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『Winter Season 〜宵守・桜華〜 』
宵守・桜華4663

 深々と降り積もる雪。
 静かな世界に広がる銀色の景色。

――雪景色に染まったこの場所で、あなたは誰と、どんな風に過ごしますか?


 * * *


「いや、だから、このままだと俺の命が――」
 新年を迎え、清々しい日々が続く中、宵守・桜華は携帯電話を片手に、必死に言葉を紡いでいた。
 電話の向こうにいるのは、執事&メイド喫茶『りあ☆こい』の店員――蜂須賀・菜々美だ。
 彼女は不機嫌そうに一言も言葉を返さずに、桜華の声を聞いている。
 だがそれでも良かった。
 何せ、この段階で相手が携帯に出たこと自体が奇跡なのだ。
 桜華はこの数日、必死にメールや電話を続けた。
 その上、彼女の働く喫茶店まで足を運び、それでも聞いてくれなければ、店が終わるのを待ってまで話を聞いて貰おうと努力した。
 そして今、その努力が実り話を聞く気になってくれている。
 となれば、この必死具合は当然のもの。誰が何と言おうと、この期を逃す手は無い。
「だからな、蜂須賀……俺――イヤ、僕、『一緒に初詣に行って貰えないと消滅してしまう病』を負って――」
『そんな病あるわけないだろ』
 ピシャリと否定された声に、桜華の目が横に逸れる。
 この場に相手がいれば、一目で嘘だとバレただろう。
 だが、相手はこの場にいない。
 ならばどんな口から出任せでもドンと来いだ。
「蜂須賀は俺の体を見たことがないから言えるんだ! この身に刻まれた呪いの紋様を見てもまだ、そんなことが言えるのか!?」
『……呪いの紋様、だと?』
「そうだとも! この紋様を見せてやれないのは実に残念だが、これも初詣に行けば治るかもしれない!」
『……』
 言いきって言葉を切った桜華に、菜々美は受話器の向こうで黙り込んでしまった。
 何かを考えるように沈黙が走るが、これこそまさに相手が悩んでいる証拠。
 要は脈があるという事だ。
(さあ届け、俺の思い! 侘しい正月に一時の華を!)
 心の中で神様に祈りを捧げ待つこと数分。
 彼の祈りが届いたのだろうか。
 かなりな沈黙の後に、長く息を吐く音が聞こえた。
 そして……
『……わかった、行ってやろう』
「うお!? マジか!!!」
『ただし』
 喜んだのも束の間、何か条件があるらしい相手に、桜華の首が傾げられる。
『紋様の件、嘘ならタダじゃおかないぞ』
 そう言い残し、携帯の通話が切られた。
 ツー、ツー……そう響く音を聞きながら、口元が引き攣る。
 菜々美の『タダじゃおかない』は、本当にタダじゃおかないから怖い。
 だが約束を取り付けることには成功したのだ。
 それさえ成功できれば、あとは潤い溢れる初詣に行くだけ。
「まあ、元気そうで良かったぜ」
 呟き思い出すのは、先日の出来事だ。
 菜々美は菜々美なりに多くを抱えている。
 そしてそれを多かれ少なかれ見てきた身としては、心配せずにいられない。
「この間も、窮奇(きゅうき)とか言う奴の所為で色々あったしな。結局は手を貸すくらいしかできないが、少しでも気分転換になればな……」
 恥ずかしくてそんなことを本人に言えるわけがない。
 だからこそ、この本音は胸の内に仕舞っておく。
 それにこんなことを口にすれば、菜々美は更に外出することを良しとはしないだろう。
 だからこれは言わなくて良い事なのだ。
「さてと、そうと決まれば全力でおちゃらけるかな!」
 彼はそう言うと、窓の外に視線を向けた。
 外は気持ち良いくらいの晴天だ。
 こんな日には外に出るだけでも気持ちがよくなるというもの――と、そこまで思って気付いたことがあった。
「……待ち合わせ場所と時間、決めて無かったか」
 そう呟くと、彼はいそいそとメールを送信したのだった。

 * * *

 初詣の神社は、人、人、人のオンパレード。
 そんな印象を受ける物だが、桜華と菜々美が訪れた神社は、全く人気のない寂しい場所だった。
「相変わらず人気のない神社だな」
 そう言って見回した雪の降り積もった神社は、何度も足を運んだことのある場所だ。
 実験と称して、初めて菜々美の術を受けた場所であり、何度も悪鬼と呼ばれる存在と戦った場所でもある。
 正直、初詣には不釣り合いなほど嫌な因縁が付きまとう場所だが、ここを選んだのは菜々美だ。
 何を考え、何を思って選んだのかはわからないが、彼女が選んだのなら足を運ぶ以外に術は無い。
「それで?」
 菜々美は本堂の前で足を止めると、腕を組んで桜華を振り返った。
 その声と仕草に桜華の首が傾げられる。
「それでって、何がだ?」
 問いの意味が分からない。
 そんな相手に彼女の眉間に皺が刻まれる。
 今のやり取りで、若干不機嫌になったようだ。
「貴様が初詣に来たいと言ったのだろう」
「いや、そうなんだが……」
 どう考えても相手の言いたいことが伝わってこない。
 いくら数多の知識を持つ桜華でも、こう脈略が無くては考えも追いつかない。
 すっかり考え込んでしまった彼を見て、菜々美は飽きられたように息を吐くと、ポツリと呟いた。
「……何をすればいい」
――何をすればいい。
 意外な問いに、桜華の目が瞬かれる。
「何って……なんだ、あんなことやこんなことして――ぐあッ?!」
 鳩尾に喰らわされた一撃に一瞬息が詰まる。
 慌てて腕で抑えて蹲ると、菜々美の冷ややかな視線が突き刺さった。
「馬鹿か貴様は。初詣とは何をする場かと聞いているんだ。貴様の低能な考えなど聞いてはいない」
 涙目で見上げれば、完全に不機嫌な顔が飛び込んでくる。
 その顔を見ながら苦笑すると、彼はハッと菜々美を見た。
「なん、だと? 蜂須賀……初詣を、知らないのか?」
 驚愕の相手に菜々美の目が逸らされる。
 これはまぎれもない肯定だ。
 彼は再度目を瞬くと、ずれた眼鏡を指で押し上げた。
 その上で、自らの知識を引っ張り出す。
「あー……初詣ってのは、年が明けてから初めて神社とかに参拝することだ。一年の感謝を捧げたり、新年の無事と平安を祈願したりする」
「一年の感謝と新年の祈願だと? そんなことをして何が楽しい」
 相変わらずというかなんというか。
 菜々美には一般常識というものが欠けている節がある。
「やってみればわかるだろ」
 そう言うと、桜華は菜々美の腕を掴んで本堂の前に引っ張り出した。
「お、おい! 私はそんな訳のわからない行事に参加など――」
「適当に願っとけば良いんだって。叶ったら万々歳な願い事、あるだろ?」
 肩を竦めて視線だけを向ける。
 その目に、瞳を見開く姿が見えた。
 その顔を見れば、だいたい何を思ったかは想像がつく。
 先日までのおかしな出来事。そして彼女が滅するべきと豪語した相手――それらが、彼女の願いのすべてなのだろう。
 桜華はそんな彼女から視線を外すと、ポケットを探った。
「まずは賽銭を入れる……確か、小銭があったはずだな」
 言って賽銭箱に放られる小銭が、カラカラと軽やかな音を響かせる。
 それに続いて鈴の音が響くと、桜華はわざとらしいくらい、大きく手を叩いて見せた。
「金は2人分。鐘も倍鳴らした。これで蜂須賀も願掛けが出来るぜ」
 ニッと笑って目を閉じると、隣でも同じように動く気配がする。
 静かな時間が流れ、優しい木々の根が二人の耳を打った。
 そして全ての願いを捧げ終えると、桜華はゆっくりと顔を上げて隣を見た。
「ぅお!? 蜂須賀、どこに――」
 先ほどまでいたはずの相手が消えている。
 慌てて振り返った彼の目に、雪に埋もれた境内を見詰める菜々美の姿が飛び込んできた。
 その姿はどこか寂しげで、覇気がない。
 桜華は自らの髪をかき乱すと、ゆっくりその姿に歩み寄った。
「蜂須賀?」
 かけられる声に、思いのほかすんなりと彼女は振り返ったのだが、逆光の所為でその表情は伺えない。
 ただこちらをじっと見ている気配だけする。
「貴様がどんなつもりで私を初詣などに誘ったのかは知らんが、私の願いはただ1つ――」
 菜々美はそう言葉を切ると、スッと右手を上げた。
 そして人差し指を彼の額に添えて、銃の形をとる。
 その仕草に桜華の眉が上がるが、菜々美の言葉がまだ終わっていない。
 静かにその仕草を受け止める彼に、彼女の唇が少しだけ笑みを刻んだ気がした。
「私の願い、それは窮奇を滅することだ。これこそが、私の願いであり使命でもある」
「そいつは良く知ってるさ――で、これは何のつもりだ?」
 そう言って桜華の手が、額に添えられた手を指さす。
――何のつもりだ。
 そう言葉を口にするのは、これで何度目だろう。
 去年はことあるごとに、この言葉を口にした気がする。そしてその時は、本物の銃が彼の額に添えられていた。
 だが、そのとき額に添えられていた銃は、今現在彼女の手元にはない。
 それでも彼女は中指を動かすと、引き金に指を掛ける真似をしてきた。
「‥‥‥貴様は何を願った。初詣に誘う以上、何か願うことがあってきたのだろう?」
 静かな問いに、桜華の口角が上がる。
 勿論、願うことがある。
 そしてそれを隠すつもりもない。
「そりゃ、心から笑える様になりますように――だよ」
 言って意味深に笑んで見せる。
 この場合、『誰が』とは言わない辺りが彼らしい。
 その声に、菜々美は一瞬だけ苦笑を浮かた。
 そして――
「――九字法『者』、不動明王の印」
「へ?」
 聞き覚えのある声に、素っ頓狂な声が上がる。
 その次の瞬間、彼に凄まじい勢いで電流が走った。
「あだだだだだだ!!!」
「ふむ、やはり媒体が無いとこの程度か」
 身を捩って転げる桜華に、菜々美の目が自らの手に落ちた。
「ちょっと待てー!!!」
 今まで散々実験体にされてきたが、この場面でもそれをするとはどういうことか。
 しかも、彼女の言う『媒体』があったら、今の行為で命が半分吹っ飛んでしまう。
 だが当の本人は、何事も無かったかのように桜華を振り返ると、ニッと笑った。
「紋様が嘘だった罰だ。貴様の他に邪気など何処にもない」
 他の者が聞けば失礼な言葉だが、これは的を射ている。
 そして桜華もそれを自覚しており、直ぐに取れた痺れに首筋を摩ると、苦笑を滲ませた。
「さて、初詣は終わりか? なら私は店に行く」
「おいおい、新年早々仕事か? 折角の年明けだぜ。ここはパーッと遊ぼうぜ!」
 そう言って両手を広げてみせるが、菜々美は我関せず歩いてゆく。
 その姿に慌てて追いかけようとしたところで、彼女の足が止まった。
「相変わらず喧しい男だ」
 呆れたようなそんな声に桜華は「今更でしょ」と言葉を返す。
 これに対して菜々美は「確かに」と笑うと彼を振り返った。
「賽銭の礼をする。ついて来い」
 そう言うと、菜々美は前を向いて歩き出した。
 声は相変わらずそっけなく、態度も変わらずそっけない。
 だが桜華は満足そうに笑みを浮かべると、彼女の後に続いた。
「これはこれで良し……そんなとこかね」
 前を向く瞬間に見えた笑み。
 それはほんの一瞬だったが、明るいものに見えたから。

―――END...



登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 4663 / 宵守・桜華 / 男 / 25歳 / フリーター・蝕師 】

登場NPC
【 蜂須賀・菜々美 / 女 / 16歳 / 「りあ☆こい」従業員&高校生 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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こんにちは、朝臣あむです。
このたびは『SnowF!新春!初夢(ドリーム)ノベル』のご発注、有難うございました。
宵森PCは大変動かしやすいPC様で、毎度かなり好き勝手に動かさせて頂いております。
今回もだいぶ好き勝手に動かさせて頂いておりますが、如何でしたでしょうか?
相変わらず、ツンのみでデレのない菜々美さんですが、楽しんで頂けたなら幸いです。

もし不備、気になる点等がありましたらご遠慮なくリテイクしてください。
この度はご発注頂き、本当に有難うございました。

SnowF!新春!初夢(ドリーム)ノベル -
朝臣あむ クリエイターズルームへ
東京怪談
2011年02月03日

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