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『【葱】サンタが村にやってくる ――葱サンタろまんす―― 』
チップ・エイオータ(ea0061)

 葱村に、今年も葱サンタがやって来る。
 プレゼントや外の世界の話を、大きな袋にありったけ詰めて――


「葱サンタかぁ……今年も、もうそんな季節なんだね」
「ワンダちゃんとレッドさんが結婚してから、もう一年になるんだ〜」
 知らせを受けたチップ・エイオータ(ea0061)と奥様のパラーリア・ゲラー(eb2257)は、しみじみと呟いて、ちらちらと雪が舞い始めた窓の外を見た。
「ねえ、もちろん今年もやるよね、葱サンタ」
 チップに問われ、パラーリアはこくこくと頷く。
「でも、葱少女隊はそろそろ引退かにゃぁ」
「どうして?」
「だって……」
 そう言ったまま、頬を染めて俯いてしまう。まあ、言いたいことはわかるけど。
「大丈夫だよ。世界一大好きなおいらの奥さんは、結婚しても、お母さんになっても、ずうっと可愛いもん」
 いつまでだって、少女で通じる。
「……あ、ありが、と……」
 パラちゃん、今度は耳まで真っ赤だ。それを誤摩化すように、無理やり話題を変えてみる。全然誤摩化せてはいないけれど、そこがまた可愛い。
「……え、えと、あの……っ、ワンダちゃん、どうしよ、かにゃ」
「どうって?」
「だって、ほら……妊婦さんだから、動けないって」
「あ、そっか……無理に連れてっても、体に悪いのかな」
 でもやっぱり、あの二人がいない葱村のクリスマスはつまらない。その点で、ご夫婦の意見は一致していた。
「そうだ、村のみんなに呼びかけて、ワンダちゃんとレッドさんトコであらためてクリスマスをお祝いするのってどぉかにゃ? 今年はみんなでサンタさんになるのにゃ☆」
「そうだね、それも良いかも……だけど。村の人、ぜんぶ呼べるかな?」
 全員が葱に乗れるなら話は簡単だけれど、そんな話は聞いていない。
「乗れる人だけじゃ、なんか不公平だし、人数もきっと限られるよね。馬車で大移動は、ちょっと無理そうだし」
 そうなると、やっぱり二人を村まで連れて行きたい。
「他のみんなにも、訊いてみようか。ほら、レイジュさんなんか色々知ってそうだし、十四郎さんやライルさんは、喜んで裏方とかやってくれそうじゃない?」

「……へくしっ!」
 −−その頃、誰かがどこかで盛大にクシャミをしたとかしないとか。
 ともあれ、今年もこうして、葱サンタ大作戦が開始されたのでありました。


 葱職人ワンダの工房を兼ねた家は、ネギリス……いや、イギリスはキャメロットの郊外にひっそりと佇んでいる。
 丸太を組んで作られたその家のドアには、葱の形をした金属製のノッカーが取り付けられていた。
 さて、聖夜も間近に迫ったある朝のこと。その葱型ノッカーをコツコツと叩く者があった。
 大きな白い袋にプレゼントを詰める手を休め、ワンダは立ち上がる。そう、今年もやって来たのだ。子供達の夢を叶えるために、彼ら−−葱サンタと素敵に無敵で不敵な仲間達が。
「おはようございまーす!」
 静かにドアを開けたワンダの目に、懐かしい顔が飛び込んで来る。
「ワンダちゃん、ひっさしぶりぃ〜!」
 パラーリアがいつものように元気いっぱいに手を振っていた。その隣には大きな包みを抱えたチップ。後ろに控えているのは、来生十四郎(ea5386)とライル・フォレスト(ea9027)だ。
 去年のクリスマスに、思いがけないプレゼントをくれた仲間達。あれ以来、ずっと会う機会を作れずにいたけれど。
「……あら……?」
 ワンダは玄関前に集まった冒険者達を順番に眺め渡して首を傾げる。
 ひとり、足りない。あの「キャメロットの葉っぱ男」ことレイジュ・カザミ(ea0448)の姿が見当たらなかった。
「レイジュさんなら、もう村で待ってるよ」
 ワンダの無言の問いかけに、チップが答える。
「みんなのために腕によりをかけてご馳走を作るんだって、張り切ってた」
「そう。じゃあみんな揃ってるのね」
 ワンダは嬉しそうに微笑んだ。
「ひさしぶり……みんな、変わってないわね。元気そうで……よかった」
 なんだか、とても懐かしい。そして、この日を忘れずに集まってくれたことが、とても嬉しかった。
「ワンダちゃんも、元気そう」
 パラーリアの視線は自然とワンダの腹部に吸い寄せられていく。
「うわぁ〜、ほんとに妊婦さんなんだにゃ〜」
 なんとなく、感動。
「ね、ね。触ってみても、いいかにゃ?」
「うん、良いわよ……もうね、元気いっぱいで……」
 なんだか予定より早く生まれて来そうな気がする。せっかちで落ち着きがないのは……きっと父親に似たのだろう。
「うわぁ〜、ほんとだ、動いてるぅ〜〜〜」
 恐る恐る、そぉーっと触ってみたそこには、新しい命が息づいていた。小さな小さな鼓動。本当は、お母さんにしかわからないもの、かもしれないけれど……でも、確かに感じる。
 いいなぁ、いいなぁ。赤ちゃん、いいなぁ。
 知らせを聞いた時にはただ嬉しいだけで、自分の身に置き換えて考えてみることもなかったけれど。こうして実際に触れてみると……。
 ――ちらり。
 愛しの旦那様を見る。
 でも、言えない。赤ちゃんが欲しいなんて、そんなストレートな事を言うには、やっぱりそれなりのムードというものが、ね。
 そんな奥様に小さく微笑みかけて、チップは犬の形をしたマスコットをワンダに手渡した。
「ワンダさん久しぶり、ご懐妊おめでとー♪ あ、これ安産祈願のお守りだよ」
「ありがとう。うわぁ、可愛い! でも……どうして、犬?」
「あのね、犬って大抵たくさん子供産むでしょ? それで、お産がすごく軽いから……だから、ジャパンでは安産の守り神って言われてるんだよ」
「へえ、そうなんだ……。うん、私ね、たっくさん産むから! それで、家族で編隊組んでアクロバット飛行するのが夢なの。もちろん、葱で……ね」
 家族でアクロバットチーム。しかも葱。なんだか、すごい。いろんな意味で、すごい。
「うわぁ、いいなぁ。じゃあ、おいらのとこは……家族で葱サンタチーム、かな?」
 ご夫婦お二人でも充分可愛い葱サンタ。そこにオプションの如くチビサンタが加わったら、もう殺人的に可愛くなりそうだ。クリスマスのシーズンには葱村だけじゃなく、あちこちからお呼びがかかって引っ張りだこ。葱の普及にも一役買えるかもしれない。葱のスーパーアイドルファミリー、なんて呼ばれちゃうかも……?
「……あ、と。プレゼントの用意、しなきゃねっ」
 妄想を振り払うようにぷるぷると首を振ると、チップは照れ隠しなのか、微妙に定まらない視線のまま、持って来た袋をごそごそ。
「おいら、紅白饅頭作ってきたんだ。これもジャパンの伝統でね、おめでたい事があった時に、ご近所とか知り合いのみんなに配るものなんだよ」
「へぇ〜、ジャパンには色々面白い風習があるのね。でも、ちょうど良かった。村のみんなには、まだ知らせてないのよ」
 あの村は知る人ぞ知るというほどの秘境。この地上で行けない場所はないと言われるシフール便でさえ、三回に一回は宛先不明で戻って来てしまうほどの僻地なのだ。
「クリスマスプレゼントを配るついでに、レッドに知らせてもらおうかと思ってたんだけど……ほら、この人……あれでしょ?」
「……あー……、うん。わかる気がする」
 チップとパラーリアは顔を見合わせて苦笑い。
「きっと、真っ赤になっちゃって上手く言えないのにゃ」
「うぅ……っ」
 ほら、今も。傍らで燃える暖炉の火よりも赤い顔で、床にのの字を書いている。
「でも、何かきっかけがあれば言いやすいと思うし……紅白饅頭なんて、ぴったりよね。ありがとう」
 本当はこのお腹を見せるのが一番手っ取り早いんだけど。そう言ってワンダは腹部にそっと手を添える。
「これじゃちょっと、動けないもの……ね」
「そんなこと、ないってさ。レイジュさんが言ってたんだ」
 ライルが言った。
「妊婦さんでも、あんまり過保護にするのは却って良くないらしいよ。ほら、レイジュさんはお姉さんに子供が生まれる時に、色々経験してるから」
「まあ、どうせレッドさんが下にも置かないほどの過保護っぷりを発揮してるんだろうが……」
 十四郎がくすりと笑う。図星だったらしく、レッドは……そしてワンダまでもが頬を赤く染めた。
「家の仕事も、ろくにさせてないんだろう? ワンダさん、失礼を承知でちょいと訊くが……子供が出来てから、体重はどれくらい増えた?」
 ワンダの答えを聞いて、十四郎は眉を寄せた。
「そりゃ、ちょいと増え過ぎだな。……聞いた話なんだが、妊婦があんまり太ると、お産が重くなるらしい。栄養のあるもんを食べさせるのは当たり前だが、体重はやたらと増やすもんじゃないってな」
「……そ、そうなのか……っ!?」
 がたがたぶるぶるわなわな。レッドが拳を握り締めて震えている。
「し、知らなかったっ! 俺は、俺はワンダの体を気遣って……良い事をしているつもしで……っ、実はとんでもない危険にさらしていたのかっ!? そうなのか俺っ!!?」
「あー……、まあ、落ち着けよレッドさん」
 ぽむぽむ。十四郎は宥めるように、無駄に熱くなったレッドの肩を叩く。
「まだ予定日まではだいぶあるんだろ? 今から少しずつ調整すりゃ良いさ」
 そう言えば、この若い夫婦にはこんな時に頼りになる親類縁者がいないのだった。ご近所に世話好きなオバチャンでもいれば良いのだろうが、生憎と周囲に人家はない。
「これからは、俺がちょくちょく様子見に、顔出してやるからな。まあ、出来ることはあんまりねぇが……相談に乗るくらいは、な」
「うん、ありがとう……お父さん。なんて言ったら、失礼かな?」
「……うっ」
 まあ、年齢的にはちょっと若すぎるかもしれない。けれど……結婚式の時にはすっかり「花嫁の父」状態だったし、違和感はない、ような。
「しかし、水臭ぇじゃねえか。こんな目出てぇこと、なんでもっと早く知らせねぇんだよ」
「ごめんなさい、つい……」
「ん、まあ、いいってことよ。とにかく、目出てぇ……目出てぇよ、なあ。おめでとう、おめでとう……っ」
 十四郎、二人の手をがっつり握って、花嫁の父モード再び。
「あ、俺もお祝いがまだだったね」
 男泣きする十四郎に苦笑まじりの笑顔を向けながら、ライルが言った。
「二人とも久しぶり……元気だった? 結婚式はお祝いだけでごめんね。それと……おめでとう。あ、春にはお祝いにベビーベッド作るから♪」
「うわぁ、ありがとう。……なんだか、だんだん実感湧いて来た感じ」
 春には、家族が増えるのだ。
「お母さんになるなんて、少し前までは考えもしなかったのに、ね」
 ひとり村を離れ、巨匠と呼ばれた祖父の後を継いで……葱の普及と啓蒙活動に生涯を捧げるつもりだった。結婚して家庭を持つなどという、いわゆる人並みの幸せというものには縁がないと思っていたのに。
 全ては葱が結んだ縁(えにし)だ。葱って、すごい。
「じゃあ、そろそろ行こうか。レイジュさんや村のみんなが待ってるからね」
 ライルの言葉に、ワンダは目を丸くした。
「行くって……?」
「だからさ、少しは体も動かさないと良くないし。大丈夫、毛布とかクッションとか、たくさん用意したし、ゆっくり慎重に安全運転するから」
「ワンダちゃんとレッドさんがいないパーティなんて、面白くないのにゃ〜」
「そうそう。おめでたの報告だって、二人ですればみんなもっと喜ぶんじゃないかな」
 ライルに説得され、パラーリアとチップに背中を押され。ワンダは漸く腹を決めた。
「……ごめんね、迷惑かけちゃうけど……」
「ばっきゃろぉ、何が迷惑なもんか! 下手な遠慮なんざするんじゃねえ!」
 ぐずー。
「はいはい、わかったわかった。わかったから泣かない、ね、おとーさん?」
 ワンダ達のことよりも、こっちのほうがなんか多方面に渡って心配だと、ライルは十四郎の肩をぽむぽむ。
「じゃ、葱村に向けて、みんなでしゅっぱぁーつ!」
 二人の葱サンタに先導され、馬車はごとごとと走り出す。スピードは出せないし、遠回りだから時間もかかるけれど……でも、楽しいことはみんな一緒がいい。

 ごとごと、がたがた。
 ゆっくりゆっくり走った馬車が漸く辿り着いた葱村は、クリスマスのお祝いムードに包まれていた。
 パーティ会場である教会前の広場は既に飾り付けも終わり、後はテーブルに料理を並べるだけになっている。そこに集まった村人達は、ワンダ達の到着を今や遅しと待ち構えていた。
「ワンダだ!」
「レッドさん、いっらしゃい!」
「おかえり、待ってたよ!」
 村へ入って来る馬車の姿を見つけるなり、先を争うように駆け寄って来る。馬車はあっという間に人垣に囲まれ、身動きがとれなくなってしまった。
 と、その時。
 ――ガシャーン!
 何かが派手に壊れる音。続いてガチャガチャと何かがぶつかる音が続き……
 一件の家の、ドアが開いた。いや、開くというよりも蹴破られたと言ったほうが正しいか。
 片方の蝶番が外れ、斜めに傾いた戸板の陰から飛び出したのは、見るからに人相のよろしくない三人の男だった。
 それを追って、レイジュが飛び出して行く。
「二人とも、危ないからここに残ってて。外に出ちゃだめだよ!」
 ワンダとレッドにそう言い残し、ライルは馬車を降りた。何が起きたのか、咄嗟にはわからなかったが……とにかく、非常事態であることは間違いない。
 村には子供やお年寄りもいる。賊は逃げたようだが、まだ他にも残っているかもしれない。
「よし、賊は俺に任せろ」
 十四郎が一頭の馬を馬具から外し、その背に飛び乗る。
「向こうは二人に任せておけば大丈夫そうだね。おいらはライルさんと一緒に村を守るよ!」
 チップは葱から降りると、パラーリアの手をしっかりと握った。
「ワンダさんとレッドさんを、頼むね。馬車の中にいれば大丈夫だと思うけど、変な奴が近付いたりしないか見張ってて」
「はい、あなた。……気をつけてね?」
「うん、ありがと」
 ちゅっ。
 愛しの奥様のほっぺに軽くキスをすると、チップはライルの後を追った。
「みんな家の中に入って! 大丈夫、ここはおいら達が守るから!」
 チップは葱に乗って、元気な人達を建物の中に誘導していった。
 ライルは逃げる際に転んで怪我をした人や、思うように歩けないお年寄りに肩を貸しながら、周囲に目を光らせる。

 そして、暫く後。
「……あ、帰って来た!」
 レイジュと十四郎が戻って来た。馬に大きなシチュー鍋を乗せ、その後ろにぞろぞろと、ロープで縛った三人の賊を引き連れて。
「大変だったね、お疲れさま! ワンダさん達も、もう馬車から降りて家の中で待ってるから。料理が出来たら、すぐにパーティ始められるよ」
 チップの言葉に、レイジュは頷いて厨房へ走る。ライルも一緒だった。
「思いがけない事で、時間とられちゃったからね。俺も手伝うよ」
 冷えた鍋を温め直すくらいなら、自分にも出来る。
「……さてと、こいつらはどう料理してやるか、ねぇ?」
 ニヤリ。
 ロープで繋がれた賊達を見て、十四郎が不敵に笑う。
 しかし、彼らを待っていたお仕置き。それは……
「さあ、遠慮なく食べてね!」
 ご馳走の山だった。
 それは全然お仕置きじゃないというツッコミは却下。
 どうやらこの三人組、根っからの悪党ではないらしい。いや、泥棒稼業には違いないのだけれど……セコい盗みが関の山。今回も盗んだ箒で空を散歩しているうちに山間部に迷い込み、雪に降られて更に方向感覚を失って、寒いし腹は減るし……。
「……そこに、もぐもぐ、どこからともなく、ばくばく、美味そうな匂いが……んぐんぐごきゅん、漂って来たんだ、ぜ……っ」
 出された料理を夢中で頬張りながら、頭が言う。
「お腹がすいているならそう言えばいいんだよ。僕は料理人なんだからね」
 その豪快な食べっぷりを満足げに眺めながら、レイジュは思い出す。
「昔も、こんなことがあったっけ……」
 その時の賊は今、お腹の大きな奥様にぴったりと寄り添って、あれこれと世話を焼いている。
 今ここで無心にご馳走を頬張っている彼らは、来年の今頃どうしているのだろう。レッドが葱と関わることで、その運命を大きく変えたように、彼らの未来にも、何か予期しなかった素敵な出来事が待っていれば良い。
 それはきっと、彼らを見守る葱リスト達、全員の想いだろう。
「ふたりとも、あらためておめでとう。ワンダさんには、特別な料理を用意したからね」
 レイジュはワンダの前に妊婦の体に最適な料理の数々を並べ、その効用を解説しはじめた。
「気に入ったのがあったら、レシピも教えてあげるね。それと、もう少ししたら離乳食の作り方も」
 そしてレッドには真っ赤な林檎のお菓子。
「今の二人をイメージして作ったから、甘さはぜんぜん控えてないけど。レッドさん、甘いのは苦手じゃなかったよね?」
 こくこく、レッドは黙って頷く。相変わらず、手にした林檎よりも真っ赤に頬を染めながら。
 真っ赤な林檎は、村人達の分も用意されていた。サイズは小さい、姫林檎バージョンだけれど。
「プレゼントと一緒に、葱サンタに配ってもらおうと思って」
「ありがとう、みんな喜ぶわ。ほんとに……今年もたくさんお世話になっちゃって、どうやってお礼すれば良いのかしら」
「何が礼だ、水臭いぞワンダさん」
 そう言った十四郎は、既に村人達と酒盛りを始めている。
「十四郎さん、あんまり呑んじゃだめだよ、俺と交代で見張りするって約束だったじゃない。もう、お酒には目がないんだから……」
 あーあ、とライルが溜め息。葱リストとしてはともかく、それ以外はなんか全部心配だ。
「心配するな、これくらい呑んだうちには入らん。それに、なあ。こんなめでたい席で、呑まずにいられるかってんだ、なあ、ワンダさん」
 言いながら、上機嫌でワンダに絡む。
「ほれ、酒……は、だめなのか? ならこれだ。生姜湯。あったまるぞ? 体冷やしちゃいけねぇからな。どうだ、寒くねぇか? もう一枚、毛布かけるか? クッションもあるぞ?」
「やだもぉ、十四郎さんったらレッドより過保護!」
 ワンダはコロコロ笑っている。
「でも、嬉しい……ありがとう」
 そして、傍らのレッドに何やら耳打ち。ひそひそ、こそこそ……こくこく。
「ん、なんだ?」
「あのね、十四郎さん。赤ちゃんが生まれたら、名付け親になってもらえないかしら。レッドもそれが良いって」
「名付け親……俺が!?」
「あ、無理にお願いは出来ないけど……もし、何か良い名前があったら、ね」
「てやんでぇ、何が無理なもんかい! 畜生、嬉しいこと言ってくれる……っ」
 うおぉーーーん!
 十四郎、男泣き再び。
「じゃあ、おいら達はプレゼント配って来るね!」
 パラーリアの手を取り、チップはすっかり暗くなった空へ。
「今年も葱サンタさんになってみんなに喜びを〜。みんなが幸せにだよ〜☆」
 今年も葱サンタは絶好調。教会の周囲をくるくると飛び回り、村のみんなに……赤ん坊からお年寄りまで、もれなくくまなくまんべんなく、プレゼントを手渡していく。
「今年のプレゼントはワンダさん達のお祝いも兼ねてるからね。特別豪華バージョンだよ」
 来年はきっと、誕生祝いの特別豪華バージョン。そして再来年は一歳の誕生記念か、それとも二人目のおめでたか……或いは、自分達の?
 そんな考えが通じたのか、奥様はほんのりと頬を染めている。
「ね、パーティが終わったら、二人であの教会に行こう?」
 誰にも気付かれないように、耳元でそっとささやいてみる。奥様の赤い頬が、ますます赤く染まった。
「じゃあ、次はみんなでアトラクション飛行だよ!」
 照れ隠しのように大声を張り上げ、チップは仲間達を呼んだ。
 ワンダが飛べないのは残念だけれど、その分は仲間のみんなで盛り上げよう。
「じゃあ、いくよ!」
 先頭を飛ぶチップはライトリングの魔法で夜空に三連のハートを描く。その光の軌跡が消えないうちに、素早く弓を取り出し、純白の聖なる矢を番える。
 ほんのりと光の尾を引いた矢は、見事にハートの中心を射抜き、遠く夜空へ吸い込まれて行った。
「メリークリスマス! そして……ご懐妊おめでとー!」
 そこから先は、お馴染みのアクロバット飛行。仲間と編隊を組んで、空中を自在に飛び回る。先程の戦いで勘を取り戻したレイジュはもちろん、暫くブランクのあったライルや十四郎も、飛んでいるうちに「あの頃の感覚」を思い出したらしい。
 そしてレッドは日頃から訓練を怠らないのか、見事な葱捌きを見せつける。
「みんな上手いなー。でも、おいらだって負けてないよ!」
 パラーリアと手をつないだチップは、空中でアクロバットダンスを披露した。流石はご夫婦、息もぴったり。
「……来年はもうひとつ、おめでたいお話が増えそうね」
 地上で見上げるワンダが、そっと微笑んだ。

 そして、パーティも無事にお開きとなり、最後まで広場に残っていた人々も家路に付いた頃。
 教会の礼拝堂には、小さなふたつの影があった。
「じゃあ、あらためて……メリークリスマス」
 祭壇に灯されたろうそくの光に浮かび上がったのは、チップとパラーリア。
「えっと……これね。江戸の友達が作ってくれたんだ。夫婦茶碗って、いうんだよ」
 チップの手に乗せられているのは、模様も造りもそっくり同じだけれど、ほんの少し大きさが違う二つの茶碗。
「大きいほうが、旦那さんの。小さいほうは、奥さんの、なんだ。もらってくれる、かな?」
 そっと差し出された小さな茶碗を、パラーリアは両手で包むように受け取った。
「ありがとう」
「……うん。でもね、まだあるんだ。ちょっと、いいかな……」
 自分の茶碗を脇に置き、チップはポケットから何かを取り出す。
 しゃらん。かすかに金属製の音がして、ろうそくの炎に銀の鎖がほどける。
 その先端には常緑樹の葉をモチーフにしたペンダントが揺れていた。
 パラーリアの細い首に腕を回し、金具を留める。
「この葉みたいに、ずっと瑞々しい気持ちでお互いを好きでいられますよーに」
 ……ちゅ。
「……ちょっと、照れくさいかな」
 そっと唇を重ねて、離す。
「気に入って、くれた?」
 その言葉に、パラーリアはこくこくと頷き、ペンダントの揺れる葉をぎゅっと握り締めた。
「……あの、ね。ごめんね。あたし……プレゼント、忘れてきちゃった」
「うん、いいよ。それより……さ」
 チップは大好きな奥さんの額に、自分の額をこつんとくっつけた。
「もっと他に、欲しいもの……あるんじゃない?」
「え……」
「言ってごらんよ。おいら、なんでも叶えてあげるから」
「……うん。あの、ね……あたしも、赤ちゃん……ほしいな」
 そう言って、可愛い奥様は耳まで真っ赤に染まる。
「うん」
 神様にお願いしようか。それとも、コウノトリ?
 葱村の聖夜は、粉雪が降り積もるように、静かに静かに更けていった。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ea0061/チップ・エイオータ/男性/27歳/レンジャー】
【eb2257/パラーリア・ゲラー/女性/24歳/レンジャー】
【ea0448/レイジュ・カザミ/男性/24歳/ファイター】
【ea9027/ライル・フォレスト/男性/26歳/レンジャー】
【ea5386/来生十四郎/男性/35歳/浪人】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 お世話になっております、STANZAです。
 この度はご依頼ありがとうございました。
 そして、受注の際にバタバタとご迷惑をおかけしたばかりか、納品まで遅れる事態となり、本当に申し訳ございません……。

 遅れた理由は色々とあるのですが、言い訳するのも見苦しいと言うか往生際が悪すぎますので、省かせていたきます、です。
 ……とは言え、やはり理由もわからずに待たされるのは納得がいかない事と思われますので……後ほど、クリエイタールームのほうに書かせていただきたいと思います。


 久しぶりの葱、楽しんで書かせていただきました。
 ご一緒に楽しんでいただければ幸いです。
 それから、内容のほうですが……参加の皆様にはそれぞれ少しずつ(ほんの少しですが)違った物語を提供させていただいております。
 が、お二人はご夫婦で、描写もほとんどがセットですので……お二人とも同じ文章とさせていただきました。
 ご了承いただければ幸いです。

 では、またいつか機会がありましたら、よろしくお願いいたします。
SnowF!Xmasドリームノベル -
STANZA クリエイターズルームへ
Asura Fantasy Online
2011年01月24日

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