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『至上命令・魔法鉱石を手に入れよ!〜筋肉強化の遥かなる道 』
ガイ3547)&(登場しない)

目覚めはいつも爽やかだ。
至高の筋肉を得るために極限まで鍛え上げるという修行の日々でガイの心は満たされている。
が、差し込む日の光がいつもよりやや薄暗い。
充実した日々を送り、体内時計は完璧なはずなのになぜだ?、と首をひねりながらも、修行を始めるため起き出した。
未だぐっすりと眠りこける仲間たちを起さぬよう、部屋を抜け出したところでいつもより早く目覚めた理由に気付き、やや早歩きで明けきらぬ城内の通路を進んだ。

ここは『究極の筋肉を求めし猛者が集う神聖なる場所』―誰が読んだか、その名も『闘神集団』。
険しい山脈に抱かれし古城にて日々、筋肉を鍛えているという格闘家の集いし場である。
格闘家として志を同じくするガイが入門したのはごく自然の流れ。
朝も早くから修行に取り組むのが常なのだが、本日は少々事情が異なるようであった。

『闘神集団』の住まう山脈の一角に近年採掘が開始された鉱山がある。
取れる鉱石は非常に上質でどこの市場でもひっぱりだこになり、採掘が追いつかない状況。
しかも上質な鉱石に混じって希少価値がとんでもなく高い鉱石―『魔法鉱石』が採掘されることもあって活気づき、幸先も明るいのだが、問題があった。

魔法鉱石が採掘できるという特性からだろうか、とにかく危険なのだ。
もちろん採掘場だけあって危険など日常茶飯事だが、その度合いが半端ではない。
完全武装で坑道内に入ればあらゆる武器・装備がきれいさっぱり溶けてしまう。
腰巻などといったごく軽装ならば問題はないのだが、ほぼ無防備な状態になるのはいただけない。
しかも坑道内は尋常ではない高重力でまともな動きができない上に採掘した鉱石をもったら最後、身動きができないほどの重力が加算されてしまうという始末。
だが、もっとも悪いのは魔法鉱石を見つけた直後だ。
人目に晒された瞬間、鉱石は採掘者を試すが如く強力な魔物へ変貌して牙を向けるのだ。
そのため、最良の鉱山ながら無防備・高重力・強力魔物という三段悪循環で採掘者たちが一目散で逃げ出すという超危険鉱山に認定されてしまったのである。
頭を抱えたのは採掘主。
目の前に金の山があるのに手が出せない。だが、採掘者の身の安全を考えなくては元も子もない。
散々悩んだ結果、鉱山の近くで評判になっている天下無双の格闘集団・『闘神集団』に泣きついたのである。
武器が持ち込めない上に高重力下。さらに魔物が溢れ出てくる鉱山で採掘できるのは彼らしかいないと判断したのだ。
その発想は大当たり。
筋肉を鍛え上げる、すなわち自らの肉体こそが最高の武器である『闘神集団』にとってはうってつけの修行場。
軽装備は当たり前。坑道内での高重力は筋肉を鍛えるには程よい負荷。さらに出現する魔物と戦えるとあってはとんでもなく良い腕試しになる。
結果、鉱山の採掘作業はこれ以上になく順調に進むようになった。
喜んだ採掘主は謝礼とばかりに採掘できた鉱石を一定量譲ってくれただけでなく、筋肉を鍛え上げる上で必要な機材を売買する異世界の商人たちと取引できるように計らってくれた。
お陰で機材に困ることなく日々の修行に明け暮れるようになり、一つの規則が定められた。
―十人一組の交代制で労働当番を定め、鉱山に修行兼採掘へ向かうこと
好条件で筋肉が鍛えられるとあって、断る者はなく、中にはこの労働当番を指折りに数えて待つ者がいるほどだ。
入信して日の浅かったガイはこの日初めて噂に聞く労働当番となったであった。

ずっしりと全身に掛かる負荷が心地よい。
やや手狭な坑道内だけあって蒸し暑さがあるが、それもまた筋肉を鍛えるには都合が良いとガイは半裸・裸足でむき出しとなった岩石を素手で砕きながら作業に専念する。
以前、とある鉱山で働いていたこともあってガイの作業は手際よく、古株で働く仲間たちから感嘆の声がもれた。
「すごいな〜ガイ。俺達も大した装備じゃないが、お前ほどじゃないな」
「ああ、さすがに素足とはいけないぜ……某も負けてはおれん!!」
「いやいや、修行すれば誰でもできるようになる。皆、素晴らしい素質を持っているんだ。俺も負けては折れんよ」
尊敬の眼差しで見上げてくる若い信者にガイは照れくさそうに頬を掻く。
大したことではなかったのだが、採掘をしている信者たちには充分すぎるほどの刺激となったようだ。
鉄のように頑強な岩肌にぶち当たり、ここを避けるか最小限の道具を持ち込んで砕くかと論戦を交わしていた彼らを見かけたガイがならば
と素足で件の岩肌を粉砕したのは数十分前のこと。
まれに鉱石も混じっていることもあるので足が砕けないかと、真っ青な顔で尋ねてきた最古参の信者にガイは人懐っこい笑顔で大丈夫だと足裏を見せる。
ぶ厚く鍛えられた皮膚の強さを示すように、毛筋ほどの傷も見つからず、その場にいた誰もが驚愕した。
彼らも腰巻程度の装備であったが、ごつごつと岩がせり出した坑道内で素足とはいかず、普頑丈な革製のサンダルやブーツを履いている者
が多かった。
以前はガイのように素足で挑む者がいたのだが、慣れた山道のようにいかず挫折。
だからこそガイの行為は非常な憧れを抱かせるものであった。
「今は無理かもしれないが、もっと修行を積んで素足で歩くようになる!」
「やはり日々の鍛錬は大事だと痛感させられるものだ……さぁ、作業を続けるぞ!全ては筋肉を鍛えるため!」
おう、という声と共に仲間達の動きが増していくのを見ながらガイも採掘すべく腕を振るった。

次々と運び出されていく鉱石を見送りながら最古参の信者は少しばかり眉をひそめた。
今日の作業も順調で上質のものが掘られているが、まだ魔法鉱石が採掘されていない。
まぁ採掘できない日がないわけではないから気にしなくてもいいのだが、今日は入信して日の浅い者達が多数いる。
できることならば魔法鉱石の魔物と戦ってもらいたいと思っていたが、そう上手くいかないようだと内心落胆を隠せない。
と、そこへ気合の込められた叫びと共に強力な蹴りで砕ける岩の音が坑道内に響いた。
振り返ると素足のガイが『全力の一撃』と称される素晴らしく筋肉を使った技で岩盤を砕いた光景が飛び込んだ。
「ほお、さすが……」
見事な蹴りとため息をこぼしそうになった信者の顔が一瞬にして強張る。
ガイが砕いた岩盤の―ちょうど足元に零れ落ちた拳大の仄白い塊。
空気に触れた瞬間、まるで空気に溶け込むようにぐにゃりと歪んだ途端、たちまち大型動物ほどの異形の姿へと変貌を遂げる。
「おおっ、こいつは!」
「そいつが鉱石の魔物だっ!皆、強力な奴だから気をつけろよっ」
黒銀に輝く岩肌にもった狼がごとき魔物が雷光のような鋭い光を宿した双眸でガイを射抜く。
警告を発しながら最古参の信者は戦いの邪魔にならぬように他の仲間たちに下がるように大声を上げる。
唸りを上げて喉元に牙を立ててくる魔物の一撃を楽しげな表情で横飛びに避けながら、その背に向かって左の肘を打ち下ろす。
ひしゃげた声をあげ、身をよじって地面を転げ回りながら体勢を整えて魔物は飛び掛かってくるが頭一つ分屈め、ガイはえぐりこむように無防備な腹へ右の拳を撃つ。
大きく後ろへ吹っ飛ばされた魔物は怒りに目を光らせて、無防備と思われるガイの左足を捕え、爪を立てた前足を振り下ろす。
浅く―だが、けっして小さくない傷を付けられたように見えたガイだったが、動じることなく傷つけられた足で勢い良く魔物を蹴り飛ばした。
無駄のない見事な連続攻撃にその場にいた誰もが息を飲み―現れた時と同じように魔物はぐにゃりと全身を引き攣らせ、拳大の塊となって地に落ちた。
「おおおおっ!!すげーぜっ、ガイ」
「手こずる奴も多いってのになぁ!こりゃ、良いもの見せてもらった」
「怪我は?容易いようだが元は鉱石だ……早く手当てしないとっ!!」
熱に浮かされたように興奮する仲間の中で最古参の信者は血相を変えてガイに食って掛かる。
見た目は普通の魔物と同じようだが、元々は魔法を帯びた鉱石が変化したものだ。
受けた怪我も並大抵のものではないことを経験上、彼はよく熟知していた。
「うん?大丈夫だ。ありがとう」
安心させるようにガイはにっこりと笑いながら綺麗な―まったくの無傷の足と裏をズイと眼前に見せ付けられた最古参の信者は呆気に取られながらも、先行きが楽しみな奴が入ったものだと心の底から思うのだった。


うず高く積み上げられた鉱石の山から一つ取り上げ、じっくりと見定めた見慣れぬ服装の商人たちは大きく息を吐き出して交渉のテーブルに着く頭領を見た。
「相変わらず素晴らしい鉱石だ。ご依頼の品はいつもの部屋に運び込ませよう」
「いつも済まぬ。我々も素晴らしい修行機材を得る事ができて感謝しておる。またお願い申し上げる」
いかめしい髭を蓄えた頭領と喜びで輝かせてがっしりと握手を交わす仲間にガイは少しばかり表情を緩める。
取引先の商人がくると聞き、興味を持ったガイに交渉役を任されていた仲間が『ならば見学すればいい』と気軽に誘ってくれたのだが、まさか異世界の商人とは思いもしなかった。
しかしここで使われている修行機材の数々を思い浮かべ、それも納得できる。
あれだけ集中的に筋肉を鍛えられる機器など異世界でなければ手に入るはずもない。
彼らを紹介してくれた採掘主の顔の広さと慧眼には感服しながらも、運び込まれた新たな機器を目にすると自然と胸が躍る。
「明日からの修行にまた熱が入りそうだな」
次々と運び込まれていく大きな荷物を見送りながら、ガイは腕を慣らしながら、さらに鍛え上げられていく筋肉の姿を思い描くのだった。

FIN
PCシチュエーションノベル(シングル) -
緒方 智 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2010年09月21日

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