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『Snow Dream ――賑やかな日々―― 』
七神 蒼汰(ea7244)

 年が明けて初めての夜に見た夢を、初夢と呼ぶ。
 初夢は正夢になる、なんて言う人もいるが……さて、どうなんだろうな。


 普通、城とか宮殿なんていう、いわゆる「偉い人」が住んでる場所には、主が今そこに滞在している間はそれを示す目印として、主の紋章の付いた旗が立てられているもんだ。
 勿論ここ、タンブリッジウェルズの城にも、塔の上には銀の十字架と猟犬の旗が翻ってる。けど、それよりもっとわかりやすい目印が、この城にはあった。
 それは……
 ――すぱぁーーーん!
 そう、この音。この、やたらと景気のいいハリセンの音を聞けば、誰にでもわかる。この城の主、円卓の騎士ボールス・ド・ガニス(ez0098)が滞在中だってことが。
 もっとも、その音の発生源は大抵、ボールス卿じゃなくて、この俺。補佐役である七神蒼汰(ea7244)なんだが。

 でも、今のこの音……これは、俺じゃない。ボールス卿だ。
「……ロラン、あなたという人は……っ!」
 ああ、また始まった。ロラン・フロベール、ボールス卿の幼馴染にして補佐役筆頭。ボールス卿との間に色々あったこの人が、あの事件から数年が経った今、すったもんだの挙句にどうにか元の鞘に納まったのは良いんだが。
「……えぇと……ボールス卿、今度は何ですか?」
 この二人、何かとネタを見つけては殆ど毎日のようにケンカ……いや、俺から見れば、仲良くじゃれ合ってるようにしか見えないんだけど。
「ああ、蒼汰さん。良いところに……」
 ボールス卿は片手に持ったハリセンをもう片方の手でぺしぺし叩きながら、満面の笑みを浮かべている。一方のロラン殿は……ハリセンの一撃で吹っ飛ばされたんだろう、城の脇を流れる川の浅瀬に尻餅をついていた。
「シルフィスさん、連れて来てもらえますか?」
「了解」
 シルフィスっていうのは、何年か前に俺が贈ったケルピーだ。最初は水の中に引きずり込んだり、色々と大変だったけど、今は家族の一員としてボールス卿に懐いてる。
 でも、ロラン殿とは余りウマが合わないようで。
「シルフィスさん、あのド変態野郎を川底に引き込んで岩の下敷きにでもしてやってください」
 なんて言われたら、きっと嬉々として従うだろう。って言うか、実際従ってるし。
「良いんすか、ボールス卿? あれ、曲がりなりにも補佐役筆頭で、ボールス卿の幼馴染で、大事な親友……ですよね?」
「お師匠様に向かって、あれとか言ってんじゃねぇぞ小僧!」
 まあ、確かにロラン殿には補佐役の先輩として文武両道しごかれてはいる。でも、彼を師匠だと思った事は……ないんだよな。
 ロラン殿は全身から冷たい雫をポタポタ垂らしながら立ち上がり、岸に向かって歩き出す。けど……
「てめぇ覚悟しやがれ、後でたっぷりシゴき倒してや……」
 ――ぱかーーーん!
 シルフィスの後ろ足に蹴り飛ばされ、ロラン殿は再び川の中へ。
「てめ、このクソ馬! 何しやがるっ!!」
 あーあー、クソ馬なんて言うもんだから、火に油……いや、ケルピーだから水に氷……?
「や、やめろ、来るな、やめ……うわあぁぁーーー」
 ごぼごぼごぼ……ちーん。
「暫くそこで頭を冷やしなさい」
 ボールス卿は川面に浮かぶ泡を見つめながら、ニコヤカに微笑んでいる。これは……相当ご機嫌ナナメだ。
「冷えすぎて死んだとしても大丈夫ですよ。ちゃんと生き返らせますから……気が向いたら、ね」
「……えーと……それで、一体何が……?」
 訪ねる俺に、ボールス卿は黙ったままシャツの襟を少し開いて見せた。
 ……首筋に、ぽつんと……赤い、シミ?
「そ、それって、もしかして……」
 バンパイアに噛まれた傷、じゃあ……ないよな、どう見ても。
 確かに、その昔……ロラン殿はボールス卿を女の子と間違えてて……仄かな恋心を抱いてたらしいってことは聞いてたけど。
 もしかして、マジなのか。今も、その……ええと……?
「本気、らしいですよ? 昔、十代の頃に一度……襲われた事もありますし。勿論、撃退しましたが……私には、今も昔もその気はありませんから」
 そりゃ、そうだよな。だからロラン殿は今、川底に沈んでるわけで……と、思ったら。
「……ぼぉーるぅーすぅぅーーー!」
 ずぶ濡れのロラン殿が、背後からぬぅっと現れた。どうやら生ける屍の類ではないらしい。
「何故だっ! 何故お前には、俺のこの一途な愛が伝わらないんだっ!?」
「なにが一途だ、この浮気者っ!」
 ――すぱぁーん!
「……え?」
 今の声は。そして、ハリセンでロラン殿の後頭部を思いっきりシバいたのは……
「エル!?」
 ボールス卿の長男、エルディン・ド・ガニス。初めて会った時にはまだ赤ん坊と言って良いくらい幼かったこの子も、今では逞しい少年だ。いや、なんとなく……必要以上に逞しく育ってしまった感は、なきにしもあらず、だが。
「とーさまに手を出すな! とーさまは僕のだ!」
「……え? エル……?」
 それは、どういう意味だ? 俺はボールス卿とふたり、顔を見合わせる。
「僕は大人になったら、とーさまと結婚するんだ! お前なんかに渡すもんか!」
「……ぇ……ええっ!?」
 今度はロラン殿も一緒に、三人で声を上げる。
「ジャスティンに聞いたんだ。黒の神聖魔法を使えば変身できるって。女の子にも、なれるって」
 それは、もしかしてミミクリーのことか? あれって……うん、確かに何か他の生き物に変身する魔法ではある……けど。
「……性別を変えるとか……そういう使い方って、出来ましたっけ?」
「いや、私も……黒の方は、あまり」
 ふるふる。よくわからないと、ボールス卿が首を振る。
「出来るよ、ジャスティンがそう言ってたもん!」
 ……ジャスティン……甥っ子に、なにいいかげんなホラ吹き込んでるんだよ。まあ、それも彼なりの愛情表現ではあるんだろう、けど……。
 ああもう、ここに本人がいないのがもどかしい。目の前にいたら、ハリセンで思いっきりシバき倒してやるのに。
 でもあいつ、このごろ真面目に仕事してるんだよな。一応、肩書きは俺と同じ補佐役ってことになってて、今はボールス卿の管理下になった領地を、領主代行って名目で管理してるんだけど。その仕事ぶりはお世辞にも順調とは言えないが、近頃は多少なりともサマになってきて……助けてくれとボールス卿に泣きついてくる事も少なくなった。いや、まあ……あいつのことだから、素直に「助けて」なんて台詞は吐かない訳だが。
 そしてエルも、叔父の一種特異なキャラに興味を覚えたらしく、まあそれなりに懐いてる。
 ……ああ、そうだ。エルは既に真実を――自分が本当は誰の息子であるかを知ってる。ロラン殿が戻った時に、ボールス卿が教えたんだ。勿論、子供相手に生々しい部分をそのまま伝える事はしなかったけど……まあ、だいたい察しは付いただろうな。
 でもその時、エルは特にショックを受けた様子もなく、ボールス卿に対して態度を変える事も全くなかった。多分、血の繋がらない妹のコニーや弟のアルフェンがいること、それにボールス卿が皆を分け隔てなく可愛がってることが、良い影響を与えたんだと思う。エルは今も相変わらず、とーさまとーさまと、パパ大好きっ子だ。
 ……まあ、その「大好き」が嵩じて、なにやら大変なことになりかかってるわけだが。
 確かに、もしエルが本当に女の子になれるなら……一応、問題はなくなる、筈、だ、けど……いや、そりゃ拙いだろ、やっぱり。
「ちょっとちょっと、それホントっ!?」
 どこからか、小さなシフールがものすごい勢いですっ飛んで来た。ルル殿、さすが地獄耳。
「だったら、あたしも黒魔法習う! 人間に変身して、ボールスさまと結婚するっ!!」
 ……やっぱり。うん、そう言うと思ったよ。いや、ルル殿、それはジャスティンのホラ話で……
「だめー、とーさまはあたしとけっこんするのー!」
 今度は誰だ……あぁ、コニーか。よちよち歩きの弟の手を引いて……すっかりお姉さんらしくなったけど。そうだよなあ、これくらいの小さい女の子って、大抵一度はそんなことを考えるもんだ。
 ……俺んとこも、そろそろ生まれるんだよな。生まれて来るのが女の子だったら……そのうち、言ってくれるかな。いや、その前に……何て呼ばせよう。やっぱり……お父さん? 父上って柄じゃないし、とーさまはボールス卿のトコと被るし……。
 なんて考えてたら、またウォルの奴に冷やかされるか。「なーにニヤけてんだよ、そーたパパ!」……なんて。あいつだって、同じ境遇になるのはそう遠い先じゃないだろうに。
「とーさま? ……ままなみー、とーさま、なに? けんか?」
「ん? ケンカじゃないよ、皆と仲良く遊んでるだけだから、な」
 くいくいと上着の裾を引っ張ったアルフェンを抱き上げて、肩車。この子は何故か、俺のことを名字で呼ぶんだよな……「み」しか合ってないけど。
「なかよしー。あゆも、なかよしー!」
 滑舌が悪いのは、昔のエルとそっくりだ。
 ……と、そこにもうひとり珍客が。
「何を騒いでおる、この坊やは既に我が予約済みだぞ」
 エルフの里の長、イスファーハ。そう、里に籠って外界とは殆ど接触のなかったエルフたちも、近頃はわりと頻繁にその姿を見かけるようになってきた。中でもイスばーさんは、最近よく城に顔を出すようになった、けど……まさか、目当てはボールス卿!?
「なに、あと30年もすれば似合いの老夫婦になろう」
 ……って、本気かばーさん!?
「ボールス卿、モテモテっすね……」
 俺の問いかけに返ってきたのは、超特大の溜め息。
 うん、まあ……言っちゃ悪いが、ロクな面子じゃないしな。もっと、こう……まともな候補はいないんだろうか。もしかして、それを探すのも補佐役の仕事なのか?
 まともな候補は……いないことも、ない。ウォルが世話になってた療養所のシスターとか、記憶喪失事件の時に助けてくれた彼女とか……あとは、政略絡みで何件か。でも、どれもこれも、ボールス卿本人が全然乗り気じゃないってのがなぁ。
 一方で弟子の数は順調に増えている。彼女の弟もそうだし、バンパイアの件で笑えないハーフエルフの少女と友達になった、あの子。あの子も、友達を笑わせる為に鍛えるんだって、頑張ってる。それに、もうひとり……
「たっだいまー!」
 ウォル……ウォルフリード・マクファーレン(ez1138)が帰って来た。ボールス卿の新しい弟子を連れて。
「師匠、連れて来たぜ。俺の弟、ウィルフリード・マクファーレン」
「初めまして、ウィルと呼んでください!」
 ウォルの弟は、顔つきこそ幼さが残ってはいるが、兄よりも縦横ともに一回りは大きく、がっしりとした体格で……
「……なんだろう、ものすごく既視感を感じるんだが、この組み合わせ……」
「だろ? 俺も思った」
 ウォルは自分より大きな弟を見上げ、軽く肩を竦める。
 と、その時。
「あぁーにぃーじゃぁーーーっ!」
 噂をすれば、何とやら。
「レオン!?」
 ボールス卿の弟、ライオネル卿のご登場だ。あれ、海に出てるんじゃなかったのか。
「兄者ぁ! 会いたかったぞぉっ!!」
 相変わらずのアツすぎる抱擁は……やっぱり、逃げられた。
「何故逃げるのだ、兄者!」
「とーさまは僕んだ!」
「やかましい、ガキはすっこんでろ!」
「あたしのー!」
「違うでしょ、ボールスさまは最初っからあたししか眼中にないのよっ!」
「あゆも、あゆもー!」
「我があと百歳若ければ今すぐにでも……」
「いよっ、師匠モテモテっ! 色男っ!」
 ……ああもう、何が何だか……
「おまいら、いいかげんにせんかいっ!!」
 ――すぱんすぱんすぱぁーーーんっ!

 今日もタンブリッジウェルズの城にはハリセンの景気のいい音が鳴り響く。
 ああ、平和だなぁ……。


「なーに居眠りしてんだよ、そーた!」
 ――すぱんっ!
「へぶっ!?」
 ……あ……れ?
 ハリセンで軽く頭を叩かれ、俺は夢から覚める……いや、それが夢だったことに気付いたと言うべきか。
「この書類、全部片付けないと帰れないんだからな!」
 どうやら書類の山と格闘しているうちに、うとうとと居眠りをしてしまったらしい。
 そうだ、さっきのウォルは……今、目の前にいる彼よりも、少し大人びた感じだった。
 ということは、あれは数年後の夢、か。
 初夢じゃなくたって、正夢を見ることはあるよな。いや、未来の出来事なら、予知夢かもしれない。そうじゃなくても……
「……現実に、する」
「え? なに? なんか言った?」
「いや、なんでもない」
 でも、エルが道を踏み外さないように、それだけは気をつけなきゃ……な。
 俺はひとつ大きく伸びをすると、ボールス卿が休みの間に溜めまくった書類の山を片付けにかかった。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ea7244/七神蒼汰/男性/21歳/ナイト】

【ez0098/ボールス・ド・ガニス/男性/29歳/神聖騎士】
【ez1138/ウォルフリード・マクファーレン/男性/16歳/神聖騎士】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 お世話になっております、STANZAです。
 この度はご依頼ありがとうございました。

 ほのぼの和気藹々のガニス家の日常……を目指したら、なんだかおかしな方向に突っ走ってしまいました、が。
 えー、夢の世界とは言え、キャラ設定には基本的に変更なし、です。つまりロランがアレなのも、元から設定にあるわけですね。……本編やってる時はひたすら真面目に(?)そっちの方向は極力避けて、お固いフリしてましたけども(←
 そんなわけで、もし本編でロランが出戻りするようなことがあれば……補佐役さん、頑張って上司の貞操を守ってやってください(ぇぇ

 それから、ボールス周辺のNPCは出来るだけ出演というリクエストでしたが、舞台が城の方なので爺は出番が作れませんでした。彼はいつものように、猫屋敷で元気にお留守番です。

 では、またいつか機会がありましたら、よろしくお願いいたします。
SnowF!新春!初夢(ドリーム)ノベル -
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Asura Fantasy Online
2011年02月15日

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