするか、それとも焼くか‥‥」

 友人達の戦利品を前に、むむ、と真剣に考え出した十四郎がその夜、腕によりをかけて作った夕食は無事に、残らず3人のお腹に収まって。友人達とのキャンプ1日目は、こうして和やかに過ぎていったのだった。





 翌日、保存食を応用して作った簡単な朝食を食べていたらライルが、釣りをしよう、と提案した。

「せっかくそこに川があるんだし、水遊びも兼ねて。どうかな?」
「良いんじゃない? おいら食べ盛りだから、たんぱく質も欲しーもん。罠を仕掛けても良いよね」

 さくっと楽しそうに頷いたのはチップだ。その隣で十四郎はしばし考えてから、そうだな、と頷いた。
 昨日は火を熾した後も水汲みをしたり、料理をしたりと色々と忙しく、疲れた時には木陰で涼んでいてばかりで、あまり友人達と遊ぶ事はなかった。元々活動的な方でもないけれども、せっかくこうして人里離れた山までやってきたのだし、一緒に釣りに興じるのも良いかと思ったのだ。
 そうと決まれば3人は素早く朝食をお腹に納め、あっという間に火の始末と後片付けまで完璧に終了した。元々、使った食器はほとんどない。「余計な洗いものは増やさない、食えれば良し」の方針の下、色々工夫はしたけれどもそれなりの料理で済ませたからだ。
 釣竿はそこらの枝を加工して作るらしい。十四郎も一緒に手頃な枝を探して釣り糸を結わえ付け、振り具合などを確かめた後にポチャリ、と川面に落として川原の石に腰掛けた。
 即席の釣竿はいかにも頼りないけれども、逆に何となく面白い。そうしてぼんやりと糸の先を見つめている横で、ライルとチップが一緒に川べりを歩き、幾つか罠を仕掛けて川に沈めていった。

「ご苦労さん」
「釣れそうかな?」

 声をかけたらライルが楽しそうに聞く。聞いて、時々澄んだ川面に映る魚の姿を追いかけて、ふらり、と別の場所に移動してはまた釣り糸を垂れる。
 少し落ち着いた方が魚も食いつきやすいだろうに、と考えながら見ていたら、不意にライルがぱっと立ち上がった。

「あッ! 魚が掛かってる!」
「‥‥って、ライル? そんなに慌てて走ったら‥‥」
「う‥‥わ‥‥ッ!?」
「ライル、危ない!」

 呆れたようにチップが声をかけたのと、グラリ、とライルがバランスを崩して盛大にひっくり返ったのは、同時だった。さすがにびっくりして顔色を変えた十四郎が叫んだものの、間に合わず、バッシャーンッ!! と派手な水音が山間に響き渡る。
 全身びしょ濡れになって、うぅ、とライルが頭をさすりながら立ち上がった。倒れた拍子にどこかにぶつけたのだろうか。川底には見たところ、割合に石がごろごろ転がっているようだ。
 小さな息を吐いて、見せてみろ、とライルを促す。

「‥‥小さなこぶになっている程度だな。念のため薬を塗っておくか」
「うぅ、ありがとう、十四郎‥‥」
「魚はライルが倒れた音に驚いて逃げちゃったみたいー。もっかい仕掛けなおしておいたよ」

 消毒の必要まではないようだと、懐から取り出した薬を塗ってやっていたら、罠を見ていたチップが戻ってきてひょいとライルの傍らに座り、そう言った。そっか、と肩を落としたライルだけれども、真剣に落ち込んでいる様子ではない。
 いつもなら、目を離せないのはチップの方で。ライルがこんな風にすっかり羽目を外すのはあまりない事だけれども、思わずそうさせてしまう位にこの、人の気配のない山は居心地が良いのだろう。

「午後からはみんなでオリエンテーリングとかしない? 修行がてらやりたいなーって思ってたんだー」
「あッ、やるやる!」
「そうだな‥‥俺は、山の中だと迷いそうだからまた釣りでもして待ってるさ」
「イッショに行けばだいじょーぶだよ」
「そうだよ、十四郎」
「むぅ‥‥」

 他愛なくそんな事を話しながら、またみんなで釣り糸を垂れる。昼ごはんは幾らか獲れた魚をさっと捌いて塩焼きにして、午後からは結局2人の熱意に押されて、十四郎も一緒に山の中をあちら、こちらと巡り歩いて。
 2日目の日が暮れて、オリエンテーションの最中で見つけたキノコをたっぷり放り込んだ味噌鍋が良い匂いを立て始めたころには、ライルはあくびを噛み殺し始めていた。食事を終えた頃には立派に睡魔に襲撃されている友人は、後片付けはやると主張して手伝ってくれたものの、ふわぁぁぁ、と大きな欠伸をし始めたのを見かねてチップが少し休んだらと促したら、テントに姿を消したきりこそとも音がしなくなる。
 十四郎とチップは、顔を見合わせて苦笑した。そうして、自分も疲れたから今日は早めに寝ると言うチップを見送って火の始末をし、ランタンをつけて川べりへと向かう。
 そこには、昼間から冷やしておいた酒瓶が眠っていた。それを引き上げて「月下独酌」としゃれ込もうかと、ランタンを消して月の灯を頼りにそぞろ歩いていたら、きし、とハンモックの揺れる音がする。

「‥‥なんだ、まだ起きてたのか」
「十四郎? うん、いちおーね。突然の雨で増水したりするかもだし」
「そうか‥‥俺はちょっと、飲もうかと思ったんだが」

 音のした方を見上げれば、チップらしい人影がハンモックの上で身じろぐのが見えた。見えるように酒瓶を掲げると、なるほど、と納得したような声が返る。
 少し離れた木の下に十四郎は腰掛け、懐に入れてた椀に酒を注いだ。そうしてちびちびとやりながら、降り注ぐような星の海と、その中に船のように輝く月を見上げ。
 ポツリ、とチップの呟きが聞こえた。

「‥‥来て良かったねー」
「ああ」

 十四郎はただ、それだけを返す。饒舌な言葉では伝えきれない思いでも、僅かな言葉の方がより雄弁に心情を伝えられたりするものだ。
 それきりまた沈黙が落ちて、十四郎は無言で空を見上げながら酒を飲む。とても、良い夜だった。





 2泊3日のキャンプは、あっという間に最終日を迎えた。十四郎は慣れた手つきでさっさとテントを解体して元通り荷物に括り、それから組み上げたかまどを壊して人の居た痕跡を出来るだけなく沿うとする。忍ぶ旅ではないが、この山の中にかまどがポツリと残っているのはいかにも不自然だ。
 他の持ってきた荷物も各自、来た時と同じ様に荷物にまとめた。滞在の間に出たごみは、持って帰ってから処分するものと、山に置いていくものに分別する。
 そうして川原から十分に離れた所に深い穴を掘って、持って帰らないごみをその中に放り込んでまた、しっかりと土をかけた。川原から距離をとったのは、大雨などで増水した時に地盤が削れて、ごみが分解されないうちに流れていかないようにだ。
 そうして後片付けを終えて、そこに人が居た痕跡をほとんど消し去った川原を、見回した。

「‥‥また、機会があったらみんなでキャンプ、来たいな」
「そうだな」
「だねー。楽しかったよね、キャンプ」

 ライルの言葉に、チップも十四郎も大きく頷いた。実際、この3日間は実に飽きなくて、そうして当初の目論見どおり人里から離れてのんびり出来た一時だった。そう言ったら、くる、と振り返ったライルが感謝を込めてにっこり笑う。
 そうして3人は3日前に登ってきた道を、来た時と同じ様にライルの背中を見ながら、ゆっくりと下り始めた。荷物に括り付けた熊よけの鈴を、山間にカラン、カランと響かせながら。





━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【整理番号 /    PC名     / 性別 / 年齢 /  クラス  】
 ea0061  /  チップ・エイオータ / 男  / 34  / レンジャー
 ea5386  /    来生 十四郎  / 男  / 34  / 浪人
 ea9027  /  ライル・フォレスト / 男  / 26  / レンジャー

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

初めまして、蓮華・水無月でございます。
この度はご発注頂きましてありがとうございました。

ご友人同士での楽しいキャンプの一時、心を込めて書かせて頂きました。
実はあまり活動的ではないと言う息子さんと、そんな息子さんを頼りにしてくださるご友人の方たちはきっと、とてもバランスの取れた仲間なのだろうな、と思います。
どんなお料理であったとしても、見渡す限りの自然の中で、気の置けない仲良しの皆様と笑い合いながら火を囲んで取る食事はきっと、最高に美味しかったのに違いないと思いました(笑

常に回りに気を配っておられるような印象の息子さんの、それでも楽しくのんびりとした一時が、描けていれば良いのですけれども。

それでは、これにて失礼致します(深々と
ココ夏!サマードリームノベル -
蓮華・水無月 クリエイターズルームへ
Asura Fantasy Online
2010年09月06日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.