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『六花、惑う。 〜異教の宴 』
リーディア(ia9818)

 静かに雪の降り続ける町を歩く。『彼女』は寒さを感じないけれども、少し前に通りすがった人の様子からしてきっと『身を切る程に寒い』のだろう。
 とんとんと足を鳴らしたのは、寒い時はこうするのが人間の作法だ、と覚えたからに過ぎなくて。けれども繰り返すうちに楽しくなってきて『彼女』は何度もそれを繰り返した。
 とんとん、とんとん。
 ふと、手の中を見下ろす。そこ居る相棒は、子供のようにはしゃぐ『彼女』と一緒に、白の世界を楽しんでいるようだ。長い長い時を過ごしてきた『彼女』と相棒にとって、それは初めて見る珍しい光景ではなかったけれども、毎年訪れる素敵な季節の1つだった。

「‥‥あら?」

 ふいに『彼女』は足を止め、きょろ、と辺りを見回した。雪と戯れ歩いてきたのは良いけれど、果たしてここはどこだろう。何だか見覚えがある気もするし、まったく初めての光景のようにも思える。
 耳を澄ませば微かな音楽。やっぱりそれも聞き覚えがあるようで、聞き覚えがないようで。

「月霊祭‥‥いえ、聖夜祭の音楽、でしょうか?」

 こくり、首を傾げて意見を求めるように手の中の相棒を見下ろしたが、どっちでも良いだろうとばかりに返事はなかった。なかったのが返事だろう、と『彼女』は思う。
 だって、『彼女』は人の賑やかな営みが大好きだ。ならばここで『彼女』が取るべき行動など、たった1つしか存在しない。
 だから賑やかな気配の元を求め、『彼女』は一歩、静かな真白の町に足を踏み出した。





 クリスマスとはジルベリアから伝わったお祭だ。由来は殆ど知られていないが、とにかく親から子供であったり、親しいもの同士でプレゼントを贈りあうものだという事で、主に商人達の商業戦略により天儀にも着々と広まっている。
 のだがしかし、それがジルベリアでは弾圧の対象となっている神教会に端を発する祭なのだと言う事を、リーディア(ia9818)は知っていた。彼女自身は天儀日照宗の信者だけれども、友人で開拓者仲間のエルディン・バウアー(ib0066)は神教会の流れを汲む天儀神教会の出身だからだ。
 今日、リーディアがエルディンが神父を務める教会を訪れたのも、その縁。せっかくジルベリアのようにおおっぴらに迫害される事のない天儀に居るのだから、天儀神教会に伝わる由緒正しいクリスマスパーティーをするのだと、彼に招待されたから。
 神教会の作法などリーディアは何も知らないが、クリスマスパーティーならプレゼントは必要だろう。色々考えて用意したプレゼントを綺麗に包み、教会を訪れるとエルディンが、これはこれはと出迎えてくれた。

「リーディア殿、雪の中ようこそ。ちょうど今、クリスマスの飾り付けをしているところです」
「クリスマスの飾りつけ、ですか?」

 きょとん、と教会の中を覗き込むと、それほど広くはない教会の片隅にはツリーが置かれ、秋霜夜(ia0979)がふわふわのリースをぐるりと巻きつけているところだった。他にもキラキラの星だったり、色々な飾りで教会の中は賑やかに彩られている。
 他にもちらほら居る人達は、きっと信者やご近所の人達だろう。そういえば友人達のみならず、信者や近所の人達も招くのだと、輝く神父スマイルで言っていた。

「私も飾り付けのお手伝いをして良いですか?」
「ええ、もちろん」

 念の為にエルディンに確認を取ってから、リーディアは楽しそうな人々の中に混ざってあちらこちらと飛び回り始めた。
 霜夜の飾っているふわふわに触発されたのか、それとも彼女が元々もふ好きだからか、取り出したるは数々のもふらさま人形。1つ1つに異なる装飾を施しながら、鼻歌交じりで置いていく。

「霜夜さん、アグネスさん、ここのもふらさま人形はどうしましょう」
「そうですね‥‥」
「こうしてみたら?」

 どんな飾りが良いだろうかと、霜夜と、同じく教会の飾り付けを手伝っているアグネス・ユーリ(ib0058)に相談しながら丁寧に飾っていたリーディアはふと、重要な事を聞いていなかった事に気付いて、ベンチをずるずる動かしているエルディンを振り返った。

「エルディンさーん。神教会ではどんな飾り付けを使うんですか?」
「何よ、知らないのにそんなにもふらさま人形を飾りまわってたの?」
「えへへ‥‥」

 アグネスが、それを聞いて呆れたような眼差しをリーディアに向けた。とは言え知らなかったものは知らなかったのだしと、リーディアは恥ずかしそうに手の中のもふらさま人形に顔を埋める。
 何と言うか、ふわふわのリースともふらさまのもふもふ具合が、ちょうど良いような気がしたのだけれど。神教会の正式な飾り付けがあるのなら、紙で作れないか挑戦してみたいな、とも思ったわけで。
 そんなリーディアににっこり聖職者スマイルを浮かべ、エルディンはちょうど足元に居たパウロのもふもふの毛を引っ張りながら言った。

「天儀日照宗の飾り付けでもしない限りは大丈夫ですよ。ええ、神はわりと寛大です」
「そーゆーもんですか?」

 正しいような間違っているような答えに、リーディアが思わず首を傾げる。確かに異教の飾り付けをするのは大変不味いだろうと思うのだけれど、それを言ったらもふらさまはどうなるんだろう。
 だがエルディンは力強く「そーゆーもんです」と頷く。まぁ、もふらさまであるパウロが普通に住んでいる時点で、あまり気にすることでもないのかもしれない――もふらさまは神様だけれど、日頃からそういう目で見てる人って多分、そんなに居ないし。
 そう思っていたら、パウロ自身が同じ事を言った。

「もふらの僕が居るんだから大丈夫でふ〜。それより神父様〜、僕も手伝うでふよ〜」
「じゃあこちらを手伝って下さいな。エルディンせんせ、お星様はてっぺんで良かったんです?」
「ええ、霜夜殿」

 うなずいたエルディンが心配そうに見たのに、リーディアもちょっとハラハラと視線を向けた。というのも霜夜が言っている『てっぺん』は中々の高さで、パウロの上に乗ってようやく届くか届かないか。そしてパウロは多分、残念ながら安定感のある土台にはなりそうにない。
 のだが2人の心配そうな眼差しをよそに、「もっちろん!」と霜夜は大きく胸を叩き、ツリーのてっぺんに星を飾るべく奮闘し始めた。落ちたとしてもパウロが上手く受け止めてくれるかしらと、まだほんの少し心配だったけれどリーディアも、手の中のもふらさま人形をちょこんと祭壇の上に置く。
 それからテーブルに向かうと、リーディアは紙を引っ張り出して「うーん」と唸り始めた。やっぱり飾りはたくさんあった方が賑やかで楽しいし、といって用意してある飾りには限りがある。だからリースや星を紙で作れないか、と考えたのだ。
 ただ切り抜いただけではやっぱり、ふわふわだったり、きらきらだったりにはならないし。ならばどうしたら良いだろうと、紙を丸めたり、伸ばしたりしていると、入り口の方がにわかに賑やかになった。
 ちら、と視線を向けるとそこには見知ったどころではない顔。仲良しの劫光(ia9510)が雪まみれで入ってきて、猫か犬のようにブルルと首を振って雪片を払い落としている。
 出迎えたエルディンと二言、三言かわした劫光は、ぐるりと教会の中を見回した。にこ、とリーディア笑って手を振ると、僅かに眉を上げて答えが返る。
 どうやら劫光は力仕事を買って出たらしく、ツリーに取り付いて危なっかしそうな霜夜のほうへ歩いていった。彼がついているなら今度こそ安心だと、リーディアはほっと息を吐いてまた紙のリース作りに集中する。
 そんなこんな、大騒ぎをしつつ何とか教会の中が形になる頃には、もうすっかり夜だった。あちらこちらに置いたキャンドルに火を灯して回ると、それはいつも訪れる教会と変わらない夜の光景のはずなのに、何故だかとても特別な気持ちになる。
 それはきっと、リーディアがこれから始まる宴に、わくわくとしているからだけでは、ない。

「栄光は神に、神は私達に平和をくださいます‥‥こう話していると、御子自身が彼らの真ん中に立ち『あなた方に平和があるように』と言われました」

 教会の小さな小さな聖堂の中で、一番前に置かれたベンチにちょこんと腰をかけ、リーディアはエルディンがにこやかに紡ぐ聖夜のための説法に耳を傾ける。神教会のことは詳しくないけれども、きっとこのお話も何か、信仰にまつわる事柄なのに違いない。

(神教会の説法とはこういうものなのですか‥‥)

 初めて触れる異教の話は、ただそれだけで物珍しく、興味深いものだと考えながら、リーディアはごくごく真面目な顔でエルディンの言葉に耳を傾けていたのだけれど、生憎と聖堂の中に集まっているのはリーディアと同じく、興味を覚える人ばかりではないようだ。
 ちら、と横を見ればまさに、何やらお祭をするらしいと聞いてやってきたご近所のおばさんが、大あくびをする所だった。ちら、と視線だけを斜め後ろに向けると霜夜が、こちらは眠そうな顔はしていないけれども、雪の降り続ける窓の外だったり、教会のあちこちに置かれた飾りだったりに気を取られているのが良く判る。
 こうなると、残る2人の友人はどうなんだろう、と気になってくるものだ。けれどもアグネスと劫光が座ったのは確か、最前列のリーディアとは対照的に、最後列の近くだった筈。となると彼らの様子を見るには、振り返らないわけには行かないし――

「そこ、起きないと今夜から貴方の枕元で説法添い寝しますよ?」

 もだもだと考えていたら、エルディンの言葉が耳に入って、反射的にビクリと顔を上げて前を向いた。けれどもそこにエルディンは居ない。
 あら? と驚いてきょろきょろ辺りを見回すと、エルディンはリーディアのはるか後方、今まさにどうして居るだろうかと考えていた友人達の1人、アグネスのそばに居た。だがアグネスは何が起こって居るのか判らない様子で、先ほどのリーディアのようにきょろきょろと辺りを見回している。
 その後ろに居る劫光もほんの少し眠そうな顔で。もしかして彼も寝ていたのかしらと、考えていたらアグネスが「ふぅん?」と面白そうに呟いた。そうしてエルディンの聖職者スマイルにも負けない、良い笑顔を浮かべる。

「添い寝? ‥‥いいけど高いよ? 神父様」

 ひゅぅぅぅ‥‥
 気のせいでなく、窓の外にも負けない寒風が吹き抜けていった、気がした。いや、リーディアや劫光、霜夜はこれが単なる友人同士のやり取りだとわかっているのだけれど、多分知らない人間が聞いたらちょっと、居心地が悪いんじゃないだろうか。
 隣からこそ、とささやき合う声が聞こえてくるにいたって、リーディアは「あの」とそっと手を上げた。

「どうしました、リーディア殿?」
「ええと、その、説法の続きを聞かせてほしいなぁ、なんて」

 口に出してみると、仲裁の理由にしてはいかにも間抜けな気がしたが、これもまたリーディアの本音なのだから仕方がない。説法というのは何となく、中途半端に聴いてしまうとなおさらわけがわからないものだし。あの続きはどんなだったのだろうと、気にし続けるのも困ったものだし。
 幸いエルディンは、ほんの少しだけ不思議そうに目を見開いたものの、すぐに二つ返事で頷いて聖堂の前へと戻っていった。そうして再開した説法は、先ほどよりはほんの少しだけ砕けたジョークが入り混じっている。
 ほっとしつつ、再び熱心に耳を傾け始めたリーディアに、移動してき横に座った劫光がそっと声をかけた。

「そんなに面白いか? 天儀日照宗もこんな感じなのかね」
「ええ‥‥うーん‥‥天儀日照宗の説法はどんな感じだったかしら」
「‥‥‥おい」

 尋ねられて頷きかけたものの、ふと自分の中の記憶を辿ってみて小首を傾げたリーディアに、劫光がちょっとだけ唇の端を引きつらせる。とは言え覚えていないものは覚えていないのだから仕方がない。
 今度は天儀日照宗の説法を、ちゃんと聞きにいって覚えておかなくちゃ。エルディンの説法を聞きながらリーディアはそう考える――もちろん彼女が説法を覚えていないのは、信仰心の薄さに居眠りをしていたから、ではないはずだが。





 翌朝。何だか聖堂の方が賑やかだな、と泊めてもらった部屋から寝ぼけ眼で向かうと、そこには見知らぬお客様が居た。

「‥‥えーと?」
「あら、おはようございます♪ 良い朝ですね」
「あ、はい、おはようございます」

 エルディンと霜夜に挟まれていたその少女は、リーディアと目が合うと碧色の瞳を細めてにっこり笑う。それにわたわたと頭を下げてから、さてこの人は誰だろう、と首を傾げてみたのだが、どうにも思い当たる節が無い。
 うーむ、と反対側に首を傾げたら、ふぅ、と誰かのため息が聞こえた。あら、と見上げれば劫光が、何だか遠い瞳をして「また夢か、また夢なのか」とぶつぶつ呟いている。
 夢ですか、と胸の中で呟きながら、リーディアは改めて少女の様子を観察した。教会の中に居ても深々と冷え込むような寒さだというのに、彼女ときたら真夏のようなノースリーブで平気な顔をしている。重ね着をしている様子でもなし、見ている方が寒そうだ。
 同じ事を思っていたのだろう、霜夜が和やかに会話しているエルディンと少女に割って入った。

「あの‥‥せんせ? それよりもマリンさんに、何か上着を貸してあげたほうが良いんじゃ」
「ああ、そうですね」

 今初めて気がついた、という様子で、エルディンが自らの羽織った上着を脱いだ。どうやらあの見知らぬ少女は、マリンと言うらしい。
 実にジルベリア紳士らしい態度で上着をかけようとしたエルディンに、ふふ、とマリンは微笑んだ。微笑み、大丈夫です、と首を振った。

「私は平気ですから。それより、今日はカグラも聖夜祭なんですか?」
「え? ええ‥‥友人達を招いて、ささやかに、ですが」
「あの! 良ければマリンさんも一緒に、パーティーに参加しませんか? 今日はこれからプレゼント交換して、その後エルディンせんせのお料理でお祝いするんです!」

 ずい、とエルディンの前に出て、霜夜がぐっと両手を握ってそう言った。そうして「ね」と振り返った霜夜の、わくわくした目の輝きを見て、もちろん、とリーディアも大きく頷く。
 パーティーというのは人が多ければ多いほど楽しいものだ。それに昨日の夜、説法が終わってから彼女はエルディンと2人、誰か素敵なお客様が来てくれますように、とお祈りしていた。見れば悪い人ではなさそうだし、素敵なお友達が増えるのは大歓迎だ。
 もって来たプレゼントは、すでにツリーの下に置いてある。だがマリンの分のプレゼントは、いきなり誘ったのでは用意してないんじゃないかしら、と心配になって視線を向けると、彼女は「んー」と少し考えた後、懐から何か怪しげなお茶を取り出した。

「精霊さんが大騒ぎしてるみたいな、とっても面白い味のお茶なんですよ♪」
「そ、そうなんですか‥‥案外コアなファンがいそうなのです‥‥」

 初めて見る不気味、もとい不思議なお茶に、精霊が大騒ぎして居るみたいな味ってどんなだろう、と首をかしげながらリーディアは辛うじてそうコメントした。彼女にとっては精霊とは、術を使う際に力を貸してくれる存在、という印象が大きいので、それが大騒ぎしてるようなと言われても、ちょっと困るし。それに何だか見覚えがある気がしなくもないし。
 そんな訳はないのだが、なぜか他の友人達も不思議そうに「なんだか不吉な予感がしますね」「飲みたくないような、飲まなきゃいけないような‥‥」「身の危険があるような、ないような‥‥」「ものすっごい色のお茶ね」と頷き合っている。そうですか? と不思議そうに首を傾げながら、マリンはあくまでそのお茶をプレゼントにと提供した。
 そうして、改めてマリンを加え、プレゼント交換が始まった。みんなで飾ったツリーの下にぐるりと並べたプレゼントを囲み、音楽に合わせてグルグル回る。音楽が途切れた所で足を止め、自分の前にあるプレゼントを手に取った。
 さて、自分の分は果たして誰が手にしただろう? ちらちらと周りを伺いながら、手に取った包みを開けたリーディアは、そのままピキーンと固まった。中から出てきたもののあまりの意外さに、十分なリアクションを取れなかった、というのが一番正しい。
 心なしか冷や汗をだらだら垂らしながら、リーディアは固まった笑顔の下で必死に考える。周りでプレゼントを巡る悲喜交々が展開されているが、彼女の耳にはまったく入ってこない。

(ええと‥‥その‥‥これは一体‥‥?)
「リーディア殿、どうされ‥‥ああ、これは私が用意したプレゼントですね」
「はっ、エルディンさんの‥‥!?」
「こちらはパウロのもふ毛で作った褌です。お揃いのぶらじゃもあります」
「えと‥‥」
「私の手製のパウロ刺繍入り、私の自信作。貴方の大切な場所をパウロが守ります――嬉しそうですね、リーディア殿」
「‥‥ッ、この変態神父!」

 もふらさまの毛で作ったもの、というのはもふら愛好家のリーディアとしては歓迎すべきことだが、だがしかし。もふら褌にぶらじゃって。しかも殿方からの贈り物って。おまけにこんな衆人環視で。
 パクパクと口を動かして何と言ったら良いか判らずに居るリーディアの代わりに、プレゼントを覗き込んだアグネスが叫ぶや否やスパーン! と回し蹴りを放った。ははは、と爽やかな笑顔で受け止めて、実にすがすがしく、嬉しそうな慈愛に満ちた笑顔でばたりと倒れるエルディン。
 はッ、とようやくリーディアは我に返って、倒れたエルディンと倒したアグネスを見比べた。

「あのあのッ! エルディンさん、大丈夫なんでしょうか!」
「せんせの事だからきっとすぐ復活すると思いますー。今日のお料理は聞いてるから、先に始めますか?」
「そーね。変態はほっといて、楽しく乾杯しましょ」
「あら、バウアーさんは変態さんなんですか?」
「‥‥‥」

 人々のやり取りを聞き、きょとん、と首をかしげたマリンの視線を受けて、何か言いかけた劫光がそのまま口を閉ざす。多分否定出来なかったんだろうな、と残る3人は同情の眼差しを注いだ――いやその、正確な表現ではないにせよ、手作りのぶらじゃを贈る殿方が果たして変態ではないかと言われると、かなり厳しい。
 ゆえにリーディアもまた沈黙を守ったまま、曖昧に微笑んでプレゼントを元通りに包みの中に仕舞いなおした。ずるずると劫光が気絶したエルディンを引きずってベンチの上に寝かせる。さくさく後片付けをしようとした霜夜が、ちら、とツリーを見上げて「ヤドリギの下に居る人に幸運のお裾分けですー♪」とマリンの頬にキスをした。
 そんな光景をにこにこ笑って見ながら、果たしてこれを使うことはあるのだろうか、と脳裏に思い浮かべたのは先ごろ祝言を挙げた相手の顔。あの夫はこの曰く付きのプレゼントを持ち帰ってきた妻に、どんな反応を見せるだろう。そう思うとほんのちょっとだけ、早く帰りたくなった。





 クリスマスパーティーの乾杯は、教会の地下にあるワイン倉庫から持ってきたワイン樽を開けて始まった。

「かんぱーい!」
「メリークリスマス!」

 口々にそう言いながら、手にした酒盃を軽く掲げる。目の前には暖かく火を入れていかにも美味しそうな匂いを漂わせている、よーく煮込んだエルディンお手製のシチュー。生憎、製作者はまだ固いベンチの上で夢を見ている最中のようだが、そんな事は美味しいお料理には関係ない。
 リーディアもエルディンに毛布をかけた後は、ほっこり頬を綻ばせて、暖かなシチューをはふはふしながら頬張った。そうしてちょこん、とワインの酒盃に口を付けて、パンを食べて、それからまたシチューを匙ですくって口に運んで。

「えへへ、ボルシチも大好きなのですけれど、シチューも好きなのです♪」
「どっちも煮込み料理じゃない。‥‥でもこれ確かに美味しいわね。ホントにエルディンが作ったの?」

 ほくほく匙を動かすリーディアの言葉に、呆れたように言ったアグネスだったけれども、リーディアに負けないくらい匙の動きは速い。ちなみにひょっこり増えてご相伴に預かってる旅の魔法使いも同じくらいに速い。
 居候の習性ゆえか、結果として給仕に納まっている霜夜が、お皿が空になったと見るやシチューをどんどんよそってくれた。だから心置きなく食べて、飲んで、楽しんで居たら、もぞ、と動く気配がする。
 ひょい、と匙を口に運びながら視線を向けると、ちょうどエルディンがガバッと起き上がったところだ。ばっちり目が合ったリーディアは、ほんの少し口の中の匙をどうするか悩んで、ひょいと取り出しにこっと笑う。
 ぱちぱちぱち、と拍手したのは何と言っても、口の中に残った後味からして、エルディンが作ったシチューは素晴らしく美味しかったからだ。

「えへへ、美味しいですよ、エルディンさん♪ 料理も得意なのですねぇ、すごいのですッ」
「エルディンせんせ、聞いてたお料理は全部出しちゃいましたけど、合ってました?」

 横から淀みなくシチューのお代わりを劫光とマリンに渡しながら、霜夜がこくりと首をかしげる。エルディンはそれに少し沈黙を返した後、ワインはどこのを取ったかと尋ねた。
 どうやらこの日のために、エルディンは取って置きのワインを用意して待っていてくれたようだ。エルディンと、ハイペースで飲んでいる劫光とアグネスのためにもう一樽取りに行く、と自ら申し出た劫光の背中が地下へと消えていくのを見送り、それはぜひ酔っ払う前に頂かなければと、リーディアは自分の前の酒盃を飲み干す。
 ふと見ると、パウロがようやく念願のケーキにありつき、嬉しそうにパクパクと食べていた。にこ、と微笑んでそんなパウロのもふもふの毛を撫でていると、アグネスがパチンとウィンクした。どうやら彼女もほろ酔い気分でご機嫌になってきたようだ。

「どんなワインが出てくるのかしらね?」
「きっと、すっごく美味しいワインなのです♪」

 くすくす笑いながらそう話している向こうで、霜夜とマリンもお料理に舌鼓を打ちながら、楽しそうにお喋りしている。そうしているうちにエルディンと劫光がワイン樽を抱えて戻ってきて、リーディアとアグネスは遠慮なく歓声を上げて2人を迎えた。
 霜夜が笑いながら立ち上がり、全員の酒盃に新しいワインを注いで回った。それを飲み干したアグネスがひょいと嬉しそうに立ち上がり、小声で歌など歌いながら足を踏み鳴らして踊り始める。
 シャン、と動くたびに鳴る鈴の音は、アグネスがつけているアンクレット・ベルのものだろう。にこっと笑った人妖の双樹が一緒になって踊り始めると、やれやれといった風で劫光も笛を取り出し、踊りに合わせて曲を奏で始めた。
 リーディアはにこにこ笑いながらその光景を、嬉しそうに見守る。美味しいワインと美味しいお料理、それに大切で大好きな仲間。彼らと今この時は、ただ穏やかに過ごして良い幸せ。
 やがてアグネスが奏で出した、神教会風のリュートを聞きながら、しみじみとその幸せを噛み締める。そうして心密かに祈るのだ――どうか次のクリスマスも、こうして皆で過ごす事が出来ますように、と。





━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 /      PC名     / 性別 / 年齢 /  クラス 】
 ia0979  /      秋霜夜     / 女  / 14  / 泰拳士
 ia9510  /      劫光      / 男  / 21  / 陰陽師
 ia9818  /     リーディア    / 女  / 19  / 巫女
 ib0058  /   アグネス・ユーリ   / 女  / 20  / 吟遊詩人
 ib0066  /  エルディン・バウアー  / 男  / 28  / 魔術師

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもお世話になっております、蓮華・水無月でございます。
この度はご発注頂きましてありがとうございました。

ご友人同士のクリスマスパーティー、心を込めて書かせて頂きました。
何やら増えておりますが気にせず流して頂けるととても助かります(目逸らし
天儀日照宗の説法‥‥うーん、どんなのでしょうね‥‥‥?(ぉぃ
プレゼントの件は旦那様に許可は頂いておりませんので、ご夫婦でお話し合い頂けると幸いです(←

お嬢様のイメージ通りの、楽しく賑やかなクリスマスになっていれば良いのですけれども。

それでは、これにて失礼致します(深々と
SnowF!Xmasドリームノベル -
蓮華・水無月 クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2010年12月24日

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