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『Halloween Night 〜マスカレイド・ダンスパーティ〜 』
フェンリエッタ(ib0018)

●招待状
 ハロウィンといえば、化生達の扮装をもって、子供達が家々を練り歩くのが有名な催しとなっております。
 それでは大人は如何いたします?
 虫の音に交じり響く化け物達の笑い声。
 それに臆することなどないという紳士淑女の皆さまにおかれましては、バケモノ、アヤカシ、モンスター……様々な名で呼ばれる化生達の仮装を纏い、仮面で顔と心を隠し、我が主の城で催される舞踏会にいらっしゃいませんか?

 ハロウィン色に飾りつけられた城の広間は、とても幻想的でございます。
 蝙蝠や黒猫など、化生達が連れ歩く使い魔に扮した楽団が奏でる、恐ろしくも美しい哀切に満ちたメロディや、悲鳴や嘲笑が彩る賑やかな曲に合わせての舞踏会を、どうぞお楽しみくださいませ。

 踊り疲れたならば、ジャックオーランタンが至る所に飾りつけられた庭園で、夜の庭園を楽しまれては如何でしょう?
 赤い月や星々を映した水面が揺らぐ噴水を中心に引かれた水路を囲む遊歩道は、踊り火照った身体を沈めるにはもってこいでございます。

 仮面と仮装で本音を隠し、秋の長夜を、どうぞお楽しみください。
 化生達が集う城のモノ一同、皆様をお待ちしております。


●虚像の城
 招待状を差し出せば、綺麗に綴られた飾り文字を認め、蝙蝠の仮装をした執事が慇懃に腰を折った。
「ようこそいらっしゃいました。どうぞ一夜限りの化生の夢を……」
 蝙蝠の羽根のようなインバネスを翻し、執事が指し示した先――そこに建っていたのは、優美とは程遠い黒と橙……二色に染められた毒々しいまでの装いの古城。
 幾千……と称されるほどに灯されたたくさんの明かりが放つ光は何で染められたか、紫の焔。
 まさしく、化生の集う城。
 橙と黒のリボンが飾られた門扉を一歩をくぐれば、虚ろと寂寥……あるいは、恐悦と愉悦に満ちた笑い声と音楽が城の中から漏れ聞こえる。
「…………なんだかすごいところ……言われた通り仮装はしてきたけれど……」
 手の中にある仮面を撫でると、つるりとした陶器に似た感触が返る。
 入り口で執事に手渡された仮面は、衣装に合った黒。縁を飾る銀の石がきれいな品で、仮面の裏に張られた布は赤く、洒落た装飾品といってもいい作りだ。
 普段の彼女ならば、着る事に少しためらってしまいそうな、ミニスカートから覗くのは黒猫の尾。ふわり舞うように結ばれたリボンが揺れる。
「…………よし!」
 仮面を付けた黒猫の魔女は、化生の城へと踏み出した。


●黒猫魔女の場合
「……うわ〜……」
 城内で繰り広げられていたのは、絢爛豪華な舞踏会。
 見渡す限り、異形の紳士淑女が満ち満ちた広間は、普通の舞踏会にはあり得ない異様な雰囲気に包まれていた。
 ハロウィンの定番ともいえる、吸血鬼にフランケンシュタイン、狼男。魔女に蜘蛛女、メドゥーサ……あるいは、ハロウィンの象徴ともいえるジャックオーランタンそのもののような被りモノから、東に西に海に分たれた様々なモンスター……化生達が集っている。
 よくよくみれば、楽団員や給仕達などは馴染みの化生達が使役するといわれる格下の仮装をしている。ゲストたる化生達の文字通り『使い魔』ということなのだろう。
 舞踏会に流れる曲の数々が、少し気持ちが悪い。気味が悪いというべきか。笑いさざめき過ごすゲスト達の様子を見る限り、慣れればどうということもないのかもしれないが。アレンジされる変調が、あるいは時折『外れる』音がもたらす不協和音が、この城を彩る奇々とした雰囲気を支えているのかもしれない。
 音に惑わされる事無く曲を聞けば、刻まれる拍子は原曲と同じ。ならば、踊るには問題ないのだろう。
 けれど……。
「スカート丈が少し短かったかも……」
 そっと裾を下に引くように抑えたフェンリエッタの口から小さなため息が零れる。
 黒基調の魔女風ドレスにはポイントに鮮やかな翠が刺された、シックな中に華やかさも忘れぬ可愛らしい衣装だった。それゆえ、舞踏会の輪の中に入れば、くるり回るたびにふわりと広がるスカートから、普段は露わになる事のない白い脚が晒されることにもなる。
「………………う〜ん…………」
 視線が気になり人見知りが首をもたげて壁の花となる黒猫の魔女。
 くるくる、ふわり、くるん。
 鮮やかな衣の裾をなびかせて、器用に踊るのは何処の世界の化生なのか。あるいは、よくもきれいに舞うものだと感心させられる化生は、僵屍と呼ばれていたものか。
「身体が固いはずなのに、ずいぶん器用に踊るのね。ふふ……あちらのペアなんて、モンスターとしては天敵同士じゃなかったかしら。不思議だわ……」
 目の前で繰り広げられる舞踏劇は、物語の――仮想を真似ているのだとしても不思議な光景。自身が装う黒猫宜しく、フェンリエッタの好奇心が疼きだす。
 フルートを嗜み、常に音と共にある生活をしてきた身は、いかな不協和音がまざるとはいえ……否、それでも素晴らしい音楽が満ちる広間にいれば、知らぬ間に爪先はリズムを刻みだず。
 壁に縫い留める最後の理性は、衣装への恥ずかしさ。
 自分も一緒に輪に加わってみたい。
 …………でも、やっぱり。
 心の天秤が微妙な傾きをしていた時に低い穏やかな男性の声が降ってきた。
「お嬢さん、良ければ踊って頂けませんか?」
 顔を上げると、そこにいたのは……


●黒猫のダンスとその後
 ぽんと素直に手を預けてしまったのは、ダンスに誘ってくれた背格好や物腰、穏やかな声の調子とか……何だか雰囲気があの方と似ていたから。
 嬉しいような落ち着かないような……ドキドキ高鳴る胸の音を抑え、踊りの輪の中に滑るような足取りで加わった。変調子も、転調も、不協和音ですら……まるで道化の奏でる即興曲のような不思議な音楽も、慣れてしまえば笑いを誘い、堅苦しい社交ダンスとは違う、気ままな踊りで楽しい。
 手を取った時この人も剣と共に在るのだと分かった。
 よほど嫌な想いをしたのでなければ、1曲踊った後でもう1曲誘うのは舞踏会でのお約束。
 1曲踊り終えた後でもう一度誘われた時は、そして踊っている時にも、こんな風にあの方と過ごせたら素敵なのにと……つい考えてしまう。
 そんな心を読まれていたと知ったのは、2曲踊り終えてからのことだった。
 続けて踊って火照った身体を冷ますように庭園に誘われて、愛嬌たっぷりのジャックオーランタンの傍らに腰かける。
 踊る事をちょっぴり諦めていたフェンリエッタを、輪の中に誘い出してくれた狼さんへ持参した手作りの菓子を詰めたバスケットを「食べてくれなきゃ悪戯するぞ♪」を茶目っけたっぷりに差し出すと、仮面の奥に見える碧の瞳が瞬いた。
「……え、と……もしかして甘いものは、苦手でした?」
 私の家族や……あの方も甘い物が好きだから失念していた。
 慌ててフェンリエッタが無理しないでと言い差した所、狼男の本分を思い出したように『がお〜!』と付け加えながら、バスケットの中の焼き菓子をひょいと摘んで頬ばった。
「うん、美味い。甘いものは好物だ。実は、やわらか〜い女の子のお肉よりも、ね」
 美味い、と笑うその顔に何かの面影が重なって見え、フェンリエッタは小首を傾げた。
「それより、黒猫のお嬢さんは、ダンスの間ずっと俺の向こうに違う誰かを見ているようだな」
 からかうように笑いながら言われた言葉にフェンリエッタは頬が熱くなるのがわかった。
 庭に灯された仄明かりでも分かるほどに真っ赤になっていたらどうしよう。思わず頬を両手で押さえると、狼さんが仮面の向こうで眉を跳ね上げたのがわかった。
「おやおや…………まあでも、『まごころ』はちゃんと伝わるものだ。だから、頑張れ」
 ぽんと頭に置かれたのは狼さんの大きな手。くしゃりと押された帽子の合間、黒猫の耳がふるりと震えた。……フェンリエッタの心のように。
 励ますように頭を撫でてくれた大きな手が嬉しい。まるで大好きなおじい様にそうしてもらったようで。
「それじゃ、美味しいお菓子をご馳走様。……良い夜を」
「…………あ、あのっ!」
 立ち上がった狼さんの背は高い。踊っていた時から知っている。
 だから狼さんを追いかけるように立ち上がったフェンリエッタはまるで飛び付くように、目を覆う仮面の下、頬へそっと唇を押しつけた。
「黒猫の魔女からの口づけか……ハロウィンの夜にはとっておきだな」
「私こそ楽しい時間をありがとう、狼さん♪」
 手を振ると、ゆるりと手を振り返しながら狼はパティオへと続く窓扉の方へと歩いていった。
 フェンリエッタ達と同じように涼を求め、庭園で過ごす化生達も少なくはない。
 歩みに合わせ揺れる尾もやがて化生達に紛れてしまった。
「……どうしよう、かな」
 手の中に有るバスケットの中にはまだハロウィンのお菓子がたくさん詰まっている。
 招待状にも書いてあったではないか、今夜だけは仮面と仮装で本音を隠し、秋の長夜を、思い切り楽しめばいい、と。
「よし!」
 短いスカートも黒猫魔女の一部。今日はフェンリエッタはお休みして、思い切り楽しもう。
 明日からまた頑張るために。
 広間にはたくさんの化生達がいた。
 もしかしたら、狼さんの他にも甘いものが好きな化生がいるかもしれないから。


●黒猫魔女の直感と目標
「………………?」
 送り出されるように別れた狼さんとの出会いが、どうしても名残惜しくて。
 広間に戻ろうとしたけれど、姿を探すように振り返ったその先に、仮面を外した彼の姿が見えた。
「――――!」
 額の左側と、左頬から左耳にかけての2本の傷痕。
 フェンリエッタの大好きな祖父と同じ傷痕。仮面の奥に見えた優しい瞳の色も、同じだった。
「……おじい様……?」
 だが、フェンリエッタの祖父は――祖父。狼さんのように若くはない。
 別れ際、励ますように頭を撫でてくれた大きな手。
 美味しいと笑ってお菓子を食べてくれた笑顔。
「……まさか。……でも……」
 1年に1度、1日だけのハロウィンの夜。
 化生が集い、騒ぎ浮かれる夜だから……不思議な偶然があっても良い。
 偶然すら必然なのかもしれない夜だから。
「狼さんが美味しいって言ってくれたから、頑張れって応援してくれたから……――頑張ろう」
 これからも、騎士として――フェンリエッタ・クロエ・アジュールとして。
 軽くなったバスケットを抱え、軽やかな足取りで、リボンをふわりなびかせながら尾を揺らし、黒猫の魔女は化生で満ちた城を後にした。
 ……自分が過ごす日常の朝を迎えるために。




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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【ib0018 / フェンリエッタ / 女性 / 18 / 騎士】
【ec3546 / ラルフェン・シュスト / 男性 / 31 / ナイト】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ダンスパーティも秋の夜長の不思議ナイト(※夜被り)もなんだかどっちつかずになってしまった感がありますが……おじい様とのデート・孫娘編をお届けいたします。
ご依頼に沿えていれば幸いです。
おじい様とは視点が違っておりますので、合わせてご確認頂ければと思います。
ご発注頂きまして、ありがとうございました。
HD!ドリームノベル -
姜 飛葉 クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2010年10月14日

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