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『笠原君じゃないとダメなのにゃ! 』
西村・千佳(ga4714)

 学園の生徒も聴講生も一緒になっての大運動会。
 秋晴れの清々しい空。そこここに色とりどりの鉢巻を締めた年齢も様々な男女の姿があった。
 それでもやはり多いのは学生らしい空気に包まれた少年少女達だろうか。
「借り物競争にご参加の方はAトラックのテント前に集合して下さい。繰り返します、借り物競争に――」
 広大な会場内に響き渡る運営委員のアナウンス。
 ついお喋りに夢中になっていた西村・千佳に声を掛けたのは、同じ色の鉢巻をした笠原 陸人だった。
「西村さ〜ん。次、借り物競争だって。出るって言ってなかった?」
「あっ、そうだにゃ〜。笠原くんが出るのは別の競技だったかにゃ」
「うん、僕はバットまわりの方に出るから。間に団体競技を挟むし、まだしばらく後だね」
 時間があるから応援しに行くよという笠原。彼が見てくれるなら尚一層気合が入る。
 お揃いの白の体操服。陸人は短パンだが、千佳はブルマ姿。小柄な身体によく似合っている。
 眩しくむきだされた脚は結構人目を引くが‥‥肝心の陸人の反応は薄くて、千佳にとってはいまいち残念。
 どちらかというとゼッケンをぐいと押し上げた豊かな胸の方に目が行くようである。
(笠原君らしい‥‥かにゃ?僕のこと見てくれるだけで嬉しいにゃっ)
「いっちばんいい場所で見ててにゃっ!」
「何処がいいかな〜。メモの辺りが一番面白そうかな。誰かが借りに来るかもしれないし」
「笠原君が持ってそうな物だったら、すぐそっちに行くにゃ」
「西村さんの荷物も僕が持っててあげるよ。ここに置いてったら危ないしね」
「ありがとうにゃ〜♪」
 邪魔な物は全部ロッカーに置いてきたので、入ってるのはお弁当やタオル、他はちょっとした細かい物くらいだが。
 無くなったりしたら、せっかく笠原君の為に作ってきたお弁当が。
 後で一緒に食べるんだから、知らない人に食べられちゃうなんて嫌だ。

 ◆

「集合はあそこかな。もう集まってるみたいだよ」
「にゃ!笠原くん、僕頑張るから応援しててにゃ♪」
 笑顔で手をぶんぶんと振り、急ぎ走っていく千佳。危ない、危ない、もう点呼が始まっていた。
 振り返ったらまだ陸人がこちらを見ていたので、もう一回手を思いっきり振る。
(よ〜し、頑張るにゃ)
 拳をぐいと握り締め、スタート位置に立つ千佳。気合のあまり現れた黒い尻尾がピンと立っている。
 ピストルの合図と共に猛ダッシュ!
「西村さん、頑張って!」
 大勢の声援に包まれる中、笠原の声だけがしっかりと千佳の耳に届く。
 同じくらい速い者がグラウンドに散る折り畳まれた紙に手を伸ばすが、彼女の方がほんの一瞬だけ先だった。
 急いで開いた紙に書かれた内容を目にして目を真ん丸にする千佳。顔がカァーっと赤く染まる。
(ど、ど、どうしようにゃ〜)
 立ち止まって固まってる間に他の選手が観客の方に向かって叫びながら走っている。
(叫ぶなんて絶対できないにゃっ)
 このままでは出遅れてしまう。意を決して笠原の元へと駆け寄って。
 顔を真っ赤にしたまま。
「え、えとえと‥‥か、笠原くんちょっと来るにゃ!」
 僕が?ときょとんとする笠原だったが、説明なんてしてられない。というか説明できない。
「か、借り物の内容は秘密だけど来るにゃ!荷物は要らないにゃ!」
 恥ずかしそうにしながら腕をぎゅっと掴んだ千佳の様子に戸惑いながらも、とりあえずは一緒に走り出す。
 何だかよく判らないけど。
(体操服かなぁ〜?)
 そのままでは走りにくい。手を睦まじく繋いでまるで二人三脚のように走る陸人と千佳。
 他の選手はまだおろおろとありえない借り物を探したり、断られたりしている。
 誰だ、Gカップの下着とか松茸型キメラの写真とか書いた運営委員は。
「ねぇ、西村さんの何だったの?」
 そりゃ周囲の叫び声を聞いてたら当然気になる訳だが。千佳は頑なに答えを言わない。
 まぁ余裕も今は無いからと状況を判断した陸人はそれ以上は聞かずに走り続ける。
 2mはあろう巨大なテディベアをおんぶした筋骨隆々とした男が、二人を追い抜きそうな勢いで後ろから迫っていた。
 よく会場に持ち込んでいた者が居たもんだ。そんなでかい物。
 手をぐいぐいと引く千佳に半ば引き摺られるように走る陸人。
 あわや抜かされたかというぎりぎりであったが、千佳がゴールラインに飛び込んだ。
「うわわっ」
 全力を使いきってへたり込んだ千佳と一緒に土の上に転がってしまう。
「写真判定の結果が出ました。一等、――番。二等、――番。三等‥‥」
「西村さん一等を取れたみたいだよっ」
「やったにゃ〜。一等にゃ〜。笠原くんありがとうにゃ〜♪」
 嬉しさのあまり、立ち上がると汚れた体操着も気にせず陸人に抱きついて喜びの声を上げる。
 やったねと抱き締め返してくれた陸人の胸にすりすりと猫のように顔を擦り付けて。
「顔に土が付いちゃったよ?ハンカチ、ハンカチっと‥‥あ、荷物の中に置いてきちゃった」
「もう汚れちゃったから、これで拭けば大丈夫だにゃ」
 自分の体操服を捲り上げて、汚れていない裾で顔を拭う千佳。
 一瞬だけ、その下の素肌が思いっきり見えたようだが。
 本人は気付いていない様子なので、ちゃっかりしっかり見た事は自分の心の内にしまう陸人である。

 ◆

「で、借り物は何だったの?」
「それは秘密なんだにゃ!」
 再び顔を真っ赤にして駆け出して逃げてしまう千佳。どうあっても中身は見せられない。
(だって、だって恥ずかしいにゃっ‥‥)
 しかしそのメモは途中で落ちてしまって、置いてかれた陸人の拾うところとなった。
 辺りを見回すけれど、既に千佳の姿は無い。
 返してもしょうがない物だし、後でゴミ箱にでも入れておこうか。
(その前に、ちょっと見てみてもいいよね)
 と開いた紙に大きくマジックで書かれていたのは――。
『一番好きな人』
 今度は陸人の顔が真っ赤になって、周囲から怪訝な顔で見られる番なのであった。

 〜 了 〜



■登場人物■
【ga4714】西村・千佳/女性/外見年齢18歳/にゃんこ魔法少女
【gz0290】笠原 陸人/男性/外見年齢17歳/生徒会事務部雑用係
■「秋の大運動会」ノベル■ -
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CATCH THE SKY 地球SOS
2010年11月15日

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