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『Halloween Night 〜マスカレイド・ダンスパーティ〜 』
ラルフェン・シュスト(ec3546)

●招待状
 ハロウィンといえば、化生達の扮装をもって、子供達が家々を練り歩くのが有名な催しとなっております。
 それでは大人は如何いたします?
 虫の音に交じり響く化け物達の笑い声。
 それに臆することなどないという紳士淑女の皆さまにおかれましては、バケモノ、アヤカシ、モンスター……様々な名で呼ばれる化生達の仮装を纏い、仮面で顔と心を隠し、我が主の城で催される舞踏会にいらっしゃいませんか?

 ハロウィン色に飾りつけられた城の広間は、とても幻想的でございます。
 蝙蝠や黒猫など、化生達が連れ歩く使い魔に扮した楽団が奏でる、恐ろしくも美しい哀切に満ちたメロディや、悲鳴や嘲笑が彩る賑やかな曲に合わせての舞踏会を、どうぞお楽しみくださいませ。

 踊り疲れたならば、ジャックオーランタンが至る所に飾りつけられた庭園で、夜の庭園を楽しまれては如何でしょう?
 赤い月や星々を映した水面が揺らぐ噴水を中心に引かれた水路を囲む遊歩道は、踊り火照った身体を沈めるにはもってこいでございます。

 仮面と仮装で本音を隠し、秋の長夜を、どうぞお楽しみください。
 化生達が集う城のモノ一同、皆様をお待ちしております。


●虚像の城
 招待状を差し出せば、綺麗に綴られた飾り文字を認め、蝙蝠の仮装をした執事が慇懃に腰を折った。
「ようこそいらっしゃいました。どうぞ一夜限りの化生の夢を……」
 蝙蝠の羽根のようなインバネスを翻し、執事が指し示した先――そこに建っていたのは、優美とは程遠い黒と橙……二色に染められた毒々しいまでの装いの古城。
 幾千……と称されるほどに灯されたたくさんの明かりが放つ光は何で染められたか、紫の焔。
 まさしく、化生の集う城。
 橙と黒のリボンが飾られた門扉を一歩をくぐる。
「……なんだかすごいところだな……さて」
 彼が見上げた先にある城からは、虚ろと寂寥……あるいは、恐悦と愉悦に満ちた笑い声と音楽が城の中から漏れ聞こえてくる。
 彼の装束は黒衣の騎士――ピンと立つ耳とふっさりとした尾がなければ、だが。
 真摯な狼男、といった風体で、入り口で執事に手渡された仮面は、衣装に合った鈍銀黒。縁を飾る碧の石がうつくしい。
「……庭に姿はない、か。……待ち合わせには少し早かったか」
 様々な表情を浮かべたジャックオーランタンが並ぶ庭園を見まわして、彼は顎に手をやった。
 胡乱な招待状ではあるが、ハロウィンの夜であれば、それすらスパイスになるのだろうと盛り上がった妻と妹、3人で楽しむために今宵の招待を受けることにしたのだ。
 条件は『仮装で、仮面をつけること』であったため、あれもこれもと飾り付けたがる女達の手をかいくぐり、仮装は耳と尾までにまけさせてきた。大人しく従っていたら、まるごとシリーズを着るよりもすごいことになっていたかもしれない。
 妻と妹には、楽しんでもらいたい。
 城内が二人に害為すものでないかどうかくらい、先に見て確認しても良いだろう。
 そう決めた狼男は、化生の城へと踏み込んでいった。


●狼男の場合
 ラルフェンが妻と妹との約束の時間まで、先ずは雰囲気をみてみようと入った城の広間で繰り広げられていたのは、絢爛豪華な舞踏会。
「ダンスパーティは嫌いじゃないが、これはまた……」
 見渡す限り、異形の紳士淑女が満ち満ちた広間は、普通の舞踏会にはあり得ない異様な雰囲気に包まれていた。
 ハロウィンの定番ともいえる、吸血鬼にフランケンシュタイン、狼男。魔女に蜘蛛女、メドゥーサ……あるいは、ハロウィンの象徴ともいえるジャックオーランタンそのもののような被りモノから、東に西に海に分たれた様々なモンスター……化生達が集っている。
 よくよくみれば、楽団員や給仕達などは馴染みの化生達が使役するといわれる格下の仮装をしている。ゲストたる化生達の文字通り『使い魔』ということなのだろう。
 舞踏会に流れる曲の数々が、少し気持ちが悪い。気味が悪いというべきか。笑いさざめき過ごすゲスト達の様子を見る限り、慣れればどうということもないのかもしれないが。アレンジされる変調が、あるいは時折『外れる』音がもたらす不協和音が、この城を彩る奇々とした雰囲気を支えているのかもしれない。
 音に惑わされる事無く曲を聞けば、刻まれる拍子は原曲と同じ。ならば、踊るには問題ないのだろう。
 いっそステップを踏み外しても、型を崩してもなお、楽しければそれがいい、それでいい。
 そんな享楽的な雰囲気が漂い、嬌声のあがる踊りの輪は中々に賑わっているようだ。
 けれど、ふとラルフェンの目に留まったのは、黒猫の娘。城内の雰囲気に染まるでもなく、そっと壁の花になっている年若い黒猫の魔女を暫く観察していると、顔の半分は仮面で隠れているのに、ころころ表情を変えるのが分かる。
「……まさに、猫……か」
 つい笑みを誘う姿に惹かれ、壁の花となっているには惜しい――気づいた時には、手を差し伸べていた。


●狼のダンスとその後
 思ったよりも容易く、ぽんと素直に手を預けられ、ラルフェンは仮面の下で小さく笑った。
 踊り出せば、するりとリードに付いてこれる基礎力を持った黒猫の魔女。おそらく良いところのお嬢さんなのか。取った手は、黒い絹の手袋越しにも分かる鍛えられた剣を持つ固い手指。
 ――貴族の子女で、騎士だろうか……?
 仮面の下に隠れた素顔に当たりをつけるより、ふとした仕草が妹に似ている気がして、目の前にいるのは妹の変装ではないのかとも思ってしまう。
 ついつい兄として妹に接するような調子で、踊りの輪に惹かれているのに、入り込めない彼女を誘ってしまったが。嬉しいような落ち着かないような……変調子も、転調も、不協和音ですら……まるで道化の奏でる即興曲のような不思議な音楽も、慣れてしまえば笑いを誘い、堅苦しい社交ダンスとは違う、気ままな踊りで楽しい。
 あっという間に1曲終わってしまいもう1曲誘う。よほど嫌な想いをしたのでなければ、1曲踊った後でもう1曲誘うのは舞踏会でのお決まりの1つでもある。
 化生達の舞踏会にそんなお約束があるのかはわからないが。
 踊る最中、見上げる黒猫のお嬢さんが自分の向こうに違う誰かを見ているようなのに気づいたのは、偶然だったか、それとも何か思うところがあってかはわからない。
 続けて踊った曲も終わり、そのまま手を離すにはなぜか名残惜しくて、火照った身体を冷まそうかと庭園に誘った。一休みするのに手頃な場所もみつけ腰かけると、目の前に差し出されたのは黒猫魔女が持っていたバスケット。
「食べてくれなきゃ悪戯するぞ♪」
 茶目っけたっぷりに差し出されたバスケットの中には、手作りと思しき焼き菓子の数々。
「……え、と……もしかして甘いものは、苦手でした?」
「いや……そんなことはない」
 バスケットを覗きこむ間に、勘違いさせてしまったらしい。慌ててバスケットを下げようとする黒猫のお嬢さんの手を押し留め、バスケットの中の焼き菓子をひょいと摘んで頬ばった。
「うん、美味い。甘いものは好物だ。実は、やわらか〜い女の子のお肉よりも、ね」
 美味い、と笑ってみせれば、ほっとした気配が伝わる。
「それより、黒猫のお嬢さんは、ダンスの間ずっと俺の向こうに違う誰かを見ているようだな」
 からかうように笑いながら、軽い気持ちで伝えた言葉に、黒猫のお嬢さんの頬が真っ赤に染まったのが、暗い庭園でもわかった。
 素直過ぎて微笑ましいが「おや」と心中で首を傾げた。ほんの少し、この娘の想い人に嫉妬のような複雑な感情を覚えるのは何故だろう。
 だがこの娘がいつか望む相手からダンスに誘って貰えるといいとも思う。
 零れる笑顔が愛しいのは、きっと妹に似ているから、かもしれない。
「おやおや…………まあでも、『まごころ』はちゃんと伝わるものだ。だから、頑張れ」
 励ますように、つい妹にするのと同じくぽんと頭に手を置き撫でると、くしゃりと押された帽子の合間、黒猫の耳がふるりと震えた。
「それじゃ、美味しいお菓子をご馳走様。……良い夜を」
「…………あ、あのっ!」
 お嬢さんも気にかかるが、そろそろ妻も妹も訪れる頃だろう。
 礼を伝えて、ラルフェンが立ちあがると、追いかけるように立ち上がった黒猫のお嬢さんから、まるで飛び付くように……頬にかわいらしいキスが贈られる。
 思いがけず、驚いて頬を指先で押さえれば、黒猫のお嬢さんがふわりと微笑んだ。
 なぜか、妹にも、どこか妻にも……自分の愛しい者に似ている笑みに、胸が温かくなる。
「黒猫の魔女からの口づけか……ハロウィンの夜にはとっておきだな」
「私こそ楽しい時間をありがとう、狼さん♪」
 手を振ると、ゆるりと手を振り返された。
 ラルフェンは、妻達と待ち合わせを決めていたパティオへと続く窓扉の方へと歩きだす。
 庭園には自分達と同じように涼を求め、庭園で過ごす化生達も少なくはない。
 1度だけ振り返ったが、黒猫のお嬢さんの姿は夜の色と化生達に紛れてしまったようだった。


●狼男の感と夢
 指先に付いたアイシングとクッキーの欠片をぺろりとなめ、手袋を再び嵌め直した。
 誰かに見られたならば、行儀が悪いと眉をひそめられる行動かもしれないが、今夜は仮面の下に全てを封じてモンスターの皮を被る日。行儀も何もないだろう。最も彼が1番気に掛ける、妻も妹もそのようなことは言うまい。
「……不思議なお嬢さんだったな」
 差し出された菓子を『美味しい』と伝えた言葉は、決して世辞などではなかった。
 馴染み深い『我が家の味』に似た菓子に、驚き、懐かしいと思うくらいに……美味しかったから。
「娘が生まれ、育ったら……あんなお嬢さんになってくれると、いいか」
 もしも、の未来を思い浮かべる。
 寂しそうな表情は似合わない。だからこそ、自分を通して誰かをみているようだった彼女を励ます言葉を贈った。だが、娘にそんな表情をさせるような男など、決して許しはしないだろう。だが、誘わないのも腹立たしい。
「……いかんいかん」
 愛する妻との間に未だ子は無く、想像だけだというのに嫉妬のような、というか怒りを覚えるのは、我ながら親バカになる素養が十分にあるのかもしれない。
 仮面を取り、こめかみを軽くもみほぐすように抑えることしばし。
「様子見のつもりが、待たせてしまっていたら本末転倒だ」
 再び仮面を付け、狼男はパティオに続く窓扉をくぐる。妻と妹を迎えるために。
 会う時までの秘密といわれ、決して教えて貰えなかった妻と妹の仮装姿。どんな衣装に身を包み、仮面を付けて顔を隠したとしても……愛する者の真実の姿と心を、ラルフェンが見誤るはずが無かった。
 再び出会えた愛する者と、常に見守り続けてきた愛しい者なのだ。
 そんな二人に、どこか似た――あの娘が、いつか望む相手からダンスに誘って貰えるといいと願いながら。
 

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【ib0018 / フェンリエッタ / 女性 / 18 / 騎士】
【ec3546 / ラルフェン・シュスト / 男性 / 31 / ナイト】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ダンスパーティも秋の夜長の不思議ナイト(※夜被り)もなんだかどっちつかずになってしまった感がありますが……孫娘とのデート・おじい様編をお届けいたします。
ご依頼に沿えていれば幸いです。
お嬢様とは視点が違っておりますので、合わせてご確認頂ければと思います。
この後も、奥さまや妹君と素敵なお時間をお過ごし頂けていれば幸せだなぁと妄想する次第でございます。
ご発注頂きまして、ありがとうございました。
HD!ドリームノベル -
姜 飛葉 クリエイターズルームへ
Asura Fantasy Online
2010年10月14日

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