▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『六花、惑う。 〜鳳凰の娘 』
秋霜夜(ia0979)

 静かに雪の降り続ける町を歩く。『彼女』は寒さを感じないけれども、少し前に通りすがった人の様子からしてきっと『身を切る程に寒い』のだろう。
 とんとんと足を鳴らしたのは、寒い時はこうするのが人間の作法だ、と覚えたからに過ぎなくて。けれども繰り返すうちに楽しくなってきて『彼女』は何度もそれを繰り返した。
 とんとん、とんとん。
 ふと、手の中を見下ろす。そこ居る相棒は、子供のようにはしゃぐ『彼女』と一緒に、白の世界を楽しんでいるようだ。長い長い時を過ごしてきた『彼女』と相棒にとって、それは初めて見る珍しい光景ではなかったけれども、毎年訪れる素敵な季節の1つだった。

「‥‥あら?」

 ふいに『彼女』は足を止め、きょろ、と辺りを見回した。雪と戯れ歩いてきたのは良いけれど、果たしてここはどこだろう。何だか見覚えがある気もするし、まったく初めての光景のようにも思える。
 耳を澄ませば微かな音楽。やっぱりそれも聞き覚えがあるようで、聞き覚えがないようで。

「月霊祭‥‥いえ、聖夜祭の音楽、でしょうか?」

 こくり、首を傾げて意見を求めるように手の中の相棒を見下ろしたが、どっちでも良いだろうとばかりに返事はなかった。なかったのが返事だろう、と『彼女』は思う。
 だって、『彼女』は人の賑やかな営みが大好きだ。ならばここで『彼女』が取るべき行動など、たった1つしか存在しない。
 だから賑やかな気配の元を求め、『彼女』は一歩、静かな真白の町に足を踏み出した。





 クリスマスとはジルベリアから伝わったお祭だ。由来は殆ど知られていないが、とにかく親から子供であったり、親しいもの同士でプレゼントを贈りあうものだという事で、主に商人達の商業戦略により天儀にも着々と広まっている。
 けれども秋霜夜(ia0979)がクリスマスを楽しみにしていたのは、何もプレゼントを貰えるから、という理由ではなかった。否、よくよく振り返ってみればそれも理由の1つになるのかもしれないけれども、あくまでそれはたくさんある理由の1つなのであって。
 彼女が居候している天儀神教会には、時折なんの為に使うのか良くわからない品が眠っている。ある日見つけたキラキラのお星様やふわふわのリースは、何かの飾りだろうとは思ったのだけれど、良く判らずに一体何に使うものなのかとエルディン・バウアー(ib0066)に尋ねたのだ。

『ああ‥‥これは聖夜祭の飾りですね』
『聖夜祭、って、クリスマスパーティーです?』
『ええ。せっかくですから霜夜殿、神教会本来のクリスマスパーティーを見てみませんか?』

 そうエルディンはにっこり微笑んで、その日にどんな事をするのか教えてくれた。それからというもの、霜夜は何度もその話を繰り返し聞きながら、今日のこの日を楽しみにしていたのである。
 一番乗りにやってきたアグネス・ユーリ(ib0058)が、小さな体で奮闘する霜夜を見て「頑張ってるじゃない、霜夜」と笑顔になった。もっちろん、と大きく笑顔で頷いて、ひょい、とキラキラのお星様をもう1つツリーに引っ掛ける。
 そうしてどんどんツリーを飾っていたら、何だか故郷のお祭を思い出して、楽しくなった。

「泰国の七夕も素敵ですが、神教会の聖夜も素敵ですッ☆」
「七夕? ‥‥ああ、そう言えば、何となしに似てるかもね」

 一緒にツリーに飾りを引っ掛けていたアグネスが、一瞬首をかしげてから笑って頷いた。あちらは笹でこちらは木だが、お祭のために飾りをつける、という行為は同じだ。
 そんな事を考えながらツリーや、教会の中を手分けして飾りつけていたら、しばらくしてリーディア(ia9818)がやって来た。今日は他にもたくさんの人を招いていて、霜夜も招待状を配るのを一緒に手伝ったものだ。
 これからどんどん人がやってくるだろう。そう思うとますます楽しみになって、霜夜はふわふわのリースをぐるぐるとツリーに巻きつける。リーディアも荷物を置くと一緒になって、あちら、こちらと飛び回りながら持ってきた大量のもふらさま人形を飾り始めた。
 1体1体、ほんの少しずつ装飾を変えて、一番可愛くもふもふして見える角度を確かめて。時々は霜夜やアグネスにも意見を求めながら、鼻歌交じりで飾っている姿がいかにも楽しそうで、霜夜とアグネスは顔を見合わせてくすくす笑う。

「ほっとくとあのまま教会中、もふらさま人形だらけになるんじゃない?」
「あたしは構いませんけれど、パウロも居ますし」

 ベンチを動かすエルディンの足元をもふもふ動き回るパウロをチラリと見ると、確かにね、と頷きが返る。何しろ本物のもふらさまが暮らしているのだから、もふらさま人形の十個や二十個は問題ないだろう。
 と、当の本人も思って飾っているのかと思ったら、どうやらそうではなかったらしい。もう幾つ目になるか知れないもふらさま人形を置く手をふと止めたかと思うと、エルディンに「神教会ではどんな飾り付けを使うんですか?」と今さらのように尋ねている。
 思わず霜夜は吹き出した。おまけにそれにエルディンの返答が「天儀日照宗の飾りじゃなければ」と言う、いかにもアバウトだったものだから、本気でお腹が痛くなりそうで。必死に笑いを堪えていたら、パウロがえっへんと胸を張ってこう言った。

「もふらの僕が居るんだから大丈夫でふ〜。それより神父様〜、僕も手伝うでふよ〜」
「じゃ、じゃあこちらを手伝って下さいな。エルディンせんせ、お星様はてっぺんで良かったんです?」
「ええ、霜夜殿」

 こう見えてパウロは案外しっかり者だ、と笑いを噛み殺しつつも何だか誇らしい気持ちで、霜夜はパウロを手招いた。そうしてあのツリーのてっぺんに星を飾るのだと、パウロの背中によじ登る。
 「大丈夫ですか?」とエルディンに心配そうな声をかけられたけれども、「もっちろん!」と大きく胸を叩いて請け負った。ツリーの高さはギリギリ、パウロの背中に乗って届くか届かないか。パウロの上で爪先立ちになって、ツリーに捕まりながら一生懸命手を伸ばして居たら、ひょい、と腕の下を掴んで持ち上げられた。

「ひゃ‥‥ッ!?」
「見てる方が心臓に悪いから、ほら、支えてるうちにさっさと付けちまえ」

 ちょうど、霜夜の頭の後ろ辺りで低い声がして、あれ、と首だけを動かし振り返る。そうして予想通りそこに居た、劫光(ia9510)の顔に霜夜は、ほッ、と息を吐き出した。
 ようやく背中から荷物がどいたとばかりに、パウロがもふもふエルディンの元へ戻っていく。それを見送ってから劫光の言葉に甘え、ツリーのてっぺん辺りまで持ち上げてもらったまま、いっとう大きなキラキラの星を大事に大事に括りつけた。
 とん、と床に下ろして貰って、もう一度ツリーの上で輝く星を見上げる。うん、なかなか良い具合。

「あ‥‥そうだ。劫光さん、もう一度、お願い出来ますか?」
「ん? ああ、構わないが‥‥それも飾るのか?」
「はいッ☆ ヤドリギなんですよー」

 えへへ、と嬉しそうに言った霜夜の言葉に、劫光は「ヤドリギ?」と不思議そうに首を捻っただけだった。明日のお楽しみです♪ と笑って霜夜はヤドリギをツリーに括りつける。
 そうこう大騒ぎをしているうちに日は暮れて、何とか教会の中が形になる頃には、もうすっかり夜だった。あちらこちらに置いたキャンドルに火を灯して回ると、それはいつも過ごしている教会と変わらない夜の光景のはずなのに、なぜだかとても特別な気持ちになる。
 それはきっと、霜夜がこの賑やかな夕べにわくわくとしているからだけでは、ない。

「栄光は神に、神は私達に平和をくださいます‥‥こう話していると、御子自身が彼らの真ん中に立ち『あなた方に平和があるように』と言われました」

 始まったエルディンの説法も右から左へと聞き流しながら、ふわふわできらきらのツリーを眺めたり、窓の外をちらちら待っている雪の行方を見つめたり、いつもと違って賑やかな教会の中をきょろきょろ眺めて過ごす。あとどの位のお客様が来るんだろう。どれだけの人達と一緒に、この特別な日を祝うことが出来るんだろう。
 そんな事を考えていたら、ふいにエルディンの声が耳を打った。

「そこ、起きないと今夜から貴方の枕元で説法添い寝しますよ?」
(‥‥? あたしではないですよね)

 説法などまったく聞いていなかったが、少なくとも居眠りをして居ない事は事実だ。きょろきょろ辺りを見回すと、エルディンは霜夜の少し後ろに居たアグネスとパウロその傍で、にこっ、ととっておきの輝く聖職者スマイルを披露していた。
 だが、ビクッと跳ね起きたアグネスも負けては居ない。彼女は「ふぅん?」と唇の端を面白そうに吊り上げて、実に清々しい笑顔でこう言った。

「添い寝? ‥‥いいけど高いよ? 神父様」

 ああ、これは笑顔対決に突入したな、と霜夜はのんびり考える。仲の良いもの同士の間では良くある話だ(多分)。
 とは言え一見すると和やかで、実際の所も当人同士は和やかとはいえ、見ている周りはちょっぴりハラハラするものらしい。それを止めなければいけないと思ったものか、単にタイミングの問題だったのかは不明だが、あの、と最前列に居たリーディアが手を上げた。

「ええと、その、説法の続きを聞かせて欲しいなぁ、なんて」
(へぇ‥‥)

 そんなに面白い説法だったんだろうか。霜夜はほんの少しだけ興味を惹かれ、再開した説法をちょっと真剣に拝聴する事にした。ほんのちょっとだけ砕けたジョークが入り混じった話は確かに、良く聞いてみると面白いもののようだ。
 最後に精霊に捧げる聖句を唱えて聖夜のミサを締め括ると、一緒に唱えて頭を垂れた人々が、一瞬の沈黙の後、ふぅー、と大きな息を吐いた。そうして大きく伸びをしたり、或いは親しい者同士で何だか楽しそうに話している。
 霜夜もそこに加わろうとして、けれどもふと思い立ち、そのまま再びお祈りを始めた。どうか、と心の中で願う。
 おや、と首を傾げたエルディンが、そんな霜夜に不思議そうに声をかけた。

「霜夜殿、何を熱心に祈っておられるので?」
「え? えへへー‥‥エルディンせんせが言ってたじゃないですか。今日は人々の思いで奇跡が起こるかもな夜だって」

 聖夜の夜にはたくさんの人々が精霊に祈るから、精霊が奇跡を起こして下さるかもしれない、って。

「外は天使の羽のよな雪が舞っていますから。お祈りをすれば、素敵なお客様が来て下さるかも、ですね」

 誰か、が誰なのかは判らないけれども。そう言ってまた祈りを捧げた霜夜に、そうですね、と頷いたエルディンも彼女の隣にひょいと座り、一緒に祈りを捧げてくれた。信仰で結ばれていないけれども、親愛で結ばれている愛弟子は、だから『エルディンせんせ』の願いも叶いますように、とちょっぴりお願いを追加しておいたのだった。





 翌朝。2人の祈りが叶えられた事を、霜夜はペテロの鳴き声とエルディンが誰かと会話する声で知った。

(誰なんでしょう)

 首を傾げながら素早く服を着替え、声のする方へと向かう。そうして聖堂に居たエルディンと、エルディンの前で寝ぼけ眼できょろきょろ辺りを見回している、不思議な少女を見つけた。
 不思議――というか、何と言うか。このクソ寒い冬の最中に薄着どころの騒ぎじゃない寒々としたノースリーブの異国の服で、一体この人は寒くないんだろうか。
 エルディンの横からひょいと少女を覗き込み、自分自身の寒さも忘れてじっと観察していたら、きょろきょろ辺りを見回していた彼女は、まるで手の中にしっかり握りこんだ白亜の杖に語りかけられたように、え? と首を傾げて視線を落とした。それからきょとんと再び視線を上げ、霜夜と、その隣に居るエルディンの顔を見比べる。
 そうして、あら、と微笑んだ。

「おはようございます、良い朝ですね。えっと‥‥ここは、どこでしょう?」
「ここは神楽の天儀神教会ですよ、お嬢さん。私は神父のエルディン・バウアーと言います」
「カグラ‥‥? ふふっ、道理で見覚えがあると思ったら。私は旅の魔法使いのマリン・マリンです。宜しくお願いしますね♪」

 エルディンの言葉を聞いた瞬間、なぜか少女はくすくす笑ってそう言った。まるで来た事のある場所なのに、たった今までそれに気付かなかった、とでも言わんばかりに。
 そうしてエルディンを見上げて、小首を傾げてそう微笑んでから、ほんの少し不思議そうな顔になって、バウアーさん? と口の中だけで呟いた。

「うーん‥‥どこかでお会いしました? 良く似たお名前のお友達は居るんですけれども」
「どうでしょう。私も、マリン殿に良く似た知り合いは居るんですが」
「あの‥‥せんせ? それよりもマリンさんに、何か上着を貸してあげたほうが良いんじゃ」

 2人ののんびりとした会話を聞いていた霜夜は、ついにエルディンの袖をクイクイ引きながらごくまっとうな正論を言った。だが、そうですね、とエルディンが自らの羽織っていた上着をかけてやろうとすると、ふふ、とマリンは微笑んで、大丈夫です、と首を振る。

「私は平気ですから。それより、今日はカグラも聖夜祭なんですか?」
「え? ええ‥‥」
「あの! 良ければマリンさんも一緒に、パーティーに参加しませんか? 今日はこれからプレゼント交換して、その後エルディンせんせのお料理でお祝いするんです!」

 マリンが興味を示したのを見て、霜夜は思わず、ずい、とエルディンを押しのけるように、ぐっと両手を握って誘った。誰か素敵なお客様が来てくれたら良いな、と思っていたのだ。舞い降る雪のような、不思議で素敵なお客様が。
 霜夜の言葉に、マリンは「あら!」と目を輝かせて頷いた。どうやら頷いてくれたタイミングから察するに、『お料理』に心を惹かれたようだ。
 ほッ、と胸を撫で下ろしてから、ふと気付いて「ね」と他の友人達を振り返ると、アグネスやリーディアも大歓迎で頷いた。けれども1人、劫光だけが何だか反応が鈍い。

「どしたんです?」
「忘れちまったんだ」

 小首を傾げた霜夜の言葉に、きっぱりと言い切る劫光の言葉が重なって掻き消えた。そういえば招待状に、プレゼントを用意してきてください、とは書かなかったんだったっけと今さらながらに思い出す。
 となると他の友人達は、と振り返ると、リーディアとアグネスは問題ないと首を振った。残るマリンはたった今誘ったのだからプレゼントなど用意してない筈だが、んー、と少し考えて懐から何だか怪しげなお茶を取り出す。

「精霊さんが大騒ぎしてるみたいな、とっても面白い味のお茶なんですよ♪」
「そ、そなんですか‥‥飲みたくないような、飲まなきゃいけないような‥‥」

 初めて見る不気味、もとい不思議なお茶に、自分でも良く判らないコメントを返しながら霜夜はほんの少し身を引いた。なぜだかこのお茶を見ていると、色々リアクションをしなければならないような衝動が芽生えるのだ。
 なぜか他の友人達も不思議そうに「なんだか不吉な予感がしますね」「身の危険があるような、ないような‥‥」「ものすっごい色のお茶ね」「案外コアなファンがいそうなのです‥‥」と遠巻きに頷き合っている。そうですか? と不思議そうに首を傾げながら、マリンはあくまでそのお茶をプレゼントにと提供した。
 そうして、改めてマリンを加え、プレゼント交換が始まった。みんなで飾ったツリーの下にぐるりと並べたプレゼントを囲み、音楽に合わせてグルグル回る。音楽が途切れた所で足を止め、自分の前にあるプレゼントを手に取った。
 さて、自分の分は果たして誰が手にしただろう? ちらちらと周りを伺いながら、手に取った包みを開けた霜夜は、出てきたプレゼントを見て思わずほっこり頬をほころばせた。綺麗に色を塗った鳥の土笛は、コロンとしていかにも可愛らしい。

「うわぁ‥‥ッ」
「あ、霜夜の所に行ったんだ。――あのね、この世の何処かに、吹くと皆が笑顔になる笛があるんだって」

 アグネスが霜夜の手元の笛を見て、ぱちんとウィンクしながら秘密を打ち明けるように教えてくれる。それは彼女が昔聞いた御伽話だ――もちろん霜夜の手元にある土笛は、ありふれた玩具に過ぎないけれど。

「今日は皆と笑顔で居たいなって想いを込めて、ね」
「はい!」

 アグネスの言葉に大きく頷いて、霜夜はすぅ、と息を吸い込んだ。吹き口をくわえて最初はそっと、次第に力強く息を吹き込むと、どこかとぼけたような、まあるい音がぽろぽろ響く。
 ところで自分のプレゼントは、と視線を巡らせると、パチン、とエルディンと目が合った。その隣に居る劫光の手元にある、泰国風の刺繍の入った小物入れに、「あっ、それ、あたしのですー。鳳凰の柄なんですよー、自作じゃなくて、買ったものですけど」と嬉しくなって手を上げる。
 けれどもどうやらそれぞれの手元に渡ったプレゼントは、楽しいものばかりではなかったようだ。

「‥‥ッ、この変態神父!」

 先ほどまでにこやかだったアグネスが、きっと眦を吊り上げて叫びながら、スパーン! とエルディンに回し蹴りを放つ。それを受けて、なぜかイイ笑顔でばたりと倒れたエルディンが用意したプレゼントが、どうやら原因のようだ。
 なんだったんだろう、と土笛から口を離して覗き込んだ霜夜の目に飛び込んできたのは、その、何と言うか、あまり大っぴらにプレゼントにするにはどうかと思われる品だった。仲間内だからこそ笑って許され――なかったから、回し蹴りだったんだろう、うん。さすがにこれは。
 あわわ、と焦った声で「エルディンさん、大丈夫なんでしょうか!」とおろおろするリーディアに、だから霜夜はにっこり笑って請け負った。

「せんせの事だからきっとすぐ復活すると思いますー。今日のお料理は聞いてるから、先に始めますか?」
「そーね。変態はほっといて、楽しく乾杯しましょ」
「あら、バウアーさんは変態さんなんですか?」
「‥‥‥」

 人々のやり取りを聞き、きょとん、と首をかしげたマリンの視線を受けて、何か言いかけた劫光がそのまま口を閉ざす。多分否定出来なかったんだろうな、と残る3人は同情の眼差しを注いだ――いやその、正確な表現ではないにせよ、手作りのぶらじゃを贈る殿方が果たして変態ではないかと言われると、かなり厳しい。
 とまれ、パーティーの準備をしなければ。主戦力が沈没してしまったので、霜夜がメインで動かなければならない。
 さて忙しくなってきた、とさくさく後片付けをしようとした霜夜は、ふと思い出してちらりとツリーを見上げた。そこには昨日、劫光に手伝ってもらって括りつけたヤドリギがある。そしてその下に立っているのは、身の丈ほどの白亜の杖をしっかりと握った不思議な客人。

「ヤドリギの下に居る人に幸運のお裾分けですー♪」
「まあ♪」

 チュッ、とマリンの頬にキスをしたら、彼女は軽く目を見開いた後、嬉しそうに微笑んだ。そうしてお返しに霜夜の頬にキスをして「秋さんに月精霊の祝福を」と告げる。
 そう言ったマリンの方がまるで精霊のようだと、見た事のないはずの精霊の姿を思い浮かべながら、霜夜は考えたのだった。





 クリスマスパーティーの乾杯は、教会の地下にあるワイン倉庫から持ってきたワイン樽を開けて始まった。

「かんぱーい!」

「メリークリスマス!」

 口々にそう言いながら、手にした酒盃を軽く掲げる。目の前には暖かく火を入れていかにも美味しそうな匂いを漂わせている、よーく煮込んだエルディンお手製のシチュー。生憎、製作者はまだ固いベンチの上で夢を見ている最中のようだが、そんな事は美味しいお料理には関係ない。
 一通りの配膳を終えた霜夜も乾杯に加わって、まずは暖かなシチューをはふはふしながら頬張った。エルディンが特別な日の料理にと作っただけあって、口の中でほろほろ蕩けていくように、シチューの味がふわりと広がる。
 それを目を細めて味わった後、パンを食べて、それからまたシチューを匙ですくって口に運んで。
 けれども居候の習性ゆえか、きょろ、と辺りを見回してからになったシチュー皿を見ると、霜夜はひょいと立ち上がってどんどんシチューをよそって回った。皆お腹が空いていたからか、それともエルディンのシチューが美味しいからか、ものすごい速度でなくなっていく。
 この調子だとなくなりそうです、と考えて居たらもぞ、と動く気配がした。そろそろ起こして、どうかしたら追加の料理を作ってもらわなければと考えていた、エルディンがちょうど起き上がったところだ。
 リーディアがぱちぱちぱち、と拍手してエルディンへの賛辞を向けた。

「えへへ、美味しいですよ、エルディンさん♪ 料理も得意なのですねぇ、すごいのですッ」
「エルディンせんせ、聞いてたお料理は全部出しちゃいましたけど、合ってました?」

 淀みなくシチューのお代わりを劫光とマリンに渡しながら、霜夜はこくりと首をかしげて尋ねる。せっかくこの日のために作ってくれたお料理なのだから、あまさず食べるのが礼儀と言うものだ。
 エルディンはそれに少し沈黙した後、ワインはどこのを取ったかと尋ねた。

「手前のですー」
「おや。取っておきのが奥にあったんですよ。ちょっと取ってきましょう」
「俺も行こう。アグネスと俺のペースじゃあと一樽は必要だ」

 そう言ったエルディンに、ハイペースで飲んでいた劫光が自分とアグネスのためにもう一樽取りに行く、と手を上げた。お願いしますねー、と見送りながら霜夜は再び、マリンのお皿にシチューをよそって渡す。
 それから不貞腐れそうなパウロに念願のケーキを出してやっていたら、マリンが楽しそうに声をかけた。

「それ。なんていう精霊さんなんですか?」
「え? えっと、もふらさまです‥‥知らないんですか?」
「うーん、似た様なモノは見た事があるんですけれど、あれは石像だったし‥‥カグラは本当に面白いですね」

 くすくす笑うマリンの言葉は、けれども何だか不思議な響きがして、思わず霜夜はマリンの手をぎゅっと握った。

「クリスマスパーティーが終わっても、また、遊びに来てくださいね」
「‥‥ふふ♪ いつかまた、皓月の気が向いたら‥‥ね、皓月?」

 霜夜の言葉に軽く目を見開いた後、にこっと笑ったマリンは食事時でも手放さない白亜の杖ににこやかに語りかけた。どうやらこの杖には皓月という名前がついているらしい。
 そうしているうちにエルディンと劫光がワイン樽を抱えて戻ってきて、リーディアとアグネスは遠慮なく歓声を上げて2人を迎えた。それを聞いて霜夜も立ち上がり、全員の酒盃に新しいワインを注いで回る。
 もう一度乾杯した新しいワインを飲み干したアグネスがひょいと嬉しそうに立ち上がり、小声で歌など歌いながら足を踏み鳴らして踊り始めた。にこっと笑った人妖の双樹が一緒になって踊り始めると、やれやれといった風で劫光も笛を取り出し、踊りに合わせて曲を奏で始めた。
 それはとても、とても和やかな光景で。いつもの大切な友人達に加えて、聖夜の奇跡のような特別なお客様が居て。
 だからもう雪は降っていないけれど、霜夜は胸の中でそっと祈った――もう少しだけ、この楽しい時間が続きますように、と。






━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【整理番号 /      PC名     / 性別 / 年齢 /  クラス 】
 ia0979  /      秋霜夜     / 女  / 14  / 泰拳士
 ia9510  /      劫光      / 男  / 21  / 陰陽師
 ia9818  /     リーディア    / 女  / 19  / 巫女
 ib0058  /   アグネス・ユーリ   / 女  / 20  / 吟遊詩人
 ib0066  /  エルディン・バウアー  / 男  / 28  / 魔術師

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

いつもお世話になっております、蓮華・水無月でございます。
この度はご発注頂きましてありがとうございました。

ご友人同士のクリスマスパーティー、心を込めて書かせて頂きました。
マリンさんもお招き頂きまして、本当にありがとうございました。
皆の祈りが奇跡を起こすかもしれない、ちょっと不思議で特別な夜に、ワクワクしておられるお嬢様が目に浮かぶようでした。
蓮華は聖夜の礼拝が厳かで大好きです、ここ数年まったく行っておりませんが(ぇぇ

お嬢様のイメージ通りの、楽しくてほんのり切ないクリスマスになっていれば良いのですけれども。

それでは、これにて失礼致します(深々と
SnowF!Xmasドリームノベル -
蓮華・水無月 クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2010年12月24日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.