▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『『Merry Happy Party』 』
最上 憐 (gb0002)

 冷たい風が緩やかに吹き抜け、憐の白く綺麗な髪を微かに揺らした。
「‥‥ん。完成」
 淡々とした口調の中にも満足気な響きを含ませて、出来立てのかまくらを眺める。
 狭すぎず広すぎない内部、流線型の綺麗な丸みの外観。
 なかなかに立派な出来栄えだった。
 今でこそ空は青く鮮やかに晴れ渡っているが、昨夜から今朝まで降り続いた雪はラストホープの街並みを白く染め上げ、一夜にして数十センチの雪を積もらせていた。
 いくら四季のあるラストホープとは言えども、これだけの大雪は滅多にない。
 思わずかまくらのひとつも作ってしまうというものだろう。
 中に入って、雪の台座に腰を下ろしてみる。
 居心地の良さも上々だった。
 そこでしばらく感慨に浸っていると、不意に腹の虫が抗議の声を上げた。
「‥‥ん。お腹。空いた」
 時刻は昼下がり。
 朝も昼もしっかりと食べていたが、一日七食が常である彼女にしてみれば丁度頃合いだった。
 さてそれじゃあ何を食べようか思案し始めたところで、ふと閃く。
 かまくらの中で鍋を食べたら乙な味になるかもしれない、と。
 味付けは勿論、彼女の大好きなカレー風味。
「‥‥ん。名案かも。早速。食材調達に。出よう」
 そうと決まれば即行動。
 鍋に投入する具材を思案しながら、憐は街へと繰り出した。

 行きつけのショッピングモールへ向かって、てほてほと歩く憐。
 その目にふと、見知った姿が映った。
「‥‥ん。音子。発見」
 声を掛ける為に音子の方へと進路を変えると、丁度相手も憐に気づいたようだ。
「あ、憐ちゃん。久しぶりー!」
 ぱっと笑顔を咲かせて、嬉しそうに手を振る。
 そしてパタパタと小走りで近づいて、いきなりハグをした。
「ん〜、相変わらず可愛いねっ」
 手つきと声に不純な気配を感じないでもなかったが、いつものことなので気にはせず、憐は音子に問い掛ける。
「‥‥ん。音子。暇? 鍋作らない?」
「え? 鍋? うーん‥‥お誘いはすっごく嬉しいんだけど‥‥」
 『すっごく』を強調しながらも、困ったように眉根を寄せる音子。
「‥‥ん。とりあえず。拉致」
 悩む音子の手を握ると、憐は強引に歩き出した。
「え? ちょっ、憐ちゃん!?」
 音子の戸惑いを余所に、どんどん歩みを進める。
 体は小さくともそこは能力者。問題にはならない。
 勿論音子も本気で抵抗すれば立ち止まるなり振りほどくなり出来たわけだが、そんなことをするはずもなく。
 苦笑しつつも何処か嬉しそうに、憐の横に並んだ。

 巨大なショッピングモールの中にあるスーパーは広大で、品揃えも実に豊富だった。
 豊富すぎて、ちょっと怪しい物まであるくらいだ。
 例えば──
「‥‥ん。マグロっぽい。魚。まるごと一匹。発見。何か。足が付いてるけど。気にしない」
 そう言って憐が選んだ魚を見て、音子は仰天した。
 魚の部分は確かに普通のマグロっぽいが、人間の足にしか見えないモノが生えている。
 何かの冗談かと目を疑うほどだ。
「いやいや、おかしくない!? 足がある魚とか聞いたことないよ!?」
「‥‥ん。そう? でも。美味しそう。だよ?」
 可愛らしく小首を傾げる憐。
 その仕草に心動かされながらも、音子は必死に首を振る。
「で、でもやめたほうがいいと思うなっ」
「‥‥ん。じゃあ。やめる」
 心なしか残念そうに、憐はその不気味な魚(?)を置く。
 戻された魚の方も、何処か残念そうな目をしているように見えたのは、きっと音子の気のせいだろう。
「鍋は何を入れても美味しいとは言うけど、やっぱりオーソドックスなのがいいよ、うん」
 自分に言い聞かせるように何度か頷き、無難に鮭や鱈などをカゴに入れていく音子。
 憐も今度は素直に、見知った魚介類を詰め込んでいく。
 どさどさと。どかどかと。
 現時点で既に、女性二人が食べる量ではない。
 傍から見たら、業務用の買い出しとしか思われないだろう。
「お肉も必須だよねー」
 ふたりでそれぞれのカートを押しながら、鮮魚コーナーから精肉コーナーへ。
 音子が豚肉や鶏団子などを手に取る一方で、憐は、
「‥‥ん。肉も。安くて。量の多いの。あるよ。凄く活きが。良いね。何か。ぞわぞわと。動いてるし」
 言いながら既に、カゴへと詰め込んでいた。
「ちょっ! 憐ちゃん待って!?」
「‥‥ん。なに?」
「なんていうか、そのお肉は危険だと思うなっ」
 パック詰めされた肉が蠢く様子は、異様としか言いようがない。
 何処からか深海の囁きでも聞こえてきそうな気配が漂っている。
「‥‥ん。どうして?」
 神秘的な黒い瞳で、不思議そうに音子を見つめる。
 思わず吸い込まれそうになりながら、音子は動揺を振り払う。
「や、ほら、えーっと、食べ慣れない食材って、お腹壊しちゃうかもしれないしっ」
 なんとも取って付けたような言い訳だ。
「‥‥ん。音子は。胃が。弱いんだね」
 言いつつも、憐はうぞうぞと蠢くお肉を戻した。
 ふぅ、と額の冷や汗を拭い、ごめんね、と音子は謝る。
 魚介類、肉とくれば、次は野菜だ。
 生鮮コーナーを訪れる頃には、二人の押すカートは四つのカゴが既に満杯気味だった。
 勿論、主に憐の食べる食材で。
「カレー風味なんだよね? どんな野菜がいいかなぁ‥‥白菜、もやし、エノキとかかなぁ‥‥」
 呟きながら野菜を手に取り、値段と量を比べながら吟味していく。
 と、憐の姿が隣にないことに気づき、辺りを見回した。
「‥‥あれ? 憐ちゃん?」
 憐自体は小柄だが、食材が山盛りのカートを探せばすぐに見つかる。
 程なくして探し当て、がらがらとカートを押して近づく。
 音に気づいて振り返った憐は、
「‥‥ん。野菜。大量。入手。珍しいのも。見つけた」
 そう言って、カゴからひとつの根菜を取り出した。
「‥‥ん。ニンジンらしき物。まんどらごら。だって」
「いや、おかしいから! ここの品揃えおかしいから!」
 ぺしん、と手の甲で『まんどらごら』な根菜にツッコミを入れる音子。
 常識的に考えれば何かの冗談とも思えるのだが、本物にしか見えないが故に、不安を抱かずにはいられない。
「憐ちゃん、普通のお鍋にしよう、ね!」
 すがりつくように肩を掴まれ、切実な声で嘆願される憐。
 よく見れば音子は軽く涙目だ。
「‥‥ん。音子が。そこまで。言うなら。仕方ない」
 こくりと頷き、怪しげな食材を棚に戻す。
 元から量重視で、食材自体に拘っていたわけでもないのだ。
 音子はほっと胸を撫で下ろし、
「じゃあそろそろ精算しよっか」
 これ以上、奇天烈な食材を調達されないようにと、提案した。
「‥‥ん。そうだね。これだけ。あれば。充分かな」
 二つのカート、四つのカゴから溢れんばかり、いや、溢れてこぼれ落ちそうなほどの肉に野菜に魚介類。
 これが七食中の一食なのだから恐れ入る。
「うーん‥‥さすが憐ちゃん」
 わかっていても、音子は思わず呟くのだった。

 かまくらの中は、ぐつぐつと煮立つ鍋から漂う芳醇なカレー風味の香りと、投入を待つ食材たちとで一杯だった。
 食べ頃に火の通った肉、野菜、魚などを次々と小皿に取り、二人ともはふはふと口から湯気を出しながら頬張る。
「‥‥ん。美味しい。かまくらで。食べる鍋は。やっぱり。乙な物」
 予想が的中したこともあり、憐は幸せそうだ。
「うん、美味しいねー!」
 音子も満面の笑顔で応える。
 憐は食べる量も速度も音子の数倍だが、動作ひとつひとつは実に行儀よい。
 練達の技を感じさせる鍋捌きと食べっぷりだった。
「いつ見ても、憐ちゃんの食べっぷりは気持ちイイね」
 一旦箸を休め、音子は微笑みながら憐が食べる様子を眺める。
 可愛い子が美味しそうに食事する様は、音子に取って実に眼福だ。
「‥‥ん。音子も。沢山。食べてね。人は。いつ。死ぬか。分からないから。食べられる時に。食べるのが。重要」
「そうだねっ。特に私達みたいな仕事してると、尚更だよね」
 憐の言葉に感じ入ったように深く頷き、音子は食事を再開させる。
 かまくらの効果と鍋、そして憐の気遣いとで、心も体もあったかだ。
 だった、が、
「‥‥ん。音子は。働いてたっけ?」
「うぐっ」
 無邪気で素朴な口調だっただけに、音子のダメージも深かった。
「あ、あはは、やだなぁ憐ちゃん。は、働いてるよっ? ‥‥まあ、比較的安全そうなやつばっかりだけど‥‥」
 ぎくしゃくと答えながら、もそもそと白菜を口に入れる。
「‥‥ん。そっか。それなら。尚更。いっぱい食べてね」
 首を傾げながらもそれ以上の追求はせず、憐は良い具合に味の染みた肉を、音子の小皿に取って上げた。
「ありがとー。でも憐ちゃんこそ、どんどん食べてね! 私の分も食べていいし!」
「‥‥ん。じゃあ。遠慮無く」
 海老、ネギ、ウィンナー、豆腐などを次々によそい、あっという間に吸い込まれていく。
 ちょっとした手品のようにも見えた。
 買い込んだ食材の全種類をひと通り食べた辺りで、憐は不意に箸を止めて鍋を見つめた。
「ん? どうかした?」
 満腹になるには早過ぎるし、もしかして苦手なものでも入っていたのかなと思った音子だが、
「‥‥ん。足の。ついてたマグロ。美味しかった。のかなって」
「いや、うーん、どうだろう‥‥」
 見た目はいわば、人魚を逆にしたようなものだ。
 魚の部分ならば食べても問題ないような気はするが。
「気にはなる、よね‥‥あの動くお肉とか、まんどらごらとかも‥‥」
「‥‥ん。また今度。挑戦。してみる?」
「えっ!? 遠慮したい、かなぁ‥‥あはは‥‥」
 目を泳がせつつ誤魔化す音子だったが、
「‥‥ん。無理にとは。言わない」
 そう答える憐が心なしか寂しそうに見えて──音子の妄想である──つい言ってしまった。
「や、憐ちゃんと一緒に食べる鍋、すっごく美味しいし、今度は試してみよっか!」
「‥‥ん。無理。しなくて。いいよ?」
「無理してないよ! 大丈夫!」
「‥‥ん。それじゃあ。楽しみに。してる」
「うんっ。あと折角だから、色んな人と一緒に食べるのもいいかもね!」
「‥‥ん。そう。だね」
 想像してみたのか、憐は小さく嬉しそうに微笑んだ。
 その笑顔があまりにもキュートで、音子はずざざっと憐の隣に移動した。
「よし、おねーさんが食べさせてあげるっ」
「‥‥ん。別に。いい」
「まあまあそんなこと言わずにっ。はい、あーん」
 断りはしたものの、食べ物を差し出されては拒む理由もない。
 湯気を立ち昇らせる人参を頬張り、一瞬で咀嚼、嚥下する。
「‥‥ん。お返し。あーん」
 そして今度は、憐がお肉を差し出した。
 寒さ以外の理由で音子は頬を紅潮させつつ、だらしない笑顔でかぶりつく。
「んー、美味しい! 楽しいね!」
「‥‥ん。音子。今日は。ありがとう」
「そんなー、お礼を言うのは私だよー! 誘ってくれてほんとにほんとにありがとね!」
「‥‥ん。どう。いたしまして。まだ。いっぱい。あるから。どんどん。食べよう」
「おっけー!」
 足元には食材がたんまり準備されている。
 カレー出汁も多種多様な食材から滲み出た旨みが混ざり合い、時が経つごとに味わい深くなっている。
 陽は大分傾いてきていたが、かまくらの中の鍋パーティは、もう少し続きそうだ──






━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
gb0002/最上 憐 /10/女/ペネトレーター
gz0303/野宮 音子/23/女/グラップラー


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
憐ちゃんこんにちは。間宮です。
この度は、発注をして下さって本当にありがとうございました。
記念すべき最初のお客様です。
窓を開けてすぐに発注を頂けたことも凄く嬉しかったですし、
それが憐ちゃんで、しかも音子さんをご指名して下さって、
本当に本当に感激でした。
にも関わらず、納品期限を長く設定させてもらっていたのに、
遅くなってしまってすみませんでした。
そのかわりなどとは言えませんが、楽しんでもらえるように全力を尽くしたつもりです。
気に入って頂ければ幸いですが、ご不満があれば遠慮無くリテイクして下さいね。
それでは、これからも仲良くして頂けることを願いつつ、この辺で失礼致します。
最後に改めて、発注ありがとうございました!
SnowF!Xmasドリームノベル -
間宮邦彦 クリエイターズルームへ
CATCH THE SKY 地球SOS
2010年12月22日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.