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『六花、惑う。 〜雪魄氷姿 』
五十君 晴臣(ib1730)

 きーん、と凍り付くような冷たい空気の中で、静かな町を歩く。他に人影がどこにも見当たらないのはこの、身を切る寒さのせいだろうか、と五十君 晴臣(ib1730)は何とはなしに辺りを見回した。
 日頃、神楽と言えばどこを向いても人が溢れているような印象がある。それなのに誰も居ない町は、ただそれだけで何だか知らない場所に紛れ込んでしまった気がして。
 ましてこれが神楽に来てから初めての冬、初めてのクリスマスとなれば、間違いなく雪の白に染まった神楽の町は晴臣にとって見知らぬ町だった。

(クリスマス‥‥か)

 口の中で呟く。五行の故郷にいた頃はまったく知らなかった、それはジルベリアから伝わった習わしなのだと言う。
 親しい人同士でプレゼントを贈り合い、賑やかに――場合によっては穏やかにであったり、または恋人同士で特別な時間を過ごす風習。それを初めて知った時、晴臣は正直驚いたものだ――世の中には随分と色々な、思いもかけない文化や風習があるんだな、と。
 ことにクリスマスの日に雪が降ったらそれはとても、とても特別な日になるのだ、という人も居る。とはいえ、ジルベリアなんかではいつでも雪があるような気がするから、これは天儀にこの風習がもたらされた時に、商人達があとから加えた作り話かもしれない。
 ふわり、ふわり。
 ひらり、はらり。
 遊ぶように降ってくる雪は、まるで世界の全てを白く染め上げようとしているかのようだ。今この瞬間だけは、人の営みとか、思惑とか、アヤカシの被害なんかもまったく関係なくて、ただすべてが白い世界に埋め尽くされていく。
 どこか遠くから、雪にはしゃぐ子供の声が聞こえてきた。それを諌める母親らしき女性の声もある。

「そんなに走ったら転ぶわよ!」
「はーいッ!」
(子供はどこでも元気だな)

 見回した町にはやっぱり子供の姿も、母親の姿もなかったけれども、何だかその光景が容易に想像出来るようで、晴臣はくすくすと笑みを漏らした。それはかつて、故郷で彼自身が雪にはしゃぐ弟妹達に言って聞かせたのと、同じ言葉だったからかもしれない。
 ふと、幼い頃の事を思い出した。それは妹や弟が生まれる前の、晴臣が本当に幼かった頃のことだ。空から落ちてくる雪片がまるで知らないもののような気がして、物珍しくていつまでも寒空の下で立ち尽くし、空を見上げていた晴臣を周りは温かな眼差しで見守りながら、くすくすと笑っていたものだ。
 まるで空に吸い込まれるような、地上から空へと降っているような雪の行方を追うのは、見知らぬ世界の行方を見守るような心地がしたのだろうか。それともそんな事は関係なくて、ただ珍しい光景に心を奪われていたのだろうか。

(そう言えば、こうして静かに雪を眺めるなんて、それ以来かな)

 妹や弟が生まれてからは、1人で雪空を見上げることなんてなくなった。妹や弟達の面倒を見なければならなかったし、だから雪空を見上げる事があってもそれは1人ではなかったから。
 だから今、再び1人で見上げる神楽の雪空は、懐かしくて、遠い。1人になってから過ごした時間は、家族と過ごした時間に比べれば余りに短いはずなのに、なぜだかあの時間はひどく昔のようで、1人になってからもう随分と時が立ってしまったような気持ちがする。
 そんな風に――妙に感傷的な気持ちで過去を振り返ってしまうのは、あの頃を思わせるこの、白い雪のせいなのだろうか。

(五行でも雪は降っているのかな)

 神楽と五行は地図の上では隣同士だが、実際の距離は決して近いわけじゃない。見上げた空は故郷へと続いているけれど、いま晴臣が見上げている雪雲も果たして、故郷へと続いて雪を舞い散らせているものだろうか。
 そう、思いながら雪雲を見上げているのはまるで、故郷を見上げているようだ。あの頃一緒に雪空を見上げ、風邪を引かぬようにと気をつけながら見守った、弟妹達は今はどうしているだろうか。母は変わりないだろうか。みんな、風邪など引いては居ないだろうか――
 見えぬ故郷の面影を焼き付けるように、空を見上げて立ち止まり、晴臣はそっと瞳を閉じる。そうして再び瞳を開けば、そこには変わらず舞い落ちて来る雪に白く染め上げられる、いつも通りの、見知らぬ神楽の町があった。

「‥‥うん」

 誰にともなく、1つ、頷く。
 足下から這い上ってくる寒さに、無意識にとんとんと足を鳴らしてまた、歩き出した。向かう先は市場。例えこの寒さであっても、そこならばきっとクリスマスのお祝いや、もう少しすれば訪れる年末年始の買い物の為に、幾らかの人は居るだろう。
 特に人恋しい訳ではなかったけれども、そう考えた晴臣は、ふわり、ふわりと舞い落ちてくる雪片に誘われるように、白い息を吐きながら歩く。何度も、何度も。雪と一緒に、世界を白く染め上げようとするかのように。
 やがて、いつもの市場に辿り着くとそこは、いつも通りの賑やかな活気が溢れていた。到底1日では見て回れないような露天が立ち並び、暖簾が寒風に翻り、あちらこちらで呼び込みの声がする。
 見渡す限りに溢れる人、人、人。無人の町を歩いてきた晴臣には、ただそれだけの事が何だか妙に嬉しい心地がして、いそいそと楽しげに人ごみの中に紛れ込んだ。

(何か、良いものがあるかな)

 玩具とか、お菓子とか、細工物とか。珍しいものや、美味しそうなものや、綺麗なもの。そう言ったものがあれば家族に、クリスマスプレゼントとして買って帰ろうかな、と思う。
 そうして、今度の仕送りを送る時には、一緒に贈ってあげようか。これは『クリスマスプレゼント』と言うジルベリアから伝わった習慣なんだよと、文を添えてあげたらきっと、弟妹達は驚いた顔をしたあとに、大喜びをするのに違いない。
 その顔を直接見られないのは残念だけれども、どんな顔をするだろうと想像するのは晴臣にとって、寒さも忘れるほどに楽しい作業だった。立ち並ぶ露天を1つ1つ覗き込みながら、これなんかはどうだろう、あっちの方が良いだろうか、と想像を巡らせるうちに、知らず、頬にも笑みが浮かぶ。
 ――いつか。
 いつの日か、許されて故郷に帰る事が出来たなら、その時には必ず、この手でプレゼントを携えて会いに行こう、と思うから。

(その日までは、私のかわりに傍に居てやってくれるかな)

 ようやくこれぞと選び抜いたクリスマスプレゼント達に、心の中だけで語りかけた。――こんな懐かしい雪の日にもしかしたら、弟妹達が寂しい思いをしているかもしれないから。
 その時にはかわりに慰めてやってくれるかな、と祈るように願いを込めて、プレゼントの包みを大事に大事に胸に抱え、晴臣は変わらず舞い降る雪の中を静かに家路に着いたのだった。





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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 /  PC名   / 性別 / 年齢 / クラス 】
 ib1730  / 五十君 晴臣 / 男  / 21  / 陰陽師

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもお世話になっております、蓮華・水無月でございます。
この度はご発注頂きましてありがとうございました。

ノベルの発注文は、どなたさまからも何やら、難しいとのお言葉を頂戴致しますorz
そんな中にもかかわらず、蓮華をご用命頂き、ご発注頂けました事に、まずは心からの感謝を。
お兄様の優しいお気持ちが伝わる、素敵な発注文でしたのでご安心下さいませ♪(笑
何となく儚いような、繊細な空気がありまして、イメージを壊さないように精一杯頑張らせて頂いたつもりです。

お兄様がご家族を思われる暖かな気持ちが伝わるノベルになっていれば良いのですけれども。

それでは、これにて失礼致します(深々と
SnowF!Xmasドリームノベル -
蓮華・水無月 クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2010年12月27日

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