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『Wonderful Wonderland 』
獅月 きら(gc1055)



 2時間目と3時間目の間に挟まってる、少しだけ長い休み時間。
 大鐘楼に続く階段の踊り場で僕は、そーっと右ポケットの中身を取り出した。
 ホログラムで虹色に輝く紙片は、ラスト・ホープで大人気の遊園地のチケットだ。
「夢じゃ‥‥なかったんだぁ」
 目の前にかざして改めて、今朝のことが思い出される。
 そう、1時間目と2時間目の間の短い休み時間−−。

「りっくん、今週の日曜日、予定ある?」
 寺田先生のつまんな‥‥もとい、ためになる講義に疲れてうとうとしてた僕に、きらちゃんが声をかけてきてくれたんだ。
 あ、きらちゃんってのはね、獅月 きらちゃん。聴講生なんだけど、正直僕より真面目に授業に出てて、成績もよかったりする。
 依頼でチームを組んだのをきっかけに、時々お弁当一緒に食べたりするんだ。んでね、すっごくかわいいの。
「あ、うん。大丈夫だよ」
 机の傍に立つ彼女に、僕は慌てて頷いた。
 そしたら。
「よかった! ね、一緒に遊園地行こうよ?」
 きらちゃんは制服のポケットをごそごそして、きらきらしたチケットをくれたんだ。
「え? 僕と?」
「うん、商店街の福引きで、ペアの招待券が当たったの。父さんと母さんにプレゼントしたら、『お友達といっておいで』って。‥‥で、最初にりっくんの顔が真っ先に思い浮かんだんだ」
 きらちゃんはにっこり笑った。
 ああ、あの笑顔を思い出しただけで心臓がバクバクしちゃう。
「ほ、ほんとで僕でいいの?」
「もちろんだよ。‥‥じゃあ次の日曜日、朝10時に遊園地前の駅でね。約束!」
「う、うん」
 そう言って右の小指に触れたきらちゃんの指は、細くて白くてとってもキレイで。
 爪はほんのりピンク。おさげに結った髪を、うんと薄くしたピンク。
「指切りげんまん、ウソついたら針千本飲ーます♪」




 約束の日曜日。午前9時30分、空は真っ青でいい天気。
 待ち合わせの時間はまだまだ先だというのに、僕は遊園地前の駅についていた。
 改札口の傍で周りを見回すけれど、薄紅梅色の髪の女の子は来ていない。
「やっぱりちょっと早すぎたかなぁ‥‥」
 初デートは絶対に、遅刻しちゃいけない。
 ジュンキ‥‥あ、兄ちゃんね‥‥がくどいぐらいに繰り返すので、予定より2本も早いチューブトレインに乗っちゃったもんな。
 自慢じゃないけど僕は、女の子とお休みの日にお出かけするなんてはじめてだったりした。
 ひょっとしたらこれはジュンキの言うとおり、デートなんだろうか?
 デートだとしたら僕は、きらちゃんをエスコートしなきゃだ。
 僕はきらちゃんがにこにこしているのを見たいなぁって思ってる。
 どうしたら喜んでくれるのかな?
「‥‥くん」
 きらちゃんはどんな乗り物が好きなんだろう? 
 デートの定番はお化け屋敷だって聞くけど、やっぱり入った方がいいのかな? 僕お化け、あんまり好きじゃないんだけど。
「‥‥っくん」
 待てよ。きらちゃんはデートって思ってないかも知れない。
 勘違いは痛いよな。ここは慎重に行くべきかな‥‥?
「りーっくん」
「わわっ」
 と、視界にいきなり、きらちゃんの顔がとびこんできた。
「もーう、何度も呼んでたんだよ? 何か考え事してた?」
「あ、いや、別にっ。おはよっ、小春日和だねっ」
 我ながらつまんない受け答えだったなとは思う。
 でも仕方ないじゃん、まさかきらちゃんのコト考えてました、なんて答えられないもん。
「ん、そうだねっ」
 そこで僕は、きらちゃんがとってもかわいいことに気がついたんだ。
 あ、いつもかわいいんだけど、そうじゃなくてさ。服のせいかな? 雰囲気が全然、違ってたんだ。
 黒いベストにネクタイ。ふわっふわのミニスカート、裾から白いレースが覗いてる。、長い靴下(オーバーニーソックスって言うの?)に、爪先がまるっこい靴。髪を留めるリボンも黒に白のレースで控えめに飾られてたりして。
 冗談抜きで、お人形みたいだと思ったよ。
 そのお人形が。
「りっくん、どうしたの? わたしの顔に、何かついてる?」
 ちょこんと、首をかしげた。
「う、ううん、かわいいなって思って‥‥」
 わああああああああ!!!!
 何いってんだ! 直球すぎるだろ! 捻れよ! ちょっとは捻れよ!
 だけどきらちゃんは優しいから。
「ありがと! りっくんとお出かけだからおしゃれしたんだよ? 学校の外で会うのって、依頼のほかじゃはじめてだもんね!」
 とびっきりの笑顔を、向けてくれたんだ。
「さ、いこ!」
 そのまま2、3歩歩いて、振り向いたりするもんだから。
「うん」
 なんだろう、すごく些細なことなのに、僕の胸はドキドキしっぱなしだ。
 でも平静を装うよ。だってまだ
「行こう!」
 楽しい一日は、はじまったばかりだもの−−。




 休日の遊園地は、たくさんのお客さんで賑わっていた。
 キャラメルポップコーンのワゴンから漂ってくる甘い匂いが、鼻をくすぐる。その隣のホットドッグも、とっても美味しそうだ。
 そういえば僕は、朝から何も食べてなかったっけ。思い出した途端、急におなかが減ってきた。
 いやでもダメだ、まだお昼には随分早いし、きらちゃんだって呆れ‥‥
 ぐ−−−−−−−−−。
「ん、りっくんお腹すいてるの?」
 空気を読まない腹の虫の鳴き声に、きらちゃんが僕を見上げる。(っていっても、数センチなんだけど!)
「あ、うん、朝ごはんちょっと、食べそこねちゃって」
「ナイスタイミング! わたしもあのポップコーン、食べたいなって思ってたんだ。待ってて」
 言うが早いか、ワゴンに走っていくきらちゃん。
 ま、待って、僕におごらせてーーーー!
 だけどふがいない事に。
「はい、ホットドッグ♪」
「ありがと‥‥いくらだった?」
「ん、忘れちゃった」
 おごるどころか買ってもらってる僕っていったい‥‥。
「あ、あとで埋め合わせするから‥‥」
「ん、気にしなくていいよ。あ、りっくん口の端にケチャップついてる、はい♪」
 ポップコーンを摘むきらちゃんが、すっと紙ナプキンを差し出してくれた。
「あ、ありがと」
 なんていうか、僕格好悪すぎるだろう! 男の僕がエスコートしなきゃなのに! に!
「き、きらちゃんは何に乗りたいの? 僕ね、遊園地の乗り物はどれも大好きだよ」
 絶叫系以外はね。
 だがしかし。
「ほんと? じゃあ、あれに乗ろう!」
 きらちゃんが指差したのは、テレビのCMでおなじみのジェットコースターだった。
 「スタンディングでこそ味わえるスリル!最大高低差60m、最高速度時速200km!」っていうキャッチコピーが、アタマの中でぐるぐるまわる。
 マジですか。どれも大好きとか言った数十秒前の自分をバトルモップで殴りたい、そんな気分。
 だけど今更後には引けない。
 れ、冷静に考えれば僕はKVだって操縦するんだし、能力者じゃない人向けのアトラクションなんて、へのかっぱなはずなんだ!
 うん、きっとそうだ!
「あ、僕もあれ乗ってみたかったんだよねー! 行こう!」
 半ばヤケできらちゃんより先に、アトラクションに向かってみせる。
「待って、りっくんー」

 結論からいうと、僕は最初に乗ったコースターのことを、殆ど何も覚えていられかった。
 死ぬほど叫びまくったのは確かだと思う。
 KVは平気なのに、どうしてこんなアトラクションごときが怖いんだろう。
 特に落ちる瞬間なんて、もう最悪に怖い。
 だけど、だけど!
「すっごいスリルあったねー! じゃあ次はあの『フライングカーペット』にいこうか?」
「お‥‥おっけー! 僕あれも大好きなんだ!
「大丈夫りっくん? 震えてない?」
「やだなあ、これは武者震いってやつだよ!」
 きらちゃんと一緒だから、すっごく楽しくて、ずっと乗っていたかったのも、ほんとの気持ちなんだ。
 だけどきらちゃんは途中で、僕がビビリだって気がついてたみたいで−−。
 「よし、じゃあきらちゃん、次は何にする? ‥‥そろそろ最後かな」
 「ん、じゃあ、あれがいいな」
 気づけば夕暮れ。
 そんな中、彼女が指差したのは、大きな観覧車だった。
 
 
 

 ふたりだけのゴンドラから眺める、薄紫に包まれるラスト・ホープ。
 「うわー‥‥きれー」
 足元にはたくさんの灯がまたたいてて、宝石の海みたいだった。空と地面の区別は、ほんのりオレンジ色。
 「りっくん、一番星が見えるよ」
 向かいに座るきらちゃんが、窓の外を指差す。爪先のはるかはるか先に、大きな輝きが見えた。
 なんていう星だろう? ああ、こんなことなら授業、もっとちゃんと聞いておくんだった!
「きれーだねー」
「うん」
 何となく、会話が途切れる。
(!!)
 また間の悪いことに、僕たちの隣(というか直上?)のゴンドラに乗っているカップルがチューしているのが、窓ガラス越しに見えてしまったりして! きらちゃんが気づいてないのが唯一の救いなんだけどっ。
「あ、あのね。今日は誘ってくれてありがとう」
 きらちゃんの顔を見るのが気恥ずかしくて、僕は俯いたまま今日のお礼を言った。
「ううん、わたしこそありがとう。りっくんと一緒に来てよかった、とっても楽しかったよ」
 きらちゃんの笑顔がぱあっと咲く。お花みたいな、僕の大好きな笑顔。
「さっき売店で一緒に買ったお揃いのこれ、無線機につけようね!」
 細い指先にひっかけたマスコット付のストラップが、ゆらゆら揺れている。
 僕のポケットの中にも、同じストラップが入ってる。
「今日はもう帰らなきゃいけないのが、ちょっとさびしいなぁ」
「ほんとだね」
 もっといっしょに、いたいな。
 ちょっと思ったけど、言い出せなかった。
 だってさ、余計なこと言っちゃって、この夢が、二度と見られない夢になるのが怖かったんだ。
 観覧車はゆっくり回る。
 てっぺんを示すポールを過ぎて、すこしずつ地面に向かって降りてゆく。
 今を逃したら。そんな気持ちが不意に芽生えた。
 怖いはずなのに。伝えたいなって、思った。
「ねえ、きらちゃん」
「ん?」
 きらちゃんに、いわずには居られないって思って。
「おれね−−」

 言いかけたところで、がたんと、ゴンドラが止まった。
「はい、お疲れ様でしたー」
 スタッフのお兄さんの手が扉を開く。
 途端、遊園地の喧騒が僕たちのまわりに戻ってきた。
 そっか、1周10分間の「短いユメ」が終わったんだなぁ。
ちょっと、寂しくなっちゃったりして。
「りっくん、何か言いかけてなかった?」
「ん、なんだっけ?」
「もう、忘れんぼだなぁ」
「あはは、ごめんね」
 笑ってごまかしたけど、もちろん忘れてなんかいない。
 だって僕はさ。
「きらちゃん、また一緒に、遊びにいこうね! 今度は僕がおごるからっ」
「うん、どこに行くか考えておくね」
 僕は、きらちゃんが。
 −−−あーやっぱ、この先は口には出せないナァ。




 かくして僕ときらちゃんの、デートっぽいコトはあっけなく終わった。
 待ち合わせした駅まで一緒に歩いて、改札口のところで、反対側のホームに向かう彼女と握手して
「また、学校でね」
「またねー」
 その手を大きく振って、バイバイしたんだ。
 次の約束はしなかったけど、それでいいんだと思う。
 だってさ。
 触れたのはほんの数秒だったけど左手の中に、まだちっちゃな手があるみたいに、感じてるんだから。
 「楽しかったなぁ」
 だから僕はポケットにその手を大事にしまって。
 
 −−2番線に列車がまいります、ご注意下さい−−。
 
 ホームに滑り込んできたチューブトレインに、ゆっくり乗り込んだ。





━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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gc1055/獅月 きら/16/女/スナイパー
gz0290/笠原 陸人/17/男/ドラグーン


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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きらちゃんこんにちは! クダモノネコです。
依頼で仲良くしてくれているきらちゃんと初デート!?ということで、笠原君は相当嬉しかったようです。
リプレイでは出来ない視点でのノベルとさせていただきましたが、如何だったでしょうか?
これからも仲良くしていただけると嬉しいです。
ご発注ありがとうございました。

※きらちゃんの私服は、ギャラリーの中の「全身図」をイメージして書かせていただきました♪
HD!ドリームノベル -
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CATCH THE SKY 地球SOS
2010年11月22日

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