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『【葱】サンタが村にやってくる ――嵐を呼ぶ料理人―― 』
レイジュ・カザミ(ea0448)

 今年も葱サンタがやって来る。
 プレゼントや外の世界の話を、大きな袋にありったけ詰めて――


「クリスマス、かぁ。あれからもう、一年になるんだね」
 知らせを受けて集まった仲間達を前に、レイジュ・カザミ(ea0448)は懐かしそうに、小さなため息をついた。
 チップ・エイオータ(ea0061)と奥様のパラーリア・ゲラー(eb2257)、来生十四郎(ea5386)とライル・フォレスト(ea9027)、それにレイジュを入れて、五人の葱リストが顔を揃えている。こうしてみんなで集まるのも、一年ぶりだった。
「それで……どうする? ワンダちゃん、一緒に行けそうかにゃ?」
「うん、それは問題ないよ」
 パラーリアの問いに、レイジュが答える。
「妊婦さんは、あんまり過保護にしすぎてもいけないんだ。適度な運動と、それに気分転換も必要だからね。村に連れて行くのは賛成だよ」
「そうか、レイジュさんがそう言うなら大丈夫だな」
 十四郎が言った。レイジュとは長い付き合いで、互いに信頼も厚い。それに、仲間内ではただひとり、妊娠出産に関する知識を持ち合わせていた。
「お姉ちゃんの時に、色々勉強したからね。ワンダさんの体調管理は僕に任せて。それに、料理もね」
 レイジュはこの一年で、更に料理の腕を上げたらしい。
「そいつは楽しみだな。じゃあ、準備にかかるとしようか」
「今回は、俺も葱村でのパーティーに参加させてもらうね」
 十四郎が腰を上げると、ライルがそれに続く。
「酒や食材は先に運んでおいたほうが良いよね?」
「そうだね、僕は村で料理をしながら待ってるから、ワンダさん達のお迎えはみんなに頼むよ」
「よし、じゃあ俺は馬車を調達して来るか」
 本体さえ借りられれば、馬は自前で用意できる。

 二頭の馬に引かれた馬車が、ゆっくりと葱村に入って行く。
「こんにちは、クリスマスパーティの手伝いに来たよ!」
 馬車から降りたライルが、物珍しそうに集まって来た村人達に手を振った。外の世界とは切り離された陸の孤島のようなこの村では、ハーフエルフに対する差別や偏見は存在しない、とは思うけれど……念のために、尖った耳は毛糸の帽子で隠してある。
「ツリーにする木はどれかな? 飾り付け、手伝わせてよ」
「僕はいつものように料理の腕をふるうからね。去年よりもっとすごいご馳走作るから、楽しみにしてて!」
 馬車からは大きな酒樽や様々な食材が次々と降ろされ、厨房を使わせてもらう事になった家の中に運ばれて行く。
 全てが運び出された後、馬車に残されたのは大量のクッションや毛布。身重のワンダを迎えるために用意されたものだ。
「会場の準備があらかた整ったら、俺達でワンダさん達を迎えに行くから。レイジュさん、後はよろしくな」
「任せといて、とびきりの料理を用意して待ってるから!」
 十四郎の言葉に、レイジュは胸を張って答える。クリスマスのお祝いと、ワンダのおめでたと。重なった喜びが更に何倍にも膨れ上がりますように……そう願いながら。


 葱職人ワンダの工房を兼ねた家は、ネギリス……いや、イギリスはキャメロットの郊外にひっそりと佇んでいる。
 丸太を組んで作られたその家のドアには、葱の形をした金属製のノッカーが取り付けられていた。
 さて、聖夜も間近に迫ったある朝のこと。その葱型ノッカーをコツコツと叩く者があった。
 大きな白い袋にプレゼントを詰める手を休め、ワンダは立ち上がる。そう、今年もやって来たのだ。子供達の夢を叶えるために、彼ら−−葱サンタと素敵に無敵で不敵な仲間達が。
「おはようございまーす!」
 静かにドアを開けたワンダの目に、懐かしい顔が飛び込んで来る。
「ワンダちゃん、ひっさしぶりぃ〜!」
 パラーリアがいつものように元気いっぱいに手を振っていた。その隣には大きな包みを抱えたチップ。後ろに控えているのは、十四郎とライルだ。
 去年のクリスマスに、思いがけないプレゼントをくれた仲間達。あれ以来、ずっと会う機会を作れずにいたけれど。
「……あら……?」
 ワンダは玄関前に集まった冒険者達を順番に眺め渡して首を傾げる。
 ひとり、足りない。あの「キャメロットの葉っぱ男」ことレイジュの姿が見当たらなかった。
「レイジュさんなら、もう村で待ってるよ」
 ワンダの無言の問いかけに、チップが答える。
「みんなのために腕によりをかけてご馳走を作るんだって、張り切ってた」
「そう。じゃあみんな揃ってるのね」
 ワンダは嬉しそうに微笑んだ。
「ひさしぶり……みんな、変わってないわね。元気そうで……よかった」
 なんだか、とても懐かしい。そして、この日を忘れずに集まってくれたことが、とても嬉しかった。
「ワンダちゃんも、元気そう」
 パラーリアの視線は自然とワンダの腹部に吸い寄せられていく。
「うわぁ〜、ほんとに妊婦さんなんだにゃ〜」
 なんとなく、感動。
「ね、ね。触ってみても、いいかにゃ?」
「うん、良いわよ……もうね、元気いっぱいで……」
 なんだか予定より早く生まれて来そうな気がする。せっかちで落ち着きがないのは……きっと父親に似たのだろう。
「うわぁ〜、ほんとだ、動いてるぅ〜〜〜」
 恐る恐る、そぉーっと触ってみたそこには、新しい命が息づいていた。小さな小さな鼓動。本当は、お母さんにしかわからないもの、かもしれないけれど……でも、確かに感じる。
 いいなぁ、いいなぁ。赤ちゃん、いいなぁ。
 知らせを聞いた時にはただ嬉しいだけで、自分の身に置き換えて考えてみることもなかったけれど。こうして実際に触れてみると……。
 ――ちらり。
 愛しの旦那様を見る。
 でも、言えない。赤ちゃんが欲しいなんて、そんなストレートな事を言うには、やっぱりそれなりのムードというものが、ね。
 そんな奥様に小さく微笑みかけて、チップは犬の形をしたマスコットをワンダに手渡した。
「ワンダさん久しぶり、ご懐妊おめでとー♪ あ、これ安産祈願のお守りだよ」
「ありがとう。うわぁ、可愛い! でも……どうして、犬?」
「あのね、犬って大抵たくさん子供産むでしょ? それで、お産がすごく軽いから……だから、ジャパンでは安産の守り神って言われてるんだよ」
「へえ、そうなんだ……。うん、私ね、たっくさん産むから! それで、家族で編隊組んでアクロバット飛行するのが夢なの。もちろん、葱で……ね」
 家族でアクロバットチーム。しかも葱。なんだか、すごい。いろんな意味で、すごい。
「うわぁ、いいなぁ。じゃあ、おいらのとこは……家族で葱サンタチーム、かな?」
 ご夫婦お二人でも充分可愛い葱サンタ。そこにオプションの如くチビサンタが加わったら、もう殺人的に可愛くなりそうだ。クリスマスのシーズンには葱村だけじゃなく、あちこちからお呼びがかかって引っ張りだこ。葱の普及にも一役買えるかもしれない。葱のスーパーアイドルファミリー、なんて呼ばれちゃうかも……?
「……あ、と。プレゼントの用意、しなきゃねっ」
 妄想を振り払うようにぷるぷると首を振ると、チップは照れ隠しなのか、微妙に定まらない視線のまま、持って来た袋をごそごそ。
「おいら、紅白饅頭作ってきたんだ。これもジャパンの伝統でね、おめでたい事があった時に、ご近所とか知り合いのみんなに配るものなんだよ」
「へぇ〜、ジャパンには色々面白い風習があるのね。でも、ちょうど良かった。村のみんなには、まだ知らせてないのよ」
 あの村は知る人ぞ知るというほどの秘境。この地上で行けない場所はないと言われるシフール便でさえ、三回に一回は宛先不明で戻って来てしまうほどの僻地なのだ。
「クリスマスプレゼントを配るついでに、レッドに知らせてもらおうかと思ってたんだけど……ほら、この人……あれでしょ?」
「……あー……、うん。わかる気がする」
 チップとパラーリアは顔を見合わせて苦笑い。
「きっと、真っ赤になっちゃって上手く言えないのにゃ」
「うぅ……っ」
 ほら、今も。傍らで燃える暖炉の火よりも赤い顔で、床にのの字を書いている。
「でも、何かきっかけがあれば言いやすいと思うし……紅白饅頭なんて、ぴったりよね。ありがとう」
 本当はこのお腹を見せるのが一番手っ取り早いんだけど。そう言ってワンダは腹部にそっと手を添える。
「これじゃちょっと、動けないもの……ね」
「そんなこと、ないってさ。レイジュさんが言ってたんだ」
 ライルが言った。
「妊婦さんでも、あんまり過保護にするのは却って良くないらしいよ。ほら、レイジュさんはお姉さんに子供が生まれる時に、色々経験してるから」
「まあ、どうせレッドさんが下にも置かないほどの過保護っぷりを発揮してるんだろうが……」
 十四郎がくすりと笑う。図星だったらしく、レッドは……そしてワンダまでもが頬を赤く染めた。
「家の仕事も、ろくにさせてないんだろう? ワンダさん、失礼を承知でちょいと訊くが……子供が出来てから、体重はどれくらい増えた?」
 ワンダの答えを聞いて、十四郎は眉を寄せた。
「そりゃ、ちょいと増え過ぎだな。……聞いた話なんだが、妊婦があんまり太ると、お産が重くなるらしい。栄養のあるもんを食べさせるのは当たり前だが、体重はやたらと増やすもんじゃないってな」
「……そ、そうなのか……っ!?」
 がたがたぶるぶるわなわな。レッドが拳を握り締めて震えている。
「し、知らなかったっ! 俺は、俺はワンダの体を気遣って……良い事をしているつもしで……っ、実はとんでもない危険にさらしていたのかっ!? そうなのか俺っ!!?」
「あー……、まあ、落ち着けよレッドさん」
 ぽむぽむ。十四郎は宥めるように、無駄に熱くなったレッドの肩を叩く。
「まだ予定日まではだいぶあるんだろ? 今から少しずつ調整すりゃ良いさ」
 そう言えば、この若い夫婦にはこんな時に頼りになる親類縁者がいないのだった。ご近所に世話好きなオバチャンでもいれば良いのだろうが、生憎と周囲に人家はない。
「これからは、俺がちょくちょく様子見に、顔出してやるからな。まあ、出来ることはあんまりねぇが……相談に乗るくらいは、な」
「うん、ありがとう……お父さん。なんて言ったら、失礼かな?」
「……うっ」
 まあ、年齢的にはちょっと若すぎるかもしれない。けれど……結婚式の時にはすっかり「花嫁の父」状態だったし、違和感はない、ような。
「しかし、水臭ぇじゃねえか。こんな目出てぇこと、なんでもっと早く知らせねぇんだよ」
「ごめんなさい、つい……」
「ん、まあ、いいってことよ。とにかく、目出てぇ……目出てぇよ、なあ。おめでとう、おめでとう……っ」
 十四郎、二人の手をがっつり握って、花嫁の父モード再び。
「あ、俺もお祝いがまだだったね」
 男泣きする十四郎に苦笑まじりの笑顔を向けながら、ライルが言った。
「二人とも久しぶり……元気だった? 結婚式はお祝いだけでごめんね。それと……おめでとう。あ、春にはお祝いにベビーベッド作るから♪」
「うわぁ、ありがとう。……なんだか、だんだん実感湧いて来た感じ」
 春には、家族が増えるのだ。
「お母さんになるなんて、少し前までは考えもしなかったのに、ね」
 ひとり村を離れ、巨匠と呼ばれた祖父の後を継いで……葱の普及と啓蒙活動に生涯を捧げるつもりだった。結婚して家庭を持つなどという、いわゆる人並みの幸せというものには縁がないと思っていたのに。
 全ては葱が結んだ縁(えにし)だ。葱って、すごい。
「じゃあ、そろそろ行こうか。レイジュさんや村のみんなが待ってるからね」
 ライルの言葉に、ワンダは目を丸くした。
「行くって……?」
「だからさ、少しは体も動かさないと良くないし。大丈夫、毛布とかクッションとか、たくさん用意したし、ゆっくり慎重に安全運転するから」
「ワンダちゃんとレッドさんがいないパーティなんて、面白くないのにゃ〜」
「そうそう。おめでたの報告だって、二人ですればみんなもっと喜ぶんじゃないかな」
 ライルに説得され、パラーリアとチップに背中を押され。ワンダは漸く腹を決めた。
「……ごめんね、迷惑かけちゃうけど……」
「ばっきゃろぉ、何が迷惑なもんか! 下手な遠慮なんざするんじゃねえ!」
 ぐずー。
「はいはい、わかったわかった。わかったから泣かない、ね、おとーさん?」
 ワンダ達のことよりも、こっちのほうがなんか多方面に渡って心配だと、ライルは十四郎の肩をぽむぽむ。
「じゃ、葱村に向けて、みんなでしゅっぱぁーつ!」
 二人の葱サンタに先導され、馬車はごとごとと走り出す。スピードは出せないし、遠回りだから時間もかかるけれど……でも、楽しいことはみんな一緒がいい。

 ごとごと、がたがた。
 ゆっくりゆっくり走った馬車が漸く辿り着いた葱村は、クリスマスのお祝いムードに包まれていた。
 パーティ会場である教会前の広場は既に飾り付けも終わり、後はテーブルに料理を並べるだけになっている。そこに集まった村人達は、ワンダ達の到着を今や遅しと待ち構えていた。
「ワンダだ!」
「レッドさん、いっらしゃい!」
「おかえり、待ってたよ!」
 村へ入って来る馬車の姿を見つけるなり、先を争うように駆け寄って来る。馬車はあっという間に人垣に囲まれ、身動きがとれなくなってしまった。
 と、その時。
 ――ガシャーン!
 何かが派手に壊れる音。続いてガチャガチャと何かがぶつかる音が続き……
 一件の家の、ドアが開いた。いや、開くというよりも蹴破られたと言ったほうが正しいか。
 片方の蝶番が外れ、斜めに傾いた戸板の陰から飛び出したのは、見るからに人相のよろしくない三人の男だった。

 ここで、話は少し前に遡る。
 ワンダとレッドを迎えに行く仲間達を送り出したレイジュは、民家の厨房を借りて、ひとりパーティに供する食事作りに精を出していた。
 大きなケーキや飾り切りを施したフルーツの盛り合わせ、それに大皿に並べたオードブルの数々。焼きたてのパンに、シチューやスープ。
「そうそう、それにワンダさんには特別メニューを作らなくちゃね」
 お母さんにも、お腹の赤ちゃんにも良い料理。それはかつて、姉のために学んだものだった。
「元気な赤ちゃんが無事に生まれて来ますように〜♪」
 鼻歌まじりに鍋をかき混ぜるレイジュは気付かない。その背後に、三つの黒い陰が迫っていることに……。
「おっと、そろそろターキーが焼ける頃かな」
 鍋の火を弱め、レイジュはオーブンの様子を見ようと振り向いた途端。
「こいつは俺達がいただいたぜ!」
 太くガサツな声と共に、手入れの悪い剣の刃が頭上から振り下ろされる。
「うわっ!?」
 間一髪、それを避けたレイジュは腰に帯びていた筈の剣を探った。しかし……
「しまった、料理の邪魔だからって……!」
 それは他の荷物と一緒に厨房の隅に置かれていた。取りに走ろうとしたが、その行く手を塞ぐように賊のひとりが立ちはだかる。
「たかが料理人一匹に、ビビる俺達じゃないんだぜ!」
「くそ……っ!」
 手の届く場所には、調理道具しかない。おたまに、鍋に、まな板、そして包丁。
 レイジュは底の浅い鍋を盾に、包丁を剣の代わりにして、賊に立ち向かう。既に一線は退いたとは言え、冒険者としての腕は衰えていない、筈だ。筈、なのに……。
 体が思うように動かない。
「くっ、こんな筈じゃ……っ!」
 相手はどう見てもあまり強そうではない、ただのチンピラだ。そんな連中に、このイギリス……いや、世界最強のファイターと呼ばれた自分が押されている。それどころか、囲まれて袋叩き寸前だ。
 ――ガシャーン!
 手入れの悪い剣の一撃を鍋の盾で受け流した、つもりだった。
 しかし、レイジュの体は吹き飛ばされ、調理台に叩き付けられる。
 ガラガラ、ガシャン、パリン、がたんごとん。
「ふん、へっぽこ料理人が生意気に刃向かおうとするから、なんだぜ!」
 賊達は焼きたての七面鳥や、ほかほかのパン、それにシチューの入った鍋を大事そうに抱え込み、ドアを蹴破った。
「あばよ、へっぽこ! なんだぜ!」
 捨て台詞を残し、何かに飛び乗った。フライングブルームだ……ごく、普通の。
「飛んで逃げる気か!」
 調理台の角にぶつけた頭をさすりながら、レイジュは立ち上がる。
 愛用の短刀を手に取り、葱を握り締めた。勿論、調理用のそれではない。フライング葱だ。
 それを素早く装着し、大地を蹴った。
 久しぶりの感覚に、かつての勇者の血がふつふつと滾り始める。
「そうだ、僕はキャメロットの葉っぱ男。葱の勇者にして伝道者! あんな奴らには絶対に負けない!」
 葱を押し込み、スピードを上げる。そうだ、暫く忘れていた、この感覚。これが、これこそが……!
「レイジュ・カザミ、今ここに、完全復活!!」
 復活を遂げたレイジュは強かった。半端なく強かった。
「君達、まだそんなものに乗ってるのかい?」
 余裕の笑みを浮かべ、賊の前に回り込む。すれ違いざま、大事そうに抱えたシチューの鍋を奪い取る。
「十四郎さん、受け取って! こぼさないでよ!?」
 馬で追って来た十四郎の姿を見つけると、水平を保ったまま鍋から手を離した。
「え、お、ちょ……っ」
 空から降って来た鍋。しかも、たっぷり中身入り。ついでに、熱い。そして落下による加速度まで付いている。
 これを無事にキャッチできたら、世界中に自慢して回っても良いと思う。
「む、無理だレイジュさん!」
「諦めるな、十四郎さんなら出来る! 思い出すんだ! あの頃の自分を!!」
 あの頃の、自分。
 言われて、十四郎は思い返す。しかし、あの頃もその頃も、今と大して変わらなかった気がする。だが、そう言われてみると……あの頃の俺は誰よりも輝いていた、そんな気がして来るから不思議なものだ。
「わかったよ、レイジュさん! お陰で目が覚めた、ここは俺に任せてくれ!」
「うん、それでこそ十四郎さんだ!」
 地上と空で、ぐっと親指を立てる。見えないけれど、そこは長い付き合いの友人同士。お互いにそうしているという確信があった。
「さあ、残りの二人も……盗んだものを返してもらうよ?」
「むぅ、へっぽこのくせに生意気な奴なんだぜ! だがしかし、もう遅いんだぜ!」
 ばりばり、もしゃもしゃ。
 賊は抱えた七面鳥にかぶりついた!
「あぁっ! おかしら、ずるいのだ! 俺も食うのだ!」
 パンを抱えた男も、負けじと獲物にかぶりつく。
 こいつとシチュー男が子分で、親分はあの七面鳥男らしいが……ま、そんなことはどうでもいい。
「もしかして、お腹が空いてるの?」
「ば、馬鹿を言うな、なんだぜっ! この天下の大泥棒ぐれいときんぐ一家が、そんなセコい盗みをする筈が……っ」
 ぐるるるぅ〜〜〜〜〜。
「あ……そう、なんだ」
 しかし、理由はどうだろうと盗みは盗み。立派な犯罪だ。
「でも、逃がさないよ。きっちり反省してもらうからね!」
 あの頃の自分を取り戻したレイジュの葱捌きに敵う者はいない。ましてや腹を空かせたコソ泥など、相手にもならない。
「捕まってたまるか、なんだぜっ!」
 しゃきーんと剣を抜き払い、コソ泥の頭はレイジュに挑みかかる。しかし、もはやそれは脅しにさえならなかった。
「たまには手入れしたほうがいいよ、その剣」
 確かに西洋の長剣は斬るよりも叩き割るほうが向いた作りになっている。とは言え、ここまで手入れを怠っていれば、刃の強度にも問題が出て来る筈だ。
「……ほら、ね?」
 レイジュが左手に持った盾に、ボロ剣の刃がまともにぶち当たり……折れた。
 そのまま後ろに回り込み、フライングブルームの先端をすっぱりと切り落とした。
「剣の切れ味は、こうでなくちゃ」
 バランスを失い、相手はよたよたふらふらと高度を下げる。
 もはやこれまでと箒を捨て、地上に飛び降りた頭は、まだ空中に残る子分達を見捨てるつもりなのか、一目散に逃げ出……そうとした。
「おっと、逃がしゃしないぜ?」
 その前にのっそりと立ちはだかった十四郎は、折れた剣をヤケクソに振り回して突っ込んで来る賊の鼻っ柱に、拳を一発。
「……きゅぅ」
 どさり。
「いっちょ、あがり」
 頭がやられたと知るや、二人の子分は一気に戦意喪失。ふらふらと地上へ降りて来る。
「さあ、村に戻ってお仕置きといこうか?」

 彼らに対するお仕置き、それは……
「さあ、遠慮なく食べてね!」
 ご馳走の山だった。
 どうやらこの三人組、根っからの悪党ではないらしい。いや、泥棒稼業には違いないのだけれど……セコい盗みが関の山。今回も盗んだ箒で空を散歩しているうちに山間部に迷い込み、雪に降られて更に方向感覚を失って、寒いし腹は減るし……。
「……そこに、もぐもぐ、どこからともなく、ばくばく、美味そうな匂いが……んぐんぐごきゅん、漂って来たんだ、ぜ……っ」
 出された料理を夢中で頬張りながら、頭が言う。
「お腹がすいているならそう言えばいいんだよ。僕は料理人なんだからね」
 その豪快な食べっぷりを満足げに眺めながら、レイジュは思い出す。
「昔も、こんなことがあったっけ……」
 その時の賊は今、お腹の大きな奥様にぴったりと寄り添って、あれこれと世話を焼いている。
「ふたりとも、あらためておめでとう。ワンダさんには、特別な料理を用意したからね」
 妊婦の体に最適な料理の数々。
「気に入ったのがあったら、レシピも教えてあげるね。それと、もう少ししたら離乳食の作り方も」
 そしてレッドには真っ赤な林檎のお菓子。
「今の二人をイメージして作ったから、甘さはぜんぜん控えてないけど。レッドさん、甘いのは苦手じゃなかったよね?」
 こくこく、レッドは黙って頷く。相変わらず、手にした林檎よりも真っ赤に頬を染めながら。
 真っ赤な林檎は、村人達の分も用意されていた。サイズは小さい、姫林檎バージョンだけれど。
「プレゼントと一緒に、葱サンタに配ってもらおうと思って」
「ありがとう、みんな喜ぶわ。ほんとに……今年もたくさんお世話になっちゃって、どうやってお礼すれば良いのかしら」
「何が礼だ、水臭いぞワンダさん」
 そう言った十四郎は、既に村人達と酒盛りを始めている。
「十四郎さん、あんまり呑んじゃだめだよ、俺と交代で見張りするって約束だったじゃない。もう、お酒には目がないんだから……」
 あーあ、とライルが溜め息。葱リストとしてはともかく、それ以外はなんか全部心配だ。
「心配するな、これくらい呑んだうちには入らん。それに、なあ。こんなめでたい席で、呑まずにいられるかってんだ、なあ、ワンダさん」
 言いながら、上機嫌でワンダに絡む。
「ほれ、酒……は、だめなのか? ならこれだ。生姜湯。あったまるぞ? 体冷やしちゃいけねぇからな。どうだ、寒くねぇか? もう一枚、毛布かけるか? クッションもあるぞ?」
「やだもぉ、十四郎さんったらレッドより過保護!」
 ワンダはコロコロ笑っている。
「でも、嬉しい……ありがとう」
 そして、傍らのレッドに何やら耳打ち。ひそひそ、こそこそ……こくこく。
「ん、なんだ?」
「あのね、十四郎さん。赤ちゃんが生まれたら、名付け親になってもらえないかしら。レッドもそれが良いって」
「名付け親……俺が!?」
「あ、無理にお願いは出来ないけど……もし、何か良い名前があったら、ね」
「てやんでぇ、何が無理なもんかい! 畜生、嬉しいこと言ってくれる……っ」
 うおぉーーーん!
 十四郎、男泣き再び。
 上空ではプレゼントを配り終えた葱サンタ達によるアトラクション飛行が始まろうとしていた。
「みんな、おいでよ!」
 チップが手を振っている。
「よし、じゃあ行こうか。十四郎さんもライルさんも、一緒に飛ぼう」
 クリスマスの夜空に、大きなハートが浮かぶ。
 それは葱が繋いだみんなの心。どこまでも広がる、愛と友情のしるしだった。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ea0448/レイジュ・カザミ/男性/24歳/ファイター】
【ea0061/チップ・エイオータ/男性/27歳/レンジャー】
【ea5386/来生十四郎/男性/35歳/浪人】
【ea9027/ライル・フォレスト/男性/26歳/レンジャー】
【eb2257/パラーリア・ゲラー/女性/24歳/レンジャー】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 お世話になっております、そしてお久しぶりです。STANZAです。
 この度はご依頼ありがとうございました。
 そして、納品が遅れて申し訳ございません……。

 久しぶりの葱、楽しんで書かせていただきました。
 ご一緒に楽しんでいただければ幸いです。

 では、またいつか機会がありましたら、よろしくお願いいたします。
SnowF!Xmasドリームノベル -
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2011年01月24日

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