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『Sweet Snow Xmas 2010 』
セシル シルメリア(gb4275)

 年の瀬も押し迫ったラスト・ホープのショッピングモール。12月にしては暖かい休日の午後。
「今日は フェイトとデート♪」
 大勢の人が行き交う広場の時計台下に、幸せオーラ全開の少女が佇んでいた。彼女の名は、セシル・シルメリア。
「ちょっと早く着きすぎちゃったかなー 早くフェイトに、会いたいなー」
 冬の陽を浴びてきらきら輝くストレートロングの銀髪に、レースで彩られた白いニットワンピースがよく似合う。ファーのついたショートブーツも可愛らしさをプラスしており、その姿は冬の妖精のように愛らしい。
「まーだかなー♪」
 青い瞳の表面に、絶え間なく流れる人々が映っては消える。数えきれないぐらいの人がこの街にはいるけれど、彼女が待っているのはただひとり。
と。
「あ!」
 セシルはぱあっと、満面の笑みを浮かべた。沢山の顔の中に、待ち人を見つけたようだ。
「フェイトー♪ こっちですー」
 片手でメガホンを作り、空いた手を頭の上でぶんぶんと振る。
「セシリー!」
 その声は、年の瀬の人波に押し流されかけていたセシルの待ち人──フェイト・グラスベルの耳にしっかりと届いた。赤い瞳が数メートル先に居る、愛しい恋人をしっかりロックオンする。
「セシリィイイイっ♪」
 名を呼び返すとともに、能力者として覚醒! 人ごみを泳ぐための長い手足を手に入れた彼女に、もはや敵はない。
「お待たせしちゃいましたかっ」
 髪と瞳がともにピンクなのは、ラブラブモードの発露なのだろう。
「ん、私も今来たところです♪」
 手の届く距離までやって来たフェイトに、セシルは優しい眼差しを向けた。
「年末だから、すごい人ですね」
 覚醒を解除し、本来の身長と髪色に戻った恋人の頭を、慈しむようになでる。
「セシリー、おてて、冷たいですよ?」
 額に触れたセシルの指先が冷えていることに気づいたフェイトは、その手をとって、ぎゅっと握った。
「こうするとすぐ、あったかくなります」
「そうですね♪」
 顔を見合わせてくすりと笑む、二人の少女。
「では、ショッピングにゴーなのです!」




 ファッションアイテムのショップが軒を並べる、広場から南に伸びるストリート。
「わぁ、このふかふかした上着、あったかそうなのです」
「フフ、フェイトにこの着ぐるみパジャマは、とっても似合いそうです♪」
 カジュアル、スポーツ、ゴスロリ‥‥様々な店の軒先を散々冷やかした2人が足を止めたのは、フェミニンなドレスが飾られたショーウィンドウの前だった。
 真っ白なフリルにお花のモチーフ。繊細なレースに色とりどりのリボン。可愛らしいモノの前には、女の子は皆一様に無力なのだ。
「このお店、入ってみませんか?」
「ん、セシリーにぴったりなお店ですねっ」
 明かり取りの窓がくり抜かれた木扉を、ふたりは一緒に押した。真鍮のドアチャイムが軽やかな音を立てる。
「いらっしゃいませー」
 店内は静かで、ショッピングモールの喧騒が嘘のようだった。
 磨き上げられたフローリングに小花柄の壁紙でコーディネイトされた内装は、古き良き時代のヨーロッパを彷彿とさせる。
「どうぞごゆっくり、ご覧になって下さい」
 レジ・カウンターの中に控えめな店員が一人いる以外、他の客の姿はない。
 ドレス、スカート、ブラウス、ストール、靴に帽子に鞄に傘。文字通り数えきれないほどの可愛らしいものたちに、セシルは顔を輝かせた。
「わぁ、お洋服がいっぱいですー。フェイト、ほらほらっ」
 まずはハンガーに吊るされたフリルいっぱいのブラウスを手に取り、フェイトの胸の前に合わせて見せる。
「こっちの方が、フェイトの雰囲気には合うかもですね♪」
 すぐさま棚から別のカットソーを取り出し、さっと広げて同じように合わせた。
「そ、そうですか? ‥‥えへへ」
 フェイトの目の前には楕円形の姿見。鏡面の向こうで、照れくさそうに金髪の少女が、立っている。
「セシリーが選んでくれた服はどっちも可愛くて、ひとつになんて決められないです‥‥」
「ん、じゃあ、両方試着するのです♪ 私もこのワンピースと、これをっと♪」
 迷うフェイトに構わず、セシルは楽しげにブラウスとカットソーを手渡した。ついでに左手で自分が試着するアイテムを持ち、右手でそっと、フェイトの手を握る。
「さ、試着室へ行くのです♪」
「はいっ!」
 あまりの仲良しっぷりに店員が驚いた顔をしたが、二人にとってはどうでも良いことだ。

 それから数分後。
「似合ってますよフェイトー♪ とっても可愛いです♪」
「セシリー可愛い、すっごく可愛いのですよっ!」
 試着室の前で、お人形のように可憐な少女二人が、きゃあきゃあと歓声をあげていたのは言うまでもない。




 ファッション・ストリートから一旦広場に戻り、西に伸びるアミューズメント・ストリートへ。
 大きな紙袋を抱えたセシルとフェイトは、次なる目的地、カラオケへと足を伸ばしていた。
 案内された個室で2人がまずしたことは歌本をめくることでも端末をいじることでもなく
「えっと、チョコブラウニーパフェと、キャラメルアップルタルトと、マシュマロ入りホットココアとロイヤルミルクティー」
 メニューをおもむろに広げ、スイーツを発注する作業だった。
 だって女の子ですもの。ショッピングの疲れを癒すためにも必要不可欠である。
 そんなわけで。
「はいフェイト、あ〜んです♪」
「美味しいのですー! じゃあお返しに、りんごとバニラアイスなのです」
 まずはそれぞれ、食べさせあいっこを堪能。
「あ、セシリー、ほっぺに生クリームがついてるのです。拭いてあげますね」
「ありがとですー」
 ついでに軽いじゃれ合いも満喫。
 そしてようやく
「今日はフェイトにいっぱい歌ってもらうのです♪」
 セシルは端末を器用に操作し、アイドル歌手──フェイト・グラスベル──の曲をサーチし始めた。
 液晶モニタに現れたリストのうち、一番上の曲を親機に送信する。
「あ、始まったです♪」
 軽快なメロディとともにディスプレイに映像が映り、天井のミラーボールが回り始めた。
 マイクを手渡されたフェイトはソファから立ち上がり可愛らしくポーズを決め
「私の歌を聴けぇぇぇ!」
 何故か絶叫した。しかし1メロからきちんと入る辺りは、流石プロである。
「フェイト、やっぱり上手なのですー」
 セシルはうっとりと、恋人が熱唱する様を見つめていた。プライベート・コンサートと言っても差し支えない状況。しかもフェイトが歌う愛の歌は、この瞬間確かに、セシルにだけ向けられているのである。
「んふふ、セシリーが喜んでくれたなら、こんな幸せなことはないのですよっ」
 フルコーラスを完唱し、フェイトはセシルの隣に腰を下ろした。握っていたマイクを手渡し、かわりに端末を引き取る。
「次はセシリーが練習するです。ここなら防音がしっかりしてるし、気兼ねなく歌えます」
 ん? 防音がしっかりしている? 気兼ねなく歌える? フェイトの言葉に不穏な色が見え隠れしているのは気のせいだろうか。
「ん、頑張るですよー♪」
 セシルはにっこり微笑み、すっくと立ち上がった。2曲目のイントロが流れ、ミラーボールがまたまた回る。
「私の歌を聞けですー♪」
 そう、その声は普段と同じく可愛らしかった。
 だが、彼女が一小節目を歌った途端、悲劇は起こったのだ。
「ほげぇええええええぇっぇえっっっぇえええ〜〜〜〜〜〜♪♪」

「はいこちらフロント‥‥え? 隣の部屋が揺れている? 天井から砂が落ちてくる? お客様‥‥もしもし、もしもし!?」
「店長! 様子を見に行ったアルバイトの上田くんが、地震に足を取られて転倒しました!」
「や、やはりあのお客様の歌‥‥否、音波が原因か‥‥!」
「や、やむを得ない‥‥お引取りを願うしか‥‥ああそうだ、インターホンでお願いしろ。耳栓を忘れるんじゃないぞ」
「お客様、すみませんが周りのお部屋の方がたから地震を起こすなと苦情が‥‥」




 かくして30分後。
「えぐえぐ‥‥あのお店、爆発しちゃえなのです‥‥」
 僅か2曲でカラオケルームを追い出されてしまったセシルは、しょんぼりと広場のベンチに腰かけていた。
「セシリー、次がありますよぅ。セシリーのお歌、私は大好きですよ?」
 横に座るフェイトがセシルの銀髪をよしよしと撫で、その後ぎゅっと手を握る。
「でも‥‥」
 短い否定の後、しばし流れる沈黙。
「セシリーのお歌も、セシリーの声も、セシリーも、みんなみんな、大好きなのです」
 金髪の少女は一旦手を離し、銀髪の少女に小指だけを絡めて言葉を添えた。
「次のお休みに、一緒に練習しましょ? 約束ですからねっ」
 さりげない、次のデートへの誘い。
 気がついたセシルの表情が、みるみる明るくなる。
「ん、約束です! フェイトは優しいですね♪」
 さっき鳴いたカラスがもう笑った、と表すのがぴったりな、晴れやかな笑顔。
 つられたのか安堵したのか、フェイトも笑みを浮かべた。
「セシリーが笑ってくれて、とっても嬉しいのです‥‥あ!」
 だしぬけに空を見上げ、繋いでいない方の手で天を指す。
「ほら、雪ですよっ」
 白い花片がひらひらと、地上に向けて舞い降り始めていた。
「うわー、ホワイトクリスマスです−」
 セシルはフェイトと手をつないだまま、ベンチから立ち上がった。銀の髪に長いまつげの先に、雪の結晶がそっと止まり、音もなく溶けて、消えてゆく。もちろんフェイトの金の髪にも、白い綿毛がふわふわとまとわりついていた。
「ロマンチックですねぇー」
 空をみあげていた二人は、あらためてお互いに視線を移す。
 セシルがフェイトと繋いでいた手をそっと離し、鞄をごそごそと探った。
「メリークリスマスです、フェイトー♪」
 赤と緑のクリスマス・ラッピングを、愛しい恋人の手に握らせる。
「わ、セシリーからプレゼント!? うれしい、開けていいですか?」
 受け取ったフェイトはセシルの返事も待たず、ラッピングをもどかしく解いた。
 現れたのはシックな、黒いチョーカー。
「フェイトに似あうと思うのです♪ つけてあげますね」
「セシリーありがとう! あ、私もっ」
 真新しいアクセサリを着けてもらったフェイトは、大慌てでポケットを探った。
 赤いリボンを取り出し、何を思ったかおもむろに自分の首に巻きつけ始める。
「メリークリスマス!‥‥わ、私がプレゼント! とかダメですか!」
「‥‥な?」
 照れくさそうに上目を使う金髪少女を見て、セシルはぷっと吹き出した。
「ダメな訳ないです、素敵なプレゼントです♪ ‥‥でもそのリボンは、ちょっときつく巻き過ぎです」
「ぷはぁっ‥‥!?」
 固結びになりかけた蝶々結びを解いてもらったフェイトは、大きく深呼吸する。頭上に柔らかな青い瞳があることに気づき、慌てて付け加えた。
「こ、これはマ、マンガで読んだですよ!」
「マンガでもテレビでも、フェイトが可愛いことに変わりはないのですよー」
 セシルはそっと、小柄な金髪の少女を抱きしめた。
「大好きなのですよ、フェイト」
 腕の中の少女が瞼を伏せ、背伸びしていることを確かめてから、小さく小さく、ささやく。

「メリークリスマス」

 重なった影をそっと隠すように、雪花がひときわ、大きく舞った。




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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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gb4275 /セシル シルメリア/17 /女/サイエンティスト
gb5417/フェイト・グラスベル/10/女/ハイドラグーン


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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セシルさんフェイトさんこんにちは! クダモノネコです。
この度はご発注ありがとうございました。
可愛い女の子同士のイチャラブということで、終始ニヤニヤしながら書かせていただきました。
クリスマスのデート、お楽しみいただけたなら幸いです。
末永くお幸せに♪
SnowF!Xmasドリームノベル -
クダモノネコ クリエイターズルームへ
CATCH THE SKY 地球SOS
2010年12月27日

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