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『Xmas Dream【Family】 』
月島 瑞希(gb1411)


 聖なる日、はらはらと舞う雪が運ぶのは、小さな家族の暖かな夢。

【プロローグ―日照館―】
 緩やかに続く山道。
 その先には丘があり、ひっそりと時を重ねていく。
 茂る下草は丘全体を覆うが、綺麗に手入れされている箇所もある。そこには小さな石――墓標が三つあり、誰かが定期的に訪れていることを思わせる。
 それは、名も知らぬ者達の墓。
 誰が眠るのか、そして誰が訪れるのか。
 見晴らしの良い丘を、風が薙いでいく。墓標もまた、風に撫でられて静かに眠る。
 道を下れば、山道の前に佇むのは孤児院「日照館」。
 穏やかで暖かい「家族」が――そこに、在る。
 

【瑞希】
「もうすぐクリスマスなのに、瑠亥は依頼か」
 日照館のリビングでそう呟く月島 瑞希は、カレンダーを見つめてクリスマスまでの日数をカウントしている「妹」――リヒト・ロメリアを眺めていた。
 藤村 瑠亥のことだから、クリスマスには帰ってくるはずだ。わかってはいるが、少しだけ心配になる。もし帰ってこなかったら、それは彼に何かがあったということに他ならないからだ。今、彼が赴いている依頼は少し危険なものだという話を聞いている。
「……帰ってくるって信じているが」
 少しだけ、祈らずにはいられなかった。
 彼が姿を消した日と、そして戻ってきた日のことは今もはっきりと思い出せるのだから。
 しかしここでぐだぐだと考えていても仕方がない。クリスマスパーティーの準備でもして、彼の帰りを待つ方がいいだろう。
「リヒト、買い物にいこう」
 未だカレンダーをめくっているリヒトを誘い、瑞希はコートを羽織る。
 そうだ、プレゼントも調達しておこう。リヒトには大きなくまのぬいぐるみ。瑠亥には、読書用のライトでも。
「準備できたよ」
 リヒトの外出準備が完了し、そしてふたりは連れ立って外に出た。

 クリスマス・イヴ。
 瑠亥は必ず帰ってくるはずだ。
 瑞希とリヒトが窓からこっそりと外を見ていると、両腕から溢れんばかりの荷物とクリスマスツリーを抱えた瑠亥が帰ってきた。
 扉を開けて彼が最初に言う言葉の見当はついている。だが、その前に――瑞希は小さく頷いた。
 そして――扉が、開けられる。
「ただい」
 ……ま、と瑠亥が言いかけたとき、瑞希はずいっと詰め寄って彼の言葉の上に自分の言葉を重ねた。
「今日はクリスマス・イヴだ。わかってるのか」
「……わかっているが」
「わかっているのに、こんな時期にも依頼か」
 瑞希はそう言って、手に持っていた大きな包みを瑠亥が抱えている荷物の上に載せる。瑠亥は荷物のバランスが崩れないように体勢を変えた。そしてそのまま奥へと進み、どさりと降ろす。
 一番上の、瑞希が置いた包みの口が開くと、中から覗くのは木製のツリー飾り。木製のほうが暖かみがあって可愛いと思い、用意したのだ。そして、電飾も。
 瑞希はそれをひったくるようにして手に取ると、瑠亥が持ち帰ったツリーへと飾り始めた。
「ああ、そうだ……言い忘れた」
 ツリー飾りを持つ手を止め、瑞希は瑠亥を振り返る。そして口を開くが、その瞬間にリヒトが二人の間に割って入った。
「お帰りなさい、瑠亥さん」
「あ、先越された……まあ、うん、お帰り」
 だが、それでいい。誰が最初に言うという決まりがあるわけじゃない。「お帰り」と言えることが大切で、そして「ただいま」と言ってもらえることが嬉しいのだから。
 そして瑠亥も改めて「ただいま」と言葉を紡いだ。


【家族】
 ツリーの飾り付けを、三人で進めていく。瑞希とリヒトは低い位置を、瑠亥は高い位置を。
 大きな、大きな、クリスマスツリー。これを抱えてくるのは大変だったんじゃないかと、リヒトが瑠亥に問うが、しかし瑠亥は首を振るだけだ。
 少しずつ華やかになっていくツリーを見ていると、小さな幸せがそこに灯っていくようにも見えて、それ自体がひとつの家のようでもあった。この日照館も、例えれば大きなツリーで、この飾りは自分達なのだろう。ここで重ねた想い出の数だけ――増えていく。
 ほとんどの飾りと電飾がツリーを彩ると、残るは頂上の星だけとなった。瑠亥と瑞希は無言でリヒトを見つめる。
「ボク?」
 リヒトは目を丸くした。
「てっぺんの星は、年少者の特権」
 瑞希が頷く。リヒトは星を手にとって、ツリーの頂上をじっと見つめた。
「……ボクの身長じゃ届かないよ」
 リヒトが呟いて手の中で星を転がしていると、突然視界が動いた。見る間に遠くなっていく床、踏みつける場所を失ってぶらりと揺れる両脚。
「ほら、これなら届くか?」
 リヒトの耳に響くのは瑠亥の声。そこでやっとリヒトは自分が瑠亥に抱え上げられていることに気がついた。
「……届きそうだな」
 瑞希がリヒトとツリーとの「身長差」を確認して頷く。妙にしっくりくる二人の姿に目を細めるが、このあとリヒトがどんな行動を取るのか容易に想像がついてしまい、すぐに瑠亥から目を逸らした。
 ――大役だけれど。なんだろう、これは現実を突きつけられているみたいだ。
 リヒトは眉を寄せて星を見つめる。だが、瑠亥がこうして抱え上げてくれているのだから、今は大人しく星を飾ろう。仕方ないから。
 仕方ない……けれど、でも。
「……これで、よし」
 そしてリヒトは星を飾り終えると、右足を大きく振り抜いて瑠亥の肩を軽く蹴り飛ばした。
「機嫌が悪いのか?」
 瑠亥はそっとリヒトを降ろすが、リヒトはぷいっと顔を背けて何も言わない。一体何が悪かったのだろうか。瑠亥は首を傾げた。
「……八つ当たりか」
 瑞希は二人に聞こえないように呟く。案の定リヒトは少しだけすっきりしたような顔をしており、軽く右足を振っていた。まさかまだ蹴り足りないということはないだろうが――。
 リヒトには瑞希の呟きがしっかりと聞こえていた。そう、八つ当たり以外の何ものでもない。だが、それでもいいのだ。瑠亥は気づいているかどうかわからないが、しかし自分が蹴ったことに対して怒りはしない。必要以上に問い詰めてはこない。
 自分の感情を受け止めてくれるのは、心地良い。
「ツリーも完成したし、パーティーを始めよう」
 そして何事もなかったようにリヒトは言う。瑠亥と瑞希は同時に頷き、三人で食事の準備を開始した。

「メリークリスマス」
 リヒトがクラッカーを放ち、クリスマスの曲が流される。
 テーブルに並ぶ料理は市販のチキンやサラダ、オードブル。これはいつものことだけれど、クリスマスという空気がそれらを何よりも美味しいご馳走へと変化させる。
 三人はノンアルコールのシャンパンを軽く口に含む。気分だけでも酔うことができれば充分だ。家族で過ごすクリスマスなのだから、そこにアルコールは必要ないのかもしれない。
 瑠亥の依頼の話や、留守の間の瑞希とリヒトの様子。そんな他愛もない会話が、幸せな瞬間を作り上げて重ねていく。
「……クリスマスだから特別」
 そう言いながら、瑞希は飼い猫のノエルにチキンをほぐして分けている。その言動に、今日は特別なのだと誰もが再認識する。チキンを頬張るノエルもまた、家族の一員であり、共に過ごせるこの瞬間がたまらなく暖かい。
 食事が終われば、クリスマスケーキ。
「コーヒーを淹れてくる」
 瑞希がそう言って席を立つ。
 コーヒーを淹れながら、瑞希は二人がケーキにロウソクを立てている姿をちらりと見やる。
 兄と妹は、十本のロウソクを少し変則的に立てる――線で結べば星形になるように。
 ケーキの中央には人形が三つ。背の高いものと、小さなものと、その中間くらいのもの。背の高いものはやや後ろにあり、両手を広げて他の二つを包み込むような感じで立っていた。瑞希はそれを思い出しながら、ぽつりと呟いた。
「家族、か」
 兄、妹、家族。三人で静かに築き上げてきた時間は、これからも積み重なっていく。
「お待たせ」
 コーヒーを淹れ終わると、瑞希はトレイをテーブルまで運んだ。それぞれの前にコーヒーカップを置くとナイフを手にとり、静かにケーキを切り分け始めた。
 だが、中央の人形を引き離すようなことはしない。少しだけずらして、人形達を残したまま六等分。一切れずつ皿に取り分けられると、残りの三切れを三人で見つめた。
「人形、どうする?」
 瑞希が言う。マジパンの類ではなく、プラスチックでできた飾りだ。通常なら処分するか取っておくかの選択肢があるが、その選択肢はほぼ無いに等しかった。
 処分するという選択はあり得ない。リヒトがそっと手に取って、クリームを丁寧に拭き取る。そして壁際の棚の上にちょこんと並べた。
「ここで、いいよね?」
 並べてから、確認を取る。瑠亥と瑞希は無言で頷き、暫く人形達を見つめていた。

「プレゼント交換しよう」
 かちゃりとコーヒーカップを置き、リヒトが二人の顔を交互に見る。
 ケーキも食べ終え、コーヒーカップも空になった。食べきれなかったケーキは冷蔵庫に入れて、明日また。三人はそれぞれに用意したプレゼントをテーブルに置き、言葉を交わすことなく交換する。
 瑞希の手元に来たプレゼントは、瑠亥からはマフラーだ。家族を大切にする彼らしい選択に思える。首に巻けばとても暖かくて、彼の心がそのまま現れているようだ。
 リヒトも同様のことを感じているようで、やはりマフラーを首に巻いてこちらを見ている。そして腕には自分が渡したぬいぐるみを抱きしめていた。
「ちょっと子供っぽかったかな……? でも柔らかくって手触りが良くて、そうやって抱きしめていると気持ちがいいと思うんだ」
「……ん、暖かい」
 そう言って、マフラーとぬいぐるみに浸るように顔を埋め、ぬいぐるみを何度も撫でるリヒト。
 彼女からのプレゼントは、パイプ人形と中に入れるお香がセットになったものと、置物タイプの小さな鳩時計だ。どちらもドイツに縁のあるものであり、いかにもリヒトらしい。これで香を焚いたら、優しい香りに心落ち着くことだろう。リヒトのさりげない気遣いと優しさに、それだけで嬉しくなる。
 瑞希は早速パイプ人形で香を焚くとマフラーを外して丁寧に畳み、優しく何度も撫でて手のひらで感触を楽しみ始めた。そしてプレゼントの包装を開けていく瑠亥をじっと見つめる。
 用意した読書用ライトは、本にクリップで取り付けるタイプで、持ち運びにも便利だ。
 読書を好む瑠亥だが、片目では読みにくそうだと常々感じていた。これで少しでも読みやすくなるといいのだが。その思いに気づいたのか、彼は瑞希の顔をじっと見つめる。しかし瑞希は目を逸らし、リヒトからのプレゼントを眺めていた。「ん、ありがとう。大切にするよ」という彼の言葉を受け止めながら。
 しかし、瑠亥の口の端が微かに緩んだことに気づき、再び彼へと視線を向ける。
「何考えてるんだ」
 瑞希が首を傾げる。
「なんでもない」
 瑠亥はそう言って、未だマフラーに顔を埋めてぬいぐるみを抱きしめているリヒトへと視線を流した。

 まだ、夜は長い。
 満腹になって、プレゼントも交換して。だが、これで終わりではない。
 先ほどから流れているクリスマスソングはテンポの良い曲が増えてきて、それに合わせるようにリヒトが「ゲームしよう」とボードゲームを用意する。
「めいっぱい、楽しもう」
 そう言うリヒトは、人一倍負けず嫌いだ。きっとゲームも盛り上がることだろう。
 三人とも、それほど激しく騒ぐほうではない。だけれど、今日はいつもよりも「騒いで」いた。楽しいと――心の底から湧き起こる感情。誰かが――恐らくは瑞希とリヒトが――疲れて眠ってしまうまで続くであろうクリスマスパーティー。
 ツリーの星は、来年もきっとリヒトが飾る。ケーキの前のコーヒーを淹れるのは瑞希で、そして眠ってしまった妹達を寝室に運ぶのは瑠亥。
 そんなクリスマスが、続けばいい。
 いつかそれぞれに共に過ごす相手ができて、それぞれに生きていく日が来るかもしれないけれど。それでも、それでも――。
「誰からスタートするか、どうやって決めようか」
「俺はダイスでいいんじゃないかと思うが」
「じゃ、ボクから振るね」
 そして三人は額を付き合わせ、ゲームを始めた。


【エピローグ―日照館―】
 寝室の窓、漏れる明かりに揺れる影。
 背の高い影は、毛布に包まれた妹達を順にリビングから抱いてきて、ベッドに降ろす。
 眠ってしまった、大切な家族。これからも守りたいと思える妹達を。
 暖かい腕から少しひやりとするシーツに降ろされた影達は、兄の腕の感触を夢の中で抱きながらクリスマスの夢に落ちる。
「お休みだな」
 妹たちの頭を撫で、兄は思う。
 不器用ながらできるだけ優しくありたいと思っている下の妹は、しっかりしているようで子供っぽいところがあると。逆に上の妹は、何だかんだでやはりまだ大人ではないと。
 そして当の兄本人も決して器用なほうではないけれど、心の底から妹たちを大切に思っている。
 妹たちは夢を見る。
 それぞれの過去を乗り越えて、こうして家族になった幸福を。兄の温もりは決して失われないのだと――どこか祈るように信じながら。
 孤児院「日照館」。日が照る館。
 その名の通りに、幸せな家族が住む「家」。
 夜も更けた窓の外では、ちらちらと雪が舞い始めた。

 ――メリークリスマス


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【gb1411 / 月島 瑞希 / 女性 / 18歳 / スナイパー】
【ga3862 / 藤村 瑠亥 / 男性 / 22歳 / ペネトレーター】
【gb3852 / リヒト・ロメリア / 女性 / 14歳 / フェンサー】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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■月島 瑞希様
お世話になっております、そして初めまして。佐伯ますみです。
「SnowF! Xmasドリームノベル」、お届けいたします。
今回、初めて書かせていただきますので、依頼の作戦卓や兵舎などを何度も確認してイメージを固め、そして色々なものを盛り込んで書かせていただきました。
日照館、そしてPC様もイメージに合っていることを祈るばかりです。もし、イメージと違う等ありましたら、遠慮無くリテイク申請してくださると幸いです。
共通部分もありますが、皆様それぞれに違う視点での描写をしている箇所が多数あります。
月島様は「兄」と「妹」を暖かく見守る「妹」であり「姉」であり、お二人の中央で手を繋いでいるようなイメージで書かせていただきました。少しでも表現できているといいのですが……。
他のお二人のノベルとも比べてみてくださいね。
「日照館」、とても素敵な「家」だと感じました。
そんな家でのクリスマスを書かせてくださり、本当にありがとうございました!
佐伯にとって、とても強く心に残るものとなりました。

この度はご注文くださり、誠にありがとうございました。
とても楽しく書かせていただきました……!
また、お届けが若干遅くなってしまい、大変申し訳ありませんでした。
インフルエンザも猛威を振るい始めますので、お体くれぐれもご自愛くださいませ。
2011年 1月某日 佐伯ますみ
SnowF!Xmasドリームノベル -
佐伯ますみ クリエイターズルームへ
CATCH THE SKY 地球SOS
2011年01月24日

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