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『出でませ、鉱山大迷宮〜前編 』
ガイ3547)&(登場しない)

命がけで採掘してきた魔法鉱石の山。
眩く輝くお宝がぐらりと揺らめき、霞の向こうへ消えていく。
ふわりと浮上する意識とともに目覚めを感じた。

「鉱山で鉱石の採掘か……妙な夢を見たものだ」
凝り固まった首を鳴らしながらガイが広間に向かいながら思い返す。
夢にしては現実感があり、坑道への道筋や内部の光景がひどく鮮明で質量感もたっぷりだった。
なぜこんな夢を見たのかと首をひねり―そして昨夜、先輩格の男達から聞いた話を思い出し―嬉しそうな足取りで先を急いだ。

ここは『究極の筋肉を求めし猛者が集う神聖なる場所』―その名も『闘神集団』。
最強の筋肉を得んと鍛錬に明け暮れる彼らではあるが、修行はもちろん日々の暮らしがあるのは至極当然の話である。
これがどこぞの無頼の集団なら賞金稼ぎや護衛―下手をすれば、野盗にまで成り果ててしまうとこだが、ご近所からも評判の『闘神集団』はあらゆる意味で格闘の神に愛されている。

修行の一環である野駆け兼魔獣退治の最中にそこは発見された。
たまたまぶっ飛ばした魔獣がなぎ倒した際にえぐれた山肌から零れ落ちたのは、希少価値数千倍だぜぇぇ!!という超良質の鉱石。
居合わせた信者達はこれも修行とばかりに素手でその辺り一帯を掘り進んでいくと、お待ちしておりましたとばかりの鉱脈にたどり着いたのである。
もともと山脈の所有権の半分は『闘神集団』のものだったことから、即座に採掘を決め、鉱石を商人たちに渡す見返りに暮らしていくに充分な資金と愛しの筋肉を鍛え上げる機器を得るようになった。

が、鉱山採掘は危険が伴うもの。
しかも超良質な鉱石のほかに『超希少』、世界の武器職人たちが喉から手が出るほど欲しがる鉱石―魔法鉱石まで出たのだ。
ただでさえ危険な坑道に採掘される魔法鉱石に惹かれて魔獣が群れを成して出てくる上に、それらの鉱石が発する磁場の影響で目指せ!世界の珍百景な超常現象が日常光景化していた。
なので、発掘は命がけな究極の修行として『闘神集団』の名物で、採掘作業に参加するようガイは頼まれたのであった。

全身に掛かる負荷をものともせず、ガイは目の前にある鉱脈を素手でぶち抜く。
雄叫びと共にうず高く積まれていく鉱石の山を横目に己に課せられた作業に専念をした。
ほぼ夢の通り、まともな装備ができず皆半裸としかいえない姿で採掘をしている。
熱気に満ちた坑道内で重装備をしても暑苦しいだけだが、この姿だとかえってやる気が起こるものとガイは思いつつも、異なることを思い出すと自然と笑みがこぼれた。
現実にある坑道で皆裸足で平然とごつごつした岩肌を歩いて採掘しているにも関わらず、夢の中では足を保護するためにわざわざ靴を履いていた。
野駆けで鍛えまくった足ならばこんな坑道などなんともないだろうにわざわざ靴を履いているのは面白く、商人や魔獣などが現実感たっぷりで夢とはいえすごいもんだと思いながら、目の前の岩壁を砕く。
瞬間、それまでに感じたことのない違和感を拳に覚え、思わず止める。
くもの巣のように無数に走ったヒビが小さく崩れ落ち始め―やがて坑道に轟くような大きな音となって砕け落ち、そこに重厚なつくりの扉が眼前に現れた。

「な……なんだぁ?こりゃ」
「おいおい、とんでもないもん出てきたな〜ガイ」
何事かと勇んで駆け寄ってきた仲間たちは岩肌から現れた扉に驚きの声を上げ、興味深そうに見つめる。
屈強の男達によって掘り進められた坑道には似つかわしくなく、繊細で精緻な鳥や植物の彫り物がちりばめられた扉。
その両端からは崩れ落ちたガーゴイルらしき守護像が顔を覗かせていた。
「ほう……なんだか面白そうな扉だな」
「面白がるなっ!ガイ」
楽しげに拳を鳴らして、無造作に扉へ手をかけたガイを一人の男が鋭い声でたしなめ、皆、一瞬息を飲む。
人望が厚く、穏やかで声を荒げるような事などない教団でもかなりの古株になる信者の男の一喝はそれだけの威力があった。
「こいつは前時代の遺物かなにかだろうよ。昔、調査団やらがこの辺り一帯を調べたことがあってな……どこかの貴族様のお屋敷にあったとかいう古文書に書かれていたっていう遺跡の一部だろうね」
吊り上げた目をわずかばかり下げながら、ため息をつくようにこぼす男にガイは肩を竦め、口を開いた。
「なら、調べておく必要があるだろう?俺が中を調べてくる―無論、危険な真似は絶対にしない。ヤバイと思ったら、即引き上げてくる」
どうせ調査が入るなら、事前に誰かが調べておく必要があるのだ。
ならば、ここは発見者である自分が行くのが筋だろうと主張するガイに古株の男はやや渋い顔を浮かべ、すぐには首を縦に振らなかった。
ガイの言い分も分かるが、ここには他にも採掘をしている仲間がいる。
安易に許可を出して何かあれば皆が駆け出していきかねない。しかも相手が仲間たちからの信頼も厚いガイだとしたらなおさらだ。
しばし考えこんだ後、男はようやく顔を上げた。
「入り口の辺りに何人かここに慣れた連中がいるから、誰か応援に呼んできてくれ。残りは扉の前で待機して万が一に備えよう」
集まってきた男たちに指示を出し、古株の男は諦めたような眼差しでガイを見る。
「見つけたのは君だ。だから任せるよ、ガイ。でも……絶対に無理はしないでおくれ。いいね?」
心の底から身を案じた言葉にガイは深く頷くと、大きく息をついて閉ざされた扉に手をかけた。

思いのほか滑らかに開いた扉を緊張しながらゆっくりとガイが踏み込んだ瞬間、カチリという些細な音が耳に届く。
と、次の瞬間。大きな地響きと共に天井と地面を長方形の巨大な石版が貫き、入り口にして唯一の退路を完全を閉ざす。
さらに両脇から無数の細長い石版が複雑に組み合わさり―やがて継ぎ目一つない滑らかな表面を晒す一枚の板となって、さらに強固なものへと変貌させた。
やがて、光の差さぬ漆黒に包まれた通路にぼうっと仄かに青白い光が灯り、とりあえずの危機を回避できる程度に浮かび上がらせる。
「おいおい、いきなり罠か……一筋縄では行かないな」
困ったように呟きながらも、どこか楽しげに喉を鳴らしながらガイは淡く光る腕輪の灯りを使い、周囲をくまなく調べ上げる。
この手の遺跡ならば、入り口とは別に外へと通じる道があるはず。
危険のない―古代の作り手たちが使っていたと思われる道が。
もっとも、そういった道は滅多に見つからないのでそこに組み込まれた罠が発動させてしまうことがガイには相当数あったりする。
まぁ、多少の危険を覚悟してきているのだから泣き言はない。
それどころか、良い修行場を手に入れたものだとガイは胸を高鳴らせながら一歩を踏み出す。
仄かな明かりの先にうっすらと浮かび上がったのは同じ材質、同じ彫り物が施された3つの扉。
「3つの選択肢か……間違うと、罠が待っている古典的な仕掛けだな」
すっと表情を引き締め、ガイは拳を構え、気を溜め込むと手近な壁に向かって叩きつける。
白い煙を上げ、壁に刻まれた焼印は仲間内で使われる道しるべの印。
こうして焼印を付けておけば迷ってもそれを頼りに戻ってこられる上、後から潜入してきた仲間への目印であり、安全な道を告げるものになる。
それは自然と自分に対する戒めともなる故、欠かすことができなかった。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか……運試しとしゃれ込むか」
不敵な笑みをたたえながらガイは躊躇うことなく扉の一つに手をかけた。

手ごたえもなく扉が開いたかと思った途端、頭上から隙間なく怜悧な刃が降り注ぐ。
咄嗟に踏み込んだ足で思い切り地面を蹴って、扉の外へガイが身を返すと刃の上に正方形に切り出された岩が轟音と共に天井から落ち、土煙を上げて道を塞ぎきった。
嫌な汗が背筋を流れていくのを感じながらガイは深く息を吐き出して立ち上がると、まだ手をかけていない扉の一つに慎重に手を伸ばす。

ここに遺跡に住まう無数の罠の饗宴が華々しく幕を開けたのだった。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
緒方 智 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2010年10月21日

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