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『●雪の幻 』
平野 譲治(ia5226)

――もう一度、見る。

 そこには、いつものように広がる冬の景色と、漆黒の空と、満天の星。どれも見慣れたものだ。
 頬には冷たく風が当たっている――‥‥
「んー、やっぱり降ってないなりかっ‥‥! お天気を予想する、それもまだまだ開拓なりねっ!」
 平野 譲治は一寸だけ残念そうに呟いたが、独り言の割にはその声は大きい。風はやはり冷たく、葉の落ちた木々と譲治の狩衣を揺らして去っていく。
「雪、明日は降るなりかねっ♪」
 これだけ体の芯が冷えそうなほど寒ければ、遅かれ早かれ‥‥孰(いず)れ雪も降ろう。
 雨を降らせる呪(まじな)いなどは有名だが、果たして雪を降らせるという呪いはあるのだろうか?

「‥‥ん?」
 彼が立っているよりもやや先、距離にしておおよそ50mほどだろうか。
 白い服を着た男性が空を見上げて立っていた。白いコートと銀の髪。肌も白く、不思議な印象を与える。
 いったい、あの男はなんなのだろう。この世界の人物を知り尽くしているわけではないが、雰囲気が――自分たちとはまるで違う。
 その男が、ゆっくりと視線を空から譲治へと移した。譲治もその男を見ていたので視線が交差する。(‥‥譲治が糸目でも視線は交差しているのだ)

 何もお互い語らない。
 が、譲治は男の正体よりも、何故その男が空を見ていたのか、の方によほど興味が湧いている。
(もしや、この人も雪を心待ちにしているのかもしれないなりっ!)
 まあ、そういう可能性もあるということだが――‥‥雪を心待ちにしているかもしれない男性に、自ら跳ねる様な足取りで近づいていった。
「ななっ! そこの御仁っ♪ 今日は降らないみたいなりよっ! お月様は綺麗なりがっ!」
「?」
 銀髪の男は小さき陰陽師からの言葉を受け、『何が降らないのか』が解らず訝しげに眉根を寄せる。
 譲治の方はといえば、先程の自分を重ねたのだろう。さっきのおいらだっ、と言い、益々男は不可思議そうにしていた。
「雨でも‥‥いや、この天気じゃあ雪かァ? 降るの待ってんのか、お前?」
「むっ、初対面でお前とは失敬なりっ! おいらは――」「まぁ待て。名乗ったところで仲良くなるワケじゃないだろ? お互いが敵ってこともあるやもしれない」

――だから、お互いあえて名乗りはやめておこう。次に会えば『あの時の』、会わなければ『不思議なモノにでもあった』で済ませられる。

 男はそう言って、口角をあげた。恐らく二十代半ばであろうその男は、笑うと少し優しく見える。
 譲治も何となく納得しきれぬ部分はあったが、狐に化かされたと思えば――‥‥それも、職業柄困る。
「ま、こういう時はありえないことってのが起こることも――‥‥ほら、な」
 如何すればいいかと難しい表情になっている譲治に、男は声をかけながら空に片手をかざす。
 空には相変わらず星が瞬いているが、それに混じってちらほらと地面に向って何かが、空からやって来た。
「お前のご所望の雪だ」
 まだ僅かな粒だ。積もるか消えるかも不明だが、譲治の顔は喜びも相まって先程以上に輝きが増す。
「おおっ‥‥!? 本当なのだっ!」
 鼻先に落ちてじわりと広がる冷たさはすぐに消えてしまったが、その憶えのある感じに思わず声も弾んだ。
「今日は降らないと言ったばかりなのに、おいら嘘吐きになっちゃったのだっ!」
 照れ笑いなのか、ただ単に嬉しいのか。譲治は降ってきた雪を掴もうと宙へ手を伸ばしては、握る。
「別に嘘吐きとは思っちゃいねえよ。天気なんざ、変わりやすいモンだしな」
 譲治の動きを目で追いながら手持ち無沙汰なのか男は腕を組む。
「‥‥とぅ、てゃ! ‥‥おおっ!掴めたなりよっ!」
 きゃっきゃとはしゃぐ譲治。楽しいのか、と男は聞いて、自身も同じく雪を掴もうと手を伸ばしてみた。
「ゆっくりに見えて、割と早いな」
「そうなのだっ! 桜と同じく、掴みとるのが大変なんぜよ! ひっらっひらっ! ふっわ、の、とろーっ!」
 最後は何と言ったのかと尋ねると、譲治は曖昧に濁す。本人も分かっていない場合が多いのだ。
「雪が降ると何が嬉しいんだ?」
 いろいろ男の知っている世界だと不便な事のほうが多い。
「雪だるまっ! 雪合戦‥‥かまくら、雪うさぎ。楽しみは豊富なりっ! 冬は楽しい行事も多いのだ」
 しかし、少年は事もなげに『楽しいから』と言い放つ。純粋な楽しみだけなのだ。
 そうして少年――譲治は空を見上げ、ほうぅと白い息を吐く。一瞬白く覆われる視界は、すぐに消えて合間から星空と雪が姿を見せる。
「ふふー、お星かお雪か曖昧、それもまた風流なりかねっ♪」
「フーリュー、ねェ‥‥」
 オレにはそれが良く解らない、と男は肩をすくめた。馬鹿にしているわけではなく、美しいと思うものは美しいと思えるのだが、本当にそういった心情的なものが理解出来ないらしい。
 雪を掴んで遊んでいた譲治は、ハッと気づいて動作を止めた。
 いったい自分はどのくらいこうしていたのだろうか。
 やらなければならぬこともあった気がして、譲治は男へ背を向けた。
「っとと、すっかりお邪魔してしまったのだっ! またなりよっ!」
「‥‥ああ。じゃあな、少年」
 あーしたもっとおゆっきにっなーぁあれっ♪ と歌うように大きな声で呟く少年の耳には、男の挨拶など入らなかったかもしれない。
(またな、か。その時があるならな)
 だが、なければ――いや、ない方がいいのだろう。そうして、男も自分がいる場所――何処かへと去っていく。

 全ては雪の降る日の幻影だと。

-END-

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ia5226 / 平野 譲治 / 男性 / 11歳 / 陰陽師】
【gz0328 / シルヴァリオ / 男性 / 25歳 / バグア】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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こちらこそどさイベの時(というよりいつも)大変お世話になりました!
もちろん覚えていますとも! 名刺もありがとうございました。大事にとってあります。
DTSもいずれはと思っておりましたので、今回お仕事いただけて誠に感謝です。
ジャンルは違うのを幸いに(?)ちょっとだけ謎の人同士、という感じで出してみましたが、いかがでしょうか。
所所口調に違和感があった場合、申していただければ修正いたしますので!
この度は、執筆させていただいて本当にありがとうございました!
SnowF!Xmasドリームノベル -
藤城とーま クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2011年01月17日

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