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『+ カボチャ王国の■■を救え! + 』
ルド・ヴァーシュ3364



「とりっくあんどとりっく!」


 ハロウィンの夜、ステッキを持った魔女っ子が貴方に魔法を振りかけた。
 その瞬間視界は歪み、地面が揺れる。
 やがて目を開いた時に目の前に現れたのは――。


「でっかい南瓜ー!!」
「『でっかい南瓜』ではありませんわ。わたくしの名前はカボチャ姫と申しますの」
「でっかい南瓜に顔が付いててティアラが乗ってるだけじゃん!」
「あら、そこは突っ込んではいけませんのよ。それでもわたくしは姫ですから」


 ふふん。
 どこが胸なのか分からないが人間サイズの南瓜が胸を張り偉ぶる。
 周りを見れば一面の南瓜畑。姫はその中でも一際大きい南瓜だった。
 だがへにょへにょと蔓をしおらせ、カボチャ姫は言った。


「実は去年も騒いだ魔女っ子が今年もまた悪戯をしておりますの。世界を滅茶苦茶に渡ってこのカボチャ王国に空間を繋ぎ人を飛ばしてきて……。時期が時期ですからわたくし達、収穫されたり調理されたりして本当に困ってますの。貴方も別世界からやってきた異世界人でしょう? 帰りたいでしょう? というわけで、どうか魔女っ子を捕まえてきて下さいませんか」
「自分達でやればいいじゃん!」
「だってわたくしも部下もカボチャですから。畑から動けませんわ。それに貴方も捕まえないと大変ですわよ」
「な、何が……?」
「あらお気づきになってませんの? 貴方――性別、変わってますわよ」
「…………は?」


 異世界人は慌てて自分の身体を叩き、そしてさぁ……っと青ざめた。
 まさか。
 いや。
 そんな事は――!!


「ちょっと待て、まさかカボチャ姫、アンタも」
「ふふふ、わたくし。先日までカボチャ『王子』でしたの」
「…………」


―― ……マジで魔女っ子捕まえないとやべぇ。


 ある一人の異世界人はオカ……失礼、『カボチャ姫』を遠い眼で見つつ心の中で突っ込んだ。



■■■■■



「……胸がくるしい」


 話の途中でそう呟いたのは魔法使いの格好をしていた一人の子供。
 短髪の髪の上には大きなとんがり帽子。
 それから短い上着にマントを羽織り、かぼちゃぱんつと長靴下にブーツを履いたその子は自身の胸を押さえながらやや顔を伏せて胸の辺りを叩く。はぁ、と息を吐き出せば胸部が上着によって圧迫されている事に気付いた。


「っ!? ぽよんぽよん、お胸! おんなのこになってるよ!」


 自分の身体を撫で回していたその子の名前はザド・ローエングリン。
 本来は中性という中間の位置に属する子供だが、本日は魔女っ子の罠に掛かってしまい見事に女の子へと変貌している。普段は平らな胸は膨らみ、臀部も柔らかな曲線を描き、腰にはくびれも出来ている。
 以前「完全な女性」に対して羨ましい感情を抱いていただけに一瞬にしてザドの目は輝く。


「っ、谷間がある! ぼく、ぺったんこじゃないよ! 魔法使いじゃなくて魔女っ子になっちゃったー! ルド、ルド、さわってみてー!」


 むにむにと自分の胸元を触っていたザドは今は完全に愛らしい女の子。自分にとってこれは嬉しい変化だと大喜びである。
 おおはしゃぎで自分と一緒にこのパンプキン王国に飛ばされてきた相方の青年――ルド・ヴァーシュへと自分の変化を見せようとそちらへ身体を向ける、が。


「うっ! ルドもおんなのひとになってるー!」


 がびん、という効果音付きでザドは青年だったルドの身体を見やる。そう、男「だった」。過去形って本当に重要。
 当の本人はこの世界に飛ばされてくる前は吸血鬼伯爵の仮装をしたそれはそれはもうとても見目麗しい美男子だったのだが、彼の胸元もまた大きな膨らみを見せている。
 男性用のベストもサイズが合わず、胸はピチピチなのに腰周りには若干隙間が空いていた。


 ルドもザドも去年カボチャ王国に飛ばされてきたせいで、見覚えの在るこの雄大なカボチャ畑にはもう驚きは見せない。
 ルドは胸の下で腕を組み、呆れた表情を浮かべる。肉体の変化については彼――いや、彼女は好感ではなかった様だ。


「はぁ、またあの魔女っ子が悪戯を仕掛けたのか……胸が窮屈だし、邪魔だな。足元が確認しずらいし。ザドはどうし……」
「ルド、僕よりお胸大きい……」
「は?」
「……」
「いや、お前も充分可愛いぞ。素直にそう思うんだ、が……」


 女性になったルドは愛らしいザドの姿を見下ろしながら感想を漏らす。
 まず目がいったのは胸。いや、胸だけではなく華奢な身体つきや細い腰辺りにも視線が……、と普段見慣れているはずの相手に対して軽くめまいを覚えてしまったのはある意味当然とも言えた。
 相手は子供。
 しかも本来ならば中性体。
 血こそ繋がってはいないが家族として共に過ごしている相手に対して一体何を考えているのかとルドは自己嫌悪に陥ってしまう。


「えへへ、でもぼくお胸できたよ!」
「こらっ! 俺の手を取って胸に触らせるんじゃない!!」
「おんなのこってやわらかいねー」
「っ〜! 分かっててやるな!」


 ザドはルドの女性らしい細い指先を捕らえるとそれを自身の胸元へと当てさせる。
 自分が「おんなのこ」になったことをルドに知ってもらう為だ。だが触れさせられている方はたまったものではない。顔を紅潮させ相手の行動を叱り付けるも、既に興奮した子供はそれを解してくれない。
 どうしたものか、とルドは遠い目をする。
 このままではいけない。このままでは――。


 そう考えていたルドの目の前の景色がぐにゃりと歪む。
 強制的に空間が捻じ曲げられ、新たな犠牲者がこのカボチャ王国に到着した合図――転移魔法だと既に飛ばされてしまった二人にはすぐ分かった。
 誰が来たのか。
 さりげなくルドはザドがその歪みに意識を取られている間に腕を離させつつ、新たなる訪問者の姿を目を細めて見た。


「――このあたしの眼前に異界への穴ぼこを開けるなんて、大胆不敵ね。やるじゃない、魔女っ子。今日は海賊船長の仮装もしている事だし、海賊よろしく乗り込んでやろうじゃない!」


 やがてその空間を潜り抜けて現れたのは一人の海賊――の格好をした人間。
 どうやら相手の世界でもハロウィンは行われていたようだ。だがそれよりも問題は潜り抜けてきた相手だ。
 綺麗に切り揃えられた黒く長い髪は風になびいても乱れる事が無い。唇は赤く紅を塗り、妖しく弧を描く。


 意気揚々と出現した彼女の名はウラ・フレンツヒェン。
 ハプニングが大好きな少女はこの事態は明らかに楽しんでいる――が。


「……って、あら。ここ、見覚えがある場所だわねぇ。去年も来た場所じゃない」
「あれ? ウラちゃんだ〜」
「お前も、か」
「あらやだ。お前達もあの魔女っ子に飛ばされたのっ! クヒッ!」


 三人が各々存在を確認すれば自分勝手に感想を漏らす。
 ザドは素直に知り合いの訪問を喜び、ルドは呆れ、ウラは喉を引き攣らせる様に笑う。最後に飛ばされてきたウラは再度辺りを見渡すとぺろっと赤黒い舌先で唇を舐めた。


「喋る美味そうなカボチャがいっぱいね。ヒヒッ! 今夜はハロウィン……カボチャはメイン料理にもデザートにも最適! どんなふうに料理してやろうかしら」
「だめー! わーん、おいしそうだけど食べちゃだめー!!」
「いや、待て。待ってやれ。その前に目の前にある問題に気付け」
「あら、問題ってなぁに?」
「気付いていないのか。お前男になってるぞ……というか、此処に居る者全員性別転換の魔法を掛けられたみたいでな……今、其処にいるカボチャ姫――いや、元は王子なんだが、彼女に頼まれて今から魔女っ子を捕獲するところだ。お前も今年は参加しろ」
「あら、そうなの。行ってくれば?」
「え」
「男になってるなんてどうでもいいのよ、そんなこと」


 ルドとザドの制止も無視し、ウラはその場に屈み込み目前のカボチャを見定めする。
 ウラの視線を受け「きゃっ」と愛らしく頬らしき場所を染める女の子カボチャも元々は男。性別転換してしまったカボチャ達と飛ばされてきた被害者たちはウラの態度にぽかんっと口を開いてしまう。
 一体どういう事なのかと問おうとルドが唇を開く、が、その前にウラは悠然と立ち上がりルドへと振り返ってこう言った。


「女だろうが男だろうがこの衣装を素敵に可憐に格好良く着こなす、あたしに何ら変わりはなくってよ。むしろ男になって凛々しさが増して良い感じ?」
「そうなのかなぁ? でもお胸出来たのうれしい」
「恋する乙女は可愛いから好きよ。お前もそっちのがいいんじゃなくて」
「うー、でも普段のルドがいい」
「あら、どうして」
「とびきりびじょのルドも綺麗だけど、いつものルドがいい! ぎゅって抱きしめてもらうとき、お胸じゃまだもん! 魔女っ子をつかまえるよ」
「ヒヒッ! 相変わらずおばかさんねぇ」
「お前ら……」


 会話を聞いてて脱力したくなったのはルドだけではないだろう。
 元の性別に戻りたい理由が抱擁の時に胸が邪魔だから、という言葉にウラは声をあげて嗤ってしまう。
 そういえば、と口にしつつ彼女は自分の胸元を探り、平らになってしまった部分を確かめる。一応下半身の方も。
 それでもウラは興味を抱かず、むしろ状況を愉しむ事にした。


「お前達は勝手に捕獲でもなんでもなさい。あたしはあたしで勝手にやるわ。――ふふ、カボチャども。お前達の中にも実はこの状況を楽しんで居る者がいるんじゃなくって?」
「「「「ぎくっ」」」」
「あら、今何個かのカボチャが動揺したわよ。クヒヒッ! ああ、面白い! カボチャども、何ならおまえらを手下にしてやってもいいわよ。ハロウィンの飾りを持ち込んで、飾りつけしてやるわ。たまに客人が来たほうが、おまえらも刺激になって良いでしょう?」
「「「「ぎくぎくぎくっ!!」」」」
「ヒヒッ! ほら、また別のカボチャが反応したわ! そうよね、畑にいるだけじゃつまらないわよねぇ。たまにはこういう刺激もありってことよ」


 思い切り煽る言葉に過剰反応を示すカボチャ達。
 どうやら思い切り図星を突かれてしまっているらしい。カボチャとはいえこの王国のものたちは意思があり、性別もあるもの。「そういう願望」があったものがいても可笑しくないという事だ。


「ルド、ルドはこのじょうきょーたのしい?」
「い、いや。俺は出来れば戻りたい。ともかく、この姿のままは御免だ。そうだな、カボチャ畑は広大だが……まだ被害の出ていない、または少ない場所に魔女っ子が現れるのではないだろうか。この世界全体を巻き込んでいそうだからな」
「じゃあ、ぼくたちは探しにいこう!」
「そうだな。じゃあ、早速行くか」


 ザドはカボチャ達の反応を見て不安げにルドへ問いかける。
 だがルドはしっかりとした意思を持った男性だ。中身が男である以上、彼は通常体に戻る事を強く望んでいた。ルドの言葉を聞いてザドもほっと息を吐き出す。もしこの状況を楽しんでいるのならば、「魔女っ子捕獲はよくない」と考えてしまっていたからだ。
 ルドはザドをそっと抱き寄せる。ザドもそれに従い、ルドの首へと腕を回してしがみつく。ルドの背中にある翼は大きく広がり、やがて空気を捉えて飛び上がった。


 ウラは足元に転がるカボチャを一体、遠慮なく蔓から引きちぎり、目前へと持ち上げる。
 そのカボチャを左右上下と観察し、それから唇を開く。


「ルドってやつはちょっと素敵だと思ったんだけど、胸デカ女になってるのは論外ね。
つまらないわ。色っぽくウフーンとか言ってみりゃいいのに」


 次第に姿を小さいものへと変えていく彼ら――否、彼女達を見てウラはクヒッと喉を引き攣らせる。
 妖しく蠱惑の笑みを浮かべたウラを見たカボチャ達はその雰囲気に酔いそうになってしまうほどだ。


「そもそも魔女っ子は好きにさせとけばいいのよ。あの子も楽しんでるんだから――さぁて……カボチャども、お前達とはどうやって遊んでやろうかしら」
「「「「ひぃぃっ!!」」」」
「ヒヒヒッ! さぁお前達、このあたしを喜ばせなさい。楽しませなさい! トリック オア トリート!」
「「「「きゃぁああああ!」」」」


 今宵はハロウィン。
 誰もが平等に悪戯が許される夜――で、あることをカボチャ達は身をもって知った。



■■■■



「ルド、あそこ!!」


 空に上がってからそう時間も経っていない頃、ザドはある方向を指差す。その声に惹かれルドもザドの指先を追い掛ける。
 その先に居たのは魔女っ子。今年の悪戯に満足したのか畑の端に生えている木の下で座り込み、のんびりとカボチャ達と異世界人の反応を楽しんでいた。
 大抵の者は事態に驚愕を覚え、戸惑っているものの、中には喜びを覚えているものもいる。その状況が彼女は楽しい。
 幸いな事に彼女はまだルド達の存在に気付いていない。どうやって捕獲しようかルドはザドへと視線を向けた。
 その瞬間――。


「ぼく、いってくる!」
「ザド!?」


 ぱっと両手を外し、ザドはルドの腕の中から素早く抜け出し畑へと落下していく。
 レプリスという人工生命体であるザドにとって大した高さではないが、ルドはさぁっと顔を青くさせ慌てて降下を始めた。だがそんな心配をよそにザドは見事に魔女っ子の近くの地面へ着地すると、相手がぎょっとした油断を突きそのまま彼女へと飛びついた。


「わぁ!?」
「っ――! ザド!」


 だが、それを阻むものが突如現れてしまう。
 ザドもルドも急に動けなくなった自分の身体に疑問を抱き、手足を眺め見た。二人の手足に絡みついているのは蔓。そう、カボチャの蔓だった。一体何故カボチャの蔓が自分たちを襲っているのか分からず、二人は足元を見やる。
 其処にいるのは当然カボチャ王国の住民なのだが……。


「「「「魔女っ子は私(僕・俺)達の夢を叶えてくれたんだ、性別を戻すわけにはいかなーい!」」」」


 密かに己の性別に対して違和感を抱いていたカボチャ達の声が畑に響く。
 彼らの言葉にざわっと畑に緊張感が走った。仲間達の中には「お前そういうカボチャだったのか!?」とショックを受けるものもいる。
 つまり、違和感組の彼らにとってこれは好都合な展開。決して叶えられる事の無い夢の状態なのだ。元の状態に戻る事など許せないと、こういうことである。


 だが所詮、絡み付いている蔓は植物。
 ルドはぐっと思い切り力を込めると其れをぶちぶちと音を鳴らしながら引き千切り、次の攻撃を避けるために高く飛んだ。未だザドの方は拘束されたままだが、仕方ない。ルドは千切れた蔓の残骸を手にしてよくよく観察してみる事にした。


「この蔓、トゲがないな。なんだかんだ言いつつ、柔らかい蔓を巻き付けるなんて心根は優しいんだな」
「「え」」
「別に全員戻せというわけじゃない。希望者だけ戻してくれれば俺はそれでいいんだ。だからお前達が性別が変わった状態を望むなら、それを魔女っ子に願えば良いんじゃないか?」
「「!?」」


 本来カボチャの蔓にはトゲがある。
 だが彼らはそれを使用せずに一部くるくると巻きの入った柔らかい蔓を二人に使用してくれたのだ。そしてルドの言葉にハッと意識を戻す一部のカボチャ達。確かにこのままで、と望めばいいだけの話だと気が付くとしゅるりと蔓を解いた。


 完全に解放というわけではないが、ザドの方も少し力を入れるだけで蔓を解く事が出来るまでになるとほっと息を吐き出す。
 流石にぶちぶちと千切りまくるのはよろしくない。そして一部改心したカボチャ達はその蔓の攻撃先を変えた。


「きゃああっ! ちょっとお前達、あたしを捕まえようなんて思ってないわよね!?」
「「平和になればどっちでもー!」」
「お、お前達のその願い事なんてあたしの気分次第でなんとでも――あ!」


 カボチャ達が魔女っ子へと蔓を伸ばし、拘束する。
 そして手から魔法のステッキを叩き落し、別の蔓がそのステッキを魔女っ子の手の届かない場所へと運んでいく。そしてその隙を狙うものがもう一人。
 それは蔓から解放されたザドだった。


「つっかまえた〜」
「っ! お前っ」
「とりっくおあとりーと! ひさしぶりだね!」
「ま、またあたしのこと苛める気ね!? 負けないわよ。今年のあたしは一味違うんだから!」
「ぶー、ちがうよー。そりゃあたしかに今のじょーきょーはびっくりだし、あんまりカボチャさん泣かせちゃだめだとおもうけど」
「じゃあ、なんなのよ!」
「たくさん人が来てるし、パーティーしよう。魔女っ子さんも一緒にお菓子づくりしない?」
「……え?」


 急に真正面から抱きつかれた魔女っ子はザドの言葉に目を丸める。
 去年は拘束されて飛ばしてきた人間を元の世界に戻すのに非常に体力を使った。――自業自得ではあるが。
 あの時の疲労を忘れたわけではないが、悪戯をしないという選択肢は彼女の中に存在していなかった。今年もきっと捕まったら同じ目にあうのだろうと覚悟をしてはいた……いたが、ザドの思いも寄らぬ言葉に魔女っ子の心は揺れた。


「魔女っ子さんも遊びたいんだよね。だから、一緒にあそぼ?」
「ぅ」
「ぼく、すこしだけだけどお菓子作りおぼえたんだよ。ケーキつくろ」
「うう」
「ね?」
「っ、そっちのアンタはどうなのよ! 去年みたいにまたあたしを脅す気でしょう!」


 まだ自由な手先でびしっとルドの方へと指を指す。
 ルドはカボチャ達が攻撃してくる事を警戒して未だ空に浮いたままだが、質問されればゆっくり身体を地上に下ろす。カボチャ達のいない地面を選んで爪先から降り立ち、魔女っ子に抱きつくザドの傍へ寄った。


「女の姿は落ち着かない。どんな魔法の効果か知らんが、優先的に男に戻してほしいんだが」
「だって悪戯が目的なんだもの!」
「脅すつもりはない。こっちは希望者だけ元に戻してくれればそれでいい」
「ほ、本当に?」
「本当に」
「…………」
「あえて言うならカボチャ姫に誓って」


 ルドは両手を顔の隣へとあげ、淡々と告げる。
 それから魔女っ子の腕を拘束している蔓へと手を伸ばし、下方へと視線を下ろす。その先にいる元男・現女カボチャに解放を望むと、彼女は大人しく蔓を解いてくれた。
 その態度に魔女っ子も唇を噛み、そしてキッと強気な態度でルドを睨めば思い切り叫んだ。


「………………良いわよ。わかったわよ! 元に戻せばいいんでしょ! でもパーティで遊んでくれるのが条件よ! 良いわね!」
「――ああ、感謝する」


 魔女っ子が誓ったその瞬間、畑からは盛大なる感謝の声が響き渡ったのは言うまでもない。



■■■■



「あら〜。結局魔女っ子捕まっちゃったのねぇ。クヒヒッ」
「お前一体何をしてる」
「ヒヒッ、何って遊んでいるに決まってるじゃない。このあたしが、カボチャどもとね!」
「……お前のそれはカボチャ『で』、じゃないのか?」


 戻ってきた三人の目に入ったのはジャックオランタンのカボチャタワー。
 畑から引き抜かれたカボチャ達の中身を綺麗にくり抜き、何個積み上げられるか遊んでいる……状況だった。可哀想な事に上の方のカボチャ達は風に煽られ、ぐらりぐらりと揺れる度にその不安定さに涙目になっている。


「カボチャ達の恋愛も面白いわよねぇ。今度ハロウィンが来たらカボチャを準備しておこうかしら。クヒッ! 異界のカボチャ同士が恋をして、受粉して、新種のカボチャなんか出来ちゃったりしたら面白いわね」
「「「どっきーんっ!」」」
「あたしの世界のカボチャもこっちに来たら喋るのかしら。でも喋らなくても気が合うって事もあるわよねぇ。そしてロマンスが生まれたら素敵だわ。ヒヒッ」
「「「どきどきどき」」」
「クヒッ、お前達実は案外そういうシチュエーションとかに燃えてしまうんじゃなくって?」


 ウラの言葉にカボチャ達が一挙一動する。
 やがてもう一つ乗せようと既に作り上げておいたジャックオランタンを一つ抱え、椅子の上へと登る。だが突然そのカボチャは己の身体を思い切り振り、暴れだした。これにはウラも驚愕の表情を浮かべ目を丸めてしまう。


「やだやだ、高いの恐い〜!」
「あ、カボチャさん危ない!」
「きゃぁぁぁ!!」
「うわっ!?」
「ヒヒッ、たーおーれーるーわよー」


 暴れだしたカボチャは見事にカボチャタワーにその身をぶつけ、積まれていたカボチャ達は一斉にバランスを崩してしまう。
 高く高く……それはもう高く積まれていたカボチャ達が崩れてきた先は狙ったかのようにザド・ルド・魔女っ子の三人の方。ウラはイスに乗ったままクヒッ、と喉を鳴らせ大笑いするも、本人達は堪ったものではない。


 どんがらがっしゃーん!
 そう良い音を立てて崩れた三人とカボチャ達。埋まってしまう形で被害を受けた三人の内、真っ先に動いたのはルド。他の二人を救出しようとカボチャ達を避けては畑にそっと下ろし、まずザドを引っ張り出した。


「大丈夫か?」
「う、う〜ん。ぼ、ぼくはだいじょうぶだけ、ど……魔女っ子さんは!?」
「魔女っ子の方は……」
「あらあら、悪戯するのは良くても、されるのは駄目なのかしらねぇ。ヒヒッ」


 見事と言うしかない。
 ウラが作ったジャックオランタンの一つに頭をすっぽり嵌めた魔女っ子は気絶していた。しかも皮肉な事にランタンを被っているせいでそれはそれは幸せそうな笑顔を浮かべたまま、で……。


「この状態じゃ戻してもらうのに時間がかかりそうね。さーて、お前達。あたしはまだまだ遊ぶわよ」
「ああああ! 魔女っ子さんー!」
「…………悪戯のレベルじゃないだろうに」


 この状態には流石に同情せざるを得ない。
 ルドとザドはウラの方へと視線を寄せるが、ウラはそれを気にする様子は全く無い。むしろ好都合とばかりに再びタワーを作ろうとしているではないか。


 魔女っ子が目覚めるまでこのまま?
 目覚めても彼女が機嫌を損ねていたら?
 戻さないって言い出したらどうする?


 ルドはさぁっと血の気の引く音を自分の中から聞いた。
 女性のままで過ごすのは嫌だという思いが彼の中にはあるのだから……。


「ヒヒヒッ! トリックオアトリート! ハロウィンの夜はまだまだ始まったばかりなのにね」


 ウラは手頃なカボチャを一つ取り上げると、にぃっと妖しげな笑みを浮かべる。
 その笑みにひぃぃっと怯えるカボチャの意思など関係ないとばかりに彼女はさくっとナイフを突き刺した。







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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【3427 / ウラ・フレンツヒェン / 女性 / 14歳 / 魔術師見習にして助手】
【3364 / ルド・ヴァーシュ / 男性 / 26歳(実年齢82歳) / 賞金稼ぎ / 異界人】
【3742 / ザド・ローエングリン / 中性 / 16歳(実年齢6歳) / 焔法師 / レプリス】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは!
 今回は「カボチャ王国の■■を救え!」に参加頂きまして真に有難う御座います。
 去年参加して下さった3PC様に来て貰えてとても嬉しく思いますv

■ルド様
 いつもお世話になっております!
 今回は絶世の美女になってしまったルド様ですが、やっぱり男前なプレイングでした(笑)行動が優しい・紳士・気配り上手で書きやすく嬉しいですv
 どちらかというと本作では完全に被害者立場になってしまわれておりますが、それもまたハロウィンの悪戯という事で!
HD!ドリームノベル -
蒼木裕 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2010年10月15日

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