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『Halloween Night 〜マスカレイド・ダンスパーティ〜 』
桂木 涼花(ec6207)

●招待状
 ハロウィンといえば、化生達の扮装をもって、子供達が家々を練り歩くのが有名な催しとなっております。
 それでは大人は如何いたします?
 虫の音に交じり響く化け物達の笑い声。
 それに臆することなどないという紳士淑女の皆さまにおかれましては、バケモノ、アヤカシ、モンスター……様々な名で呼ばれる化生達の仮装を纏い、仮面で顔と心を隠し、我が主の城で催される舞踏会にいらっしゃいませんか?

 ハロウィン色に飾りつけられた城の広間は、とても幻想的でございます。
 蝙蝠や黒猫など、化生達が連れ歩く使い魔に扮した楽団が奏でる、恐ろしくも美しい哀切に満ちたメロディや、悲鳴や嘲笑が彩る賑やかな曲に合わせての舞踏会を、どうぞお楽しみくださいませ。

 踊り疲れたならば、ジャックオーランタンが至る所に飾りつけられた庭園で、夜の庭園を楽しまれては如何でしょう?
 赤い月や星々を映した水面が揺らぐ噴水を中心に引かれた水路を囲む遊歩道は、踊り火照った身体を沈めるにはもってこいでございます。

 仮面と仮装で本音を隠し、秋の長夜を、どうぞお楽しみください。
 化生達が集う城のモノ一同、皆様をお待ちしております。


 招待状は、白いインクが鮮やかに映える黒いカード。
 きれいに箔押しされた文様は、見覚えのない紋を刻んでいた。
 流ちょうな文字で綴られたメッセージは、とても奇妙で、とても不思議な誘い文句。
 一歩違えば、非常に胡乱な招待を受けることに決めたのは、どうしても捨てきれない想いがあったから。
 招待状を差し出すと、執事は嫣然とした笑みを口元に浮かべ、慇懃に腰を折った。
「一年のうち、たった一夜限りのハロウィンナイト。どうぞお楽しみくださいませ……良い夜を」
 黒と橙のリボンで飾られた門扉をくぐり、彼女が見上げた城は、青や紫の照明で染め上げられた化生達の集う場所。


 黒いドレスに身を包み、黒猫の姿を真似た仮装の涼花は、たくさんの化生でにぎわう広間の中を歩いていた。辺りを見まわすたびに、黒髪からのぞく猫の耳が揺れる。まるで、どこか見知らぬ場所に迷い込んでしまった猫の様にみえた。仮面の奥の瞳が、淡い期待と微かな不安を映しだしているからだろうか。
(「このような場にいらっしゃるはずがない、しかしこのような……夢幻の光景広がる、不思議な祭日ならば、もしや……」)
 相反する想いと願いを心に抱え、桂木 涼花(ec6207)は不思議な音楽と変わったさざめきに満ちた広間を、人を探し歩いていた。踊りの輪に誘う吸血鬼の、あるいは狼男の手を断りながら。どうしても捨てきれない想いを一欠けら、胸に抱えて彷徨い歩く。
 誰も彼も化生の仮装で姿を偽り、仮面で顔はおろか心まで隠し、笑い踊っている。
 涼花とて、普段は着ることのないドレスを身に纏い、黒い衣装に合わせた黒い仮面で「涼花」を覆い隠し、ここにいる。今、化生たちの城にいるのは涼花ではなく、故郷でいうなら西洋版の黒猫娘というところか。
 仮に、彼がいたとしても……見つけられるのだろうか。
 もう何周くらい広間をまわっただろう。踊りの誘いを断る事すら疲れてきて、次第に願い望む気持ちよりも諦めが心の中で大きくなってくる。
 それでも、海賊船長の骨じみた手からようやく逃れ、踊りの輪から遠ざかろうとしたところ、パティオに続く硝子扉の前に立つ二人の化生の姿を見つけた。
 涼花から見えたのは、獣面を被ったと思しき後ろ姿に向かい、何やら語りかけている様子の帽子を被ったミイラ男だった。元より包帯で顔などわからないからだろう、仮面は帽子に掛けられている。
 狼男にミイラ男……城の中でありふれた組み合わせの彼らが、涼花の目にとまったのは、ミイラ男の表情だった。はっきりと見えるのは、包帯をぐるぐると巻き付けた隙間から覗く片目だけ。それでも楽しそうに語らっていることがわかるほど表情豊かな色の瞳。けれど、涼花の望む色ではない。
 それが残念だと思っていると、ミイラ男が使い魔たちの楽団を指し示し、狼男が振り返った。
 果たして、狼男だと思っていた化生は、狼男ではなかった。
 現実で観るどの獣にも当てはまらない。それとも、涼花の知らない土地に棲む見知らぬ獣なのだろうか。
 ミイラ男と同じく仮面ときちんとつけてはいない。そもそも獣の被り面が仮面の役をなしているのだから不要なのだろう。本来の役目と違って、まるで装飾のように獣面の上に、ちょこんとのっている。獣被り面の奥に覗く瞳は静かな色合い。
 楽団の演奏に惹かれたのか、あるいは指揮する小鬼の姿が愉快なのか、彼らは涼花がいる方とは違う方向へと歩き出す。
「……待ってください、……待って――!」
 涼花の声は、広間に満ちる嬌声に、歩みはたむろう化生たちに遮られ。けれど、諦めきれず、必死に手を伸ばす。

――気高く優しい、心惹かれた藍色の瞳を見間違えるわけがない……!



 三つ揃えの袖を指先で捕らえ、文字通り袖を引くと、彼らの足が止まる。己の袖を引く白い手を見て、ビーストの瞳が瞬いた。
 見間違えようのない、深い藍色の瞳。暮れゆく宵の、あるいは明けきらぬ夜の色。
「……踊って、くださいませんか?」
 女性から踊りの輪に誘うことは、はしたないかもしれないという考えはひとまず頭から追い出す。
 むしろ、化生たちの集う夜に人の世の常識などは関係ないと、己の心のうちにある勇気をかき集める。やっと掴んだ彼の袖。この手を離すことの方がためらわれた。
「この頃は、西洋の舞踊も少し稽古を始めました。だから、応えて頂けるならば、拙いなりに精一杯……慣れない靴で、貴方の足を踏まないよう努力します……!」
 決死の思いを全てぶつけたつもりだったが……一拍、二拍、間が空くだけで、何の応えも返らない。
 ダメだったか……と指先から力が抜け、するりと袖がすべる。
 すると、捕らえられた袖を取り返すようにビーストが腕を引いた。涼花が不躾を詫びなければと気付いた時には、浮いた手を取られ、驚く間もなく腰にまわった手に抱き寄せられていた。
 爪先で床を打つ音を聞いたのと、重ねられた手が強く握られたのは、どちらが先だったのだろう。気付けば、踊りの輪の中へ引き込まれていた。滑るように踊り出すリードに、足を踏んではしまわないかと恐れていた気持ちが嘘のように、身体が動く。
「…………楽しい」
 思わず口から零れ出る。
 独り言のようなそれが聞こえたのか、獣面の奥で瞳がやわらかく細められた。
 ビーストと語らっていたミイラ男は、いつの間にか姿を消していた。踊りの輪に引き込まれる直前、穏やかな瞳で見送られたのだけ、覚えている。
 くるりくるりと流れるような足運びで踊りの輪に加わってしまえば、化生たちが集う城にふさわしく響く暗く陰鬱な音色も、享楽と愉悦に満ちみちて調子に乗り過ぎ外れた音すら、楽しめてしまうことに驚いた。
 踊り笑う化生たちは、それを知っているから楽しげに、いつまでもまわり続けているのかもしれないと、思った。


 幾曲も踊り、火照った身体に、夜風が気持ち良い。
 庭園を流れる水路の先に作られた、泉の縁石に並んで座る。水の上を渡る風は涼やかで、歪んだ笑みを浮かべるジャックオーランタンたちとの差が、どこか珍妙だった。
 見上げれば瞬く星影が遠い。それほど城が明るいのだろう、毒々しい色合いの灯りではあったが。
 庭の散策へと誘ったのも涼花だ。人世の常識よりも、せっかく掴んだ手を離したくない気持ちが勝った。ビーストは何も言わず、涼花のあとについてきてくれた。
 いつになく大胆になれた自分に驚き半分、夢なのだからという思いも半分。
 夢のような時間……夢の時間。
「夢から覚めたら、貴方の問いにも己が心にも正面から向き合いましょう。ですから、今は……」
 そっと瞳を閉じ、夢見るようにささやく。
 ただ、傍に居させてほしい。身分も、互いの思惑も、その他の何もかも、仮面で覆って。
 微かに流れる水の音にすらかき消されてしまいそうな淡い願い。
 城から漏れ聞こえる舞踏曲の音すら遠く、重い静けさではない、心地よい沈黙の時間が流れてゆく。
 どれくらい、ただ夜の庭を眺めていたのだろう。
「……夢から覚めた後の現とて、誰かの、或いは己の、夢でしか無いのかもしれないけれど……」
「そうだな、今宵の出来事は夢。化生たちが見る一夜限りの」
 ぽつりと涼花がこぼすと、今まで一言も話すことのなかったビーストが、初めて口を開いた。
 言葉など無くても十分だったのだ。ダンスパーティの間、交わしていた瞳の色は、彼の瞳の色だと、涼花には確信があったから。でもいままた、聞き間違えようのない声にビーストを仰ぎ見ると、彼が羽織っていたインバネスがそっと涼花の肩に掛けられた。思ったよりも夜風に吹かれ、身体が冷えていたのだろうか。インバネスから伝わるぬくもりが、温かい。
 涼花の頬がゆるむのをみたビーストは、次いで胸にさしてあった赤い薔薇を、涼花の髪に飾った。
「黒に赤がよく映える……夢のよすがに貴女に贈ろう」
 落ち着いた低い声。間近で、ささやくように告げられて、涼花は頬をおさえた。薔薇の花飾りが見えないのがもどかしいが、きっと花に負けないくらい染まっているだろう顔を見るのも恥ずかしい。
 涼花の葛藤を見抜いたのか、見抜いていないのか。ビーストが口元に頬笑みを浮かべた。
「さて、黒猫の姫君に見出された獣人は、騎士に戻るとしようか」
「…………あの、それは一体……?」
 ふわりはがれた獣面の下にあった顔は、見間違えようもない『彼』。
 ビーストを脱ぎ去った彼は、獣面の長い襟足をくるりと、まるで狐の襟巻きのように、涼花の大きく開いたドレスの肩口へと巻く。獣面に掛けられていた仮面を付けると、異形の化生は姿を消し。そこにいたのは三つ揃いの紳士だけ。
 濃紺の仮面に銀の流線を刻んだ仮面の奥で、藍色の瞳が涼花を見つめる。
「現と夢の境界などないのかもしれないな。だが、夢すらみられなくなったなら……それはもう人ではない。夢を抱けるならば――大丈夫」
 騎士から贈られたのは、羽根のような口づけ。
 微かなぬくもりが落ちた額をそっと押さえ、涼花が見上げた夜空の星は遠く、光は紫紺に滲み。
 赤い月がかかったハロウィンナイト。
 秋の夜長、不思議の夢は……まだ醒めそうにない。




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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【ec6207 / 桂木 涼花 / 女性 / 22 / 浪人】
【ez0204 / オベル・カルクラフト / 男性 / 33 / ナイト】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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NPCのお呼び出し、ありがとうございました。
夢の一夜、不思議の話としてお届けさせて頂きました。
仮面舞踏会という場ではありますが、彼なりのエスコートとなりました。
順番をつけるとアレなだけで。はい。
ご依頼に叶っていれば幸いです。
ご発注いただきありがとうございました。
HD!ドリームノベル -
姜 飛葉 クリエイターズルームへ
Asura Fantasy Online
2010年11月12日

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