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『Xmas Dream【Family】 』
藤村 瑠亥(ga3862)


 聖なる日、はらはらと舞う雪が運ぶのは、小さな家族の暖かな夢。

【プロローグ―日照館―】
 緩やかに続く山道。
 その先には丘があり、ひっそりと時を重ねていく。
 茂る下草は丘全体を覆うが、綺麗に手入れされている箇所もある。そこには小さな石――墓標が三つあり、誰かが定期的に訪れていることを思わせる。
 それは、名も知らぬ者達の墓。
 誰が眠るのか、そして誰が訪れるのか。
 見晴らしの良い丘を、風が薙いでいく。墓標もまた、風に撫でられて静かに眠る。
 道を下れば、山道の前に佇むのは孤児院「日照館」。
 穏やかで暖かい「家族」が――そこに、在る。
 

【瑠亥】
「そういえばもうすぐクリスマスか……リヒトが楽しそうにカレンダーめくってそうだな」
 依頼にて赴いた遠き異国で、日照館に思いを馳せるのは藤村 瑠亥。依頼はまだ数日かかりそうで、帰宅するのは恐らくクリスマス・イヴとなりそうだ。
 ――二人へのプレゼントは、マフラーにしよう。もちろん、包装もしっかりと。
 クリスマスツリーとパーティー用のグッズも買って帰ろうか。
「そのためにも……とっとと終わらせて帰らねば……」
 呟き、瑠亥は武器を構える。眼前の強化人間は決して油断できない相手だ。ましてや、仲間も負傷者が多い。パーティは不利な状況と言えた。
 だが――帰るために。
 瑠亥はその力を、放つ。

 抱えた荷物は、両腕から溢れそうだ。
 買い忘れたものはないか、扉の前で確認する。
 日照館の白い壁はいつもと変わらずそこにあり、瑠亥の帰りを待っていてくれた。
 思い出すのは、遠く離れていた自分がここに帰ってきた日のこと。雨の降りしきる丘で、「お帰り」と誰もが駆けつけてくれた。
 あれから、幾度「ただいま」と言ったことだろう。そして幾度「お帰り」と迎えてもらったことだろう。そういえば、戻った日に自分は「ただいま」と言っただろうか。記憶を辿るが、少し曖昧だ。もし言ってなかったとしても、きっと皆に伝わっていることだろう。
 そしてひとつゆっくりと呼吸をして――扉を、開ける。
「ただい」
 ……ま、と言いかけたとき、視界に月島 瑞希の顔が飛び込んできた。
「今日はクリスマス・イヴだ。わかってるのか」
「……わかっているが」
「わかっているのに、こんな時期にも依頼か」
 瑞希はそう言って、手に持っていた大きな包みを瑠亥が抱えている荷物の上に載せる。瑠亥は荷物のバランスが崩れないように体勢を変えた。そしてそのまま奥へと進み、どさりと降ろす。
 一番上の、瑞希が置いた包みの口が開くと、中に見えるのは木製のツリー飾りと電飾だ。瑞希はそれをひったくるようにして手に取ると、瑠亥が持ち帰ったツリーへと飾り始めた。
「ああ、そうだ……言い忘れた」
 ツリー飾りを持つ手を止め、瑞希は瑠亥を振り返る。そして口を開くが、その瞬間にリヒト・ロメリアが二人の間に割って入った。
「お帰りなさい、瑠亥さん」
「あ、先越された……まあ、うん、お帰り」
 二人が瑠亥にそう言うと、瑠亥は改めて「ただいま」と言葉を紡いだ。


【家族】
 ツリーの飾り付けを、三人で進めていく。瑞希とリヒトは低い位置を、瑠亥は高い位置を。
 大きな、大きな、クリスマスツリー。これを抱えてくるのは大変だったんじゃないかと、リヒトが瑠亥に問うが、しかし瑠亥は首を振るだけだ。
 少しずつ華やかになっていくツリーを見ていると、小さな幸せがそこに灯っていくようにも見えて、それ自体がひとつの家のようでもあった。この日照館も、例えれば大きなツリーで、この飾りは自分達なのだろう。ここで重ねた想い出の数だけ――増えていく。
 ほとんどの飾りと電飾がツリーを彩ると、残るは頂上の星だけとなった。瑠亥と瑞希は無言でリヒトを見つめる。
「ボク?」
 リヒトは目を丸くした。
「てっぺんの星は、年少者の特権」
 瑞希が頷く。リヒトは星を手にとって、ツリーの頂上をじっと見つめた。
「……ボクの身長じゃ届かないよ」
 リヒトが呟いて手の中で星を転がしていると、突然視界が動いた。見る間に遠くなっていく床、踏みつける場所を失ってぶらりと揺れる両脚。
「ほら、これなら届くか?」
 リヒトの耳に響くのは瑠亥の声。そこでやっとリヒトは自分が瑠亥に抱え上げられていることに気がついた。
「……届きそうだな」
 瑞希がリヒトとツリーとの「身長差」を確認して頷く。妙にしっくりくる二人の姿に目を細めるが、このあとリヒトがどんな行動を取るのか容易に想像がついてしまい、すぐに瑠亥から目を逸らした。
 ――大役だけれど。なんだろう、これは現実を突きつけられているみたいだ。
 リヒトは眉を寄せて星を見つめる。だが、瑠亥がこうして抱え上げてくれているのだから、今は大人しく星を飾ろう。仕方ないから。
 仕方ない……けれど、でも。
「……これで、よし」
 そしてリヒトは星を飾り終えると、右足を大きく振り抜いて瑠亥の肩を軽く蹴り飛ばした。
「機嫌が悪いのか?」
 瑠亥はそっとリヒトを降ろすが、リヒトはぷいっと顔を背けて何も言わない。一体何が悪かったのだろうか。瑠亥は首を傾げた。
「……八つ当たりか」
 瑞希は二人に聞こえないように呟く。案の定リヒトは少しだけすっきりしたような顔をしており、軽く右足を振っていた。まさかまだ蹴り足りないということはないだろうが――。
 リヒトには瑞希の呟きがしっかりと聞こえていた。そう、八つ当たり以外の何ものでもない。だが、それでもいいのだ。瑠亥は気づいているかどうかわからないが、しかし自分が蹴ったことに対して怒りはしない。必要以上に問い詰めてはこない。
 自分の感情を受け止めてくれるのは、心地良い。
「ツリーも完成したし、パーティーを始めよう」
 そして何事もなかったようにリヒトは言う。瑠亥と瑞希は同時に頷き、三人で食事の準備を開始した。

「メリークリスマス」
 リヒトがクラッカーを放ち、クリスマスの曲が流される。
 テーブルに並ぶ料理は市販のチキンやサラダ、オードブル。これはいつものことだけれど、クリスマスという空気がそれらを何よりも美味しいご馳走へと変化させる。
 三人はノンアルコールのシャンパンを軽く口に含む。気分だけでも酔うことができれば充分だ。家族で過ごすクリスマスなのだから、そこにアルコールは必要ないのかもしれない。
 瑠亥の依頼の話や、留守の間の瑞希とリヒトの様子。そんな他愛もない会話が、幸せな瞬間を作り上げて重ねていく。
「……クリスマスだから特別」
 そう言いながら、瑞希は飼い猫のノエルにチキンをほぐして分けている。その言動に、今日は特別なのだと誰もが再認識する。チキンを頬張るノエルもまた、家族の一員であり、共に過ごせるこの瞬間がたまらなく暖かい。
 食事が終われば、クリスマスケーキ。
「コーヒーを淹れてくる」
 瑞希がそう言って席を立つ。その間に、瑠亥はリヒトと一緒にケーキにロウソクを立て始めた。十本のロウソクを少し変則的に立てる――線で結べば星形になるように。
 ケーキの中央には人形が三つ。背の高いものと、小さなものと、その中間くらいのもの。背の高いものはやや後ろにあり、両手を広げて他の二つを包み込むような感じで立っている。
「家族、か」
 二人は同時に呟き、互いの顔を見る。そしてコーヒーを淹れている瑞希の後ろ姿を。
 兄、妹、家族。三人で静かに築き上げてきた時間は、これからも積み重なっていく。
「お待たせ」
 コーヒーの香りと共に、瑞希が戻って来た。トレイを置いて、それぞれの前にコーヒーカップを置いて。そしてナイフを手にとって、静かにケーキを切り分けていく。
 だが、中央の人形を引き離すようなことはしない。少しだけずらして、人形達を残したまま六等分。一切れずつ皿に取り分けられると、残りの三切れを三人で見つめた。
「人形、どうする?」
 瑞希が言う。マジパンの類ではなく、プラスチックでできた飾りだ。通常なら処分するか取っておくかの選択肢があるが、その選択肢はほぼ無いに等しかった。
 処分するという選択はあり得ない。リヒトがそっと手に取って、クリームを丁寧に拭き取る。そして壁際の棚の上にちょこんと並べた。
「ここで、いいよね?」
 並べてから、確認を取る。瑠亥と瑞希は無言で頷き、暫く人形達を見つめていた。

「プレゼント交換しよう」
 かちゃりとコーヒーカップを置き、リヒトが二人の顔を交互に見る。
 ケーキも食べ終え、コーヒーカップも空になった。食べきれなかったケーキは冷蔵庫に入れて、明日また。三人はそれぞれに用意したプレゼントをテーブルに置き、言葉を交わすことなく交換する。瑠亥は手元に来たプレゼントを確認しながら、ちらりと二人の様子を盗み見た。
 二人は揃いのマフラーを巻いて、顔を見合わせている。歓声だとか満面の笑みだとか、そういったものは見られないが、喜んでくれていることは彼女達の様子からすぐにわかった。
 さらにリヒトは瑞希からもらった大きなくまのぬいぐるみも抱きしめており、瑞希は早速パイプ人形で香を焚く。
「……ん、暖かい」
 リヒトがマフラーにぽっふりと顔を埋めた。瑞希はマフラーを外して丁寧に畳み、優しく何度も撫でて手のひらで感触を楽しんでいるようだ。
「気に入ってくれたようでよかった」
 瑠亥は言いながら、手元の包みを開けていく。
「読書用ライト……?」
 瑞希からのプレゼントは、小さな読書用ライト。本にクリップで取り付けるタイプで、持ち運びにも便利だ。
 ――俺の目を、気遣ってくれたのか。
 瑠亥はそこに込められた意味に気づき、瑞希の顔をじっと見つめる。しかし瑞希は何を言うでもなく、リヒトからのプレゼントを眺めていた。
 リヒトからのプレゼントは、パイプ人形と中に入れるお香がセットになったものと、置物タイプの小さな鳩時計だ。どちらもドイツに縁のあるものであり、いかにもリヒトらしい。
「ん、ありがとう。大切にするよ」
 瑠亥の口の端が、微かに緩む。
 ライトで手元の本を照らし、パイプ人形の口から出る香にリラックスして読書に没頭しよう。きっと時間が経つのを忘れてしまうだろうが、ちゃんと鳩時計が時間を教えてくれる。読書をやめて部屋の窓から外を見れば、庭にはマフラーを巻いた二人がいて、「そろそろ出かける時間じゃないのか」と窓に向かって声をかけてくれるのかもしれない。
 そんなことをつらつらと想像してみる。
「何考えてるんだ」
 瑞希が首を傾げる。
「なんでもない」
 瑠亥はそう言って、未だマフラーに顔を埋めてぬいぐるみを抱きしめているリヒトへと視線を流した。

 まだ、夜は長い。
 満腹になって、プレゼントも交換して。だが、これで終わりではない。
 先ほどから流れているクリスマスソングはテンポの良い曲が増えてきて、それに合わせるようにリヒトが「ゲームしよう」とボードゲームを用意する。
「めいっぱい、楽しもう」
 そう言うリヒトは、人一倍負けず嫌いだ。きっとゲームも盛り上がることだろう。
 三人とも、それほど激しく騒ぐほうではない。だけれど、今日はいつもよりも「騒いで」いた。楽しいと――心の底から湧き起こる感情。誰かが――恐らくは瑞希とリヒトが――疲れて眠ってしまうまで続くであろうクリスマスパーティー。
 ツリーの星は、来年もきっとリヒトが飾る。ケーキの前のコーヒーを淹れるのは瑞希で、そして眠ってしまった妹達を寝室に運ぶのは瑠亥。
 そんなクリスマスが、続けばいい。
 いつかそれぞれに共に過ごす相手ができて、それぞれに生きていく日が来るかもしれないけれど。それでも、それでも――。
「誰からスタートするか、どうやって決めようか」
「俺はダイスでいいんじゃないかと思うが」
「じゃ、ボクから振るね」
 そして三人は額を付き合わせ、ゲームを始めた。


【エピローグ―日照館―】
 寝室の窓、漏れる明かりに揺れる影。
 背の高い影は、毛布に包まれた妹達を順にリビングから抱いてきて、ベッドに降ろす。
 眠ってしまった、大切な家族。これからも守りたいと思える妹達を。
 暖かい腕から少しひやりとするシーツに降ろされた影達は、兄の腕の感触を夢の中で抱きながらクリスマスの夢に落ちる。
「お休みだな」
 妹たちの頭を撫で、兄は思う。
 不器用ながらできるだけ優しくありたいと思っている下の妹は、しっかりしているようで子供っぽいところがあると。逆に上の妹は、何だかんだでやはりまだ大人ではないと。
 そして当の兄本人も決して器用なほうではないけれど、心の底から妹たちを大切に思っている。
 妹たちは夢を見る。
 それぞれの過去を乗り越えて、こうして家族になった幸福を。兄の温もりは決して失われないのだと――どこか祈るように信じながら。
 孤児院「日照館」。日が照る館。
 その名の通りに、幸せな家族が住む「家」。
 夜も更けた窓の外では、ちらちらと雪が舞い始めた。

 ――メリークリスマス


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ga3862 / 藤村 瑠亥 / 男性 / 22歳 / ペネトレーター】
【gb1411 / 月島 瑞希 / 女性 / 18歳 / スナイパー】
【gb3852 / リヒト・ロメリア / 女性 / 14歳 / フェンサー】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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■藤村 瑠亥様
お世話になっております、そして改めまして初めまして。佐伯ますみです。
「SnowF! Xmasドリームノベル」、お届けいたします。
今回、初めて書かせていただきますので、依頼の作戦卓や兵舎などを何度も確認してイメージを固め、そして色々なものを盛り込んで書かせていただきました。
日照館、そしてPC様もイメージに合っていることを祈るばかりです。もし、イメージと違う等ありましたら、遠慮無くリテイク申請してくださると幸いです。
共通部分もありますが、皆様それぞれに違う視点での描写をしている箇所が多数あります。
藤村様は家族を大きく包み込む「兄」として、その優しさと強さをイメージして書かせていただきました。少しでも表現できているといいのですが……。
他のお二人のノベルとも比べてみてくださいね。
「日照館」、とても素敵な「家」だと感じました。
そんな家でのクリスマスを書かせてくださり、本当にありがとうございました!
佐伯にとって、とても強く心に残るものとなりました。

この度はご注文くださり、誠にありがとうございました。
とても楽しく書かせていただきました……!
ご発注時には色々とお手数をおかけいたしました。無事にこうしてお届けできてホッとしております。
また、お届けが若干遅くなってしまい、大変申し訳ありませんでした。
インフルエンザも猛威を振るい始めますので、お体くれぐれもご自愛くださいませ。
2011年 1月某日 佐伯ますみ
SnowF!Xmasドリームノベル -
佐伯ますみ クリエイターズルームへ
CATCH THE SKY 地球SOS
2011年01月24日

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