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『続・とらっこ彩ちゃんの大冒険 』
趙 彩虹(ia8292)

「平和な暮らしを脅かすアヤカシは、私が許さないのですっ!」
 びしりと肉球を付けた手袋を突きつけた彩ちゃん。この物語の主人公、趙 彩虹。良い子の味方です。
 今日も今日とて、誰かが困ってると聞けば愛用の槍『疾風』を手に駆けてゆき。村の人々を泣かせていたアヤカシ達を仕留め、活躍しています。
「戴いた報酬は、もっと強くなって誰かを助ける為に使いたいですね。あ‥‥でも、ちょっと美味しい物食べたいかも」
 神楽の都へと戻った彩ちゃんは、夕暮れ時の屋台から漂ういい匂いに心惹かれながらも家路を急いでいたのでした。
「明日起きたらまずは、まるごととらさんのお洗濯ですね。今回は戦いで随分と汚れてしまいましたし」
 いいお天気になればいいのだけれど。空模様は、鮮やか過ぎて血の色にも見えてしまう程の夕焼け。
 心地よいお日様が期待できるでしょうか。西が晴れていればきっと明日は晴れ!とは誰かから聞いた気がします。
 開拓者の多い街ですが人の暮らしは同じ。炊事に掃除に洗濯。日常に戻れば色々としなければならない事が。
 道を歩く人も夕飯の支度でしょうか。葱の飛び出た紙袋を抱えた志士、珍しい形のパンが入った籠を下げた吟遊詩人など様々な人が居ます。
「なぁ、聞いたか?万屋の支給品が入れ替わったんだってよ」
「お前耳が遅いな。俺はもう貰いに行ってきたぜ。今度の目玉には神威の森の貴重な赤樫から削り出された逸品もあるらしいぞ。でも、そう簡単には甲の籤なんて引けないんだよなぁ」
 そんな路端の噂話がふと耳に飛び込んで、彩ちゃんは足を止めました。
 そうだ、家に帰る前に万屋に寄ってみましょう。どんな商品が入荷されたのか気になります。
 いつものように草鞋を編みながら店番している主人。そういえばこの方、いつご飯を食べているのでしょうね?
 自分がお腹が空いているのもあり、ふとそんな疑問が浮かんだりするのでした。
「こんにちは。支給品が新しくなったそうですね!」
「おや、いらっしゃい。その格好は仕事帰りかな」
 すっかり顔馴染みの常連客。その中でも特別に目立つ、改造まるごととらさん。
 彩ちゃんの姿を見て、作りかけの草鞋を置いて立ち上がった主人がにんまりと笑いました。
「‥‥喜びそうな物があるよ。見る?見るだけならタダだよ?といっても非売品だけどね」
 そう、おいでおいでをする主人についてゆくと、丈八尺もある存在感でありながら気品の醸し出された棍――泰国の者が好んで使う無刃の武器――が飾られていたのでした。
 ただ木から削られ象られた物であるにも関わらず発せられている清浄な気。見ていると何だか頭を下げて礼をしたくなります。
「名前がね、『雷同烈虎』っていうんだ」
「虎っ!?‥‥虎の名を冠する武器ですって!?」
 まるごととらさんを手に入れて以来、虎という言葉には目の無い彩ちゃん。
 途端に瞳をきらきらと輝かせ、欲しい気持ちで一杯になります。
 今使っている槍にも満足しているのですが、虎の名を冠した武器を振るうという魅惑には勝てません。
 しかし引いた籤は無常にも――ありふれた品。いえ無料で貰えるだけ大変ありがたいのですが。
「残念だったね、またおいで」
 その日から、思いつめた表情で万屋に通う彩ちゃんの姿が見受けられたのでした。

「今日こそ‥‥今日こそ、帰ったら!」
 左腕を振るい繰り出された牽制の肉球。すぐに槍に手を添え両手で薙ぎ払いますが、浅く傷を付けただけでした。
 お相手は知能の高いアヤカシ。後ろで応援の舞を踊る巫女を狙おうとしてますが、そう簡単には抜かせません。
 陰陽師の術にも耐えて、なかなか手強い相手です。
 ですが、彩ちゃんが捨て身のつもりで飛び込んだ瞬間に絶好の機会が訪れました。
「今ですっ!」
 体内の気を巡らせ、周囲に漂う精霊の力を瞬時に自分の身体へと呼び集めた彩ちゃん。
 槍の穂先が白く包まれると同時に、その青い宝石のような瞳に硬い表皮の襞を見切ります。
 自身が虎になったかのごとく猛々しい唸り声がその唇から無意識に洩れ、次の瞬間には白く輝く気を纏った槍が深々とアヤカシの身体を貫いていました。
 泰拳士の奥義がひとつ『極地虎狼閣』なる技です。
 その技の存在を知って以来、ずっと憧れていた彩ちゃん。苦しい修行を重ね、見事体得していた成果がここに顕れました。
「なかなか手強かったですね‥‥」
 力を出し切ってその場にへたり込んだ彩ちゃんの元に仲間が駆けつけます。
「今の技すごかったね。ガオッてまるで本物の虎みたいだった!」
 先ほどまで沈着な顔で戦いに望んでいた弓術師が彩ちゃんを助け起こして、少し息が苦しい程に抱き締めました。
 依頼だけでなく、よく買い物や食べ歩きにまでも遠くまで一緒に出かけたりする仲良しの女の子です。
「てへっ。一生懸命覚えましたから。皆様のお役に立てて良かったです」
 人を元気にさせるとびきりの笑顔で応える彩ちゃん。仲間達と睦まじく戦果を称えあいながら帰路に着くのでした――が。

「ええ〜っ!?あれは『雷同烈虎』じゃないですか。もう入手した人が居るんですか!?」
 都へ戻ると一番に目に飛び込んだのは、道を歩いていた開拓者の手にあったかの棍でした。
「もしかしてもう無くなってたり‥‥しませんよねっ!」
 万屋へと全力で駆けた彩ちゃんはまだその品が飾ってあるのを見て、ほっと息を吐きました。
 でも籤の結果は今日も惨敗です。
 日に日に増えてゆく、かの棍を手にした人達。ですが彩ちゃんはといえば全く引ける気配が訪れない日が続くのです。
 羨ましげに眺めるばかりだった彼女に、ある日嬉しい申し出が。
 喉から手が出る程欲しがっているという噂を聞き、交換しても良いよとのお話があったのです。
 それはそれは彩ちゃんは踊りださんばかりの喜びようでした。熱い握手に抱擁、我に返らなければ頬に接吻までしていたかもしれません。
 何度も何度も頭を下げ、手にしたその感慨にしばらく浸っていた彩ちゃんの顔には幸せという字が書いてあるかのよう。

 翌朝早く。
 路地に柄杓で水を打っていた鍛冶屋の小僧は、棍を手に迫ってきた大変見覚えのあるとらさんの姿に慌てて店に飛び込む事となったのです。
「強化をお願い致しますっ!大事な大事な、だい〜じな品です。壊したりしたら承知しませんからねっ!」
 一度、二度と作業は順調に進みます。ですがそれだけで済むような思い入れではないのが彩ちゃんです。
 絶妙な重心を計り、特別に取り寄せた金属を慎重に打ち付け。職人の首筋を冷たい汗が伝います。
 時には心労で倒れた職人に果物を持って見舞ったり、緊張の連続に家へ閉じ篭った職人へ懇願参りをしたりと忙しない毎日。
 そしてついに――。天儀でも、いえ本場泰国でも滅多にお目に掛かれないであろう逸品が誕生したのでした。
 何やらその間、鍛冶屋に出入りした薬種商は胃に効く煎じ薬が大変売れたとか、そうでないとか。
 巷にそんな噂が僅かに流れたようですが、喜びに溢れた彩ちゃんは自分が原因とは知らず耳を素通りしていったのでした。

 それからは彩ちゃんの手には、その強化された『雷同烈虎』がありました。羽織と面も虎にちなんだ物。
 もちろん、白く染め上げられた最高級のまるごととらさんも健在ですよ。遠目でもすぐに彩ちゃんと判ります。
 そんな虎の神様の化身のような彩ちゃんですが、何処かでは村の守り神とまで祠に像が祀られているそうですよ。
 行ってみたいですか?そうですね、あなたが大きくなったら訪れてみるのもいいかもしれません。
 さあ、今日の物語はここまで。風邪を引かないように暖かくして寝るんですよ。おやすみなさい。
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舵天照 -DTS-
2010年11月15日

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