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『●吐息は白く、心は遠く 』
煉条トヲイ(ga0236)

――寒いな。
 鼻や耳まで痛くなるような寒さに煉条トヲイ(ga0236)は息を吐いて角袖コートの襟元を寄せた。
 見上げた灰色の空はどんよりと重い。今日は、一雨ならぬ一雪降るのだろう。
 ならば、手早く買い物等を済ませておきたい――そう感じたトヲイ。
 外に出ていたのは依頼ではなく、休日だったからである。動きやすい服装というよりも、着慣れた服‥‥袴を着用せぬ和服姿、俗にいう着流し。
 純和風の家に育った彼にとってはなんということはないのだが、ここは様々な人種がいる所。トヲイのかんばせが整っているというだけではなく、日本特有の文化である着物はただでさえ注目を受けるに十分であった。
 その視線も居心地が悪く、逃れるように足早に歩く彼。

 しかし、彼はそこである意味遭ってはならぬ人物と遭遇するのだった。

 小物屋の前でじっと何かを物色している白いコートの男。
 その男はトヲイも見覚えがある。否、忘れるわけがない。
「――シルヴァリオ」
 その音を口にするトヲイに緊張が走る。知れず、彼は身構えていた。
 呼ばれたことに反応したのか、はたまた闘気を感じたか。シルヴァリオと呼ばれた男の青みがかった銀髪がさらりと揺れた。
 翠の眼がトヲイを捉え、ゆっくり瞬き一度をする。
「お前は‥‥確か『煉条トヲイ』だったか?」
 そうだと応えると、銀髪の男は何故だかフッと表情を緩めた。
「傭兵の名前を覚えたのはお前が初めてだ。あまり嬉しくないだろうけどな」
 嬉しくないわけではないが、嫌だというわけではない。どう言えばいいのかと思うトヲイだが、まずは『どう出るか』を考慮しなければならない。
 街中での戦闘で、相手はゼオン・ジハイドの一員。此方一人で相手をするのも無事ではいられまいというのに被害を抑える事を思う余裕などあるだろうか。
 しかし、身構えるトヲイに対してシルヴァリオは『何してんだ』と闘う気すら見せない。
「闘いたいらしいが――悪ィが今日のオレはそんな気分じゃねぇ」
 無駄に戦って疲れるのも面倒だろ、と言いながら彼は空を見上げた。
「今日この地域で雪が降りゃ、十数年ぶりとか何とかニュースで言ってたぜ‥‥珍しいこともたまには喜ばれるらしい」
「それがどうした」
 油断させておいて攻撃してこないとも限らない。トヲイはまだ身構えたままだ。
 まぁ聞けよとシルヴァリオは言い、面白がっているのか悪戯っぽく笑う。
「お前暇なんだろ? 今日一日、雪が降った記念にオレと出歩こうぜ」
「‥‥何が目的だ?」
 それに、まだ雪は降ってないだろうとトヲイが言えば『降るのさ』とシルヴァリオは笑う。
「人間とバグアが出歩くんだ。お前らの慣用句だかことわざだかに『珍しいことをすると雪が降る』とかいうのがあるだろ?」
 あまりに自然に言うので、さしものトヲイも呆気に取られた――後、フッと噴き出すように笑う。
 まさか、相手がそう言うとは思わなかった。むしろ、全く考えてもないことだったのだから当然である。
「つまり、一時休戦ということか。ふむ、言いたいことは解ったが、実際の意味はそういう事じゃないぞ」
 が、トヲイも面白そうな提案に気を悪くするわけではなく、妙な素振りを見せぬ限りはという条件付きで今日一日彼を友人として傍へ置くことにしたのである。

●『友』の意外な一面

「地球人は色々と金がかかる。洋服一着選ぶのに、なんだってこんなに店が必要なんだか‥‥」
 そうぼやくシルヴァリオ。その割にはあちらの服や此方の上着をと結構楽しそうである。そしてトヲイの和服に目を留め、まじまじと彼の頭から足元までジロジロと見ているではないか。
「‥‥どうかしたか? まあ、和服は珍しいかもしれないが」
「いや。なかなか和服は着づらそうだなと」
 ソレ、戦闘には向かないだろ、と言いつつもどうやって着ているのかも興味を持ったらしい。
(戦いが無ければ‥‥割と根は素直な奴なのかもしれないな)
 苦笑したトヲイは、和服を扱う店にでも誘ってみたのだが――どの着物が是々こうだと説明を受けているうちにシルヴァリオは興味を無くしたらしい。
『腹が減った、メシ』と言うと店をさっさと出ていってしまう。慌ててトヲイも後を追ったのだが、やはり気分屋であるところは戦闘時も通常時も変わらぬところらしい。


 ご希望通りにと今度は手近な飲食店に入ったのだが、トヲイの胸中に湧き上がる疑問。
「前から思っていたんだが、バグアというのは――」
 何を主食にしているのだろう。
 だが、その質問は放ってからすぐに解決した。
「身体はお前らと同じなんだから、地球人と同じものに決まってるだろ?」
 大体はヨリシロが食べていたものと同じようなものだ――と、運ばれてきた分厚いTボーンステーキを見ながらシルヴァリオは答えた。
 頬杖をついてそれを眺めていたトヲイは、昼間から随分と豪勢な、と思いながら僅かに眉を寄せる。
「よく肉だけで食事ができるな‥‥まったく、身だけでなく胃袋も丈夫なのか?」
 呆れたように言ったトヲイの前に、大盛り‥‥誇張ではなく、1キロはあるだろうという程盛られたスパゲティが運ばれてきた。
 それにも関わらず、サラダと400グラムはあろうかというハンバーグが置かれ、度肝を抜くほど驚いたのはシルヴァリオのほうである。
「おい、いくらなんでも食えねぇだろ、その量‥‥」
「調子がよければこれくらい食べるだろう?」
 バカ言うなよ、バグアが言うのも何だがバケモノかお前は。と嫌そうな顔をして目の前の巨大パスタを見やるシルヴァリオ。
 しかし、トヲイも嘘は言っていないようだ。するするとパスタ山が減っていく。
「‥‥まさかとは思うけどな、食後のデザートはバケツプリン、とか言うんじゃないだろうな?」
「いくらなんでもそれはないな」
 マンモスパフェだ、と事もなげに言ったトヲイ。何故かムッとするシルヴァリオ。
 どうやら自分の中で対抗心が芽生えてしまったのだろう。トヲイのパスタに自分のフォークを突き入れると、トヲイの制止も聞かず反対側から奪うように食べ始めた。


●再戦の誓い

 食事をして、買い物をして。色々なことに触れるうちに――日はとっぷりと暮れ、街はうっすらと雪化粧を施されていた。
 
「‥‥雪ってのは、なんで人の心に何かを思い起こさせるんだろうな」
 オレは地球人ではないんだが、とシルヴァリオは言ってから、腕時計を見やる。もう今日という刻が後数分で終わろうとしている。
 もう、雪は止んだ。遊びは終わったのだ――トヲイは友に見せている柔和だった表情をきゅっと引き締め、先日のことを口にする。
「先の戦いでリノが逝った。‥‥敵ながら天晴れな最期だった」
「――そうか」
 リノ。彼らゼオン・ジハイドのリーダーだった少女。彼女と最後に交わした言葉を思い出し、シルヴァリオは眼を伏せた。
 彼女の死に様は知らない。事実は変えられないのだし、知りたいとか、そういう気持ちは湧かなかった。
 だが、トヲイが聞きたかったのはそういう事ではない。
「シルヴァリオ。お前にとっての『仲間』の認識は、以前遇った時と同じか?」
 自分たちと出会い、『彼』の心に何か変化があったのだろうか? トヲイはそれが知りたかった。
「オレの目的の邪魔をせず‥‥敵でないのなら‥‥仲間という意識だ。そこは変わらない」
――変わらないはずだが、お前らを見ていると、時折それを疑問に思うこともある。なぜ、仲間のために命を懸けるほどの力を出せるのかと。
 そう言いながらシルヴァリオは感情のある視線をトヲイへと向けた。彼の瞳の奥、揺れ動く感情が何なのかは、きっと本人にも解らないのだろう。
 ただ、彼にも届くものがあったらしい。そう知り得たトヲイは口元だけで笑う。が、すぐにそれは消えて『覚えているか?』と自嘲気味に笑った。
「『戦うのが好きなんだろう?』とお前にそう問われた時があっただろう。あれを即座に否定出来なかったのは‥‥結局は俺自身も『闘争』を求める存在だったから」
 戦いは手段であって、目的ではないのにと哀しげに言いながらも、まっすぐな眼はシルヴァリオを捉え、拳は固く握られている。
「そう理解していいる今、この時も。お前と戦いたいと思っている俺が居る」
 交わす剣、闘いの匂い。立ち上る殺気と闘気――今ここで。この男と刃を交えるのはどれほど愉しいのだろう。それを思うだけで血潮は滾る。
 だから。
 それまでは。
「――いつか、戦場で決着を着けよう。それ迄は、誰にも負けるな」
 真剣な顔で告げたトヲイだが、対照的にシルヴァリオはフッと鼻で笑ったではないか。
「何が可笑しい!!」
「可笑しいだろ‥‥誰にモノを言ってんだ、お前?」
 オレが誰に負けるというのか。そう言った後で『いいぜ』と余裕の表情を見せるシルヴァリオ。
「お前こそ、勝手にくたばるんじゃないぜ? 言い出した本人が勝手にやられてりゃ、オレはお前の墓にわざわざ出向いて笑ってやらなくちゃならないからな‥‥」
「‥‥減らず口を」
 言葉とは裏腹に、トヲイの声音は微かに親近感が込められていた。そんな彼を見つめた後、シルヴァリオは右手を彼に差し出す。
 握手と見たのか、握ろうとしたトヲイの手を『違う』と振り払うシルヴァリオ。トヲイの手首に巻き付いている真紅の紐を指した。
「ソレ、寄越しな」

――オレかお前か。
『どちらかが死ぬときに――』

 ざあ、と風が鳴って、彼の言葉をかき消した。 

 約束の証と成り得たやもしれぬ銀の男の唇は、
  
『死ぬときに返してやるよ』

 と動いたような気がした。

-END-

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【ga0236 / 煉条 トヲイ / 男性 / 外見年齢21歳 / エースアサルト】
【gz0328 / シルヴァリオ / 男性 / 25歳 / バグア】
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2011年02月10日

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