▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『回る世界の片隅で 』
シルヴィア・クロスロード(eb3671)&オイル・ツァーン(ea0018)&ルシフェル・クライム(ea0673)&限間 時雨(ea1968)&エスリン・マッカレル(ea9669)&リース・フォード(ec4979)

●珍道中
 ポーツマスまで後僅かだというのに、その距離は一向に縮まらない。
 その最大の原因はイゾルデ。足が痛いだの喉が渇いただのと、すぐに歩みを止めてしまうので、全っ然、全く、進まないのだ。
「何をなさっているの? はやくこちらにいらして下さいな」
 街道の脇にある木立の下で、イゾルデはいそいそと敷布を広げ始めた。今朝、宿を出てから何度目のお茶会だろうか。
 溜息をついて、隅間時雨は無駄と知りつつ口を開いた。
「ねぇ、イゾルデ〜? 早くポーツマスに行かなきゃ、あの人が心配するんじゃないの?」
 いろんな意味で。
 だが、イゾルデから返って来たのは、予想通りでもあり、予想だにしなかった言葉であった。
「大丈夫ですわ。ポーツマスまでの道中を楽しんで来ると、あれにも申しておりますから。可愛い方々とご一緒出来る、折角の旅路ですもの。存分に楽しまなくては」
「‥‥イゾルデ‥‥」
 額に手を当てた時雨の傍らでは、エスリンが頬を引き攣らせている。
 見た目はエスリンの知るイゾルデ姫。だが、性格と言動は正反対だ。
「こ、この近くに確か泉があったかと。私は水を汲んで来よう」
 ふらふらしながら離れて行くエスリンの背を、時雨は気の毒そうに見送る。生真面目なエスリンは、イゾルデにとって格好の餌食だったらしい。ここまでの道中、さんざん遊び倒されたエスリンは、精神的にボロボロのはずだった。
ーそういえば、イゾルデ「姫」と関わりのある人達の話に齟齬はなかったって言ってたよね。だからエスリンも対応に困ってるのかな?
 だが、本物のイゾルデ「姫」だとしたら、当然、エスリンやトリスタンの事も覚えているはずだ。けれど、イゾルデは彼らの事を知らない様子だ。そして、ワットという騎士の死も、ユーリアの現状も伝聞としての知識のみ。
「けど、気になる‥‥‥‥」
「あら、泉がありますの? では、一緒に水浴びしませんこと?」
 考え込んだ時雨の傍らをすり抜け、エスリンを追いかけようとしたイゾルデの首根っこを捕まえる。油断も隙もあったもんじゃない。
「どうか致しましたの?」
「どうかした‥‥じゃないの! 泉で水浴びは却下ッ!」
 不満の声をあげるイゾルデに、時雨はこめかみを押さえた。あの青年の気苦労が分かる気が、した。

●風の声
 同じ頃、時雨やエスリンとは違う意味でこめかみを押さえている者がいた。
 古に連なる者の1人、スカアハである。
「‥‥それは、わしへの貢ぎ物ではないのか」
「貢ぎ物? じょーだんじゃないよ? これは、俺の可愛い彼女が「俺に」って作ってくれたものなんだから!」
 もしかして、この青年は惚気る為にここまで来たのだろうか。
 顔を手で覆ったスカアハに、リース・フォードは首を傾げてみせた。
「どうしたの? いらないなら僕が全部食べちゃうよ」
「この菓子はお前の恋人が「お前に」作ったものであろうが」
 うん、と切り分けたアップルパイに手を伸ばしながら、リースは幸せそうに笑う。
「だから、お裾分け。僕の彼女のアップルパイは、本当に美味しいんだよ。何しろ愛情が籠もっているからねっ♪」
「あーあー、そうかそうか」
 そう言いつつも、甘い匂いには抗えなかったらしい。スカアハは差し出されたパイを口元へと運ぶ。
「どう? 美味しい? 美味しいに決まってるよね」
「‥‥うむ。美味じゃ」
 小鳥の囀りと葉を揺らす風、そして美味しいアップルパイ。
 穏やかな午後の一時に、リースは目を細めた。
 今、この瞬間にも邪竜の毒が世に撒き散らされているとは思えないぐらいに長閑だ。
「‥‥そう言えば、アニュス・ディとか言ったっけ。デビルに騙されて遺跡を穢していた」
 パイを頬張っていたスカアハの眉が跳ね上がる。「アニュス・ディ」。それは、彼女にも関わりがあった集団だ。
「今も活動してるのかな‥‥」
「‥‥教会とやらの手伝いをして、焼け出された者達の救済を行っておるようじゃな」
 デビルに騙され、数多の血を流した者達をスカアハも気に掛けていたらしい。ぽつりと漏らされた言葉に、リースは一瞬だけ辛そうな表情を浮かべ、パイを口に放り込んだ。
「‥‥そっか」
 それが彼らなりの贖罪なのだろう。デビルに騙されていたという事は、言い訳にはならない。
「デビルと関わっていたからさ、何か知らないかなと思ったんだけど、そんな様子じゃ可能性は薄いかな。ね、スカアハ、スカアハは地の澱みを感じているんだよね?」
「うむ」
 最後に残った二切れを取ると、片方をスカアハに差し出してリースは問うた。
「じゃあ、その澱みの中心が分かったりするの?」
「澱みの中心?」
 じぃ、とスカアハの目をまっすぐに見る。
 砕けた口調だが、表情は真剣だ。パイを受け取ったまま、そんなリースの様子を見つめていたスカアハは、やがて1つ息を吐き出した。
「誤魔化しの言葉は無用じゃな。‥‥澱みは日に日に強うなっておる。もう、さほど時間は残されてはおらぬじゃろう。じゃが、その澱みがどこから流れて来ておるのか、それはわしにも分からん」
 ついと手を伸ばして、スカアハは遠く木立の合間に見え隠れする湖を指さす。
「例えるなら、あの湖に落とした小さな墨壷じゃな。墨が漏れて湖の水を汚すが、壷は湖の底。墨を辿って探そうにも、墨の跡は流れに消されて色ばかりが濃くなる‥‥」
「やっぱり無理かぁ」
 落胆した様子のリースに苦笑して、スカアハは続けた。
「じゃが、近くに行けば何かしら分かるやもしれん」
「でも、イギリスは広いよ」
 溜息と共に漏らされたリースの言葉に、スカアハは悪戯っぽく笑う。
「そう思うか? 実はの、小さき者達が風の声を聞いておるのじゃ。怖い場所がある。気をつけろ、とな」
「怖い場所? それって何処?」
 聞き返したリースに、スカアハは目を逸らした。
「分からぬ。今のこの国は、わしにとって知らぬ国ゆえ。じゃが、わしは風の声を頼りにそこへ向かおうと思うておる。こうして、のんびりお前からの貢ぎ物を食すのも今日が限りやも知れぬな」
 だから貢ぎ物じゃないってば。
 口を尖らせながらも、リースは揺れる木の葉を見上げた。
 吹き抜けていく風の中に、今も何かを告げる声が聞こえているのだろうか。
 そんな事をとりとめなく考えながら。

●菓子と過去
 館を訪れた時から、その騒動は始まった。
 そう、それはまさに嵐のようにー。
「次はキャメロットで人気の、歯が溶けてしまいそうに甘いタルトですのよ」
 にこやかに告げたルクレツィアの言葉に、オイル・ツァーンは思わず口元を押さえた。甘いものは疲れた体にいい。だが、度を越した甘味は胃に重い。何やら胸焼けがしそうに甘ったるい匂いのタルトを手にしたルクレツィアは満面の笑みだ。そして、これが終わりではない事を、オイルは知っている。
 彼女の背後に控えた女中が次の一品を手にしているし、更に廊下からも「準備中」の気配が伝わって来るからだ。
「‥‥ルクレツィア‥‥」
「はい?」
 歯が溶ける程という彼女の言葉通り、頭に突き刺さるような甘さのタルトを香草茶で流し込み、オイルは無理矢理本題に入る。これ以上、甘味を食べさせられては、いかな冒険者とて消費するのは容易ではない。
「ヒューの事なんだが」
「はい」
 こくりと頷いたルクレツィアはいつもと変わらない。自分達の元から去って行った男の名を聞いても、動揺する事もない。それが何に起因するものなのかと考えかけて、オイルは小さく頭を振った。考えても仕方のない事だ。
 だが、真実は彼の想像を越えていた。
「ヒューの事はそっとしておいて下さいな。ジミーが申しておりました。ハリーのお母さんは、お酒を飲んで暴れるハリーのお父さんに愛想を尽かして出て行ったそうですわ。その方がハリーのお母さんは幸せになれるのだから、ハリーも我慢しなければならないと。ヒューもお兄様に愛想を尽かして出て行ったのですから」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥いや、それは違」
「ヒューが幸せなら、わたくし達も少しぐらい寂しくても我慢しなくては。ね?」
 ね? じゃないだろう。
 額に手を当てて、オイルは呻いた。
 魂の主と固い絆で結ばれているはずの主を捨ててデビルに仕えたヒューと、呑兵衛亭主に愛想尽かして逃げた女房。同列に語ってどうする。いや、それ以前にヒューの幸せとは何だ。それではまるで‥‥。
 オイルの脳裏に、何かが駆け抜けて行った。
「‥‥‥‥‥‥ふ」
 いつの間にか、自身も知らないうちに乙女道に毒されていたようだ。自嘲めいた笑みを漏らすと、オイルは脳髄を突き抜ける甘さのタルトをもう一口囓った。
「ごほ‥‥。で、では別の話を聞かせてくれ」
「はい」
 甘さに悶絶しつつ、オイルは懸命ら言葉を紡いだ。
「ヒューと‥‥初めて会ったのは‥‥いつだ?」
「うんと小さな頃ですわ。あまりよく覚えておりませんの。でも、‥‥火が」
 ルクレツィアは眉間に皺を寄せた。苦悶のような、痛みに耐えるような、彼女にしては珍しい表情だ。
「火がどうかしたのか」
「火が後ろに迫っていた時、ヒューが手を引いてくれていたような気が‥‥するのですが‥‥」
 バンパイア王国崩壊の夜だろうか。
 存在すら無視され続けていたヒューが、どうやってルクレツィアを連れ出したのか。ヒュー自身は多く語らず、ルクレツィアはほとんど覚えていない。気が付けば、彼らは無事に保護され、カンタベリーを経由してサウザンプトンに、アレクシス達の元に預けられる事になっていたという。
「ああ、そうですわ。怖いものが来るからと、ヒューはわたくしを繁みに隠して下さいましたの。わたくし、そのまま眠っていましまして、気が付きましたら、ヒューに背負われておりました。もう怖いものは来ないのだというヒューの言葉に、とても安心した事を覚えております」
 ルクレツィアも知らない、空白の時間。
 その間に、ヒューはイーディスの差し向けた追っ手をまいたというのか。何の力も知恵も持たない、子供が。
 黙り込み、オイルが考えに没頭している間に、ルクレツィアはそっと女中に目配せをした。
 目の前に店を開ける程の甘味が並べられているのに彼が気付くのは、しばらく後の事であった。

●花の意味を
 由来は削除されてしまったが、1度登録されたトリスタンの紋章は変更される事なく、その後も使われている。
 トリスタン自身の印章は元より、「麗しのトリスタン号」では、これでもかとばかりに紋章入りの旗をはためかせた。
 紋章自体は変わっていないのだから、紋章に取り入れられた「花」を手掛かりに手繰っていけば間違いはない。
 そう確信して、ルシフェル・クライムは膨大な量の紋章院の資料を繰っていた。同じ「花」を持つ紋章を探すつもりだが、覚悟はしていたが、その数は膨大で、その1つ1つとトリスタンの紋章を照らし合わせていくのは気が遠くなるような作業だ。
「ルシフェル殿、少しお休みになられませんか」
 シルヴィア・クロスロードの声に、ルシフェルは顔を上げた。
 目頭を押さえて凝りを解し、シルヴィアが茶器を置いたテーブルに歩み寄る。茶と共に用意されていたのは、美味しそうなマフィン。丁度、空腹を覚えていた所だ。シルヴィアの心遣いに感謝しつつ、その1つに手を伸ばす。
「ルシフェル殿、件の占い師の情報が入って来たそうです‥‥」
 茶とマフィンを一頻り堪能し、他愛のない話に興じて気分転換も成った頃、ぽつりとシルヴィアが呟いた。
「ふむ。それで?」
 その話しぶりから大体の予想はついた。だが、敢えて問い直す。
「かの占い師は、一昨年の冬、風邪をこじらせて‥‥。トリスタン卿のお話は、自分が円卓の騎士になる事を言い当てたと公言して憚らなかったそうですが、どの地で、どのような状況であったのか等の詳細は語らなかったそうです」
「‥‥そうか」
 手掛かりの1つはこれで断たれた事になる。
「残る手掛かりは、やはり紋章か。‥‥そう言えば、イゾルデ姫の家に連なる紋章を調べたのだが、こちらもトリスタン卿との接点は見当たらなかった。姫の家は古く、その紋章には邪竜と思しき竜と剣を意匠としたものが多い。イゾルデ姫の祖先も邪竜退治に関わっていたと考えてもいいだろうな」
「共に邪竜と戦った者の子孫が、時を経て再び巡り会った‥‥。少し、運命的なものを感じますね」
 女性らしい意見だとルシフェルは口元に笑みを浮かべた。
「その運命に介入した者がいなければ、もう少し違った展開になっていたかもしれませんね」
 だが、女性でも冒険者。感傷に浸るだけではないシルヴィアに、ルシフェルの笑みはますます深まる。
「ルシフェル殿? 何かおかしな事でも申し上げましたでしょうか?」
 シルヴィアが首を傾げ、怪訝そうに尋ねるのに、何でもないと軽く手を挙げる。
「それと、紋章院の方々が協力をして下さいまして、トリスタン卿がご自身の紋章に関する由来の削除を依頼しに来られた日が絞れました」
「ほぉ?」
 確か、前回の調査では聖杯戦争の最中とまでしか分からなかったはずだ。
 シルヴィアが言うには、来院した者の記録が残っているはずだと、紋章院の職員が来院名簿を遡ってくれたらしい。
「それとギルドに残る依頼とを付き合わせまして、大体の目星がつきました」
 そう言いつつ、シルヴィアが1枚の羊皮紙をテーブルの上に広げた。身を乗り出すようにして覗き込んだルシフェルは、シルヴィアが時系列ごとに纏め直した資料を見て目を細める。
「クエスティングビースト、か」
 四肢を分断され、封印されていた、アヴァロンへの道を開くと言われる獣。
 トリスタンが紋章院を訪ねたのは、聖杯の確かな手掛かりを得、アーサー王を中心に冒険者達の気運も高まっていた頃だ。
「確か、あちこちに飛び回っていた時期だな」
「いつ、母君の事を知ったのかは分かりません。この時期はルシフェル殿のおっしゃる通り、あちこちに動いておられましたから。パーシ様に‥‥」
 言いかけて、シルヴィアは微かに頬を染めた。
 小さく咳払いして、改めて言い直す。
「パーシ様も、オクスフォードの戦いやイプスウィッチの遺跡探索などに奔走され、キャメロットには報告に戻る程度だったとか。ですので、キャメロットに戻って来た際、時間が空いた時に紋章院へ立ち寄った可能性も高く‥‥」
「まあ、どちらにしても」
 素のまま語りかけて、慌てて公私のけじめをつけようとしたシルヴィアの動揺を微笑ましく見守りつつ、ルシフェルはとん、と羊皮紙を指先で叩く。
「これ以降の話ではないという事だな」
「そ、そうですね」
 本来ならば、一日も離れていたくはない蜜月の時期。
 情報収集の為とはいえ、こう頻繁に別行動を取る事になった彼女が夫を恋しく思う気持ちも分からないではない。
 気持ちを落ち着けようとしているのだろう。冷めた香草茶を啜るシルヴィアに思わず笑みが漏れる。
「‥‥私も嫁さんが欲しくなった‥‥」
 ぽろり零れた言葉に、シルヴィアが噎せ返る。
「‥‥ル‥‥ルシフェル殿?‥‥」
 シルヴィアの狼狽も知らぬげに、ルシフェルはしたり顔でカップを口元へと運んだ。

●行き先
 ごねるイゾルデを何とか宿屋に押し込んで、時雨とエスリンは互いの顔を見合わせると深く息をついた。
 今日はこれで終わり‥‥ならば良いのだが、まだまだ気が抜けない。
 3人で一緒に寝ようと無邪気に告げられるのはまだいい。
 夜中、こっそりと寝台に潜り込んで来て、「心細いから」と暑苦しくもぴったりくっつかれた日には、朝まで抱き枕の刑確定である。
「あの護衛のおにーさんの苦労が分かるよ」
 はあ、と項垂れた時雨に、そう言えばとエスリンが問う。
「その護衛というのは、どのような方か教えて貰えないだろうか」
 エスリンの脳裏に過ぎるのは、イゾルデ「姫」と共にいた、銀髪の青年だ。もしも、彼がイゾルデの傍らにいたとなれば、今、自分達と同行しているイゾルデがアスタロト本人か、関わっている者という可能性が高くなる。
「うーん、いい男だったけど、主人のはずのイゾルデに容赦なかったよ。‥‥てかさ、アスタロトってオレイが敬愛しまくって忠誠を誓っていた‥‥ってデビルだよね?」
「うむ。地獄の大侯爵、七大魔王の1人と言われている」
 うーん、と時雨は指を額に当てた。
「もしもの話、彼女がアスタロトだとしたら、何か‥‥地獄の大侯爵の印象というか、権威というか‥‥そういうものが大暴落する気が‥‥」
「‥‥‥‥‥そっ、それは‥‥」
 確かにその通りだとエスリンも思う。
 それにと時雨は言葉を続けた。
「万が一、デビルだとすると、蝶とかデビル探知系のあれこれに引っ掛かりまくると思うんだよね。でも、蝶は何の反応も示さないし」
「操られている可能性も捨て切れぬ」
 イゾルデと行動を共にしながらも、エスリンは警戒は解いていない様子だ。
「そう言えば、ポーツマスって、今、荒れてるんだよね? 私はポーツマスに着いてからの方が怖いよ。荒れた街の中で、あの通りにやられちゃ‥‥」
「あら、ポーツマスに参りますけれど、ポーツマスの街には立ち寄りませんのよ?」
 突然に背後から聞こえて来た声に、時雨とエスリンは飛び上がった。
 いつ部屋を出て来たのだろうか。2人の反応を見て楽しげに笑うと、イゾルデは笑顔のまま告げる。
「イ、イゾルデ、いつからそこに?」
「? 今ですけれど? それよりも、わたくし1人除け者なんてずるいですわ」
 はてと首を傾げた後、イゾルデは思い出したように唇を尖らせた。
「わたくしを除け者にして、2人で楽しい事をするおつもりでしょ。あれがおりましたら、絶対に邪魔されますけれど、わたくしだって酒盛りに参加したいのですわっ」
 いつの間にか、時雨とエスリンはイゾルデを置いて酒盛りをする事になっていたようだ。
 思わず天を仰いだエスリンに代わって、時雨がイゾルデの気を逸らす。
「酒盛りするなら、酒買って来なくちゃ。でも、もう遅いからまた今度ね。‥‥と、ところで、聞いてたんなら教えて欲しいんだけど」
「はい?」
 今にも酒を買いに走り出しそうなイゾルデの腕を掴んで、時雨はさきほど気になった事を確認する。
「さっき、ポーツマスに行くけど街には寄らないって言ってたけど、じゃあ、どこに行くのさ?」
「わたくしがお世話になっている方の所です。以前はポーツマスに居を構えておられましたけれど、今はポーツマスを出て、新居に移られましたから」
 さらりと答えたイゾルデに、時雨とエスリンは互いの顔を見合わせたのであった。
WTアナザーストーリーノベル -
桜紫苑 クリエイターズルームへ
Asura Fantasy Online
2010年09月16日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.