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『奇妙な三人の晩餐 』
来生・十四郎0883)&来生・一義(3179)&ステラ=エルフ(NPC4863)



<はい、こちらサンタ便ですぅ>
 相変わらずの間の抜けた、のん気な幼い声に来生一義は小さく笑ってしまいそうになる。
 変わらない人、というのが世の中にいてくれる。それはとてもありがたいことだ。
「ステラさん、お久しぶりです。来生です」
<はひ?>
「来生一義です。その、以前道案内をお願いした」
<ああ! お兄さんのほうですね。そのせつはお世話になりました〜。お元気でしたか?>
「はい、元気です!」
 思わずこちらも元気をもらえそうな明るい声に、一義もしらず、微笑んでいた。
 と、背中から小突かれて我に返る。
「あ、あの! 実はですね、今度弟の誕生日を祝うのですが」
<ああ、お兄さん想いの弟さんですね。まだお会いしたことなかったですけど。
 またケーキの配達とかですか?>
「いえ! 誕生祝いを兼ねた外食なのですが……ステラさんの都合がよければご一緒にどうかと思いまして」
<…………はへ? あ、あのぉ……わたし、部外者ですけど>
 困惑しきった声で言ってくるので、一義は慌てて続けた。
「この間、プレゼントをいただいたお礼をしたいと兄弟で相談したんです」
<えええええええー! だ、だってあれ、ポケットティッシュですよ?>
「それでも嬉しかったことにはかわりはありませんから。どうです?」



 ステラの都合のいい日を聞き出し、弟の携帯電話を片手に振り返った一義は感無量という様子だった。
「………………」
(すげー顔……)
 兄のこんな表情をみるのは珍しい。
(ステラって、小動物系なのか……?)
「やりましたよ、十四郎!」
「よ、良かったな……」
 ちょっと、引いてしまう。
「打ち合わせ通り、食事代は折半ですよ。いいですね?」
「ああ」
「ステラさんに豪華な食事をしてもらえるなんて……!」
 きらきらと瞳を輝かせる兄の姿に、弟は愕然としてしまう。
 一体どんな生活をしているのだろうか、ステラという少女は。
(一度も会ったことないけど、ふ、不健康で内向的なイメージはない……)
 会えるのは楽しみなのだが……どうなるか不安だった。
(発案者は俺なのに……)



 食事をする店は来生十四郎の大学時代の友人が経営する創作料理の店だ。
 店内はシンプルで落ち着き、余計なものを取り除いた印象を受ける。
 酒の種類もかなり豊富で、十四郎のお気に入りの店の一つだが、兄に散々「ステラさんにお酒はすすめないでくださいよ!」と注意されていた。
 料理も多岐にわたり、誕生日の客にはデザートがつくのでその店にしたのだが……。

 店と車の代行サービスに予約を入れると、兄は意気揚々と目的地を告げた。どうやらそこがステラの住んでいる場所のようだ。
(……なんで知ってるんだ……? あ、そうか。あのチラシに書いてあったか)
 無用心だなと考えていると、目的地が見えてきた。
(………………ボロい)
 今ではあまり見かけない……レトロな作りのアパートだった。
 外付けの階段は今にも軋んで外れそうだし、二階建ての建物も全体的に地震で簡単に倒壊しそうだ。
「じゃあ行ってきますね、十四郎」
「ああ」
 呆然と頷くと、兄はさっさと出て行ってしまう。階段をのぼって行く兄を目で追いつつ、表の柱に掲げている看板を見遣った。
(朧荘……おぼろそう? オンボロ荘の間違いじゃないのか……?)
 やがて二階にある4室のうちの1室が開き、そこから兄が誰かを連れて戻って来た。
 いきなり自分の顔を見たら怖がるかもしれないなと、どことなく顔を背けていると、車のドアが開いた。
「どうぞ、ステラさん」
「お、お車までご用意されたんですか〜? 勿体無いですぅ。わたしのソリなら一っ飛びですよ?」
「今回はステラさんはゲストですから」
 ほらほら、と背中を押される少女が乗り込んできた。
 全身が真っ赤だ。可愛らしい赤い子供服と、鮮やかな金髪を頭の両端で結んでくるくると巻いている。顔立ちは西洋人で、日本語が流暢すぎるのが不自然に思えるほどだった。
 奥に座っている十四郎に気づいた彼女は目を点にして「う?」と首を傾げた。
「弟の十四郎です」
「ああ! この間はお仕事の依頼とケーキ、lありがとうございました〜」
 ぺこりと頭をさげつつ乗り込んでくる彼女に、ゆっくりと顔を向ける。怖がると思った彼女は平然としている。
(……あれ? 予想と違うな)
 困惑する十四郎に彼女は笑顔だ。
「来生十四郎さんは、お兄さん思いのとってもいい人ですぅ。また何かあったらサンタ便をよろしくですぅ」
 商売魂がすさまじかった……。
 こうして二人と1体の幽霊は、店へと向かったのだった。



(しかしちっこいな……)
 店の前で降ろされ、十四郎は横に並ぶステラに目配せした。
 お世辞などなくても彼女は可愛いが、べつの意味で心配になった。
 こんなに可愛くて幼児体型なら、その手の変態が放っておかないような気がする。
(それに……なんで服が真っ赤なんだ……?)
 目立つ。異様に目立つ。
 疑問符がいくつも頭上を舞っているが、まあいいかと十四郎は店のドアに手をかけて中に入った。
 予約席へと案内されて、やっと腰を落ち着けると、一義がうきうきとステラに話しかける。
「あれからお元気でしたか?」
「はい! 来生さんもお元気でしたか?」
「もちろんです。
 あ、この間は誕生日プレゼントをありがとうございました」
 柔らかく微笑む兄に、十四郎はお酒を注文しながら「へぇ」と内心思う。
 確かに兄の誕生日は身内と、つきあいの深いものしか祝わない。だからこそ、ステラにも祝ってもらえて嬉しかったのだろう。……ポケットティッシュという色気のないものがプレゼントだったが。
「もらったティッシュは大事に使っています」
「ええ! あんなのバンバン使ってくださっていいんですよう?」
「いいえ。1つはですね、迷子のお守り代わりにしているんです」
 上着のポケットから取り出してステラに見せてみると、彼女は心底困ったように眉をハの字に曲げた。
「お、お守りなんて大そうなものじゃないですぅ!
 それより使ってください〜! ティッシュは使うためのものなんですからぁ」
「大事に使っていますよ?」
「そ、そうじゃなくてぇ〜」
 うめくステラが可哀想になってきた。小学生と大人の、妙なケンカを見ている気分になってくる。

 運ばれてくる料理がテーブルの上に並べられていく。
 それを見てステラの目つきがあからさまに変わった。
「ぎゃー! おにく! おにく料理ですぅ!」
「まだ前菜のサラダと生ハムですよ?」
「なっ、生はむ……! なまの、ハムですか!」
(そのままじゃねえかよ……)
 酒をちびちび飲んでいた十四郎が吹き出しそうになる。
 フォークで生ハムを突き刺し、ぷるぷると震える手で眼前に持ってきて「ほわー……」と妙な声音を洩らしているステラ。
 もぐもぐと食べて「おいし〜!」と感激されてしまった。
「生まれて初めてナマハムを食べましたよ!」
「それはよかったです、ステラさん!」
(兄貴……そこはツッコむべきだろう……)
 見ていて飽きないが、どうもステラはオーバーリアクションが多い。もしかして……本気なのだろうか?
 兄が散々「かわいそうな子なんです!」と訴えていたが……本当にそうなのだろうか……。
 ステラのために肉料理と中心にと頼んでいる料理ではあるが、彼女はどれもこれも美味しそうに食べている。
 清々しい食べっぷりに十四郎は感心してしまった。
「しかし本当にいいんでしょうか? なんだか高そうな料理ばかりですぅ……」
「いいんですよ。ティッシュのお礼ですから」
「……ティッシュなんですよ? ただの」
 困惑顔のステラに一義は微笑む。
「歳をとらない自分にお祝いをしてもらって申し訳ないというのもありまして」
「はひ? 歳をとらない? 来生一義さんは、仙人とか不老長寿の類いなのですか?」
 そうは見えません〜、とステラが不可思議そうに首を傾げる。
「えっと……」
 一義が困って弟に目を遣ってくる。十四郎は「言っていなかったのか」とばかりに軽く睨んできた。
 意を決して一義が口を開いた。
「実は、死んでいるんです。幽霊なんです」
「ゆうれい? 透けてませんけど」
「実体を持っている幽霊なんです」
「へー……そうなんですか。珍しい幽霊さんなんですね」
 あっさり。
 あまりにあっさりすぎて二人の兄弟は目を合わせた。てっきり怖がられると思っていたのに。
「こ、怖くないのか、ステラさん?」
 十四郎の言葉に彼女ははぐはぐと料理を食べてから、「ほへ?」と呟く。
「べつに幽霊さんなら怖くないですよ? わたし、サンタ課ですからそのへんは免疫ありますし」
「サンタ課?」
「ひぎっ! いっ、今の聞かなかったことにしてください!」
 慌てて両手をぶんぶんと左右に振るステラは誤魔化すように料理をまた食べ始めた。
 ……どうやら幽霊の類いに彼女は偏見など持っていないようだった。
(怖がらせるかと思って黙っていたんだがな……)

 運ばれてきたデザートを兄とステラのほうへと押し遣ると、兄の小言が始まった。
 ステラと食事ができて上機嫌で、こちらが酒を飲んでいても放っておいてくれたのに……。ちっ。
「また十四郎は!」
「へいへい。いいじゃないかよ。ステラさんにお礼のデザートをあげたって」
「で、ですけど……」
 ステラは自分のデザートをぺろりとたいらげ、二人の様子を眺めていた。
 兄は彼女を手持ち無沙汰にするわけにはと、十四郎のデザートを彼女の前に置いた。
「どうぞ、ステラさん」
「はひ? これは来生十四郎さんのですよね?」
「弟はいいらしいので、ぜひ」
「…………」
 彼女は困惑してこちらを見てくるが、十四郎は「どうぞどうぞ」と身振りで示すや、ステラはためらいがちにデザートのアイスをぱくりと食べてしまった。
「美味し〜! ですぅ!」



 タクシーで朧荘の前まで来て、降車した彼女は二人に深々と頭をさげた。
「今日はありがとうございました! とってもとっても! 美味しい料理をご馳走様でした!」
「気にしないでください」
 と、笑顔の兄。
「気にするな」
 と、微妙に渋い顔の弟。
 ステラはタクシーが去っていくまで大きく手を振っていた。
 車内では……。
 十四郎が兄を見遣っていた。
「なあ、あの子、本当に16歳なのか?」
「そうですよ?」
 どうも……そうは見えなかった。十四郎は、もう見えはしないのに後方を眺め遣ったのだった。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
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東京怪談
2010年11月16日

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