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『あいたい、ひと ――とびっきりの、大法螺―― 』
ライル・フォレスト(ea9027)

 ハロウィン。
 それは年に一度、一日だけ、死者がこの世に甦る日。

 彼等は「逢いたい」と望んだ者が思い描く通りの姿で現れるという。
 年老いて世を去った者は、若き日の姿で。
 若くして逝った者は当時のままの姿で。
 幼い子供が成長した姿で現れる事もあるらしい。

 ハロウィンには、奇跡が起きる――


 俺はライル・フォレスト。
 今はジャパンの京都に住んでるんだけど……ほら、今日はハロウィンだからさ。たまには里帰りしてみようかな、って。
 もし誰かに会えるとしたら、死んだ親父に会いたい、なんて、ふと思ったんだ。別に懐かしいとかじゃなくてさ。ただ、親父が生前ついたとんでもない駄法螺を問い質したいんだよね。元々しょーもない法螺話ばっかしてた人でさ……。
 で、還って来るならやっぱりここだろうし。いくら幽霊でも、虹の橋を渡ってジャパンまで来られる筈もないからね。
 だって、親父が言ったんだよ。
『虹に追いつけたら歩いて渡れる、俺は渡ってジャパンに行ったことがある』
 ……って。
 あれは、両親が死ぬ少し前だったかな。俺が7つの時だ。親父が真顔で言うもんだから、俺も真に受けて……
「……そうそう、お前必死に追いかけてたよなぁ。はっはっは、ありゃぁ傑作だった!」
 ――ばんばんばん!
 キャメロットの町をぶらぶらと歩いていた俺の背中を、誰かが叩く。豪快に笑いながら、遠慮なしに。
 その笑い声と、大きくて分厚い手の感触には覚えがあった。
「……親父……!」
 ほんとに、会えた。もし会えるとしても、相手は一応幽霊なんだから……出るなら夜かな、とも思ってたんだけど。
 出たよ、真っ昼間から堂々と。
 何故か、溜息が漏れる。いや、なんだか……余りにも「そのまま」だったから、さ。
 ドワーフじゃないかっていうくらい顔中ヒゲだらけで、体つきも結構ゴツいから、一見ちょっと怖そうなんだけど。でも、ニッコリ笑うと子供だった俺よりも子供っぽく見えた、あの頃のまま。
 身長だけは少し縮んだ気がするけど……それは、俺がデカくなったせいか。最後に会ったのは、本当にもう遠い昔だったんだって実感するな。
 懐かしいとかじゃない、なんて思ってたけど、こうして目の前にしてみると……やっぱり懐かしい、かな。
「そうだろ、そうだろ。やっぱり懐かしいよなぁ? なのに素直じゃねぇのは、あれか? 今流行のツンデレって奴か?」
「ちょ、何だよそれ!」
 別に流行ってないし、ツンデレでもないし! いや、それより……俺、声に出した?
「ふっふっふ、死人を甘く見るなよ?」
 親父、すっごい楽しそうに笑ってるよ。これは、あれだ。いつもの……しょーもない法螺を吹く時の、お決まりの笑顔。
「人は死ぬとな、生きてる人間の心が読めるようになるんだ。例えば葬式で大泣きしてる奴が、心の中じゃ『ああよかった、せいせいしたー』とか考えてたりな」
「嘘つけ!」
 もう騙されないぞ。俺はもう、親父の言うことを何でもかんでも信じてた純真なお子様じゃないんだ。
「ほぉ、なんで嘘だってわかる? お前、死んだことあるのか?」
「ある訳ないだろっ」
「だったら、嘘かどうかなんてわかりっこないよな」
 ……親父の奴、勝ち誇ったように笑ってる。ああもう、ほんとに変わってない。嘘に気付いた俺が文句を言うと、いつもこうやって屁理屈を並べて煙に巻くんだ。
 でも、それが嘘だってことは……べつに死んでみなくてもわかる。と、思う。
 だって親父は、とんでもない大法螺吹きだから、さ。
「俺が大法螺吹きになったのは、お前のせいだぞ?」
「え、何で俺のっ!?」
「そりゃなぁ、自分の話を……どんなにしょーもない駄法螺でもクソ真面目に信じ込んで、目ぇキラキラ輝かせる息子がいたら、誰だってそうなるってもんさ」
 そう……なのか? いや、親父の場合は天性と言うか、考えることのレベルが子供と同じと言うか、根っからの悪戯好きと言うか。
「お前だって、子供が出来りゃ俺に負けない大法螺吹きになるぞ?」
「何で?」
「血は争えないってな、はっはっは!」
 つまりそれは、似てるってことか? 俺と、親父が?
「当たり前だろ、親子なんだぜ?」
「そりゃ、そうだけど……っ」
 こうして並んでいても、誰も親子だとはわからないだろう。片や人間だけどドワーフみたいなゴツい赤毛のヒゲもじゃオヤジ、そして俺はスマートで……多分、カッコイイ、金髪のハーフエルフ。これっぽっちも、似てやしない。
 中身だって……いや、待てよ。あれ? もしかして……結構……似てる、かも。今だって、ハロウィンには死んだ人に会えるなんて、わりと本気で信じたわけだし……いや、それは似てるんじゃなくて、俺が子供の頃から変わってないってこと? もしかして俺、進歩ない?
 い、いや、それは置いといて。
「だけどそのお陰で、俺が後でどれだけ恥ずかしい思いしたと思う?」
「後で……って、お前。ずっと信じてたのか?」
「そ、そうだよっ」
 だから、俺は疑うことを知らない純真なお子様だったんだってば!
「おま……かわいいなぁ!」
 ぐりんぐりん、わしゃわしゃ。
 親父はヒゲだらけの顔を笑いジワに埋めて、俺の頭をぐしゃぐしゃに掻き混ぜた。
「もしかして、あの後もずーっと、虹を追っかけたりしてたのか?」
 ……してたよ。してましたよ。くそぉ。
 そうだ、この機会にせめて一言文句言ってやらないと。
「どうせなら、もう少しまともな法螺吹けよな!」
「……まとも、ねぇ」
 親父は少し困ったように首を傾げながら、顎髭を弄ってる。
「でも、楽しかっただろ?」
 にかっ。
「……ぅ、そ、それは……っ、でも、俺が必死に虹を追いかけてる間に、俺のおやつ横取りしただろ!」
 まだ根に持ってるんだからな。まあ、そんなのはもう、時効だとしても……いや、本当は時効になんかしたくないけどね!
「あと、たんぽぽの綿毛が耳に入ると臍から芽が出て花が咲くとかっ」
「言ったか、そんなこと?」
「言った。ご丁寧に、自分の臍にたんぽぽの花くっつけて見せてくれたっ」
 俺はそれが羨ましくて、何とか耳の中に綿毛を入れようと野原の真ん中に突っ立ってたんだ。綿毛が入りやすいように、耳を横に引っ張りながら。
「そしたら親父、なんて言ったと思う? そうやって引っ張るから、お前の耳は長くなったんだって!」
 信じたよ。引っ張る前から長かった気がするけど、でも信じたよ!
 だって……親父の言ったこと、だったから……さ。
「……そうか」
 親父はもう一度、俺の頭を撫でた。今度はそっと、優しく。
「あとは、どんな法螺吹いたっけなぁ」
「……体がすっぽり入るくらいのでっかいシャボン玉の中に入ると、ふわふわ浮かんで飛べる、とか……空に浮かんでる丸い雲はふかふかのマシュマロで、高い山に登ると食べ放題だ、とか……」
「はははっ、ほんとに……しょーもねぇ、な」
「だろ?」
 ……そうか、自分でも認めるんだ……しょーもないって。
「まだまだあるよ。ほら、覚えてないかな、あれ……」
 次から次へと、記憶が甦る。
 話しながら、俺はずっと笑っていた。法螺話にすっかり騙されて大恥をかき続けた、穴を掘って埋めたいような恥ずかしい思い出ばかりだっていうのに。
 そうして、どれくらい話し込んでただろう。
「――さて、と。思い出話も腹いっぱいだな。……そろそろ、戻るか」
「……え」
 気が付けば、頭の上にあった太陽がもう、西の空へ沈みかけている。
「もう、行くの?」
 ……そう、か。名残惜しいけど、仕方ない。
 じゃあ、最後に形見代わりの、飛び切りの法螺話聞かせてもらおうかな……多分、もう二度と会えないだろうから。
「会えるさ……まあ、そう簡単じゃないがな」
 あ、またそうやって人の心読む!
「お前、ムーンロード……月道って知ってるだろ?」
 そりゃ知ってるさ。ジャパンにだって、それで行き来してるんだし。――虹の橋じゃなくて。
「じゃあ、サンロードってのがあるのは知ってるか?」
 何だそれ? 何だか、どこかの寂れた商店街みたいな名前だ。
「サンロードはな、すごいんだぞ? ムーンロードで行けるのは、せいぜい海の向こうくらいだがな。やっぱり太陽は月より明るいだけあって、パワーもケタ違いなんだ。なんと、空の向こうまで行けるんだぞ!」
 あー、また始まった。そうそう、それ。
「空の向こうって、知ってるか? 月や星のあるところだぞ? それにな、この世だけじゃないぞ。あの世にだって通じてるんだ。すごいだろ!」
 うん、すごい。最後の法螺話だけあって、スケールもでかい、ね。
「……お前、信じてないだろ?」
 そりゃ、そうだよ。
「ま、知る人ぞ知るってレベルの話だからな。何しろこいつは条件が厳しいんだ。ムーンロードは月一回の満月に開くが、サンロードは太陽と月がぴったり重なった時にしか開かないんだからな」
 えぇと、それは確か……皆既日食っていうんだっけ? 起こる確率は、確かものすごく低かった、ような。
「だから言ったろ、簡単じゃないって。だが、出来ない相談って訳でもない。チャンスさえありゃ、生きてるまんまであの世に遊びに行けるんだぜ?」
「……べつに、もういいよ。用は、済んだし」
 言ってから、しまったと思った。俺を見つめる親父は、相変わらず笑顔だった。けれど、俺が知ってるものとは違う、寂しそうで……悲しそうな、笑顔。そんな顔のままで、別れてしまうのは……いやだ。
「でも、だって……また……法螺、なんだろ?」
 それとも……信じて、良いの?
「…………」
 親父の目は、真剣だった。真剣すぎるほどに。
 そして――
「う・そっ☆」
 にかーっ。
 悔しいほどに晴れやかな笑顔が、溢れて零れ落ちる。
「……こ……の、バカ親父ーーー!」
 まただよ、またやられたよ! もう、もう……っ、あははははっ!
「はっはっはー、じゃあな、元気でやれよ! まだまだ、こっちにゃ来るんじゃないぞ!」
 西陽の赤っぽい光に、手を振る姿が重なった。
「でもまあ、チャンスがあったら遊びに来い、な? とびっきりの法螺話、山ほど用意して――」
 え、あれ……嘘じゃ……?
 でも、それを問いただす前に、親父の姿は光の中に吸い込まれて……見えなく、なった。
「……お休み、父さん」
 そして、ありがとう。また、いつか……ね。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ea9027 / ライル・フォレスト / 男性 / 26歳(実年齢52歳) / レンジャー】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております。STANZAです。

納期ぎりぎりで申し訳ありません。
とびきりの法螺話というヤツに手こずっておりまして……ほら、根が正直者ですから、法螺は苦手なんですよ!(大嘘
さんざん悩んだ末に、こんな形になりましたが……如何でしたでしょうか。
親父様には「俺の法螺はもっと粋でスマートだ」と怒られてしまいそうですが……;

あと、マシュマロの部分は綿菓子の方がぴったり来るのですが――この世界には存在しないので。
シャボン玉も微妙ですが、石鹸はあるので多分大丈夫、でしょう。確か高級品の筈、ですけど。

もうひとつ、親父様にライルさんのお名前を呼ばせてあげたかったのですが、設定図などを見るにどうもご本名ではなさそうですので……。
実の父が本名を呼ばないというのもちょっと変かな、と思うので、お名前関係は省かせて頂きました。

では、ご依頼ありがとうございました。
またご縁がありましたら、よろしくお願い致します。
HD!ドリームノベル -
STANZA クリエイターズルームへ
Asura Fantasy Online
2010年12月03日

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