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『【小説家は悩ましい】 』
エルディン・バウアー(ib0066)
●ネタはどこだ
 彼の名はエルディン・バウアー。
 職業は神父である。先祖は高位の聖職者と言う話だったが、彼自身はそれほどでもない‥‥との弁。
 ジルベリア神教会に属していたが、窮屈さを感じ、天儀の開拓者ギルドへと所属した青年である。
 まぁ、実家と嫁入り先の折り合いがよろしくないのは、別にジルベリアに限った事ではないので、本人はいつか認め合う事が出来れば‥‥と、結構のんびり構えていた。
 と言うのも、エルディンには、もっと差し迫った問題があったからである。
「どうしよう。ネタがない!」
 原稿用紙を抱え、うろうろと部屋の中を動き回るエルディンさん。その本棚の一部には、良い大人の神父様には似つかわしくないタイトルの本が並んでいた。
 曰く『恋人は強化人間』とか『世界を売り渡しても君が恋しい』とか『騎士様のヒミツ』とか『夜の文学史』とか、とにかくピンクできらきらした外装の本が並んでいる。一方では、真面目そうな本‥‥例えば『精霊大系』とか『神教会名簿』『精霊の声』等も並んでおり、主の混沌ぶりが伺えた。
 その、カオスな本棚の中心部にいたのは。
 金髪の、上品そうな青年である。身長180センチ、体重標準と、若干薄すぎるきらいはあるが、こんな感じの神父様が、教会で出迎えてくれたら、女性信者が増えそうな外見である。実際、女性には倍増しになる輝く聖職者スマイルで、信者が増えた事があるそうだ。
 で、おそらくその女性対応の一環だったはずの行為が、今イケメン神父を悩ませている。
「だめだ。何も思いつかない。締め切りはあさってだと言うのに‥‥」
 真っ白な原稿用紙を抱え、深くため息をつくエルディン。名前の所には『エドガー』と書いてあるが、それ以外はタイトルすら決っていない状態だ。
「うーむ。ここはやはり、篭っていてはいけないですよね‥‥。ギルドに頼るとしましょう」
 椅子で一息ついても、全く思いつかない頭に、エルディンは仕方なく見切りをつけた。そして、その真っ白な原稿用紙と筆記用具をカバンの中へ入れると、再び上着を羽織る。
「ちょっと出かけてきます。3日ほど戻らないので、後はよろしくお願いしますね」
 そう言うと、彼はそのまま教会を出て、ある場所へと向った。ここ、神楽の都にある、どんなマニアックな現象さえ専門家がいるという場所。そう、開拓者ギルドだった。
「だぁぁかぁらぁぁ! 仕事をしに来たんじゃないんだっての!」
 その受付で、盛大な声を張り上げているのは、銀髪の御仁だった。受付の人がまぁまぁと宥めているが、その御仁は譲らない。何やらひと悶着ありそうなので、エルディンはそれを押し止めた。
「どうしたんですか? 女性を驚かせてはいけませんよ」
 いつもの癖で、どうしてもにこやかに微笑んでしまう。その輝く聖職者スマイルに、受付の女性は良い生贄が来たとばかりに、目を輝かせた。
「おう。ちょっと迎えに行って欲しい人がいるらしーんだが、あいにくと誰もいなくて‥‥なんだと」
「ああ、お迎えですか。確かに忙しそうですしね。どなたなんです?」
「こいつだってよ」
 ノイ・リーが説明がわりに、ある御仁の絵姿を差し出してきた。見れば、そこにはでかくてごつそうだが、見た目には綺麗なおぜうさんと化しているゼロの姿がある。
(なるほど。ですが、良いネタにはなりそうですね‥‥)
 そう思うエルディン、変わらない聖職者スマイルで、ノイ・リーにこう申し出る。
「では、私がお手伝いしましょう。それでよろしいですか?」
「俺、仕事明けで綺麗なお姐さんを肴に一杯やろうと思ってたんだけどなぁ」
 前には受付、横にはエルディン、2人に挟まれて、諦めた様にため息をつくノイ・リー。
「そうですね。では、そのついでにで構いませんから」
 エルディンが一歩前に進み出て、首を斜め四十五度にかしげた。女性なら一発で落ちるスマイル必殺技だが、ノイ・リーは疑わしげな表情を浮かべている。
「何だか上手い話だが‥‥本当にいいのか?」
「ええ。こちらにも利はありますから」
 まさか、自分の執筆のネタにする為とは、どこにも出しちゃいないが。
「では行きましょうか? ノイ殿」
「船長って言ってくれ。その方が通りが良いんでな」
 こうして、エルディンと船長は、お互い腹の探りあいと化しながらも、連れ立って繁華街へと向うのだった。

●綺麗なお兄さんはいかがです?
 さて、向った先の繁華街は、イベントを開催中とかで、とても賑わっていた。瘴気の香も、ここでは無縁のものだ。その一画に、ジルベリア風に飾り付けられた茶店があった。
「そう言えば、そろそろ精霊祭だな‥‥」
 その飾りを見て、ずばりと言い当てた船長に、エルディンは目を丸くする。泰国風の名前を持つ船長だが、見た目はどう見てもジルベリア出身である。きっと、自分と同じ様に、何か込み入った事情があるのだろう。彼らギルドに所属する者の中には、言えない過去を持つ者も多い。そう思い、彼はそれには触れず、店の方を指し示した。
「寄ってみますか?」
「ああ。そうだな。たまには、ああいう店も悪くない」
 その一瞬だけ、船長の横顔が、どこか開拓者に似たものとなる。この雰囲気は使えるなと、エルディンが頭の中のメモにしっかりと刻み付けたその刹那だった。
「あー! 居たっ。さっきの!」
 カラン‥‥と入室を告げると共に、声を上げたのは船長の方だった。見れば、そこにいたのは、先ほどの手配写真にいたゼロである。しかも、どういうわけか、女物の衣装を着用済みだった。しかも、精霊祭のシーズンに良く見られる、真っ赤なふわふわ付きの奴である。
「へぇ、結構可愛く出来上がるもんだな」
 ニヤニヤと、店員バージョンのゼロを上から下まで眺めているノイ・リー。完全に、表情が綺麗なお姐さんターゲットモードである。これは行けると確信したエルディン、煽るようにこう囁いた。
「どうやら、今日は特別営業らしいですね。ゼロ殿は、内緒でバイトしているようですよ。いわゆる、ヒミツのお勤めと言う奴ですね」
 本当は、きっと何かの事情でヘルプってるだけなのだろうが、芸術には、あえて見せないでおくと言う手法もあるのだ。
「なるほど、ヒミツか。誰にも言えないってのは、中々良いかもしれないな」
 内緒の間柄と言うのは、男女共に後ろめたい気分になるもの。だがノイ・リーは、それさえも刺激に感じたらしく、つかつかとゼロに歩み寄る。
「結構な事してるじゃねぇか。こいつが見られたくなくて、行方をくらませたってか?」
 お互い、ほぼ初対面に等しい間柄にも関わらず、ノイ・リーは馴れ馴れしくその越辺りを抱き寄せる。エルディンが黙って半歩探り、他の店員と客がひそひそによによと見守る中、船長はまるで舞台の役者にでもなったかのように、大げさな身振りでもって、その手を口元に寄せる。
「は、離せ。いきなり何しやがるっ」
「ん? レディにはこうするのがお約束だろ」
 ジルベリアの祭では、男性が女性をエスコートするのがマナーの一部だと言われている。エルディンも作法は教会式のものしか知らないが、ノイ・リーはどっから聞き込んだのか、カンペキな執事マナーで、レディ・ゼロをエスコートしていた。腰を抱き寄せるように進ませ、設えられた椅子を良い具合に引き、すとんと腰を落とさせる。装飾こそ入っているが、ただの木の椅子に、そこまでされて、ゼロはそこで旗と気付く。
「お、俺は貴婦人じゃないんだがっ」
「ん? そうだったっけ。俺はただ椅子に座らせただけだぜ」
 ノイ・リー、相手が戸惑っている事を分かっていて、わざとそう座らせた模様。顔を引きつらせたゼロが、思わず刀に手を伸ばしたのを見て、エルディンが止めに入った。
「まぁまぁ。ギルドに頼まれて、ゼロ殿を探していただけなんですよ」
 モデルを斬られては困る。そう思い、揉めそうな雰囲気を察した彼は、そう言って仲立ちに入った。ここで機嫌を損ねられたら、折角の計画が水の泡だ。
「げ、もうばれちまったのか‥‥」
 ギルドの捜索状を出され、顔を引きつらせる彼。知り合いらしき名前が書かれたそれは、突然行方をくらませたゼロを心配する内容だ。が、エルディンはそこで必殺の聖職者スマイルを立ち上げて、やんわりと告げる。
「でも今はお客さんですから。あの、案内していただけますか?」
 捕まえる気はないようだ。その輝くスマイルに、若干照れくさそうに頬を染めたゼロセンセ、くるりと回れ右して、「お、おう」とついて来いポーズ。だが、その腕を船長がぐいっと掴んだ。
「阿呆。折角可愛い格好してんだから、そこはいらっしゃいませだろ」
 引き寄せるようにして、囁く。ゼロさん、しばらく口をぱくぱくさせていたゼロだったが、ノイ・リーは全く話してはくれない。によによと、彼の態度を見守っている。
 観念したのか、彼が口を開いた。
「い、いらっしゃいま‥‥良く来たな。そこ座れ」
 途中まで言ったせりふを飲み込むゼロ。いつもと同じ様に、顎でくいっと示している。エルディン曰く「あ、開き直った」だそうだ。
「んな事、恥ずかしくて言えるか! なんか頼むのか?」
 がしがしと大またで歩き倒すゼロ。折角綺麗なジルベリア風の赤い女物装束を着ているのに、雰囲気が台無しである。不満そうなエルディンを他所に、ノイ・リーさん、によによと笑みを浮かべながら、その太ももあたりに手を伸ばしてきた。
「そうだな。じゃ、上手い酒と綺麗なおねいさんを頼む」
「いねぇよ、そんなもん」
 即答するゼロ。
「そうか? ここにいるじゃねぇか」
 くくっと笑って、ちょいっと腰をつつくノイ・リー。どこのツボをつついたのか、ゼロの足元がおぼつかなくなってしまう。倒れかける彼を、すかさず腕を伸ばして抱きとめる船長。
「触るな。っていうか、さっきからそこの神父が、思いっきりガン見してやがるんだけど」
 気付いたゼロが、ぱしっと手を払いのける。そのまま、音も立てずに壁に張り付く彼だったが、その壁にはペンを走らせるエルディンが待ち構えていた。
(いいですよ、これです! 私が求めていたのは、これなんです!)
 もちろん、表情はいつもの聖職者スマイルだ。
「ああ、私の仕事なものですから」
「「仕事ぉ?」」
 ぜロと船長の声が仲良くハモる。きらんとおめめを輝かせたエルディンが、ここぞとばかりに口を開いた。
「そうですね。少し‥‥お願いがあるのですが」
 モデルになってくださいと強制されたのは、それから程なくしての事である。
 
 エルディンプロデュースで出来上がったのは、黒いロングスカートに、長袖のパフスリーブのブラウス、そしてひらひらのたくさんついたエプロンと、いちぶのすきもないメイドさんと化したゼロだった。
「お、似合うじゃねーか」
「な、何でこんな格好しなくちゃいけねぇんだよ‥‥」
 不本意極まりないが、仕方なく着せられているらしく、馴れ馴れしく呼ばれて、とたんに不機嫌な表情となる。
「お前はいいのかっ」
「俺の格好普通だもん」
 ふんぞり返るノイ・リー。確かに、船長の方は、天儀におけるちょっと豪華な礼服と言った風情だ。今回のシチュは、男の娘メイドで日銭を稼ぐゼロちゃんが、たまたま出入りした奉公先で、若旦那の毒牙にかかった後、恋に落ちると言う‥‥いわゆる人間関係壊してから濃い仲になる、逆玉の輿タイプのシチュである。
「く、くそうっ。不公平だっ」
「そう言うご指定なんだから、仕方がないだろ。これも仕事だ」
 船長、どう聞いても言い訳にしか聞こえないセリフを告げつつ、ゼロの腰を抱き寄せる。満足そうに頷いたエルディンは、頬を膨らませたままのゼロを無視し、次なる指示を出す。
「では、そのままデートに行ってください」
「はぁ?」
 怪訝そうな顔をしたのは、ゼロだけだ。船長は、その店から少し離れた場所の裏通りを指し示していた。
「んー。デートなぁ。そうすると、最終的には水茶屋あたりになるんだが、構わないよな?」
「はい、勿論です」
 即答するエルディン。ストレートな物言いに、ゼロの顔が耳まで赤くなる。
「構うわ! なんで俺が野郎と水茶屋行かなきゃ行けないんだよ!」
「俺、メシまだなんだよなー。どうせなら、綺麗どころと食いたいじゃん?」
 間接的に、女装したゼロが綺麗だとゆーているようなものである。そこへ、エルディンが台本を見せた。
「テーマとしては、裏通りに逃げ込んだメイド・ゼロを、上手いこと言って誘い込んじゃった所からスタートですね。では、ほんの演技で良いので、お願いします」
「おー、任せとけー」
 ギルドに所属していないはずなのに、ゼロを強引に裏通りへ引っ張りこめるだけの膂力がある船長。志体は持っているらしいので、当然と言えば当然なのだが。
「そ、その。俺には好きな人がいてっ」
 神楽の都といえど、路地裏に街灯なんてものはなく、一歩建物の裏に入れば、2人を照らすものは月明かりしかない。ちょうど良く、コの字型に行き詰まった建物の片隅で、獲物を追い詰めた猟犬のような表情で、にぃっと笑う船長。
「遊びに行ったくらいじゃおこらねぇよ。男同士なら、浮気にならないだろう?」
「なるわ! ボケ!」
 ふるふると、怯えた表情を見せそうになりながら、首を横に振るゼロ。しかし、その格好でいくら叫んでも、怯えたメイドにしか見えない。
「いーじゃねぇか。面白そうだし。お互い大人なんだから、割りきろうぜ」
 膝に軽く蹴りを食らわせる船長。膝の後ろを取られ、足を崩すゼロ。普段なら、食らわないはずの攻撃だが、メイドの気恥ずかしさと、不意打ちに、やすやすと地面に転がされてしまう。
「おや? 船長乗り気ですね」
「見た目は可愛い子だしなー。俺はそれさえ一致すれば、性別なんて細かい事気にしないようにしてる。もっとも、子供はお断りだが」
 成人限定と言うくくりだけはあるようだが、その辺はだいぶ緩いらしい。
「心強い限りです。では、もうちょっと迫真に。私はここで後ろに下がりますから」
 エルヴィンが、すすす‥‥と、壁の無効へ姿を消す。いや、きっとその後ろから|。☆)な感じで覗いているのは確かなのだが。
「って、マジか‥‥」
 ゼロ、顔を引きつらせ、尻餅をついたまま、固まってしまう。
「ふふん。それに、船旅はなげぇぜ? そうでもしねぇと、やってらんねぇしな」
 その尻餅をついたメイドの膝に割って入るようにして、長いスカートを抑えてしまう船長。すっとその指先が、顎を持ち上げる。
「いや、それとこれとは話がちが‥‥」
「いいじゃねぇか。何なら、俺の船で一回りするか?」
 耳元で船はいいぞーと囁く船長。
「ひ、飛空船じゃ人数いるだろうが!」
「飛ばなきゃ良いんだよ。ま、俺は逃げ場がない方が良いけどな」
 背中に手が回された。服の上からつつうっと撫でられて、情けなくも悲鳴じみた声を上げてしまうゼロ。
「嫌よ嫌よも好きのうち。痛いのは最初だけだって」
「や、やめ‥‥」
 冷や汗が流れ、顔が引きつっている。
「ほ、本気か?」
「マジ。これでもテクには自信があるんだぜ」
 わきわきと指先がうごめき、背中のホックが外される。女性と違い、その下に、何か覆う物をつけているわけではない。服を剥ぎ取られた下にあるのは、良く鍛えられた素肌だ。
 が、その刹那。
「そうか‥‥。わかった」
 ゼロの中で、何かが壊れた。ぴきんと音がして、ぐいっと船長の腕を、逆に掴んでしまう。船長とエルディンが「「え」」と呆けた直後だった。
「いいかげんにしろぉぉぉぉっ!」
「「わぁぁ、怒ったーーー」」
 切れたゼロが、サムライのパウワァを解放して、ノイ・リーを成敗してしまったのは、言うまでもない。

 数時間後。
「まったく。そんな事言うなら、お前がやりゃあ良いだろうがー」
 普通の服に着替えたゼロが、エルディンに治療をう受けている船長の傍らで、何やらごくごくと飲み下している図が、教会の一室で繰り広げられていた。
「いや、ちょっとそれは‥‥。私は神に仕える身ですから」
 ここが他の土地なら、そこにあるのは精霊を祭る寺なんだが、開拓者ギルドの近くともなると、時折開拓者がやっている教会もあったりする。事情を話せないので、とりあえずエルディンが懇意にしている教会へと運びこんだわけだが。
「俺ぁどっちでもいいぜー」
 船長、結構元気である。包帯等々は巻かれているものの、おめめはぱっちりで、治療に当たったエルディンを抱き寄せていた。
「ほら。船長もああ言ってるじゃねぇか」
 ゼロ、自分が被害から免れたせいか、気楽にそう言って、おててをひらひらと動かしている。
「そこっ。踊らないで下さいっ」
「じゃあ、お前が踊る?」
 思わずツッコんでしまったエルディンに、船長の腕が伸びてきた。
「え」
 そのまま、教会のベッドの上にご招待される。によによと、意地悪く笑うゼロが見守る中、船長ってばエルディンの耳元で囁いていた。
「金髪だし、さぞかし映えるだろうなー。んー?」
「ちょ、何を‥‥っ」
 とすっと突き倒された。元々魔道師のエルディンに、膂力なんてモンはない。逃げようとしたところ、今度はゼロに、後ろから羽交い絞めされてしまう。
「確かに、体格的にはきっとこっちの方が合うぜ」
 ちょうど、二人に挟まれると、体格差で頭一個分低い。体のバランス的には、組み敷ける大きさだ。
「ほーら、こんな感じで」
「ぜぜぜぜろさんっ!?」
 エルディンの頭に、教会で女性がつけるヴェールを被せられる。そして、黒い礼服を、羽織らされた。ちょうど、開きかけた服のまま、美味しくお皿の上に乗った状態になる。
「ほほー。中々背徳的でいいじゃねぇか」
「い、いえ私はこれを書かなければならな‥‥っ」
 逃げ腰のエルディン。わたわたと筆記用具に手を伸ばそうとするが、その先でゼロがひょいっととりあげてしまう。
「じゃ、思いっきり体験させてやるよ。お前もそれで良いだろ?」
「俺はこっちに被害がなければどっちでも良いぜ」
 エルディンを置き去りにして、ゼロとノイ・リーの間で、取引が成立してしまった。
「相手が違いますっ」
 指定はゼロの筈である。わたわたと拒否するものの、船長はかまわず耳元で低く囁いた。
「大丈夫。良くしてやるよ」
 ふっと息を吹きかけられ、びくりと首筋が震える。刹那、ひょいと持ち上げられてしまった。
「軽いな。お前」
 細い腰は、普段から鍛えているらしい船長に比べれば、女性同様らしく、あっという間に膝の上だ。こうなると、もうどこにも逃げ場はない。おまけに、後ろにはゼロがばっちり見張り番。
「うっきゃあああああああ‥‥あ☆」
 教会が関係者以外立ち入り禁止になったのは、言うまでもない。

 翌日、開拓者ギルドに顔を見せた船長は、具合が悪そうな顔をしていた。
「頭いてー。飲みすぎかなー。酷い夢を見た気がする」
「なんだ、偶然だな。俺もだ‥‥」
 目を合わせようとしないゼロもである。
「ああ、なんだ。夢でしたか。でしたら思いっきり書けますね☆」
 たった一人、エルディンだけがやっぱり輝く聖職者スマイルで、にこやかに言っているのであった。
■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
姫野里美 クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2010年11月22日

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