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『六花、惑う。 〜守り石 』
劫光(ia9510)

 静かに雪の降り続ける町を歩く。『彼女』は寒さを感じないけれども、少し前に通りすがった人の様子からしてきっと『身を切る程に寒い』のだろう。
 とんとんと足を鳴らしたのは、寒い時はこうするのが人間の作法だ、と覚えたからに過ぎなくて。けれども繰り返すうちに楽しくなってきて『彼女』は何度もそれを繰り返した。
 とんとん、とんとん。
 ふと、手の中を見下ろす。そこ居る相棒は、子供のようにはしゃぐ『彼女』と一緒に、白の世界を楽しんでいるようだ。長い長い時を過ごしてきた『彼女』と相棒にとって、それは初めて見る珍しい光景ではなかったけれども、毎年訪れる素敵な季節の1つだった。

「‥‥あら?」

 ふいに『彼女』は足を止め、きょろ、と辺りを見回した。雪と戯れ歩いてきたのは良いけれど、果たしてここはどこだろう。何だか見覚えがある気もするし、まったく初めての光景のようにも思える。
 耳を澄ませば微かな音楽。やっぱりそれも聞き覚えがあるようで、聞き覚えがないようで。

「月霊祭‥‥いえ、聖夜祭の音楽、でしょうか?」

 こくり、首を傾げて意見を求めるように手の中の相棒を見下ろしたが、どっちでも良いだろうとばかりに返事はなかった。なかったのが返事だろう、と『彼女』は思う。
 だって、『彼女』は人の賑やかな営みが大好きだ。ならばここで『彼女』が取るべき行動など、たった1つしか存在しない。
 だから賑やかな気配の元を求め、『彼女』は一歩、静かな真白の町に足を踏み出した。





 クリスマスとはジルベリアから伝わったお祭だ。由来は殆ど知られていないが、とにかく親から子供であったり、親しいもの同士でプレゼントを贈りあうものだという事で、主に商人達の商業戦略により天儀にも着々と広まっている。
 だが、あえてわざわざ『本格的な』と歌っているからには多分、そういう自分の知っている『クリスマスパーティー』とは違うのだろうな、と劫光(ia9510)は貰った招待状を見ながら考えた。
 送り主であるエルディン・バウアー(ib0066)は、親しい開拓者仲間であると同時に天儀神教会の神父でもある。そのエルディンがわざわざ『自分の教会で』『本格的な』クリスマスパーティー、と断ったからには、とっさに想像はつかないものの、何か特別なパーティーなのだろう。

「クリスマスパーティー、ねえ‥‥」

 トン、と招待状の角を弾いて呟いたのは、そんな、想像しただけで華やかな場所に自分が行くのは場違いなんじゃないか、と思ったからだ。まして神教会式という想像が正しいのであれば尚更、劫光が参加するのはどうなんだろう、と考えてしまう。
 とはいえせっかく貰った招待状。無碍にするのも申し訳ないし、何より招待状には「料理とワインでささやかな宴も」としっかり書いてある。という事はすなわち、ただ酒。ただでお酒が飲めるというのは、大変魅力的なお誘いだ。
 ゆえに当日になってもしばらく考え込んだ挙句、とにかくただ酒を呑みに行くとしよう、と自分に言い聞かせて劫光は、雪の降りしきる町に足を踏み出した。降りしきる、どころかすでに積もり始めている。明日の朝は冷え込みそうだ。
 さくさくと雪を踏みしめて歩くうちにも、次から次へと雪片は舞い降りてくる。お陰でエルディンの教会につく頃には、劫光の頭にはすっかり雪が積もっていた。
 ブルルと、猫か犬のように首を振って雪片を払い落としながら教会の中に入ると、如何にも重そうなベンチをずるずる動かしていたエルディンが、劫光を出迎えた。接客担当よろしく激しく尻尾を振って劫光を出迎えたペテロの頭を褒めるようになでてから、いらっしゃいませ、と声をかける。

「劫光殿。寒かったですか?」
「ああ、すっかり積もってるからな‥‥お招きありがとう、だ。またいつもの面子が集まってるな」
「劫光殿で最後ですよ」
「ふぅん」

 きょろ、と教会の中を見回しながらそう言ったら、エルディンがにこやかに説明してくれた。鼻を鳴らして、クリスマスツリーから落っこちかけている秋霜夜(ia0979)や、鼻歌交じりでリースを飾っているアグネス・ユーリ(ib0058)や、机の上に紙を広げて真剣な顔でむむむと唸っているリーディア(ia9818)を見る――確かに自分が最後らしい。
 霜夜は気付かなかったようだが、アグネスとリーディアは劫光と目が合うと、ひらりと手を振ったりにこっと笑いかけてきた。それに、それぞれ肩をすくめたり眉を上げたりして答えてから、劫光は視線をエルディンへと戻す。
 それを待っていたように、エルディンが輝く神父スマイルを浮かべた。

「劫光殿も是非、一緒に飾り付けをしてくれますか?」
「ああ‥‥力仕事の手伝いでもするか。まあエルディンは自力で頑張れ」
「おや、つれないですね」

 さっくりとそう言ったら、エルディンは実に残念そうな顔になった。だが、何だか妙に疲れた気持ちで「つれてたまるか」と言い捨ててそのまま霜夜の方へと向かう。エルディンだって何も本気で困り果てていたわけではないだろう、チラリと振り返るとあっさり立ち直って再びベンチをずるずる動かしていた。
 だから劫光は心置きなく、パウロの背中に乗って爪先立ちでツリーに捕まっている霜夜の、腕の下をひょいと掴んで持ち上げた。

「ひゃ‥‥ッ!?」
「見てる方が心臓に悪いから、ほら、支えてるうちにさっさと付けちまえ」

 多分、てっぺん辺りに手に持って居るひときわ大きな星をつけようとしているのだろう。だがツリーの高さはギリギリ、霜夜がパウロの背中に乗って届くか届かないか。今にも落っこちそうで実に危なっかしい。
 あれ、と首だけ動かして振り返った霜夜が、劫光を見てほッ、と息を吐き出した。土台にされていたパウロが、ようやく背中から荷物がどいたとばかりにもふもふとエルディンの元へ戻っていく。
 それを見送ってから霜夜は大人しく、ツリーのてっぺん辺りまで持ち上げられたまま、いっとう大きなキラキラの星を大事に大事に括りつけた。とん、と床に下ろしてやると、少し下がってツリーを振り仰ぎ、てっぺんで輝く星を見上げる。
 それからふと思い出したように、霜夜は飾り道具の中から木の枝のようなものを取り出した。取り出し、あの、と劫光を振り返った。

「劫光さん、もう一度、お願い出来ますか?」
「ん? ああ、構わないが‥‥それも飾るのか?」
「はいッ☆ ヤドリギなんですよー」
「ヤドリギ?」

 えへへ、と嬉しそうに言った霜夜の言葉に、劫光はひょいと首を捻る。クリスマスと、ツリーと、ヤドリギの間に一体どんな関係があると言うのか。
 だが霜夜は「明日のお楽しみです♪」と笑ってヤドリギをツリーに括りつける。明日になれば判るのなら良いか、と劫光はそれ以上考える事を止めて。
 そうこう大騒ぎを手伝っているうちに日は暮れて、何とか教会の中が形になる頃には、もうすっかり夜だった。あちらこちらに置いたキャンドルに火を灯して回ると、それはいつも過ごしている教会と変わらない夜の光景のはずなのに、なぜだかとても特別な気持ちになる。
 それはきっと、劫光がこの集まりに未だ、ほんの少しばかりの居心地の悪さを感じているからだけでは、ない。

「栄光は神に、神は私達に平和をくださいます‥‥こう話していると、御子自身が彼らの真ん中に立ち『あなた方に平和があるように』と言われました」

 教会の小さな小さな聖堂の中で、一番後ろのベンチで壁にもたれながら、劫光はエルディンの説法を聞くともなく聞き流す。なるほど、確かにこれは劫光の知っている『クリスマスパーティー』では絶対に出てこない行事だ。
 とは言えそれが面白いのかどうか、と言われると――はっきり言って眠い。飛び出しかけたあくびを噛み殺しながら視線だけで見回すと、最前列のリーディアは真面目に聞いているようだが、中ほどに居る霜夜はさっきからきょろきょろ辺りを見回している。劫光のちょっと前に居るアグネスなど、早くも熟睡体勢だ。
 そんな劫光とて襲い来る睡魔に耐え切れるものではなく、ついに腕を組んだままこく、こく、と舟をこぎ始めた。まだかろうじて説法を聞いているフリはしよう、と理性は働いたようだ。
 が、しかし。

「そこ、起きないと今夜から貴方の枕元で説法添い寝しますよ?」

 ふいにすぐ傍でエルディンの声が聞こえ、ふっ、と目覚めた劫光は顔を上げた。見るとアグネスの傍に居て、輝く聖職者スマイルを浮かべている。
 まあ、アレだけ思い切り寝てたら解るだろうな、と。他人事のように考えていたらアグネスが「ふぅん?」と面白そうに呟いた。あの声色はきっと、エルディンの聖職者スマイルにも負けない、良い笑顔を浮かべているはずだ。

「添い寝? ‥‥いいけど高いよ? 神父様」

 そうして言い放った言葉に、一瞬、教会の中の空気が凍りついたような気がした。いや、劫光やリーディア、霜夜はこれが単なる友人同士のやり取りだとわかっているが、知らない人間が聞いたらバトル勃発直前、という感じだろう。
 それを止めなければいけないと思ったものか、単にタイミングの問題だったのかは不明だが、あの、とリーディアが笑顔の対決に割って入った。

「どうしました、リーディア殿?」
「ええと、その、説法の続きを聞かせてほしいなぁ、なんて」

 さすがリーディア、というべきか。あの説法、そんなに面白かったか、と首を傾げるべきか。
 劫光が首をかしげたのと同様に、エルディンも少し不思議だった様だ。けれどもすぐに二つ返事で頷いて聖堂の前へと戻っていった。そうして再開した説法は、先ほどよりはほんの少しだけ砕けたジョークが入り混じっている。
 ほっとした顔で再び熱心に耳を傾け始めたリーディアの横に、劫光はそっと移動した。そうしてベンチに並んで座って、そっとリーディアに声をかける。

「そんなに面白いか? 天儀日照宗もこんな感じなのかね」
「ええ‥‥うーん‥‥天儀日照宗の説法はどんな感じだったかしら」
「‥‥‥おい」

 頷きかけて、だがふと気づいたように小首を傾げたリーディアに、劫光は思わず唇の端を引きつらせて突っ込みを入れた。天儀日照宗の信者、どうした。
 なんでそう、妙なところで抜けているんだろうかと、暖かく苦いため息を吐きながら劫光は、リーディアと一緒にエルディンの説法に耳を傾ける。どうやら今度は、眠らずに済みそうだ。





 翌朝。何やら聖堂の方が騒がしいな、と泊めてもらった部屋から欠伸しながら向かうと、そこには見知った相手が居た。

「‥‥え?」
「あら、おはようございます♪ 良い朝ですね」
「あ、ああ‥‥おはよう‥‥」

 エルディンと霜夜に挟まれていたその少女は、劫光と目が合うと碧色の瞳を細めてにっこり笑う。それに呆然と返事してから、さてなんで『彼女』がここに居るんだ、とようやく疑問に思ったのだが、考えたって解る訳もない。
 彼女、マリン・マリンという旅の魔法使いに出会ったのは夏の話。出会った、というのは正確ではないかもしれない――奇妙な夏祭りの夢を見た、その中で失せもの探しをしているマリンと言葉を交わし、失せもの探しを手伝ってやったというのが真相で――果たしてそれは、出会った、と言えるのか。

「それともこれもまた夢か、また夢なのか‥‥」

 つい心の声を口に出していたらしく、リーディアとアグネスが不思議そうに劫光を見上げてきた。いや、この2人は夢じゃないはずで、じゃあそこに居るマリンは何なんだ。良く似た他人の空似なのか、あの時探していた身の丈ほどの白亜の杖まで持っているのに。
 同じと言えば、マリンは身に纏う服すら夏と同じ、ノースリーブの寒々とした格好だった。教会の中に居ても深々と冷え込むような寒さだというのに、平気な顔をしている。ああ、という事はやっぱりこれ、夢かもしれない。
 ようやくそんな結論に達した所で、霜夜が和やかに会話しているエルディンと少女に割って入った。

「あの‥‥せんせ? それよりもマリンさんに、何か上着を貸してあげたほうが良いんじゃ」
「ああ、そうですね」

 今初めて気がついた、という様子で、エルディンが自らの羽織った上着を脱いだ。そうして上着をかけようとしたエルディンに、ふふ、とマリンは微笑んで、大丈夫です、と首を振る。

「私は平気ですから。それより、今日はカグラも聖夜祭なんですか?」
「え? ええ‥‥友人達を招いて、ささやかに、ですが」
「あの! 良ければマリンさんも一緒に、パーティーに参加しませんか? 今日はこれからプレゼント交換して、その後エルディンせんせのお料理でお祝いするんです!」

 ずい、とエルディンの前に出て、霜夜がぐっと両手を握ってそう言った。そうして「ね」と振り返った霜夜の、わくわくした目の輝きを見て、もちろん、と劫光も頷きかけてふと、気付く。
 ――プレゼント、交換?

(まずい‥‥)

 行くか行かないかでもだもだしていたのでそこまで気が回らなかった。せめて何かそれっぽいものを持ってきて居ないか、とさりげなさを取り繕いながら必死に服のあわせなどを探る。
 エルディンと霜夜が、何か言いたそうにこちらを見る。霜夜の口が動きかけたのを、制するように劫光は先に白状した。

「忘れちまったんだ」

 下手に誤魔化した所で、実際にないのだから仕方ない。あらら、という眼差しが全員から注がれたが、ぐっと堪える。
 そうしてまた丹念に持ち物を探しながら劫光は、ちら、とマリンの方を見た。飛び入り参加になる彼女は尚更、プレゼントなんて用意してないに決まってるのだが、マリンは「んー」と少し考えた後、懐から何か怪しげなお茶を取り出した。

「精霊さんが大騒ぎしてるみたいな、とっても面白い味のお茶なんですよ♪」
「そ、そうか‥‥身の危険があるような、ないような‥‥」

 初めて見る不気味、もとい不思議なお茶に、劫光はなぜか背筋がぞわぞわするものを感じながら、辛うじてそうコメントした。マリンがお茶と言うからにはお茶なのだろうが、なぜだかそのお茶を飲むのには死に匹敵する覚悟をしなければならない、と劫光の本能が叫んでる。しかも何だか見覚えがある気がしなくもないのはなぜだ。
 そんな訳はないのだが、なぜか他の友人達も不思議そうに「なんだか不吉な予感がしますね」「飲みたくないような、飲まなきゃいけないような‥‥」「ものすっごい色のお茶ね」「案外コアなファンがいそうなのです‥‥」と頷き合っている。そうですか? と不思議そうに首を傾げながら、マリンはあくまでそのお茶をプレゼントにと提供した。
 あれだけは引きたくないな、と思っていたら劫光の指先が、何か硬いものを探り当てる。引っ張り出して「よし」と頷いた劫光も、ギリギリ滑り込みでそれをプレゼントへと提供する事に成功して。
 改めてマリンを加え、プレゼント交換が始まった。みんなで飾ったツリーの下にぐるりと並べたプレゼントを囲み、音楽に合わせてグルグル回る。音楽が途切れた所で足を止め、自分の前にあるプレゼントを手に取った。
 さて、自分の分は果たして誰が手にしただろう? ちらちらと周りを伺いながら、手に取った包みを開けた劫光は、出てきた泰国風の刺繍の入った小物入れに少し、目を細めた。
 果たしてこれは誰からのだろうと、辺りを見回すと苦悩の表情になったエルディンの顔が目に入る。なんだ、と覗き込んだ劫光は、思わず同情をこめてエルディンの肩をぽむぽむ叩いた――つい先ほどの、身の危険たっぷりそうなお茶が、彼の手元にあったので。
 ありがとうございます、とどこか上の空で返事をしてから劫光の手元を覗き込んだエルディンが、何か心当たりがあるように視線を巡らせる。その視線の先を追うと、楽しそうに土笛をぽろぽろ吹いていた霜夜がぱっと顔を上げ、「あっ、それ、あたしのですー。鳳凰の柄なんですよー、自作じゃなくて、買ったものですけど」と嬉しそうな笑顔で手を上げた。
 アグネスがもらったプレゼントは少し長めのマフラーのようだ。となると自分のアレはリーディアかマリンに行ったはずだが、とリーディアの方に視線を向けたら、ピキーン、と固まった彼女の引きつり笑顔が飛び込んでくる。

(‥‥‥?)
「‥‥ッ、この変態神父!」

 一体どんなプレゼントを貰ったんだと、覗き込もうとした劫光が思わずビクリと動きを止めるぐらいの気迫を込めて、アグネスが叫ぶや否や、スパーン! とエルディンに回し蹴りを放つ。それをもろに受けとめて、なぜかイイ笑顔でばたりと倒れたエルディン。
 一体何が、と改めて覗き込んだ劫光は、覗き込んだ事をかなり後悔した。劫光も初心な方ではないが、それにしたってそのプレゼントは、良く回し蹴りだけで済ませてもらったものだ。
 焦った声で「エルディンさん、大丈夫なんでしょうか!」とおろおろするリーディアに、霜夜がにっこり笑って「せんせの事だからきっとすぐ復活すると思いますー」と放置の体勢に入ったのも、無理のない事と思われた。

「今日のお料理は聞いてるから、先に始めますか?」
「そーね。変態はほっといて、楽しく乾杯しましょ」
「あら、バウアーさんは変態さんなんですか?」
「‥‥‥」

 人々のやり取りを聞き、きょとん、と首をかしげたマリンの視線を受けて、何か言おうとした劫光はそのまま口を閉ざした。友人として否定するべき所だったはずだが、どう否定すれば良いのかがかなり難しい――何となればエルディンが用意したプレゼントと言うのは、手作りの褌にぶらじゃという、恐ろしく贈る相手を選ぶシロモノだったので。
 とまれ、ここに放置しておく訳には行かないだろうと、劫光は気絶したエルディンをずるずる引きずりベンチに寝かせておいた。リーディアが毛布を取ってきて、そんなエルディンにかけてやる。
 さて忙しくなってきた、と霜夜がぱたぱた嬉しそうな顔で駆けていった。そんな後姿を見送って、劫光はマリンに声をかける。

「えっと‥‥その、プレゼント‥‥」
「‥‥? あ、この綺麗な石、劫光さんのですか?」

 言い淀んでいたらマリンの方が気がついて、手の平にコロンと藍晶石を転がした。――守り袋に入れてあったはずだが、マリンはそれも包みの一部、とあっさり取り出してしまったらしい。
 苦笑して、これは守り袋の中に紙と一緒に入れておくものなのだ、と説明するとマリンは納得して元通り、きゅっと固く口を縛った。昔、どこかの開拓で手に入れた藍晶石のお守り。安全祈願と平和の祈りが込められていると、聞いた。

(俺は良いから、護ってやってくれな)

 一度開けてしまったものだけれども、相手が相手だし、何となく効きそうな気もするし。それに劫光には何となく、どちらの願いも自分には必要がなさそうだ、と思えて。
 マリンは嬉しそうに「ありがとうございます♪」と微笑んで、いそいそと白亜の杖の先に守り袋を括りつけた。そうして劫光ににっこり微笑んで言った――貴方に月精霊の祝福を、と。





 クリスマスパーティーの乾杯は、教会の地下にあるワイン倉庫から持ってきたワイン樽を開けて始まった。

「かんぱーい!」
「メリークリスマス!」

 口々にそう言いながら、手にした酒杯を軽く掲げる。目の前には暖かく火を入れていかにも美味しそうな匂いを漂わせている、よーく煮込んだエルディンお手製のシチュー。当のエルディンはまだまだ、目覚めそうにはないけれど。
 だがそんな事は料理や酒には関係ないわけで、劫光は遠慮なくシチューを頬張った。早くもクイッ、とワインをあけたアグネスの空の酒盃に、新たなワインを注いでやる。
 たまに一緒に飲んでいる仲だから、その辺りのタイミングもだいたいは解っている。劫光自身は結構な酒豪だろうと思っているが、その劫光と対等に飲めるのは多分このアグネスぐらいだ。
 お返しにと空になった劫光の酒盃にもワインが注がれる。そうして結構なハイペースで、シチューや、パンや、チーズや、他のエルディンお手製の料理を肴にくいくいと杯を重ねていく。
 ただ酒だから遠慮はいらないと心置きなく飲んでいたら、ワイン樽はあっさり半分近く空になった。なのにまだほろ酔い気分と言う事は、最低でもあと半分は必要と言うことだ。そろそろ次のワイン樽を取ってこないと不味いか、と思った頃、もぞ、と動く気配がした。
 ふいと視線を向けると、ちょうどエルディンがガバッと起き上がった。リーディアがそんなエルディンに、ぱちぱちぱち、と拍手して「お料理も上手なのですね!」と褒め称える。

「エルディンせんせ、聞いてたお料理は全部出しちゃいましたけど、合ってました?」

 横から淀みなくシチューのお代わりを劫光とマリンに渡しながら、霜夜がこくりと首をかしげる。エルディンはそれに少し沈黙を返した後、ワインはどこのを取ったかと尋ねた。
「手前のですー」
「おや。取っておきのが奥にあったんですよ。ちょっと取ってきましょう」
「俺も行こう。アグネスと俺のペースじゃあと一樽は必要だ」

 会話を聞いていた劫光が、手の中の酒盃をテーブルに置いて立ち上がった。ワインの樽は小ぶりなものでもけっこうな重労働になるものだし、自分で飲む分くらいは自分で確保するのも礼儀と言うものだろう。
 2人連れだって地下倉庫へと降りて行き、エルディンが今日のために用意していた取って置きのワインの樽と、劫光とアグネス用の安いワインの樽を手に取った。明らかに樽からして安っぽい作りだが、飲めれば良いので特に文句はない。

「楽しんでおられますか」
「ああ」

 地下からの階段を登りきる寸前、エルディンがそう尋ねてきたから頷いた。そうしたら「それは良かった」と微笑んだ気配がして、きぃ、と地下倉庫の扉を開ける。
 そうして樽を抱えて戻ってきた2人に、リーディアとアグネスが歓声を上げた。遠慮の欠片もないが、仲間内ならそれも当たり前のことだ。
 霜夜が笑いながら全員の酒盃に、新しいワインを注いで回る。それを飲み干したアグネスがひょいと楽しそうに立ち上がり、小声で歌など歌いながら足を踏み鳴らして踊り始め。シャン、と動くたびに鳴るアグネスのつけているアンクレト・ベルの音に、楽しくなってきたらしい人妖の双樹がにこっと笑って一緒に踊り始めた。
 やれやれ、と苦笑して劫光も笛を取り出し、踊りに合わせて曲を奏でる。踊りは1曲だけでは終わらない。2曲、3曲と続けて踊り、さすがに軽く息を弾ませて戻ってきたアグネスに新たなワインを出しながら、劫光はぽつりと呟いた。

「‥‥たまには良いもんだな」
「うん、たまにはね」

 同じ光景を見て、アグネスもしみじみと頷きを返す。そうしてそんな気持ちを調べに乗せるように、アグネスはリュートを引き寄せ、教会の音楽風にアレンジした曲を爪弾き始める。
 時間が進むに連れて、ワインと、興奮と、他の何かの衝動で混沌とし始めた宴の席を、想った。この場に居るかけがえのない友人達を想った。この場に一緒に居て、酒を飲んで、料理を食べて、一緒に祝える幸いを想った。

「メリー、クリスマスだな」

 そうしてしみじみと、噛み締めるように呟いてワインの酒盃をあけた劫光に――双樹がきょとんと目を見張った後、にっこり無邪気に笑ったのだった。





━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 /      PC名     / 性別 / 年齢 /  クラス 】
 ia0979  /      秋霜夜     / 女  / 14  / 泰拳士
 ia9510  /      劫光      / 男  / 21  / 陰陽師
 ia9818  /     リーディア    / 女  / 19  / 巫女
 ib0058  /   アグネス・ユーリ   / 女  / 20  / 吟遊詩人
 ib0066  /  エルディン・バウアー  / 男  / 28  / 魔術師

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもお世話になっております、蓮華・水無月でございます。
この度はご発注頂きましてありがとうございました。

ご友人同士のクリスマスパーティー、心を込めて書かせて頂きました。
何やら増えておりますが気にせず流して頂けるととても助かります(目逸らし
以前にも夏の夜の夢物語の中でお会いさせて頂いたせいか、その、少し喜んでしまわれた様で(誰が
お気遣いの暖かい言葉も本当にありがとうございました、頑張ります(ほろり

守り手様のイメージ通りの、ちょっと暖かなクリスマスパーティーになっていれば良いのですけれども。

それでは、これにて失礼致します(深々と
SnowF!Xmasドリームノベル -
蓮華・水無月 クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2010年12月24日

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