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『美の代償は所有物 』
シリューナ・リュクテイア3785)&ファルス・ティレイラ(3733)&(登場しない)

●美の定義
 美(び)。
「美しいこと」「美しさ」であり、自然の事物等に対する感覚的に素朴な印象から芸術作品に対して抱く感動の感情、あるいは人間の行為の倫理的価値に対する評価に至るまで様々な意味と解釈の位相を持つが一意に定義することは困難であり、その定義づけが「美学」という一つの学問として成立するほどだ。
 魔法薬屋を営む長い黒髪の妙齢の美女、シリューナ・リュクテイアがそんな「美」のカテゴリーで特に関心を示しているのは、装飾品やオブジェが織り成す「造形美」である。
 世界各地を飛び回り食指が動いた、あるいは装飾品が醸し出す何かしらの魅力に惹かれた、欲しいと思ったオブジェを蒐集しては自宅の壁一面にに飾ったり、ガラスのショーケースに丁寧に仕舞いこんで大切に飾るが時々直に触れて材質の感触を楽しみ、職人や芸術家達が築き上げた造形美を堪能したりする。
 たまには装飾品達に囲まれ、美に浸る時間を過ごそうとと思い立ったシリューナは、弟子のファルス・ティレイラを呼び出すと店番を任せ、コレクションの手入れを兼ねた自分だけの時間を満喫することに。
「わかりました、お姉さま。店番は私に任せてください!」
 胸をポンと叩いて言うが少し不安に。とはいえ、自分から店番を頼んだのでそうは言えず。
「それじゃあ、店番は任せる。何かあったら、私を呼ぶように。いいな?」
 後はティレイラに任せ、店内の一角にある装飾品が展示してある部屋に向かう。
 笑顔で「いってらっしゃい」と言うティレイラの純真さは、装飾品に勝るとも劣らない美しさかもしれないとふと思う。
 だからこそ、これまで『お仕置き』と称した暇潰しで彫像にしてきたのだが。

●甘美な一時
 店内にあるシリューナ専用の展示室には数多くの様々な装飾品があるが本人曰く「これはほんの一部だ」……とか。
 幻想的な雰囲気を、ということで、室内には電気が通っていないので持ってきた蝋燭に火を灯す。
 誰も立ち入らないようにと鍵をかけ、どの装飾品を堪能しようと薄暗い辺りを見渡す。
「これにしよう」
 真っ先に目に映ったドアの側に置いてある彫像に近づき、これを愛でることに。
「この顔立ち、このボディライン、この翼、何て美しいのだろう……。あの時、思い切って買って良かったな……」
 恋する乙女のように頬を赤らめ、うっとりとした表情で背の大きな翼を広げた女神像に身を寄せ、全身で感触と造形美を確かめる。
 この像が売られていた某国の骨董品の主人の話によると、この像は名のある彫刻家が無名時代に作ったものだという。荒削りだが、見るものを惹きつける魅力を感じ取ったシリューナは躊躇うことなく女神像を購入した。
「今度、ティレをこんなふうにしてみよう。あの子だと女神ではなく、可愛い天使になるかもしれないな、きっと。それはそれで楽しそうだが」
 女神像の美しい顔に指を這わせ、試しにしてみるのも悪くはないと微笑む。
 女神像に魔力を込めると、良い魔法効果が得られそうだと考えていた時に何やら妙な胸騒ぎが。
「まさか、また何かを壊したのか?」
 そう思い足早に店に戻ると、嫌な予感は見事に的中。
「ティレ、これはどういうことだ」
 引きつった表情のシリューナが見たものは、ティレイラの足元に転がっているそれは、純金製の女性の頭と胸に蛇の下半身を持つ怪物『ラミア』のアンクレット。
 形の良い乳房の片方と下半身部分の先端、長い髪の中央部分が欠けているではないか。
「わ、わざとじゃないんですよぉ……。ごめんなさい、お姉さま……!」
「言い訳無用だ。どうしてこうなったかを話してもらおうかしら」
 腕組みをしてじりじりと迫るシリューナに「じ、実はぁ……」と涙目になったティレイラは少しずつ話し始めた。

●損なわれた美
 今から一時間ほど前。
「ふわぁ〜……退屈だなぁ……」
 店番をして随分経つが、客が来ないのでティレイラは暇を持て余していた。
「そうだ、掃除でもしよう! お店が綺麗になれば、お姉さまに褒めてもらえるかもしれないし」
 そう考え、ハタキを手に薬等の商品が並ぶ棚の埃を払い始めた。
 棚の掃除が終わると床を丹念に磨き、店のドアを綺麗に拭き、ステンドガラスの窓をピカピカに磨き、最後にカウンターを拭き終え休憩しようとしたら、レジ近くの陳列棚にあった装飾品を発見した。
「わぁ、綺麗なアンクレット……。ちょっと汚れてるみたいだから磨いておこうっと」
 これ以上汚してはいけないとおろしたてのクロスを持ってくると、はーっと息を吹きかけ念入りに、丁寧に磨く。
「うん、綺麗、綺麗♪ これでお姉さまも喜ぶわね。これも魔力が込められているのかなぁ? 足につければ魔力アップとか? 試してみようっ」
 お姉さまに見つからなかったら、ちょっとくらいつけても大丈夫よね? とワクワクしながら早速つけてみようとしたが……掌の汗で滑ってしまい、床に落ちてしまった。
「つまり、興味本位でこのアンクレットをつけようとしてこうなった……と」
「は、はい……」
「片方だけならまだしも、両方壊れるとはな……」
 シリューナは俯くと黙り込んでしまった。
 装飾品を壊されたことにショックを受けているのではなく、どんなお仕置きをしようかと考えているのだ。
「お姉さま……ごめんなさい……!」
 ベソをかいて謝るティレイラに、顔を上げたシリューナは予想に反してニッコリ笑っている。こめかみに青筋が浮き出ていて、手に何か持っている。
「これが何かわかるか?」
 首を横に振るティレイラにコルクの蓋が閉じられているアンクレットと同じ金色の液体が少量入っている小瓶を見せ、フフッと笑う。

●美しきお仕置き
「わざとではないとはいえ、私の装飾品を壊した悪い子はお仕置きをしないといけないな」
「ご、ごめんなさいお姉さま……! 許してくださいっ!」
 お仕置きは嫌ですぅ! と翼を出現させ、角と尻尾が生えた竜人の姿になり素早く逃げようとしたが行く手を阻まれた。
「これが何かを教えてあげよう。ティレの身体でな」
 そう言うと、液体を一滴、足元に垂らす。
 すると、ティレイラの両足がゆっくりと蛇に変わり始めた。液体の正体は、蛇に姿を変える魔法の薬だったのだ。
「い、いやぁ……!」
 身体全体が蛇に変わってしまう恐怖におののくティレイラを見て可哀想と思ったのか、シリューナは空間転移の魔法を使い、変化を腰から下に留めた。
「ラミアそのもの、とまではいかないが、なかなか綺麗だぞ、ティレ」
 竜の角に翼が生えているが、下半身が蛇なのでラミアに見えなくもない。ずるずると
下半身を引き摺り逃げようとするティレイラの腕を掴むと、石化の呪術を施した。
「お仕置きはまだ終わっていないぞ」
「も……もう……やめてくださいぃ……! わ、私が悪かった……ですぅ……!」
 強く掴まれた腕は許しを請う間に石化し、涙が頬を伝い終える頃には全身が完全に石化してしまった。
 上半身は竜族の姿、下半身は蛇の泣き顔のティレイラの彫像が完成するのにそう時間はかからなかった。
「屈託の無い笑顔もいいが、泣き顔のティレもいい。アンクレットの起源は奴隷の足輪で、恋人、または夫の所有物であることを暗喩していたとか。彫像のティレは、私の所有物だ。誰にも渡すものか……」
 頬に触れ、シリューナはしばらく最高のオブジェと化したティレイラを堪能する。
「今度はもっと、美しいラミアの姿にしたいものだな。どこを、どのようにすれば良いだろうか……」
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
氷邑 凍矢 クリエイターズルームへ
東京怪談
2010年12月08日

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