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『出でませ、鉱山大迷宮〜後編 』
ガイ3547)&(登場しない)

闇に包まれた広大な通路を切り裂くように白亜の光が爆発し、怒号の入り混じった咆哮が響き渡る。
極限まで高めた気の塊を襲い掛かってきた魔獣の群れに叩きつけると共に発動した罠をぶち壊して、ガイはゆっくりと足を進めた。
坑道で発見した遺跡に侵入すること数刻が過ぎただろうか。
光の差さぬ遺跡の巨大通路ゆえに常人ならば時間感覚がやや狂うが、そこは鍛えこんだガイ。
鋭敏に鍛えた体内感覚はそうやすやすと狂うこともなく、ほぼ正確に近い時間を測れている。
悠然とした態度を崩さぬガイではあったが、振り返ると背後にはまるで大災害に遭遇したかのような大破壊の数々が広がっていたりする。
それはそうだ。
この手の遺跡に付き物である罠は巧妙かつ複雑なもので、そう易々と解除できるものではない。
しかし調査発掘に長けた冒険者ならば見事に回避可能の範疇だが、生憎とガイはその手のことは得手としていなかった。
よって、罠は見事に発動しまくり―通路をものの見事に土砂で埋め尽くすわ、回避する隙間さえない大岩が四方からガイに向かって転がってくるわ……と命の危険が容赦なく襲い掛かってきた。
けれども鍛え上げた自慢の筋肉と培ってきた本能がギリギリのところで本領を発揮し、ここに至ってるのだから大したものである。

先の通路を埋め尽くした土砂の罠。
あからさまに毒々しい色のタイルで埋め尽くされた通路にガイは細心の注意を払って歩いていたのだが、何気なく触れた壁がガコっと音を立てて沈んでしまった。
「おいっ」
冷や汗がガイの額から流れ落ちると一緒に細かな土が天井から粉雪のように振り出し―土砂降りの雨がごとき大量の土砂が猛烈な勢いで叩きつけてくれた。
間一髪、高めた気をバネ代わりに床に放ち、灰色のタイルと化している通路まで一足飛びに逃げ延び、事なきを得た。
けれども、そこで終わるほど遺跡の罠は甘くはない。
埃を立てて石版に通路が塞がった瞬間、ガイが立っていた床が見事にすっぽりと抜け落ち、急転直下で叩き落された。
「うおぉぉぉっ?!!」
奇妙な叫びを上げて落ちたガイだったが、見事な反射神経を駆使してキレイに着地する。
ガイが着地した途端、囲んでいた前後左右の壁が滑るように下へと滑り落ち、ガイの背丈の数倍はあるー通路ギリギリの巨大さを誇る大岩が待っていましたとばかりに転がり落ちてきた。
まさに四面楚歌。
意を決し、ガイは真っ先に転がってきた左側の大岩へ瞬時に練り上げた気の一撃を叩き込む。
一撃必殺の拳にものの見事に大岩が砕け散り、ガイは迷うことなくそのつぶての中に飛び込んだ。
三方向から転がってきた大岩はつい先ほどまでガイがいた通路の中央で激突し、ようやく動きを止めたのだった。
「やれやれ、これで終いか?」
絶え間ない罠の連続攻撃にさすがのガイも息が上がり、その場に座り込んだ。
全力疾走に全力攻撃が立て続けにやればへたり込みたくもなるが、この罠が僅かな猶予も与えられるはずがない。
漆黒よりも深い闇の中で真紅に染まった光が無数に明滅し、ゆるりと闇色の毛皮に覆われた獣たちの姿が現す。
全身を貫く殺気を感じたかと思うと同時にガイは身をひるがえして、大きく後ろへと飛びのいたところへ複数の巨大な爪が次々とつきたてられる。
「こいつらが最後の罠か……倒しがいがあるな」
狂気に彩られた無数の紅き目。
普通の熊よりも3倍以上はあると思われる巨大な熊型の魔獣たちが牙をむき、先を争わん勢いでガイに襲い掛かってきた。

殺到してくる魔獣の爪や牙をかわし、やや狭いと思われる通路にガイは逃げ込んだ。
構わず突進してきた魔獣の身体はその入り口付近で見事にその巨体がはまり込み、そこへ残っていた魔獣たちが次々と押し寄せたた為に動きが止まる。
勝機を見逃さず、ガイは自慢の拳を振るい上げ、魔獣たちを叩きのめしていった。
最後の一体を閃光のごとき気の一撃で通路の壁に吹き飛ばし、憎憎しいと言わんばかりの断末魔をあげて魔獣が地に沈み―やっと先に進むことができたというわけである。

随分と無茶苦茶な思いをしてきたが、どうやらそれもここで終わるかとガイは息をつき、目の前に現れた3つの分かれ道と岩壁に嵌めこまれた石版と床に刻まれた碑文に目を凝らす。
―正しき道は唯一つ、残りし道は罠への誘い。正しき4つの道を選び取れば道は開かれん
辛うじて読み取る事ができる古代文字で書き込まれた言葉はいたって単純だが、重要な意味を成していた。
注意深く見ると、分かれ道入り口のアーチに埋め込まれた石版とそこに描かれた何かを表したレリーフ。
石版と床の碑文が指し示すのはこのことか、と察したガイはふむと顎に手を当てる。
昨夜見た―あの妙に現実感に満ちた夢と符合することに思い至り、決断した。
「正夢ってこともあるしな。ここはそいつにかけてみるか」
慎重にガイは刻まれたレリーフを確認しながら、最初にしっかりとした造りの靴の通路に踏み込む。
すると、通路全体が青白い光にうっすらと照らし出され、ガイを誘うように先を示す。
罠の発動に備えて、神経を張り巡らせるが何事もなく、実にあっけなく次の通路にたどり着く。
「こりゃ、ほんとに正夢だったな」
なんともいえない笑みを浮かべ、ガイは夢に見たとおり続く通路を長方形に切り出された鉱石、牙と爪を向ける巨大な魔物、そして鍛え上げられた筋肉のついた足の絵の順に進む。
一つ一つを通過するたびに通路を青白い光が正解だと教えるように照らし出していく。
なだらかな通路を抜け、突き当たったそこは石壁に囲まれた細いレバーが置かれた小部屋。
それ以外は何もなく、どこかへ抜ける場所は見当たらず。とすれば、答えはひとつしかない。
「こいつを倒せばいいってことか」
口元に笑みを浮かべるとガイは突き出たレバーを両手で握り―思いっきり良く押し倒す。
瞬間、バキリと鋭い音を立て、根元から見事に折れるレバー。
同時に何か歯車がかみ合うような音が部屋全体に響き渡り、前方の石壁が地響きを立てて左右に開かれる。

「ガイっ!!無事だったかっ!!」
差し込む光の強さに思わず目を細めるガイに聞き覚えのある声が聞こえ、数人の足音が届く。
徐々に慣れ、ゆっくりと目を開くとそこはガイが入った最初の分かれ道と歓喜に沸く仲間達の姿があった。
「心配したぞ。扉は塞がっちまったし、お前は居なくなるし……皆であちこち調べ回っていたら急に扉が開くだろ?なんだと思っていたら、お前がいたから」
安心したぜ、と泣き出さんばかりに言い募る仲間に詫びながら、ガイは改めて周囲を見渡す。
散々苦労した罠回廊への道は完全に塞がっていて、代わって大きく開け放たれた遺跡への入り口に正面に巨大な鉄ごしらえの扉が姿を見えた。
「こんな扉があるとはな……こいつの中も調べてみるか」
「遺跡の調査なんて初めてな奴もいるがガイがいるなら大丈夫だろ」
「そうだな……じゃぁ、開けようぜ」
なんともお気楽な会話を交わしながら、ガイたちが固く閉ざされた扉を押し開く。
中から零れ出す仄かな灯りが水面に描かれる波紋のように通路に広がり―飛び込んできた光景に息を飲んだ。
無造作に掘り出された岩壁一面にむき出しになった魔法鉱石の山。
永遠とも思える年月の間、奥深くに眠り続けてきたそれらは急速に流れ込んできた外気と人の気配に敏感で―永の眠りから目覚めたかのように凄まじい勢いで膨れ上がり、黒銀に輝く岩肌にもった凶暴で残忍な魔狼へ変貌する。
牙をむき、血に飢えた目でガイたちを捕えたと同時に一斉に地を蹴り襲い掛かった。
降り落ちた無数の爪をガイや仲間は四方に散って避けると反撃に転じる。
真っ赤に染まった口を開け、牙を立てる一頭を数人で押さえ込み、残った一人が脳天目掛けて強烈な拳を打ち落とす。
数頭で群を成して攻撃してくる魔獣たちには大岩を絶えず投げつけ、連携を崩し、隅に追いやって動きを封じてしとめて行く。
戦いに慣れた『闘神集団』の信者たちでなければ、こうも見事な連携攻撃ができるわけもない。
残った―もっとも巨大な魔獣を相手にしながらガイは良き修行の場を得て、生き生きと技を繰り出す彼らに驚嘆しつつも、負けんとばかりに魔獣の背に飛び乗って羽交い絞めると、全身の筋肉を隆起させて締め上げた。
鈍い音を立てて砕ける魔獣の骨の音と断末魔の咆哮が部屋中に轟き―やがて、静けさを取り戻した。
「なんとか片付いたな」
「おう、魔獣と遭遇とは……いい修行になった」
な、と何気なくガイが手を付いた壁がボロリと崩れ落ち―そのまま重力の法則にしたがって倒れ込んだ。
「だ……大丈夫か?!!ガイっ」
「ああ心配するな……って、見ろよ!!こいつはっ」
わらわらと集まった男達に苦笑を向けようとしたガイの目に映りこんだのは、黒く滑らかな光沢を放つ手付かずの鉱脈。
それに気付き、男達も一斉に息を飲み、ただその場に立ち尽くした。

丹念に鉱脈を調べていた古株の男は感嘆の息を吐き出し、ガイたちに振り返る。
「とんでもないものだよ、この鉱脈は……今までの中で最も上質な鉱石だ。しかもかなりの埋蔵量がある」
「なら、今から」
男の言葉にやや興奮したようにガイがさっそくとばかりに腕を回すがあっさりと止められる。
「いや、今日はここまでだ。色々なことがありすぎただろう?作業は明日からにしよう」
いいな、と男は念を押すと仲間達は顔を見合わせながら、一様にうなづいた。
ガイも肩を竦ませながらも、確かにそうだなと納得し―明日からまた忙しくなるな〜と楽しげに感じるのだった。

PCシチュエーションノベル(シングル) -
緒方 智 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2010年10月25日

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