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『【葱】サンタが村にやってくる ――裏方ばんざい!―― 』
ライル・フォレスト(ea9027)

 葱村に、今年も葱サンタがやって来る。
 プレゼントや外の世界の話を、大きな袋にありったけ詰めて――


「……くしっ」
 誰か、噂でもしているのだろうか。ライル・フォレスト(ea9027)は鼻の頭をこすって、冬の空を見上げた。
「去年はお祝いだけで、パーティには参加できなかったんだよね」
 だから、今年こそは。
 プレゼントを用意したり、みんなでアクロバット飛行を披露したり……それにもちろん、ご馳走も楽しみのひとつだ。
「レイジュさん、腕を上げたんだろうな」
 ここ、ジャパンは京都に住んでいても、みんなの活躍は風の噂で伝わってくる。それに今は、月道を使えば世界の裏側だってあっという間に飛んで行ける。
 早く、みんなに会いたい。ライルは今しがた受け取ったばかりの手紙を、そっとポケットにしまいこんだ。

「クリスマス、かぁ。あれからもう、一年になるんだね」
 知らせを受けて集まった仲間達を前に、レイジュ・カザミ(ea0448)は懐かしそうに、小さなため息をついた。
 チップ・エイオータ(ea0061)と奥様のパラーリア・ゲラー(eb2257)、来生十四郎(ea5386)とライル、それにレイジュを入れて、五人の葱リストが顔を揃えている。こうしてみんなで集まるのも、一年ぶりだった。
「それで……どうする? ワンダちゃん、一緒に行けそうかにゃ?」
「うん、それは問題ないよ」
 パラーリアの問いに、レイジュが答える。
「妊婦さんは、あんまり過保護にしすぎてもいけないんだ。適度な運動と、それに気分転換も必要だからね。村に連れて行くのは賛成だよ」
「そうか、レイジュさんがそう言うなら大丈夫だな」
 十四郎が言った。レイジュとは長い付き合いで、互いに信頼も厚い。それに、仲間内ではただひとり、妊娠出産に関する知識を持ち合わせていた。
「お姉ちゃんの時に、色々勉強したからね。ワンダさんの体調管理は僕に任せて。それに、料理もね」
 レイジュはこの一年で、更に料理の腕を上げたらしい。
「そいつは楽しみだな。じゃあ、準備にかかるとしようか」
「今回は、俺も葱村でのパーティーに参加させてもらうね」
 十四郎が腰を上げると、ライルがそれに続く。
「酒や食材は先に運んでおいたほうが良いよね?」
「そうだね、僕は村で料理をしながら待ってるから、ワンダさん達のお迎えはみんなに頼むよ」
「よし、じゃあ俺は馬車を調達して来るか」
 本体さえ借りられれば、馬は自前で用意できる。

 二頭の馬に引かれた馬車が、ゆっくりと葱村に入って行く。
「こんにちは、クリスマスパーティの手伝いに来たよ!」
 馬車から降りたライルが、物珍しそうに集まって来た村人達に手を振った。外の世界とは切り離された陸の孤島のようなこの村では、ハーフエルフに対する差別や偏見は存在しない、とは思うけれど……念のために、尖った耳は毛糸の帽子で隠してある。
「ツリーにする木はどれかな? 飾り付け、手伝わせてよ」
「僕はいつものように料理の腕をふるうからね。去年よりもっとすごいご馳走作るから、楽しみにしてて!」
 馬車からは大きな酒樽や様々な食材が次々と降ろされ、厨房を使わせてもらう事になった家の中に運ばれて行く。
 全てが運び出された後、馬車に残されたのは大量のクッションや毛布。身重のワンダを迎えるために用意されたものだ。
「会場の準備があらかた整ったら、俺達でワンダさん達を迎えに行くから。レイジュさん、後はよろしくな」
「任せといて、とびきりの料理を用意して待ってるから!」
 十四郎の言葉に、レイジュは胸を張って答える。クリスマスのお祝いと、ワンダのおめでたと。重なった喜びが更に何倍にも膨れ上がりますように……そう願いながら。


 葱職人ワンダの工房を兼ねた家は、ネギリス……いや、イギリスはキャメロットの郊外にひっそりと佇んでいる。
 丸太を組んで作られたその家のドアには、葱の形をした金属製のノッカーが取り付けられていた。
 さて、聖夜も間近に迫ったある朝のこと。その葱型ノッカーをコツコツと叩く者があった。
 大きな白い袋にプレゼントを詰める手を休め、ワンダは立ち上がる。そう、今年もやって来たのだ。子供達の夢を叶えるために、彼ら−−葱サンタと素敵に無敵で不敵な仲間達が。
「おはようございまーす!」
 静かにドアを開けたワンダの目に、懐かしい顔が飛び込んで来る。
「ワンダちゃん、ひっさしぶりぃ〜!」
 パラーリアがいつものように元気いっぱいに手を振っていた。その隣には大きな包みを抱えたチップ。後ろに控えているのは、十四郎とライルだ。
 去年のクリスマスに、思いがけないプレゼントをくれた仲間達。あれ以来、ずっと会う機会を作れずにいたけれど。
「……あら……?」
 ワンダは玄関前に集まった冒険者達を順番に眺め渡して首を傾げる。
 ひとり、足りない。あの「キャメロットの葉っぱ男」ことレイジュの姿が見当たらなかった。
「レイジュさんなら、もう村で待ってるよ」
 ワンダの無言の問いかけに、チップが答える。
「みんなのために腕によりをかけてご馳走を作るんだって、張り切ってた」
「そう。じゃあみんな揃ってるのね」
 ワンダは嬉しそうに微笑んだ。
「ひさしぶり……みんな、変わってないわね。元気そうで……よかった」
 なんだか、とても懐かしい。そして、この日を忘れずに集まってくれたことが、とても嬉しかった。
「ワンダちゃんも、元気そう」
 パラーリアの視線は自然とワンダの腹部に吸い寄せられていく。
「うわぁ〜、ほんとに妊婦さんなんだにゃ〜」
 なんとなく、感動。
「ね、ね。触ってみても、いいかにゃ?」
「うん、良いわよ……もうね、元気いっぱいで……」
 なんだか予定より早く生まれて来そうな気がする。せっかちで落ち着きがないのは……きっと父親に似たのだろう。
「うわぁ〜、ほんとだ、動いてるぅ〜〜〜」
 恐る恐る、そぉーっと触ってみたそこには、新しい命が息づいていた。小さな小さな鼓動。本当は、お母さんにしかわからないもの、かもしれないけれど……でも、確かに感じる。
 いいなぁ、いいなぁ。赤ちゃん、いいなぁ。
 知らせを聞いた時にはただ嬉しいだけで、自分の身に置き換えて考えてみることもなかったけれど。こうして実際に触れてみると……。
 ――ちらり。
 愛しの旦那様を見る。
 でも、言えない。赤ちゃんが欲しいなんて、そんなストレートな事を言うには、やっぱりそれなりのムードというものが、ね。
 そんな奥様に小さく微笑みかけて、チップは犬の形をしたマスコットをワンダに手渡した。
「ワンダさん久しぶり、ご懐妊おめでとー♪ あ、これ安産祈願のお守りだよ」
「ありがとう。うわぁ、可愛い! でも……どうして、犬?」
「あのね、犬って大抵たくさん子供産むでしょ? それで、お産がすごく軽いから……だから、ジャパンでは安産の守り神って言われてるんだよ」
「へえ、そうなんだ……。うん、私ね、たっくさん産むから! それで、家族で編隊組んでアクロバット飛行するのが夢なの。もちろん、葱で……ね」
 家族でアクロバットチーム。しかも葱。なんだか、すごい。いろんな意味で、すごい。
「うわぁ、いいなぁ。じゃあ、おいらのとこは……家族で葱サンタチーム、かな?」
 ご夫婦お二人でも充分可愛い葱サンタ。そこにオプションの如くチビサンタが加わったら、もう殺人的に可愛くなりそうだ。クリスマスのシーズンには葱村だけじゃなく、あちこちからお呼びがかかって引っ張りだこ。葱の普及にも一役買えるかもしれない。葱のスーパーアイドルファミリー、なんて呼ばれちゃうかも……?
「……あ、と。プレゼントの用意、しなきゃねっ」
 妄想を振り払うようにぷるぷると首を振ると、チップは照れ隠しなのか、微妙に定まらない視線のまま、持って来た袋をごそごそ。
「おいら、紅白饅頭作ってきたんだ。これもジャパンの伝統でね、おめでたい事があった時に、ご近所とか知り合いのみんなに配るものなんだよ」
「へぇ〜、ジャパンには色々面白い風習があるのね。でも、ちょうど良かった。村のみんなには、まだ知らせてないのよ」
 あの村は知る人ぞ知るというほどの秘境。この地上で行けない場所はないと言われるシフール便でさえ、三回に一回は宛先不明で戻って来てしまうほどの僻地なのだ。
「クリスマスプレゼントを配るついでに、レッドに知らせてもらおうかと思ってたんだけど……ほら、この人……あれでしょ?」
「……あー……、うん。わかる気がする」
 チップとパラーリアは顔を見合わせて苦笑い。
「きっと、真っ赤になっちゃって上手く言えないのにゃ」
「うぅ……っ」
 ほら、今も。傍らで燃える暖炉の火よりも赤い顔で、床にのの字を書いている。
「でも、何かきっかけがあれば言いやすいと思うし……紅白饅頭なんて、ぴったりよね。ありがとう」
 本当はこのお腹を見せるのが一番手っ取り早いんだけど。そう言ってワンダは腹部にそっと手を添える。
「これじゃちょっと、動けないもの……ね」
「そんなこと、ないってさ。レイジュさんが言ってたんだ」
 ライルが言った。
「妊婦さんでも、あんまり過保護にするのは却って良くないらしいよ。ほら、レイジュさんはお姉さんに子供が生まれる時に、色々経験してるから」
「まあ、どうせレッドさんが下にも置かないほどの過保護っぷりを発揮してるんだろうが……」
 十四郎がくすりと笑う。図星だったらしく、レッドは……そしてワンダまでもが頬を赤く染めた。
「家の仕事も、ろくにさせてないんだろう? ワンダさん、失礼を承知でちょいと訊くが……子供が出来てから、体重はどれくらい増えた?」
 ワンダの答えを聞いて、十四郎は眉を寄せた。
「そりゃ、ちょいと増え過ぎだな。……聞いた話なんだが、妊婦があんまり太ると、お産が重くなるらしい。栄養のあるもんを食べさせるのは当たり前だが、体重はやたらと増やすもんじゃないってな」
「……そ、そうなのか……っ!?」
 がたがたぶるぶるわなわな。レッドが拳を握り締めて震えている。
「し、知らなかったっ! 俺は、俺はワンダの体を気遣って……良い事をしているつもしで……っ、実はとんでもない危険にさらしていたのかっ!? そうなのか俺っ!!?」
「あー……、まあ、落ち着けよレッドさん」
 ぽむぽむ。十四郎は宥めるように、無駄に熱くなったレッドの肩を叩く。
「まだ予定日まではだいぶあるんだろ? 今から少しずつ調整すりゃ良いさ」
 そう言えば、この若い夫婦にはこんな時に頼りになる親類縁者がいないのだった。ご近所に世話好きなオバチャンでもいれば良いのだろうが、生憎と周囲に人家はない。
「これからは、俺がちょくちょく様子見に、顔出してやるからな。まあ、出来ることはあんまりねぇが……相談に乗るくらいは、な」
「うん、ありがとう……お父さん。なんて言ったら、失礼かな?」
「……うっ」
 まあ、年齢的にはちょっと若すぎるかもしれない。けれど……結婚式の時にはすっかり「花嫁の父」状態だったし、違和感はない、ような。
「しかし、水臭ぇじゃねえか。こんな目出てぇこと、なんでもっと早く知らせねぇんだよ」
「ごめんなさい、つい……」
「ん、まあ、いいってことよ。とにかく、目出てぇ……目出てぇよ、なあ。おめでとう、おめでとう……っ」
 十四郎、二人の手をがっつり握って、花嫁の父モード再び。
「あ、俺もお祝いがまだだったね」
 男泣きする十四郎に苦笑まじりの笑顔を向けながら、ライルが言った。
「二人とも久しぶり……元気だった? 結婚式はお祝いだけでごめんね。それと……おめでとう。あ、春にはお祝いにベビーベッド作るから♪」
「うわぁ、ありがとう。……なんだか、だんだん実感湧いて来た感じ」
 春には、家族が増えるのだ。
「お母さんになるなんて、少し前までは考えもしなかったのに、ね」
 ひとり村を離れ、巨匠と呼ばれた祖父の後を継いで……葱の普及と啓蒙活動に生涯を捧げるつもりだった。結婚して家庭を持つなどという、いわゆる人並みの幸せというものには縁がないと思っていたのに。
 全ては葱が結んだ縁(えにし)だ。葱って、すごい。
「じゃあ、そろそろ行こうか。レイジュさんや村のみんなが待ってるからね」
 ライルの言葉に、ワンダは目を丸くした。
「行くって……?」
「だからさ、少しは体も動かさないと良くないし。大丈夫、毛布とかクッションとか、たくさん用意したし、ゆっくり慎重に安全運転するから」
「ワンダちゃんとレッドさんがいないパーティなんて、面白くないのにゃ〜」
「そうそう。おめでたの報告だって、二人ですればみんなもっと喜ぶんじゃないかな」
 ライルに説得され、パラーリアとチップに背中を押され。ワンダは漸く腹を決めた。
「……ごめんね、迷惑かけちゃうけど……」
「ばっきゃろぉ、何が迷惑なもんか! 下手な遠慮なんざするんじゃねえ!」
 ぐずー。
「はいはい、わかったわかった。わかったから泣かない、ね、おとーさん?」
 ワンダ達のことよりも、こっちのほうがなんか多方面に渡って心配だと、ライルは十四郎の肩をぽむぽむ。
「じゃ、葱村に向けて、みんなでしゅっぱぁーつ!」
 二人の葱サンタに先導され、馬車はごとごとと走り出す。スピードは出せないし、遠回りだから時間もかかるけれど……でも、楽しいことはみんな一緒がいい。

 ごとごと、がたがた。
 ゆっくりゆっくり走った馬車が漸く辿り着いた葱村は、クリスマスのお祝いムードに包まれていた。
 パーティ会場である教会前の広場は既に飾り付けも終わり、後はテーブルに料理を並べるだけになっている。そこに集まった村人達は、ワンダ達の到着を今や遅しと待ち構えていた。
「ワンダだ!」
「レッドさん、いっらしゃい!」
「おかえり、待ってたよ!」
 村へ入って来る馬車の姿を見つけるなり、先を争うように駆け寄って来る。馬車はあっという間に人垣に囲まれ、身動きがとれなくなってしまった。
 と、その時。
 ――ガシャーン!
 何かが派手に壊れる音。続いてガチャガチャと何かがぶつかる音が続き……
 一件の家の、ドアが開いた。いや、開くというよりも蹴破られたと言ったほうが正しいか。
 片方の蝶番が外れ、斜めに傾いた戸板の陰から飛び出したのは、見るからに人相のよろしくない三人の男だった。
 それを追って、レイジュが飛び出して行く。
「二人とも、危ないからここに残ってて。外に出ちゃだめだよ!」
 ワンダとレッドにそう言い残し、ライルは馬車を降りる。何が起きたのか、咄嗟にはわからなかったが……とにかく、非常事態であることは間違いない。
 村には子供やお年寄りもいる。賊は逃げたようだが、まだ他にも残っているかもしれない。
「よし、賊は俺に任せろ」
 十四郎が一頭の馬を馬具から外し、その背に飛び乗る。
「頼んだよ、十四郎さん!」
 その背を見送る暇もなく、ライルは村の中へ駆け込んで行く。
「大丈夫ですか? ほら、俺が肩貸しますから……」
 逃げる途中で力尽きたのか、広場の真ん中でへたり込んでいるおばあさんに肩を貸す。
「まあまあ、すみませんねぇ……」
 大丈夫、耳は見えてない。見えたとしても、このパニックの中では気付かれもしないだろうけれど。
「みんな、落ち着いて。家の中にいれば大丈夫だから。それに、俺の仲間がすぐに退治してくれるよ」
 しかし、陸の孤島であるこの村は天然の要塞にも等しい造りになっている。つまり、外部から賊が侵入することなど、滅多にないのだ。だから当然、この村には自警団などというものはないし、家のドアに鍵をかける人もいない。そてくらい、平和でのどかな村だった。
「……それは、パニックになるのも無理ないかな……」
 とにかく、全員を避難させて……安全を確認したら、片付けのついでに自分ひとりで広場に出てみようか。
 騒ぎで倒されてしまった椅子やテーブル、下に落ちて汚れたテーブルクロス。それをきちんと片付けて、元通りにセットし直して。
 無防備にそうしていれば、もし賊が残っているとすれば油断して襲って来るかもしれないし。もし誰もいなければ、それを見て村人達も安心してくれるだろう。

 暫く後。会場の片付けもほとんど終わった頃に、レイジュと十四郎が戻って来た。馬に大きなシチュー鍋を乗せ、その後ろにぞろぞろと、ロープで縛った三人の賊を引き連れて。
「おかえり、二人とも。ごくろうさま」
 ライルはすっかり冷めてしまったシチュー鍋を受け取ると、厨房へ運んで火にかける。
「あ、僕も手伝う……って言うか、料理の続きしなきゃ!」
 戻ってみると、賊の襲撃で荒らされた厨房はすっかり奇麗になっていた。
「ライルさんが片付けてくれたの? ありがとう!」
「ん、俺はこういう裏方みたいな仕事、好きだからさ」
 目立たないポジションだが、村人やワンダ達、それに仲間が楽しむ為に少しでも役に立てれば、それでいい。
「それより、後で武勇伝を聞かせてよ。久しぶりの葱はどうだった?」
 ライルさん、いいひとだー。

 思いがけない騒動も無事に収まり、村人達も落ち着きを取り戻してきた頃。
 村に連れ戻された賊達は、他のみんなと一緒になって、テーブルの片隅にちんまりと座っていた。
「ねえねえ、おじさんたち、わるいひと?」
「どうしてたべものぬすんだの?」
 元々警戒心の薄い村人達は、捕らえられた賊に対して、もう心を許しているようだ。流石はあのレッドを改心させ、受け入れた人達。懐が深いと言うか、何と言うか。
「さあ、遠慮なく食べてね!」
 レイジュが用意した、賊達に対するお仕置き。それはご馳走の山だった。
 それは全然お仕置きじゃないというツッコミは却下。
 どうやらこの三人組、根っからの悪党ではないらしい。いや、泥棒稼業には違いないのだけれど……セコい盗みが関の山。今回も盗んだ箒で空を散歩しているうちに山間部に迷い込み、雪に降られて更に方向感覚を失って、寒いし腹は減るし……。
「……そこに、もぐもぐ、どこからともなく、ばくばく、美味そうな匂いが……んぐんぐごきゅん、漂って来たんだ、ぜ……っ」
 出された料理を夢中で頬張りながら、頭が言う。
「お腹がすいているならそう言えばいいんだよ。僕は料理人なんだからね」
 その豪快な食べっぷりを満足げに眺めながら、レイジュは思い出す。
「昔も、こんなことがあったっけ……」
 その時の賊は今、お腹の大きな奥様にぴったりと寄り添って、あれこれと世話を焼いている。
 今ここで無心にご馳走を頬張っている彼らは、来年の今頃どうしているのだろう。レッドが葱と関わることで、その運命を大きく変えたように、彼らの未来にも、何か予期しなかった素敵な出来事が待っていれば良い。
 それはきっと、彼らを見守る葱リスト達、全員の想いだろう。
「ふたりとも、あらためておめでとう。ワンダさんには、特別な料理を用意したからね」
 レイジュはワンダの前に妊婦の体に最適な料理の数々を並べ、その効用を解説しはじめた。
「気に入ったのがあったら、レシピも教えてあげるね。それと、もう少ししたら離乳食の作り方も」
 そしてレッドには真っ赤な林檎のお菓子。
「今の二人をイメージして作ったから、甘さはぜんぜん控えてないけど。レッドさん、甘いのは苦手じゃなかったよね?」
 こくこく、レッドは黙って頷く。相変わらず、手にした林檎よりも真っ赤に頬を染めながら。
 真っ赤な林檎は、村人達の分も用意されていた。サイズは小さい、姫林檎バージョンだけれど。
「プレゼントと一緒に、葱サンタに配ってもらおうと思って」
「ありがとう、みんな喜ぶわ。ほんとに……今年もたくさんお世話になっちゃって、どうやってお礼すれば良いのかしら」
「何が礼だ、水臭いぞワンダさん」
 そう言った十四郎は、既に村人達と酒盛りを始めている。
「十四郎さん、あんまり呑んじゃだめだよ、俺と交代で見張りするって約束だったじゃない。もう、お酒には目がないんだから……」
 あーあ、とライルが溜め息。葱リストとしてはともかく、それ以外はなんか全部心配だ。
「心配するな、これくらい呑んだうちには入らん。それに、なあ。こんなめでたい席で、呑まずにいられるかってんだ、なあ、ワンダさん」
 言いながら、上機嫌でワンダに絡む。
「ほれ、酒……は、だめなのか? ならこれだ。生姜湯。あったまるぞ? 体冷やしちゃいけねぇからな。どうだ、寒くねぇか? もう一枚、毛布かけるか? クッションもあるぞ?」
「やだもぉ、十四郎さんったらレッドより過保護!」
 ワンダはコロコロ笑っている。
「でも、嬉しい……ありがとう」
 そして、傍らのレッドに何やら耳打ち。ひそひそ、こそこそ……こくこく。
「ん、なんだ?」
「あのね、十四郎さん。赤ちゃんが生まれたら、名付け親になってもらえないかしら。レッドもそれが良いって」
「名付け親……俺が!?」
「あ、無理にお願いは出来ないけど……もし、何か良い名前があったら、ね」
「てやんでぇ、何が無理なもんかい! 畜生、嬉しいこと言ってくれる……っ」
 うおぉーーーん!
 十四郎、男泣き再び。
 上空ではプレゼントを配り終えた葱サンタ達によるアトラクション飛行が始まろうとしていた。
「みんな、おいでよ!」
 チップが手を振っている。
「よし、行くか」
 よっこらせ。十四郎は掛け声と共に立ち上がり、腰を伸ばす。
「うわ、年寄りくさいなぁ。十四郎さん、大丈夫? 酔っぱらってるんじゃない?」
 足下がフラついていると、ライルが心配しているような、楽しんでいるような。
「なに言ってやがる、これくらいのほろ酔い加減の方が、俺は強いんだぜ?」
「はいはい」
 アクロバット飛行に強いも弱いもないと思うけれど……と、心の中で呟きながら、ライルは小さく肩を竦める。しかし、こんな憎まれ口を叩けるのも気心の知れた相手だからこそ。だ。
「悪酔いして、空から色々ぶちまけたりしないでよね?」
「誰がするか!」
 笑いながら、ライルは葱に乗って仲間の後に続く。先頭はチップとパラーリアだ。
 同じ既婚者としては、共通の趣味(?)を持っている二人がちょっぴり羨ましい気がしないでもない、けれど。しかしライルの奥様だって、こうして趣味に生きる自分を快く……多分、快く送り出し、留守番を引き受けてくれるのだ。
「……帰りには、何かお土産でも買っていこうかな……」
 クリスマスの夜空に、大きなハートが浮かぶ。
 それは葱が繋いだみんなの心。どこまでも広がる、愛と友情のしるしだった。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ea9027/ライル・フォレスト/男性/26歳/レンジャー】
【ea0061/チップ・エイオータ/男性/27歳/レンジャー】
【ea0448/レイジュ・カザミ/男性/24歳/ファイター】
【ea5386/来生十四郎/男性/35歳/浪人】
【eb2257/パラーリア・ゲラー/女性/24歳/レンジャー】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 お世話になっております、STANZAです。
 この度はご依頼ありがとうございました。
 そして、納品が遅れて申し訳ございません……。

 遅れた理由は色々とあるのですが、言い訳するのも見苦しいと言うか往生際が悪すぎますので、省かせていたきます、です。
 ……とは言え、やはり理由もわからずに待たされるのは納得がいかない事と思われますので……後ほど、クリエイタールームのほうに書かせていただきたいと思います。

 久しぶりの葱、楽しんで書かせていただきました。
 ご一緒に楽しんでいただければ幸いです。

 では、またいつか機会がありましたら、よろしくお願いいたします。
SnowF!Xmasドリームノベル -
STANZA クリエイターズルームへ
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2011年01月24日

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